神風・愛の劇場スレッド 第165話『悪魔の矢』(その2)(4/5付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗<hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
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Lines: 185
Date: Fri, 5 Apr 2002 12:41:14 +0900

佐々木@横浜市在住です。

<20020329120545.55d37975.hidero@po.iijnet.or.jp>の続きです。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第165話 『悪魔の矢』(その2)

●枇杷高校

久しぶりの登校となったその日。何時も通りの朝の光景のはずでしたが、
何処となくちぐはぐな印象を受ける弥白。そこかしこから聞こえてくる
他の生徒達の会話や、その表情から理由は大体察する事が出来ました。
まだ先日の事件の興奮が抜け切っていないのでしょう。
正直言って、弥白は登校した事を後悔していました。意識して普段の
生活に戻そうと思い、もうしばらく静養してはどうかという家の者の
勧めを断わって出てきたのです。
しかし学校はまだ事件の余韻を色濃く残す場所でしかありませんでした。
それは実は仕方の無い事。後で弥白自身が身をもって実感する事ですが、
当事者では無かった生徒達の好奇心、事件当日の事を会場に居た生徒から
直接聞きたいと思う気持ちが事件の風化を押し止めているのですから。
昨夜の稚空の訪問で折角晴れていた気分が
段々と曇ってくるのが自分でも良く判ります。
弥白は校舎に向かって歩いている生徒達の背中を見渡しながら、いっそ
このまま帰ってしまおうか、今日は新体操部の練習はあるのだろうか
といった事を考えていました。
そしてずっと先を歩いている一人の生徒の後ろ姿に目を止めました。
他の生徒の間に見え隠れしてしまう小さな背中でしたが、弥白はすぐに
それが誰なのかに気付きました。何も聞いていなかったが、もう退院して
いたのだろうか。そう思うと曇りかけた気分が再び晴れていく気がします。
駆け寄って声を掛けよう、そう思った途端に逆に後ろから呼び止められて
しまいました。これもまたすぐに誰なのかが判りましたが、気分の晴れる
相手ではありませんでした。毎朝の事ではありますが、面倒と思う気持ちと
そう思ってしまう事を申し訳なく思う気持ちがないまぜになり、
上手く笑顔が作れたか自信が持てないまま弥白は振り向きました。

「お早う、皆さん」
「お早うございます弥白様」

親衛隊などと揶揄され、それを皮肉とは思わず自分達でも積極的にそう
名乗ってしまう生徒達の集団。あまり大っぴらに集合して近づかれても
困ると常々思っている弥白でしたし、その事はそれとなく伝えてあるはず
ですが毎朝の日課の様になった出迎えだけは別。しかも、この日の彼女達には
特別な大義名分があったのです。弥白の都合よりも優先される事象が。
弥白の目の前には大きな花束が差し出されていました。
黙って笑顔を見せると弥白は花束を受け取りました。

「有難う」

それから続く彼女達の口上を弥白は時には頷き時には相槌を打ちながら
聞き続けました。曰く、弥白の退院が早かった事は喜ばしいがその所為で
見舞いに行く事が出来ず不本意であった事、自宅への訪問は迷惑であろうから
控えた事、どうしても一言お祝いをしたく今朝は少々目立つ無礼を働いている事、
云々。その総てに弥白が応えると彼女達は満足した様子で引き上げて行きました。
ご丁寧にも邪魔だろうからと花束も預かってくれるとの事で、
それも持っていってしまう手際の良さには苦笑するしかありません。
そして残された弥白が気疲れにも似た何とも言えない気分で
再び歩き出した時、時刻は既に始業一分前になっていたのです。
遅刻を免れる為に、弥白は朝から走らなければなりませんでした。



昼休み。弥白が予想した通り、親しい友人達との昼食の一時の話題もまた
桃栗体育館倒壊事件の事でした。もっとも昼食を共にする友人の内二人は
弥白の応援の為に現場に居合わせた生徒でもあった為、弥白は質問攻めに
あう事は無く、逆に彼女達が聞かれたり教えられたりした内容をひたすら
聞かされる様な状態でした。普段それほど話す事も無いクラスメートにまで
散々色々な事を聞かれた後でしたので、もっぱら聞き役に回れた事に弥白は
安堵したものです。その内容自体は特に目新しい物ではありませんでしたが。
それに…と弥白は考えるのです。あの事件の全貌を知っている人間など、
きっと何処にも居ないのだと。



初めは学校という場所に興味をそそられて、人目を気にせずに済むのを
良い事にふらふらと校内を見物して回っていたセルシアでした。
しかしそれも午前中で飽きてしまい、後はまるで生徒達の様に午後の眠気との
戦いに明け暮れるという始末。そして教師の目という緊張の糸が無い彼女には
我慢の限界はすぐに訪れてしまうのでした。弥白の教室を見渡せる格好の
木の幹の上から落ちそうになって目を覚ました時には、既に教室はあらかたの
生徒が帰ってしまった後でした。慌てて捜し回ったセルシアは、どうにかまだ
校内の廊下をぽつねんと歩いている途中だった弥白を見付けました。
内部構造を完全に頭に入れている訳では無いセルシアでしたから、弥白が
遠回りをして帰る途中なのだとは気付きはしませんでしたが。



放課後になって、新体操部の部員の凡そ半数が休んでいる事を聞いて
弥白はやはり真面目に登校したのは失敗だったと感じていました。
流石に今日は部活動以外の課外活動に励む気にもなりません。
さっさと帰宅してしまっても良かったのですが、朝、そして昼休みと続けて
確かめる機会を逸していたある事が気になっていました。
そこで帰り際に普段行く事はあまり無い、よその教室へ寄ってみました。
弥白は教室の入り口近くに居た、友人という程では無いが生徒会の関係で
顔見知りである生徒に声を掛けます。

「こんにちは」
「あら、山茶花さん。律儀ね」
「え?」
「ちょうど良い口実だって、事件組は殆ど休みよ」

彼女はそう言って教室の方へ顔を向けました。机の半分以上は綺麗に
片付いていましたが、放課後の事でしたから既に帰宅した後なのか
そもそも登校しなかったのか弥白には判断出来ませんでしたが。
そして見渡した限りでは目的の相手は居ない様子でした。

「それで、か…大門さんはもう帰ってしまったのかしら」
「大門?あ、カナトンボか」
「とんぼ?」
「大門なんて言うから誰かと思った。細くてまん丸眼鏡だからカナトンボ」
「…それで」
「カナも今日は休み」
「え?」
「まだ退院して無いって担任が言ってたけど?」
「そう…ですの…」
「何の用だったの?山茶花さんがあの娘に用なんて意外…あぁ、カナは
親衛隊の下っ端なんだっけか。他の親衛隊の子呼んだら?」
「そういう事ではありませんの。失礼します、さようなら」

何故か弥白は妙に腹立たしい気持ちになって、そそくさとその場を
離れました。しかしすぐに元の用件を思い出して、歩きながら考えます。
確かに今朝、弥白は佳奈子の後ろ姿を見たと思ったのです。
ですが登校していないと言われれば、見間違いと判断するしかありません。
釈然としないまま帰宅する為に校門へと向かう弥白。ふと、昨日から何度か
感じる気配がした様に思えて立ち止まりました。廊下には前にも後ろにも
他の生徒はおらず、校庭から聞こえるざわめきも妙に遠くからの物に感じます。
窓に目を向けると一瞬だけ気配が強まった気がしましたが、まるで何かが
隠れてしまった様にふっと気配が途切れます。まただ、とは思いましたが
自宅で何度か窓を開けて辺りを窺って見ても結局何も見つからなかったのです。
弥白は無駄な努力は繰り返さない事にして再び歩きだそうとしました。
と、その時幽かですがはっきりとした物音が聞こえました。窓とは反対側の
部屋の中から。それは生徒会の事務室として使われている部屋でした。
顔を出さないで帰るつもりが、何時の間にか前に来てしまっていた様です。
そのまま知らぬ顔で通り過ぎてしまっても良かったのですが、弥白は
敢えて部屋の扉を開きました。中では小柄な女生徒がしゃがみ込んで
散らばったコピー用の紙を拾い集めていました。扉の開いた音でその生徒は
肩越しに振り向き、弥白の顔を見上げて少し驚いた顔をします。

「佳奈子さん?」
「弥白様…」

佳奈子は瞬時に顔を真っ赤にして俯くと、紙を拾う手を早めました。
弥白が脇から回り込んで紙集めを手伝うとしきりに頭を下げています。

「今日、お休みだと聞いていたのだけど」
「一応登校したのですが、すぐに気分がすぐれなくなりまして。結局、
一日中保健室で過ごしてしまいました。せめて何か仕事をして帰ろうかと
思ったのですが、今度は眩暈がして逆に仕事を増やしてしまって」
「無理はしない方がいいわ」
「はい。そうします」

弥白に笑顔を見せる佳奈子。弥白も微笑み返しました。そして佳奈子の顔色を
何気なく観察して見ました。一日寝ていた所為でしょうか、登校するなり
保健室へ転がり込んだとは思えない温かみのある肌の色をしていました。
それでも今日はこれで帰るという佳奈子。弥白も同意し、そして迎えの車が
来るから自宅まで送っていくと提案しました。しかし佳奈子は感謝しつつも
固辞し続けます。それはある程度予想の範囲の反応でしたので、言い方を
変えて再度提案する弥白です。

「判りましたわ。では、こうしましょう」
「何…でしょうか」
「これから私の家に遊びにいらっしゃいな」
「え?でも、それは…」
「嫌ですの?」
「そ、そんな事はありません。とても嬉しいお誘いです、でも」
「大丈夫。他の子達には内証にしますわよ」

弥白はそう言って携帯電話を取り出すと、迎えの車を学校の裏門へ呼出して
こっそりと佳奈子を連れ出すのでした。

(第165話・つづく)

# なんか妙にほのぼの進行してますな。^^;;;;
# 2/24日、木曜日昼過ぎまで。

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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