神風・愛の劇場スレッド 第165話『悪魔の矢』(その3)(4/11付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗<hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
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佐々木@横浜市在住です。

<20020405124114.683f0d70.hidero@po.iijnet.or.jp>の続きです。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第165話 『悪魔の矢』(その3)

●枇杷町 山茶花邸

屋敷に到着して車を降りた弥白と佳奈子。佳奈子は目の前の屋敷を見て
目を丸くしていました。弥白に呼びかけられても暫く気付かなかった佳奈子。
そんな具合でしたから弥白の部屋に招き入れられた時には、すっかり自分が
何処に来たのか忘れたかの様な惚けた顔をしていました。

「…さん」

佳奈子はやっと我に返って声の主の方へ顔を向けました。

「あ、はい。何でしょうか」
「座ったら?」

扉のすぐ前の辺りで佳奈子は暫くの間ぽつねんと立ち尽くしていたのでした。
やがて自分でもその事に気付き、恥ずかしそうに弥白が勧めた場所に
腰を下ろしました。佳奈子が気付かないでいる間にお茶とお菓子も
既に並べられていました。

「そんなに変な部屋かしら」
「えっ?そ、そんな事はありません。素敵なお部屋です」
「ありがとう。でも何だか不思議そうな顔をしてるから」
「はい、えっと、あの…何でも無いんです」

弥白はちょっと意地悪そうな笑みを浮かべて身を乗り出すと佳奈子の顔を
下から覗き込む様にして見上げました。

「なぁに、思ったことを言ってみて」
「いえ、本当に何でも無いんです」
「教えてくれないと帰らせてあげないわよ」
「そんな…」

佳奈子は本当に困った顔をしていましたから、弥白はそれ以上の追及は
止めようかとも思いました。ですが佳奈子が自分の部屋をどう思ったのかは
無性に気になります。

「言いたくないのなら無理にとは言わないけれど。でも佳奈子さんが
私の部屋を見た感想、聞きたかったわ」

身は離したものの、弥白は誘う様な瞳を佳奈子から離しません。

「…でも」
「なぁに?」
「きっとご気分を害されます」
「大丈夫、絶対怒ったりしませんわ」
「本当に?」
「約束します、怒りません。だから教えて」

佳奈子は暫く迷ってから、消え入りそうな小さな声で言いました。

「…意外と地味なお部屋なのですね」
「え?」
「もっとキラキラしたお部屋かと…」
「キラキラってどういうお部屋なのかしら」

食い下がる弥白に対して佳奈子がぽつりぽつりと説明した内容を総合すると、
どうやら物語に出てくるお姫様の部屋といった辺りを想像していた様です。
それが判って弥白は笑いをこらえる事が出来ませんでした。
ひとしきり笑った後で気付くと、佳奈子はすっかり小さくなっていました。

「ごめんなさい。でも佳奈子さん、それ面白い発想よ」
「変ですか?」
「そうね、変とまでは言わないけれど珍しいと思う」
「ちょっと残念です」
「残念って?」
「もしかしたら空想の中にある様なお家が見られるかなと思ったもので」
「がっかりさせてしまったのね」
「ち、違うんです、私が幼稚なだけですから」

弥白は微笑むと再び身を乗り出して、小さな声で言いました。

「本当はね、佳奈子さんの想像した様な部屋もあるの」
「本当ですか?」
「ええ。でも、そういう部屋は落ち着かないでしょ?」
「そう…ですね、きっとそうかも知れません」
「だからキラキラしたお部屋には早く帰って欲しいお客様を通すのよ」
「ああ、成程」

暫く無言で佳奈子の顔を見詰めている弥白。大分経ってから、佳奈子はやっと
意味が飲み込めた様でした。そしてクスっと笑います。

「やっと笑ってくれたわね」
「私、難しい顔をしてましたでしょうか」
「固い顔をしてましたわ」
「すみません。何だか緊張してしまって」
「ごめんなさいね、やっぱり迷惑だったみたい」
「いえ、そんな事はありません。慣れれば良いお部屋です」
「慣れれば?」
「す、すみません、また余計な事を」
「許してあげるから、私のお願いを聞いてくださる?」
「はい、何でも」
「今度は佳奈子さんのお部屋を見せてもらえるかしら」
「私の部屋ですか?」
「ええ」
「でも何も面白く無いと思います。狭いですし」
「いいのよそんな事は。要は佳奈子さんの事をもっと知りたいと思うだけだから」
「私の事…」
「そう。例えばとんな物が好きなのかとかね」

佳奈子は少し目を伏せて考え込んでいましたが、やがて意を決したのか顔を
上げて言いました。

「本が沢山あります」
「お部屋に?」
「はい」
「どんな本を読むの?」
「それは…ファンタジィとか」
「まぁ」
「やっぱり子供っぽいですよね…」
「いいえ、そんな事は無いですわよ」
「ご興味おありですか?」
「そうね」

本で読まなくても、現実の方が幻想的な事もありますわ…
と弥白は思いますが、思うだけで勿論言葉に出しては言いません。

「読んでみたい気もするけれど、数が多くて何処から手出ししたものやら」
「そうですね」
「ねぇ、良かったら佳奈子さんのお気に入りの話を教えてくださる?」
「私のお気に入りですか」
「ええ。お勧めの一冊、あるでしょう?」
「では、ええと…」

弥白の部屋を見回す佳奈子。初めは喩える為に本を探しているのだろうかと
弥白は考えましたが、どうやらそれは違った様です。
やがて佳奈子はおずおずと切り出しました。

「あの、弥白様はコンピュータ・ネットワークを覗いてご覧になったりは」
「時々ね」

そう言えば最近はパソコンに近づくのは気が進まないのだったと弥白は
思い出していました。しかし佳奈子の話の続きは聞いてみたい所です。
それに元々話題を振ったのは弥白自身でもありましたし。
弥白はソファを立って佳奈子を窓際の机に案内します。そして机の
中からパソコンのディスプレイとキーボードをせり出させました。
佳奈子は再び目を丸くしていましたが、それでも弥白に幾つかの事柄を
告げてパソコンをネットワーク上のある場所へ繋いで欲しいと言いました。
弥白が言われるままに接続した先は中堅出版社が発行している雑誌の
紹介ページらしく、過去の連載記事の幾つかが試読の為に掲載されていました。

「本に関する雑誌」
「はい。その…」

佳奈子が指差したのは雑誌の書評コーナーの過去の記事一覧なのでした。

「普段、この書評を参考にしているのね」
「はい。ここのは割と外れが少ないので」
「それでさっき話したお勧めの本はどれ?」
「はい。最近の物が良いですよね」

佳奈子は弥白の脇から手を伸ばして画面を切り換えて行きます。
そしてやがて一つの作品の所に辿り着きました。

「これ?」
「はい。去年の年末に出たばかりの新しい本です」

弥白はその本の題名を画面上で選ぼうとしました。しかし何の反応も
ありません。

「すみません。半年を過ぎないとネットワークでは書評は読めないんです」
「そうか。当然ね、この雑誌にとっての商品ですものね」
「本当にすみません」
「佳奈子さんが謝る事では無いでしょう?それより、どんな内容なの?
簡単に教えてくださるかしら」

佳奈子は頷くと間を置いて話し始めました。

「もしも」
「ええ」
「弥白様の大好きな人の幸せと、弥白様自身の幸せが両立しないとしたら」

弥白は少しだけ驚いた様な戸惑う様な顔をしましたが、黙って佳奈子の
言葉を聞いていました。

「弥白様はどうされます?どちらを優先しますか?」

それほど長くはなく短くもない間、そっと目を伏せて床の模様を追う様に
視線を彷徨わせてから弥白は答えました。

「好きな人の幸せを願う…と思うわ。多分…だけれど…」
「そう…そうでしょうね、きっと弥白様はそうなさいます」

佳奈子は何処か遠くを見る様な顔をして続けました。

「この本は自分の幸せを追い求めた女の子の話です」
「…それで」
「続きは弥白様御自身で」

弥白は微笑んで応えました。

「書評家になれそう。続きが気になるじゃない」
「すみません。でも私の感想より冒頭を読んで頂いた方が雰囲気が良く
判るかも知れません」
「試し読みが出来るの?」
「はい」

パソコンを再び佳奈子に任せると、彼女は今度はやや多くの操作を経て
先程とは全くデザインの違う画面を呼び出して見せました。

「ここで第1章が読めます…その…原文ですが…」
「ああ、翻訳物なのね」
「はい。大丈夫ですか?」
「大体ね」
「すみません、失礼な事言って」
「気にしないで」

そう言いながら弥白は既にその文章を目で追い始めていました。
読み進むにつれて、段々と顔を近付け食い入る様に画面を見詰める弥白。
脇に立っている佳奈子はそんな弥白の様子を静かに見下ろしていました。

●オルレアン

多くの家庭で団らんのひとときとなる時刻。まろんの部屋にもそれは
同じ様に訪れていました。

「で?」

テーブルを囲む面々をじろりと見回してからまろんは聞きました。
稚空が何か言いたげに顔を向けましたが、口の中が食べ物で一杯の為に
声を出す訳にはいかなかったのです。アクセスはそれ以前に皿の上の料理と
格闘している最中で全く聞いてはおらず、トキに至っては目をつぶって
瞑想に耽っているかの様でした。

「何でまた全員此で食事してるのよ」

まろんは本題を投げてから煮物の芋を口に放り込みます。
まろんの問いに対して、しばしの沈黙の後に稚空が口を開きました。

「これが今日の報告会だろ?魔窟探しの」
「それが何で私の部屋での食事会になってるのかって聞いてるの」
「一緒に食った方が旨い。違うか?」
「そりゃぁ、まぁね。でもそれなら稚空の部屋でだっていいじゃん」
「それじゃ明日は俺んちでな」
「食事も稚空が作るんだよ?」
「判った」

それまで黙していたトキが思い出した様に呟きます。

「ごちそうさま」
「え?」

まろんが見ると彼の分の夕食は手つかずのままなのでした。

「食べないの?」
「あ、いえ」

トキはまろんの目を見て返事をします。

「頂きます。先程のはセルシアの話でして」
「帰って来ないけど食事を始めるのは一緒に。そう言ったんだよね」
「今食べ終わったそうです」
「あ、そうなの」
「忘れない内に報告しておきましょう。山茶花弥白嬢の方ですが」

弥白の名前を聞いて、稚空はトキを見、それからまろんを見ました。
まろんは最初から稚空の顔を見ています。ですが目が合うとすぐに二人
そろってトキの方へ視線を逃がします。

「起きて食べて入って出かけて食べて寝て帰って食べてる…だそうです」
「何だそりゃ」
「普通に一日暮らしたって事だよね」

まろんが興味を持ったらしい事が少し意外だった稚空、ちらりと彼女の顔を
覗き見してみますが特に何か思う所がある訳でもなさそうでした。

「そう言う事だと思われます」
「そうか」
「山茶花さんも夕食の真っ最中と…」

稚空が首を捻りながらトキに尋ねます。

「ところで途中で一回"寝て"とか言わなかったか?」
「確かに言いました」
「何処か行ってからだよね」
「学校だろ?俺達と同じさ、昼間の行動は」
「つまり山茶花さんでも学校で居眠りするんだ。ちょっと意外」
「普段はそんな事は無いはずなんだが。まだ本調子じゃ無いって事か」
「心配?」
「そりゃ…」

言葉につまっている様に見えた稚空に対して、まろんは意識して自然な口調で
言いました。

「心配しなくても心配したくらいで怒ったりしないって」
「それに関しては」

トキが口を挾みます。

「心配しなくても良いでしょう、恐らく」
「ん?」
「何で?」
「途中で寝たのはセルシア自身でしょうから。遺憾ながら…」

今度はまろんが稚空の表情をそっとうかがいます。浮かぶのは明らかな動揺。
稚空が何か言いだそうとしたその時、ずっと黙って食事を続けていた
アクセスが言いました。

「大丈夫だぜ稚空」
「しかし」
「セルシアはあんな調子でも、いざって時には結構頼りになるからさ」
「そうか…」

納得していない様子の稚空を見て、すこしいい気味と思ってしまったまろん。
それが自分でもとても嫌で、慌てて頭の中からその考えを追い出すのでした。

(第165話・つづく)

# 2/24日、木曜日夜まで。

では、また。

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