From: hidero@po.iijnet.or.jp
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 14 Dec 2001 12:00:54 +0900
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佐々木@横浜市在住です。
例の妄想の続きです。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。
★神風・愛の劇場 第157話 『還る』(その3)
●オルレアン
特に何かを行ったという憶えは無いものの、すっかり疲れ切ってしまった身体を
引きずる様にして、まろんはオルレアンに帰って来ました。
エレベーターが停まり、開いた扉をすり抜けて数歩を踏み出した所で違和感に
気付きます。やや開放感の劣る風景。廊下の上にわだかまる薄闇。
降りる階をひとつ間違えていました。振り返ると既にエレベーターは
動き出していて、少しの間を置いてから吹き抜けを通して頭上に見える7Fの
踊り場で再び扉が開く気配がしていました。まろんは溜息をついて渋々階段へ
と向かいます。と、その時ふと視野の端に注意が向きました。玄関の扉が
開いている…今まさに開きつつある部屋があったのです。ゆっくりとそちらに
向き直るまろん。それは丁度自分の部屋の真下に当りました。記憶では空き部屋
だったはず。疲れよりも好奇心が勝り、まろんは半開きになった扉の側まで
行くと、そっと気配を伺いました。人の住んでいる様子はありません。
扉の閉め忘れなのだろう、まろんがそう判断し立ち去ろうとした瞬間でした。
微かな息遣いが聞こえた気がしたのは。再び扉に向かい、そして中を覗きます。
「あの〜、誰か居ますか?」
返事はありません。ですがそのまま立ち去る気は無くなっていました。
「…お邪魔しまぁす…」
何故か声をひそませてしまう自分に呆れつつ、まろんは靴を脱いで部屋に
上がり込みました。やはり住人は居ないと見えて、廊下には一面にうっすらと
埃が積もっていました。まろんは靴を脱いだことを後悔します。
それでも何故か引き返さずに、まっすぐリビングに向かいました。
そうしてリビングに踏み込み、顔を部屋の中央に向けます。まろんは
そこで息を飲み、まばたきすら忘れて前方にあるものを凝視しました。
ソファの上に横たわる黒い塊。すぐにそれが見慣れた、良く知っている犬の
姿だと判りました。にわかには信じがたい事ですが、間違い様もありません。
「…嘘」
「本当」
間髪入れずに返ってきた言葉に、まろんはビクリと身体を震わせて声のした
方へと向き直りました。リビングの反対側、廊下から入ってきたまろんには
真っ先に見えるはずの場所に何時の間にか一人の女性が立っていました。
まろんより少しだけ年上に見える相手に、鼓動が高鳴るのは驚いた所為だけ
ではありませんでした。ほとんど血の気が無いと言っても良い程に白い肌、
真っ黒な髪の毛は肩をかすめて流れ落ちた水の様に足下に溜まり床を覆って
いました。そして髪の毛に劣らず闇の様に黒いドレスもまた、裾が床に届いていて
足下を完全に隠しています。舐めるように上から下まで視線を這わせた
まろんは、やがて自分の非礼に気付くと慌てて言い訳を始めました。
「あ、あの、と、扉が開いていて」
相手は穏やかな笑みを浮かべると首を横に振りました。
「慌てるな。私が招いたのだ」
「は?」
見かけよりも落ち着いた感じのする声でした。やや乱暴な言葉遣いに
聞き覚えがある気がするものの、その姿には全く心当たりがありません。
相手はゆっくりと歩き出すとソファの上の黒い塊の隣りに腰を下ろします。
それから向かいのソファを指し示しながら、まろんに言いました。
「座ったらどうかね、ジャンヌ」
息を飲むまろん。何者であるにせよ、その名を知っているのであれば
只者で無い事は確かでした。違った意味での緊張で全身を強張らせながら、
まろんは問いただします。
「誰…なの…」
「私の印象がそれほど薄かったとは心外だな」
言葉と一緒に今までまるで感じられなかった気配がまろんの身体をすっぽりと
包みました。気配はまろんの身体を突き抜けて一瞬で消えてしまいましたが、
相手を知るにはそれで充分です。
「ミスト!」
「ああ」
身構えるまろんにミストは再び穏やかな微笑みを見せました。
「何を企んでるの」
「何も」
「嘘よ!」
ミストは応えず、代わりに傍らの黒い塊に手を乗せるとそっと撫でさすります。
「お前の主人の恋人は疑り深い」
疑念が現実になって、まろんは混乱しそうになる頭で必死に考えます。
「やっぱりイカロスなの?」
「そう、"本物"のイカロスだ」
「…」
「勿論、生きている」
「返して!」
「返すさ、その為にお前を呼んだ」
「な…」
まろんは言葉を継げませんでした。ミストは構わずに言います。
「話づらい、そこへ座れ」
ミストから目を離さずに、まろんは言われた通りにソファに座ります。
ミストの正面では無く、イカロスの正面に。
「…やっぱり…」
「ん?」
「ツグミさんを困らせて私達を落し入れようとして」
「その通り」
全て言い終わらないうちに肯定されてしまい、まろんは再び言葉に詰まります。
代わりにミストが続けました。
「ツグミを傷付け、お前を悲しませて力を弱める作戦だった。必要なら
お前の目の前でツグミには死んでもらうつもりでもあった」
「…」
「犬はお前に返す。後は好きにしろ」
「…」
「茶でも出したい所だが、生憎と此にはそういう物が無くてな」
「…どうして突然そんな事を」
ミストはイカロスから手を離して腕組みをすると黙り込みました。
まろんもまた何も言わずにじっと見詰めています。見詰めながら考えて
いました。稚空やアクセス達が気付いて来てくれないだろうかと。
そしてふと思い至ります。ミストが悪魔としての気配を完全に絶っている
のはまさにその為なのだと。誰にも邪魔をさせず自分と二人だけになり、そして。
「私はお前を殺す」
まろんは咄嗟に腰を浮かせてポケットに手を差し入れました。
「落ち着け。今では無い」
「信じろって言うの?冗談でしょ!」
「本来ならば人間ごときの為にこんな真似はしないのだぞ。それでも信じられんか」
「変装までしてるくせに何を信じろですって?」
「ハッ」
ミストは吐息を切り裂く様に短く嗤うと言いました。
「生きた人間で私の本当の姿を見た者など居ない。だが、今お前が見ているのは
言ってみれば正装と言う奴だ」
「せいそう?」
「馬鹿者。フォーマルドレスだ」
「判ってるわよ、そのくらい!」
「光栄に思ってもらいたい。魔界でも極く少数の者しか知らぬ姿、この姿を見た
人間は当然お前が初めてだ」
「そんな事信用しろって言う訳?」
ミストは黙ってドレスの胸元に手を掛けました。そして胸元を止めている紐の
結び目を解くと左身頃を少しだけ下げて胸の膨らみをさらします。
まろんは頬を赤らめて思わず見詰めてしまいました。
「なっ…」
「良く見てみろ」
「え、ええっ?」
何を見ろと言うのだろうかと困惑するまろん。しかしすぐにミストが何を
示しているのかは判りました。白い肌の上に染みの様に拡がる汚点。
初めは痣かと思ったまろんでしたが、良く見ればそれは複雑な意匠を凝らした
入れ墨の様に見える何かでした。
「見覚えがあるだろう」
まろんは少し考えて、そして思い出しました。
「フィンと同じだ…」
「そう。魔王様への忠誠の証だ。これは偽りの姿には浮かばない。欺く為の
姿に魔王様の紋章を標すなど考えられない事だからな。判ったか」
「…でも、それじゃあの子…あの子供の姿は…」
ミストはまた微笑みました。やや皮肉めいた笑みではありましたが。
「お前もノインと同じだな」
「え?」
「或いは二人とも本当に憶えていないのかもしれぬが」
「何の事?」
「あの子供の姿はお前達、正確にはジャンヌ・ダルクとノイン・クロードが
出会った事のある人間の小娘の姿さ。お前達に昔の事を思い出させる縁として、
当て付け代わりに纏ってみたのだが、気付かないのでは洒落にもならん」
「わ、私は日下部まろんだもん。そんなの知らない」
「実際、その様だな」
「何で」
「ああん?」
「何でその子供の姿を選んだの?」
ミストはすぐには答えませんでした。目をつぶり暫く考えている様子でしたが、
やがて。
「契約したからだ」
「契約?」
「そうだ。小娘の願いを叶える代わりに姿を譲り受けた」
「魂じゃなくて?」
「魂の事は知らん。今でも冥界か何処かを彷徨っているかもしれぬし、
天界か魔界に転生して暮らしているかもしれんが知った事ではない」
まろんはもう一度思い出してみました。ミストが消えかけた時の姿と瞳の光を。
悪魔にすがる事しか出来なかった不幸な少女、その表情が刻み込まれた身体
だからこそミストにはあんな顔が出来たのかも知れない。
まろんにはそう思えるのです。
「その子の願いって」
「言えぬ。お前達の言い方をするなら内証、商売上の秘密だ」
「ケチ」
しばしの沈黙。そしてミストは言います。
「明日」
「え?」
「明日、お前を待っている。昨日と同じ場所で」
「桃栗体育館…」
「私はそこでお前を殺す」
「何でわざわざ殺されに行かなくちゃならないのよ!」
「来なくても構わん」
「…」
「その時はこちらから出向く」
「…」
「既に廃墟になった場所と、お前の仲間が集まっている町中、学校、それとも此か。
何処でも好きな場所を選べ。私は全てをお前にぶつける。周囲に遠慮はしない」
「町全体が人質って訳ね」
「提案だ、強制はしない」
選択の余地なんで無いのに。まろんは抗議する代わりに提案で返します。
「約束してよ、私以外には手出ししないで。誰も巻き込まないって」
「いいだろう」
「信じていいのね?」
「この身に誓って」
まろんは黙って頷くとソファから立ち上がりました。そして。
「イカロスを返して」
「連れていくがいい」
ミストはそう言うと再びイカロスの身体を撫でました。その途端にイカロスの
耳がぴくぴくと動き、閉じられたままだった瞼が開きました。
「イカロス!」
イカロスは自分を呼ぶ声にむっくりと起き上がってソファから降りると、
まろんの足下に擦り寄って行きました。屈み込んで抱きしめると、イカロスの
舌がまろんの耳を舐めました。
「何も」
イカロスに何も小細工をしていないか、まろんがそう問いただそうと顔を上げた
時にはミストは既に姿を消してしまっていたのでした。
*
イカロスを連れて自分の部屋に戻ったまろん。既に帰ってきていた稚空は
セルシアの断片的な伝言からは行動を起こせなかったらしく、まろんの部屋に
上がり込んで同じ所をうろうろと歩き回っている最中でした。
その目がまろんを捉え、続いてイカロスを見付けるやいなや硬直する様子を
見てまろんは小さく笑います。それから稚空と、そして集まっていた天使達にも
お茶を勧めると半日の出来事をかい摘んで話しました。もっとも三枝邸での
出来事は彼女自身にも謎ばかりでしたので、話の中心はもっぱらミストとの
邂逅に関する事柄になってしまったのですが。
「罠に決まっている!」
まろんが話を終えた途端、開口一番に稚空の言った言葉です。
その場で聞いていた三人の天使も同意見らしく黙って頷きました。
「やっぱり…そうなのかな…」
まろんはやや視線を落としながら、それでも思案顔で首を傾げています。
「おいおい…」
稚空は大袈裟な身振りを交えて呆れたという態度を示してから言葉を続けます。
「今まで何度も罠に嵌まって来ただろう?」
「う〜ん…まぁね」
「だったら何を今更」
今度は天井を見詰めているまろん。少し間が開いたのは言葉を探していた
からなのでしょうか。
「信じてみたくなったの」
「はぁ?」
まろんは自分自身に対しても語るかの様に一言づつゆっくり話します。
「最近さ、何だか色々な事があって、ちょっとキツいかなって。でもね、
一番信用出来ない相手の事を信じてみたら、信じる事が出来たら。
そうしたモヤモヤも全部無くなって、誰でも信じられて、それから
何でも上手く行く様な気がしたんだ」
黙って聞いていたトキがぽつりと言いました。
「それはつまり身近な人間に不信感があると言う事ですね」
「ああ、稚空の事だろソレ」
とはアクセス。即座に稚空が声を上げます。
「おぃ!お前らなぁ」
「ストップ」
騒ぎになりそうな予感にまろんは彼等の話を制します。そして。
「こっちから行かないと向こうから来るって言うのだけは絶対本当だよ」
その場に居合わせた全員が無言で同意します。やがて稚空が言いました。
「絶対、一人で行くなよ」
「でも…」
「一人で来いとは言わなかったんだろ?」
「それはそうだけど」
まろんは微かに釈然としない物を感じ、それが何なのかを考えました。
本当は誘っていない者が待ち合わせの予定を聞き付けて勝手に来てしまった時、
本来の約束の相手はどんな気持ちがするだろうか。何となく、その様な情況に
なった時の感覚だろうか?そんな風に結論付けました。
自分でも少しおかしな考えだとは思いましたが。
「気になるなら知らなかった事にしとけ。俺が勝手について行くだけだ」
考えていた事が筒抜けだったのかと思い、まろんは目を丸くして稚空を
見詰めました。稚空はそれをまろんが自分の意見に感心したのだと解釈して
少しだけ得意な気持ちになります。話がまとまったと感じたのか、アクセスも
一言添えました。
「そうだぜ。俺達も助太刀するからな」
「まぁ、良いでしょう。手は貸しますよ、仕事ですから」
「みんなで行くですですっ」
「ありがとうね」
まろんは頷いて、小さな声で応えました。穏やかな沈黙が部屋に満ちて
いきます。そんな空気を最初に破ったのは唐突なセルシアの声でした。
「ところでこの犬さん、どうするですです?」
皆の視線が集まった先には腰を下ろしたセルシアの足に顎を乗せて、大人しく
しているイカロスの姿がありました。まろんが答える代わりに尋ねます。
「どんな感じ?」
「はい?」
「いや、だから…」
セルシア慣れしていないまろんに代わってトキが素早く付け足しました。
「先程、妖しい気配が無いか探るように頼まれたでしょう?」
「ぁ…」
「で?」
「どうだ?」
アクセスと稚空も答が気になるらしく、急かすように言います。
「えっと…」
自分に集まった四人の視線を見渡しているセルシア。言い淀んでいる彼女に
まろんは不安を覚えました。もしかして、やはり…。ですがその疑念は続く
トキの言葉であっさり吹き飛ばされてしまいます。
「忘れてましたね」
「犬さんが可愛いなって…」
「いいから早くおやりなさい」
「はいですです…」
セルシアがそっと手のひらをイカロスの額に押し当てると、イカロスの耳が
一瞬だけピクピクと動きました。その後の両者には表面上は何の動きも
無い時間が暫く過ぎて行きます。もっとも、他の四人にはイカロスの身体の
中をセルシアの気が巡っていく様子が光の帯の様に見えていたのですが。やがて。
「特に変なところは無いですです」
セルシアは添えていた手を離しながら言いました。目を閉じたままのイカロスは
どうやら寝入ってしまっているらしく、胸の辺りまでセルシアの太股に密着させて
いました。
「よかった…」
まろんの呟きに重なる様に稚空が言います。
「しかし、弱ったな」
「え?何で?」
稚空は再び少々芝居がかった大きな溜息をついてから言います。
「何て説明するんだよ」
「そのまんま」
「……」
「…だめ?」
「マズいだろう、色々と」
「だって、ほらツグミさんはある程度は私達の事情を知っているし」
「都や委員長には何て言う?」
「犬違いでしたって」
「そんないい加減な…」
「一応それが真実なんだし、変な言い訳作るよりいいと思うんだけど」
「…う〜ん…」
納得していない稚空をよそに、まろんはすっと立ち上がるとイカロスの側に行き、
セルシアを挾んでイカロスの反対側に腰を下ろしました。
それからイカロスの顔を覗き込む様にして、彼の頭をそっと撫でながら誰にとも
なく言います。
「言い訳の内容なんてどうでもいいんだ、本当に何でも」
「え?」
「問題はさ、ツグミさんに言う最初の一言なの」
「何て言う?」
「"イカロス見付けちゃた、テヘっ"とか」
「そりゃ駄目だな」
「だよねぇ…」
考え込むまろんと稚空、そしてアクセスも腕組みをして唸っています。
事情が詳しくは飲み込めていないトキは傍観するのみです。そしてセルシアは。
「…あの…」
顔を上げてまろんが問い返します。
「何?」
セルシアが頬を染めながら言いました。
「くすぐったいですです」
セルシアの目線を追って、まろんは再びイカロスの方を見ました。
「あぁ、ごめんごめん」
そう言いながらまろんは何時の間にかイカロスの頭から逸れてセルシアの
太股を撫でていた手をゆっくりと離しました。
(第157話・つづく)
# インターミッション。(笑)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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