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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 21 Dec 2001 12:03:30 +0900
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佐々木@横浜市在住です。
例の妄想の続きです。(第157話/4本目)
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。
★神風・愛の劇場 第157話 『還る』(その4)
●桃栗町内某所
翌朝の県立桃栗体育館跡地周辺は静まり返っていました。早朝であるからという
だけの理由ではありません。巨大な建造物が一瞬で崩壊した所為で地盤に影響が
出ている可能性が指摘されており、安全が確認されるまでの期間は表面上無傷の
周辺の建物に対しても立入り禁止の措置が取られている為なのです。
都市の中にぽっかりと開いた無人地帯。そこは人ならざる者の集う場所。
ミストはその中心、県立桃栗体育館の残骸が形作る丘の頂きに立っていました。
そしてそこから纔かばかり離れた場所に空から舞い降りた者が一人。
「何をしに来た」
フィンの方を見ようともせずにミストは言い、更に言葉を続けます。
「私には用が無い」
「そっちこそ何をしているの。作戦失敗の反省?」
「釈明でも期待しているのか」
「そうよ」
ミストはゆっくりと振り返り、フィンに視線を向けました。
その動きは緩慢であり、顔を向けたとはいえフィンに対して然程の興味を
抱いて居ない事は明白でした。
「逆に聞きたい。ジャンヌを救ったのは何故だ」
「ミストの尻拭いをしてやったつもりなのだけど」
「ほう?」
「アンタ、情けを掛けられたでしょ?だから私が代わりに返しておいてあげたの」
先ほどまでとは違い、その瞳はフィンをしっかりと捉えています。
やがてミストの口許が歪み、歯軋りが聞こえそうな程に固く閉じていた口が
ゆっくりと開きます。それでもその口から発せられた声そのものは相変わらず
静かな物言いでした。
「ではクィーンとしては当然の事をしたと言う訳だ」
「その通りよ。文句でもあるの?」
ミストは一度だけフィンから視線を逸らし、何も無いであろう空の彼方へ
向けてはっきりと判る笑みを見せました。フィンから見えるのはその横顔だけ。
そして再びフィンを見据えてミストは言います。
「天使共に手を貸して私の結界に穴を開けた事も同じ理由か?」
「何を…」
目の前に舞っている埃を払うかの様に、ミストは手をさっと横に動かして
フィンの言葉を途中で遮ります。
「よもや気付かないなどと思った訳では無いだろうな。結界に触れた者の事は
離れていても判る。私の結界に穴を穿った天使は全部で四匹」
「とっくに決着が付いていると思ったのよ。穴は中を覗く為にね」
「そうか。私の邪魔をした訳では無いんだな」
「当然でしょう」
「まぁ今更どちらでも構わないがな」
フィンの片方の眉がぴくりと動きます。
「どういう意味よ」
「クィーンの魔王様への忠誠が本物か嘘かに興味は無いと言う意味だ」
「何ですって?」
「私はこれから忙しい。お前の相手をしている暇は無い」
「ミスト!」
フィンが苛立ちの叫びを上げたのと、ミストが右手の指先を軽く振ったのは
殆ど同時でした。そしてフィンの頬を掠める様に一陣の風が吹き抜けます。咄嗟に
顔を背けたフィンでしたが、数本の髪が途中から斬り落とされ胸元を滑り落ちて
行きました。
「喧嘩を売ろうって言うなら買うわよ!」
フィンが手のひらを使ってまるで空気を裂くかの様に水平に薙ぎ払うと、微かに
背景を歪めて見せながら密度を増した空気の塊がミストに向かって飛んで行きました。
ミストの顔をかすめる様に塊が飛び去ると、フィンとは違い微動だにしなかった
ミストの頬には真一文字の傷が浮かびました。
血は流れず、傷もすぐに消えてしまいましたが。
「よかろう。準備運動の相手ぐらいにはなるからな」
ミストは静かに目を閉じながら、ゆっくりとそう答えたのです。
対峙したミストとフィン。どちらも相手の手の内を伺っているらしく見え、互いに
先手を撃たない為に動きがありません。やがて痺れを切らしたフィンが先に口を
開きます。
「やる気になったんでしょう?」
「まぁそうさ」
「来ないのなら」
そのまま舞い上がり片手を降りかざしたフィン。そして手のひらをミストに向けます。
一瞬にして手のひらのすぐ前に光球が発生し、中から数本の紐状の物が飛び出し
ます。それらは稲妻のごとき光と音を発しながら宙を這い進み辺りを囲みます。
やがて網の様に空一面に拡がると動きを変えて捩れながらミストの立っている場所に
向かって降り注ぎました。直後、辺りが白光に包まれ何も見えなくなります。
周囲の明るさが元に戻ったときにはミストの姿はそこには無く、黒く変色した
コンクリートの塊の上には、周囲から飛び出していた鉄骨が溶けて流れています。
「そんなの、」
わずかに姿勢を廻して再度攻撃を放つフィン。
「やられたフリにもなってないわ!」
再度のフィンの攻撃が次に落ちた場所には初めは何もありませんでした。しかし
すぐに影の様な黒い球体が浮かび上がり、それが光の奔流を受け流します。
球体の表面を這い進んだそれは互いに合流し、あるいは枝分かれしながら
周囲の地面を焦がしました。そしてフィンの攻撃が止んだと同時に球体が
霧散し、中からは先ほどまでと全く同じ姿勢のミストが現れます。
相変わらず目はつぶったままで顔も上げていません。しかし、フィンの浮かんで
居るやや高い位置からでもミストの口許が緩んでいるのは見て取れました。
「自信があるらしいわね」
「そうでもない」
初めて上を見上げて目を見開いたミスト。金色の瞳の奥深くが真紅に輝くと
その姿が隠れてしまうほど多数の黒く細長い矢が空間に現れ、そして一見無秩序な
軌道を描いてフィンに向かって飛び始めます。正面に向かったものはフィンの
周囲の障壁にぶつかると極々小さな波紋を表面に残して消えてしまいました。また、
背後から飛び込んだものもフィンの翼が軽く動いただけで錐揉みしながら落ちて
しまいます。
「そんなものなの」
フィンの呟きには若干の失望ともとれる、力の抜けた響きが混じっていました。
「判っていた事でしょう?私の障壁があんた達には破れないって」
「無闇に頑丈なのは良く知っている」
「それで、逆はどうなの」
フィンがミストを真っ直に指差すと、その指先から数センチ程の距離をおいて
細い光が一条だけ発します。それが届く前にミストの周囲を再び黒い球体が
すっぽりと覆って行きました。しかしフィンの放った光はそれを構わず貫いて
しまいます。光が突き抜けた部分から球体の表面が溶けるように消えていき
すっかり無くなってしまうまでは、ほんの僅かな時間でした。球体が消えた時には、
その光が通った先にもう一つ穴が開いています。ミストの胸の真ん中に。
●オルレアン
まろんは殆ど眠らずに朝を迎えました。ベッドから起き上がり手早く着替えると、
そっとリビングを覗いて見ます。リビングの隅に毛布をすっぽり被って丸くなった
セルシアが眠っていました。ソファから落ちてそのまま転がっていったのだと
気付くと笑いが込み上げてきましたが、まろんはそれを堪えて忍び足で
リビングを横切ります。そっと音を立てずに玄関を開けて外に出ます。そして
開いた時と同じ慎重さで扉を閉め、エレベーターに向かおうとしたのですが。
「あれ?」
目の前には自分の部屋の廊下が伸びていました。足下には今さっき脱いだ
スリッパが並んでいます。踵を返すと再び扉を通って外へ。しかしそこにも
スリッパが並んだ廊下があるのです。
「んんん?」
段々と扉の開け閉めが乱暴になっていきましたが、そんな事を気にする
余裕はすっかり無くなっていました。しかし何度試しても玄関から外に
出る事が出来ません。
「……ごはんの…時間です…ですぅ?」
驚いたまろんが顔を上げると、パジャマの背中を前に向けて着たセルシアが
盛大な寝癖を弄りながら寝ぼけ眼で突っ立って居ました。
「あは、ははは」
まろんは慌てて靴を脱いで部屋に上がるとセルシアを回れ右させて背中を
押しました。
「朝ご飯はまだだよ。さ、寝よ寝よ」
「ふぁ〜ぃ…」
リビングに押し戻したセルシアをソファに寝かせると、まろんは再び玄関にて
扉と戦いました。ですが結果は同じ。そうして再び気付くとセルシアがまた
起き出して来て目の前にいました。先程とは違って、今度は寝ぼけては
いませんでしたが。
「一人で行っちゃ駄目ですですっ!」
「それが…その…行きたくても出られないんだけどね」
こっそり出かける所では無くなったまろんは渋々今までの事をセルシアに
話して聞かせました。全て納得したとばかりに深々と頷くセルシア。
そして胸を張って言い切りました。
「それは陰謀ですです」
「誰の?」
「悪魔さん」
「その悪魔に呼ばれて出かけるのに?」
まろんの言葉に即答出来ず、一気にトーンダウンしてしまうセルシア。
「じゃ…フィンちゃん?」
「…違うんじゃないかな」
「きっと稚空くんですです」
「……絶対違うと思う」
「判りました。ではトキとアクセスに相談に行きましょう」
まろんには想像出来ない理由により再び自信満々に戻ったセルシア。そして
威勢良く扉を開けて出ていったセルシアですが、すぐにまろんの目の前に戻って
来ました。まろんの顔をまじまじと見詰めてから再び扉に向かうセルシア。
そんな事を何度か繰り返した後、遂に諦めたのか目を潤ませて訴えました。
「出られませぇ〜ん」
「だからそう言ってるじゃん…」
玄関を諦めたまろんはセルシアを残して部屋の方へと歩き出します。セルシアが
慌てて後を付いて来ました。まろんはリビングの窓を開けてベランダへ出ます。
そこから見える風景は普段の通りの桃栗町の街並でした。ベランダから身を
乗り出して下を見るまろん。それから振り向いてセルシアに言いました。
「ねぇ、此からちょっと飛び立ってみてくれる?」
「はいですです」
ふわりとベランダから舞い上がるセルシア。そしてその姿はまろんの目の前で
忽然と消えてしまいます。ぽんっと音がしない事が不思議な程に唐突に。
その直後、まろんの背後から声がしました。
「駄目ですです…」
振り返ると窓の内側、リビングのテーブルの上にセルシアがしょんぼりと
立っていました。その姿を見たまろんは予想通りとでも言いたげに小さく頷き、
そして腕組みをして考えます。やがておもむろにベランダを乗り越えて隣室、
稚空の家のベランダに軽くジャンプして飛び込みました。まろんが気配に気付いて
振り向くと、背後のベランダからセルシアが身を乗り出してこちらを見ています。
まろんは心の中でだけ強く頷き、それから窓を叩き始めました。初めは軽く
叩いていたまろん。早朝からの大騒ぎは近所迷惑と考えたからですが、すぐに
どうせ周囲には何も聞こえないだろうと気付いてからは遠慮しません。
「稚空、稚空ったら起きてっ!」
激しく十数回叩いた所でカーテンが開き、続いて窓が開かれました。
「何だ、何があった?」
「外へ出られないの。また何かされたみたい」
「外って、出てきてるじゃ無いか」
「いいから、玄関回って私の部屋に来て!」
「お、おう…」
稚空は言われた通りにその場を離れて部屋の奥へと一旦姿を消しました。
やがて数十秒の間に数回玄関の扉が開け閉めされる音がしたかと思うと、
どたどたと乱暴な足音が戻って来ました。
「出られないぞ!」
「こっちも同じなの。どうしよう?」
「ベランダは」
隣りのベランダからこちらにおっとり移ってくる途中のセルシアが答えました。
「駄目ですですぅ〜」
稚空は無言で二人を部屋の中に招き入れました。そこで三人は互いの顔を
見合わせます。
「悪魔の気配は…特に感じないが」
「悪魔の気配が無い術って事は…」
「ノインの野郎か!」
「ご明察」
三人の頭上から声がしました。一斉に見上げる三人ですが、そこには何者の
姿もありません。続く声は足下からで、そして右に左にと次々に違う場所から
声が響きます。律儀に声のする方を見る三人に対して、ノインの声が段々と
面白がっている調子を帯びてくる事が、まろんと稚空には余計に腹立たしく
感じられるのでした。
「折角ですから、もう暫く家でゆっくりして行ってください」
「どういう事よ!」
「それに今、ちょっと面倒な事になっていますので」
「面倒って何だよ!」
「こちらの事情ですので、お構い無く」
「そっちからは来ないって言ったくせにっ」
「ミストの所へは後で行って頂きます」
「だから何だって…」
「退屈でしょうからこれでもご覧になっていて下さい」
まろんと稚空、そしてセルシアはノインの言う"これ"を探して周囲を見回し
ました。まろんがふと気付くと足下の床に水を零した時の様な染みがありました。
それは彼女が見詰める中でみるみると拡がって行きます。染みが自分の足に
触れそうになる直前で飛び退いたまろん。その様子を見て稚空とセルシアも
足下の異変に気付きます。やがて少しづつ後退る三人の見ている前で、染みは
部屋の中央に大きな場所を占めて動きを止めます。そして中から漏れ出る光が
じわじわと明るさを増し、その染みの奥に何処かの風景を浮き上がらせました。
灰色の瓦礫が辺りを埋め尽くした土地を見下ろす景色、そしてその中で激しく
動き回る二つの人影。
「フィン!」
「フィンちゃんですです」
「それにミストか」
騒ぎを聞き付けて起き出してきたアクセスとトキは訳も判らずにぼんやりと
足下を見ていました。再びノインの声が何処からとも無く響きます。
「滅多に見られない余興です。ご堪能のほどを」
「うるさい!」
まろんはそう叫んでから足下に見える風景に踏み込んで行きました。
しかし、足の裏に感じるのは硬い床の感触のみ。四つん這いになってその風景を
拳で叩きながら、まろんはフィンの名を呼び続けましたがその声が届いている
様子はまるでありませんでした。
(第157話・つづく)
# 尺の読み間違いにより、もうちょっと続きます。
# 申し訳ありません。
## 多分、(その5)で終わるはず…
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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