神風・愛の劇場スレッド 第156話『誤算』(その4)(11/19付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 19 Nov 2001 22:24:03 +0900
Organization: So-net
Lines: 489
Message-ID: <9tb15m$a86$1@news01bj.so-net.ne.jp>
References: <9qb785$d74$1@news01bi.so-net.ne.jp>
<9qope5$1nh@infonex.infonex.co.jp>
<9qu0j7$cda$1@news01cc.so-net.ne.jp>
<9rghhm$2b9$1@news01ch.so-net.ne.jp>
<9s39i4$jh$1@news01bf.so-net.ne.jp>

石崎です。

 このスレッドは、神風怪盗ジャンヌのアニメ版の設定を元にした妄想スレッド
です。そう言うのが好きな人だけに。

 hidero@po.iijnet.or.jpさんの<9qope5$1nh@infonex.infonex.co.jp>における
談合結果に基づき、前回に引き続き今週も私パートです。
 佐々木さんのファンの方には申し訳ありませんが、今暫くお付き合いの程を。

 第156話の残りの話をお送りします。
 約2800行程ありますので、(その4)〜(その8)までの5分割でお送り
します。
 この記事は、第156話(その4)です。

第156話(その1)は、<9qu0j7$cda$1@news01cc.so-net.ne.jp>
     (その2)は、<9rghhm$2b9$1@news01ch.so-net.ne.jp>
     (その3)は、<9s39i4$jh$1@news01bf.so-net.ne.jp>

よりそれぞれお読み下さい。



★神風・愛の劇場 第156話『誤算』(その4)

●県立桃栗体育館・新体操大会会場(第1体育室)

「ゲームスタート!」

 目の前のパッキャラマオ先生に変装していた怪盗ジャンヌがそう叫ぶのを確か
に都は聞きました。

「ジャンヌが現れたぞ! 新体操の会場内…第1体育室の中だ!」

 春田刑事が叫ぶと、今まで警備員や大会の役員だと思っていた人々が、警察手
帳と警棒を取り出して、こちらへと駆けてきました。

「A班とB班は第1体育室の周囲を固めろ。C班は新体操の観客席の観客を誘導
して会場の外へ」

 出現場所に応じて、どうすべきかの作戦が定められていたのでしょう。
 都の父の指示は冷静なものでした。

 床から起き上がりながら、前より抱いていた疑惑──自分を外して準備が進め
られている──が、現実であったことを都は知りました。

「あいつら、後でおしおきだから」

 そう呟きつつも、都は思います。
 きっと、自分が大会に集中出来るように、内緒にしてくれてたんだろうなと。



 パッキャラマオ先生によって首を絞められ、壁に叩き付けられたまろんは、そ
の時に頭を打ち、暫し起き上がることが出来ませんでした。
 目の前でもう一人の自分──怪盗ジャンヌ──の偽物が、その武器であるリボ
ンを使って、警官達をなぎ倒している様子を見ている事しか出来なかったのです。

 動かなきゃ。
 変身して戦って、偽物の正体を暴かなきゃ。

「止めてジャンヌ! 民間人が居るのよ!」

 都の叫び声で、まろんは意識を完全に取り戻しました。
 警官隊を倒す際に、未だに避難を完了していなかった選手や大会関係者達が、
ある者は床に打ち倒され、ある者は壁に叩き付けられていました。

「山茶花さん?」

 倒れている人物の中に、自分のライバルが含まれていることに気付くと、まろ
んは怒りが高まっていくのを感じました。
 身体が少し痛みましたが、変身すれば何とかなる筈。
 まずは避難して、人目のない場所で…。

「どこへ行こうとしているのかしら?」
「桐嶋先輩」

 数メートル先に、桐嶋まなみが立ってこちらを見ていました。
 競技を終えた時のままのレオタード姿。
 手にはリボン。
 そして自分を逃がしはしないという目つき。

「ここを通して、先輩!」
「嫌だと言ったら?」
「無理にでも」

 まなみの目つきは、悪魔に支配されている。
 過去の経験からそう判断したまろんは、先輩に対して遠慮をするのを止めてい
ました。

 格闘技を習った訳ではありませんが、まなみを倒して通り抜ける自信はありま
した。
 まなみが手にしていたリボンのスティックを動かして、長さ6メートルのリボ
ンをこちらに向けて来た時も、その自信は揺らぐことは無かったのです。ですが。

「え…?」

 まなみの繰り出したリボンは、まるで自分自身が意志を持っているかのように、
スティックの動きとは無関係に真っ直ぐにまろんへと突き進んで来ました。
 本能で危険を感じ、寸前でかわしたまろん。
 それが正しかったことは、レオタードの上に羽織っていたジャージの上着の脇
腹部分がすっぱりと切れているという事実によって証明されました。

「良く避けたわね。でも、それで無ければ面白くないものね」

 リボンはそのまま、まなみの手元へと戻って行き、まなみの側に漂っています。
 まるで、もう一人の自分が愛用しているリボンと同じように。

 これは、本気で相手をするしか無さそうね。
 そう感じたまろんが、次の行動を起こす前に、まなみは次のリボンを繰り出し
て来ました。
 凶器と化しているリボンを避けるため、横に飛んだまろん。

「甘い!」

 回転レシーブの要領で起き上がった後、反撃に転じようとしたまろんの目論見
は、自分の右足首に何かが絡みついたことで破れました。

「何?」

 回転出来ずに、床面に身体をしたたかに打ったまろん。
 後ろを振り返ると、まなみのリボンが自分の方に向かって伸びているのが目に
入りました。
 身体を起こして足首を見ると、やはり足首にリボンが巻き付いていました。
 慌てて、リボンを外そうとしましたが、もちろんそれを黙って見過ごすまなみ
ではありません。

「キャアアア!」

 まなみがスティックを引き寄せると、まろんは足首に巻き付いたリボンに導か
れ、まなみの方へと床面を引きずられて行くのでした。



「キャアア!」
「ぐえっ!」

 警察官、民間人お構いなしのジャンヌの攻撃によって、競技場の中では悲鳴と
呻き声の交響曲が奏でられていました。

「嘘…嘘…」

 怪盗ジャンヌが物を盗む度、人は皆穏やかになっていった。
 父さんがおかしくなった時も、兄さんの時だって。
 怪盗ジャンヌはただの泥棒じゃない。
 きっと何か訳があって。
 本当は別の目的から怪盗ジャンヌを捕らえる事を目標としていた都ですが、今
では怪盗ジャンヌが何時か都に言った盗む理由、「使命」について聞きたいと感
じるようになっていました。

 しかし、今目の前で繰り広げられている光景は、そんな都の思いを打ち砕くも
の。
 問い質さなくては。これも、きっと訳があるんだよね。

 都は、辺りに散らばっていた新体操の手具を武器替わりに集め、ジャンヌと戦
っている父と合流すべく、走り出そうとしたその時。

「まろん?」

 悲鳴の中に、まろんの声が聞こえました。
 慌てて、その声の方向を見ると、桐嶋先輩がまろんの足にリボンを絡みつかせ、
引きずっている光景が目に入りました。

「まろん!」

 今助けるから。
 都はまろんを助けるべく、そちらに向かって駆け出していました。



 氷室が事前に想像した以上に、ジャンヌとの戦いは壮絶なものとなりました。
 会場の隅に展開しつつある、特殊粘着弾を装填したショットガン保有の狙撃班。
 彼らが展開さえすれば。
 そう氷室が思った時、入り口を警備している秋田刑事からの連絡が入りました。

「警部、建物の入り口の扉が開かなくなっています!」
「何?」
「ここだけでは無く、他の扉も全て開きません!」
「判った。外に聞いてみる」

 外周警備担当の夏田を呼び出すと、どうやら外でも騒ぎとなっている様子でし
た。

「…そうです。こちらも扉が開かなくなっています!」
「そうか。ジャンヌの仕業だな」
「どうしましょうか」
「窓かどこかから脱出出来ないか探すんだ。それが無理なら、待機させている消
防署のレスキュー隊に応援を要請しろ」
「………」
「おい夏田! 復唱は!」

 しかしそれきり、無線から返事はありませんでした。
 舌打ちし、秋田刑事を呼び出すと、こちらも返事がありません。
 体育館の中を巡回している冬田刑事もやはり連絡が取れなくなっていました。

「警部…」

 都を応援していたためにこの場に居合わせた春田の声に、氷室が顔を上げると、
巨漢の春田が自分に向かって倒れて来ました。

「おい、しっかりしろ!」

 春田刑事を支えつつ、周囲を見渡した氷室は、周囲に居た警官が折り重なるよ
うに倒れている光景を目撃しました。
 そして氷室も春田に押し潰されるように、人の山の中に倒れるのでした。



 会場内で異変が起きた時、稚空はすぐにまろんを助けに行こうとしました。
 しかし、会場から避難しようとする観客達の流れに押し流され、更には観客の
中に多数紛れ込んでいた私服警官達に止められ、観客席から競技場へと向かうこ
とが出来ないでいました。
 会場内で響き渡る怒号、悲鳴の中から、まろんの悲鳴が聞こえた時、稚空は警
官達に羽交い締めにされた状態。
 公務執行妨害になってしまうけど、仕方無いか。どちらにしろ、怪盗シンドバ
ットである俺は犯罪者には違いないし。

 そう開き直り、自分を押さえつける警官達を振り切ろうとした時、再度の異変
は起きました。自分を押さえつけていた警官の力が緩んだかと思うと、次の瞬間
には皆倒れていたのです。

「何だ?」

 稚空が周囲を見渡すと、出入り口に殺到していた観客達、整理に当たっていた
警官達は折り重なるように倒れていました。
 競技場内に目を移すと、やはり避難の途中だったのでしょう。
 出入り口付近に参加者や大会関係者、そして私服警官達が倒れていました。
 そして、桐嶋まなみがまろんを捕らえている様子が目に入りました。

「あの先輩、又悪魔に取り憑かれて…。そうか、これは悪魔の仕業ということ
か」

 稚空は、かつてまなみが悪魔に取り憑かれた時のことを思い出しました。
 しかし、今はまろんを助けなければなりません。
 そこかしこに倒れている人を踏まないように、階段を駆け下りる稚空。
 しかし、急に立ち止まり、後ろに身をかわした直後、稚空が今までいた空間を
刃物の切っ先が服を切り裂いて通り過ぎました。
 稚空が普段から防弾・防刃シャツを着ていなければ、身体毎切り裂かれていた
ところでした。

「お前、まさか…」
「弥白様を惑わす害虫!」

 目の前にいたのは、弥白の親衛隊の一人、大門佳奈子。
 稚空は悪魔に取り憑かれたこの小柄な眼鏡の少女と一度、戦ったことがありま
した。

「何のことだ」
「問答無用!」

 今度は両手でナイフを構えて身体毎稚空を貫こうと言うのでしょう。
 真っ直ぐ、佳奈子は稚空へと突進して来ました。

 金属探知器が備えられているこの会場でどうやってナイフを持ち込んだ?
 刃の色からすると材質はセラミックか何かか。
 でもボディチェックもしていた筈。
 今回も、それだけの事を考えるだけの余裕がありました。

 その慢心が、背後からの奇襲を許してしまったのかもしれません。
 殺気を感じ、回避しようとしたその瞬間、右肩に鈍痛が走りました。
 続いて、脇腹への一撃。
 背後を振り向く間もなく、佳奈子のナイフが迫って来ていました。
 何とか回避して、佳奈子の手を押さえ、ナイフを叩き落とした稚空。
 しかし、最終的に後頭部に加えられた一撃で、全ての努力は無駄となり、稚空
はその場に崩れ落ちるのでした。



「これは…」

 弥白は折り重なるように倒れている人々の中で目を覚ましました。
 怪盗ジャンヌが現れた直後、待機していたらしい警察官の指示に従い避難する
途中、何かで強い衝撃を受けて気を失ったことが、身体の痛みとともに蘇ってき
ます。
 50メートル×30メートルはある競技場内を見回す弥白。
 避難の途中で倒れたのでしょう。
 出入り口付近に人が多く折り重なっていましたが、向こうの端に動く人の姿が
三名。

 日下部さん?
 自分の恋と新体操のライバルが、同じ学園の桐嶋という名前の選手にリボンで
縛り上げられている光景が目に入りました。

「一体、何が…?」

 呆然とする弥白の前に、当のジャンヌが舞い降りて来ました。

「こんにちわ。山茶花弥白さん」

 稚空の後をつけ、彼のことなら何でも知っている弥白。
 当然、怪盗ジャンヌの正体すら承知していました。
 向こうに見えるまろんが偽物で無いとすれば、目の前のジャンヌが偽物。
 そして、その正体に弥白は覚えがありました。

「あなたはジャンヌではありませんのね」

 暫く自分の前に現れていなかった少女の形をした悪魔。
 彼女が正体なのかも。
 そう弥白は推測したのでした。

「良く判ったわね」
「怪盗さんの正体はあそこにいますもの」
「情報を操るお嬢様だけのことはある。流石ね」
「これは、あなたの仕業ですの?」

 弥白が聞くと、ジャンヌの姿をした何者か──多分、あの悪魔──は肯きまし
た。

「どうして…」
「あなたのためよ」

 「契約」を破った私のために、一体彼女は何をしてくれると言うの?
 そう弥白は疑問に思い、聞きました。

「どういうことですの?」
「判っている癖に。遠慮することは無いわ。みんな寝ている今なら簡単よ」

 話をしている内に、室内に選手達の汗の匂いや化粧の匂い等に混じって、いつ
もとは違う香りが極微かに漂っていることに気付いた弥白。
 その匂いには覚えがありました。
 その匂いは、佳奈子から贈られたあの花と同じもの。

「でも…」
「あの娘に遠慮しているの? あの娘はね、自分の寂しさを埋めてくれる相手な
ら、誰でも良いのよ。そんな彼女に、貴方の大切な人を奪われて良いの?」
「でも私は稚空さんと…」
「一度や二度の契りでは。いや、何度だろうとそれで男を縛ることは出来ない。
判っていると思うけど?」

 匂いに一旦気が付くと、その匂いは強いものに感じられて来ました。
 頭の中がぼうとして、思考能力が失われて行くのが自分でも判りました。
 これは、あの匂いのせい? それとも。
 失われつつある意識の代わりに弥白の頭の中を支配しようとするある衝動。
 弥白は、その衝動と必死に戦おうとしました。
 しかしもう一方で、衝動に身を任せよともう一人の自分が囁くのです。

 自分は稚空さんだけなのに、あの女は男女構わず、誰とでも。
 寂しければ何をしても許される訳じゃない。
 両親が不仲? 近くにあんなにも愛してくれる人が居るじゃない。
 私だって独りぼっちだったのに。
 稚空さんだけが私の家族だった。愛する人だった。
 それを奪おうとするあの女。
 許さない。



「本当に、出来るのね?」
「今の貴方なら判るはずよ。貴方に秘められし真の力が湧き出て来ているのが」

 自分の手駒の目の色が変わるのが、ミストからも判りました。
 どうやら、改めて悪魔を憑ける必要は無さそうね。
 ミストはそう思い、安堵します。
 完全に悪魔の支配下に置いた人間は、動きが鈍い。
 半分は悪魔が操るにせよ、最も効果的なのは人間が自分自身の意志で動くこと。

「東大寺さんと、もう一人は?」
「心配ない。一人は味方。東大寺都は…後で始末をするから。だが、好きにして
良い」
「そう」

 まろん以外の二人の運命に、ミストの手駒は、それ以上の関心を示しませんで
した。
 そう言えば、あのまなみとか言うノインの手駒こそが、弥白を脅迫している本
人だったっけ。
 それを知ったら、このお嬢様はどう動くのかしら。
 ミストはそう思いましたが、もちろん口にはしませんでした。

「では、行きなさい」

 ミストは、弥白に新体操のリボンを手渡しました。

「はい…」

 リボンを受け取り、歩き出した弥白の目は、最早普通の目ではありませんでし
た。



「何!?」

 まろんを助けに向かう途中で、それまで鳴り響いていた悲鳴と呻き声と怒号が
消え、代わりに人が倒れる音を聞いた都。
 周囲を見渡すと、それまでジャンヌを捕らえようとしていた警官達は皆、折り
重なるように倒れていたのでした。

「まさか、ガス?」

 自分達もジャンヌを捕らえるために催涙ガスを何度か使った事があったので、
真っ先に都の頭に浮かんだのはその可能性。
 慌てて、口を押さえますが、ガスマスクが無い状況では気休めにもなりません。
 しかし、自分には何も起こらない事に気付くと、口を押さえるのを止めました。
 何より、目の前のまなみも倒れる様子が無かったからです。

「ジャンヌの仕業なのよね、多分」

 都は後ろをちらりと見ましたが、ジャンヌの姿は見えませんでした。
 どこに消えたのだろうと思いましたが、すぐに意識を目の前に集中します。

 どうやってか、まろんの右足首をリボンで縛り上げて持ち上げ、足から宙づり
にしているまなみ。
 上半身は床についていましたので、まろんはじたばたと身体を動かしていまし
たが、まなみは足でまろんの上半身を踏みつけにして、押さえつけていました。

 とても現実とは思えない光景。
 まなみの目も普通ではありません。
 その目に、都は覚えがありました。

「まさか、先輩も…?」

 ジャンヌが現れたのは、それと関係があるのかも。
 一瞬、そんな考えがちらりと浮かびましたが、すぐにまろんを助けなければと
の思いが都を行動に走らせていました。

「まろんを離して! 先輩!」

 一応は説得を試みつつ、駆けながらまなみに接近する都。
 大丈夫。手にはリボンしか持っていない。
 そのリボンもまろんを縛っているのだから使えない。
 今がチャンス。

「あら、起きている人がまだ居たのね」

 都には聞こえませんでしたが、まなみはそう呟くと、スティックを都の方に向
けました。
 その直後、都は信じられない光景を目にすることになりました。
 足首を縛られていたまろん毎リボンが空中に浮かび上がると、まなみの身長を
上回る高さまで持ち上がり、しなり、そしてまろんを投げ飛ばしました。

「キャアア!」
「まろん!」

 それは、都を狙って投げられたものでしたが、もとより都は避ける意志はあり
ません。
 しかし勢いをつけて飛んで来るまろんを受け止めきれる筈もなく、都はまろん
の下敷きとなりました。

「大…丈…夫?」
「う…ん…」

 身体中が痛みましたが、大した怪我をしている訳では無さそうでした。
 まろんも命に別状があるようには見えませんでした。

「(柔らかい)」

 動けないでいるまろんを避けて起き上がる時、都とまろんの身体が触れ合い、
お互いの柔らかさに触れて沈み込みました。
 ほんの一瞬。まろんの身体の柔らかさを愉しむ都。
 しかしすぐに立ち上がると、前方に立つまなみを睨み付けました。
 そして武器として拾い集めた手具であるクラブを手にし、叫びました。

「先輩でもやって良いことと悪いことがあるんだからね!」


●桃栗タワー

 事が起きた直後、フィンにとって予想外の事態が起きました。
 羽根を通して観察できる筈のまろん達の様子が見えなくなっていたのです。
 考えてみれば当然か。そうフィンは思います。
 羽根による遠視は、ミストにかけてもらった術だもの。
 ミストの奴、結界の中で見えないように細工したに違いない。

 自分の知らないところで事が進むことにフィンは苛立ちました。
 まろんの最期を目のあたりにしないですむことを考えれば、その方が良いのか
も。
 そう一度は思い、フィンは横になりました。

 しかし、目を瞑ると浮かぶのは、ミストによってなぶられた挙げ句、じわじわ
と殺されるまろんの断末魔の悲鳴。
 二度とまろんが復活しないように、まろんの心を切り刻んでおく必要があると
はいえ、あまりにも正視に耐えない光景。

 純粋な悪魔族のミストであれば、その位のことは平然とやってのける筈でした。

「まろん…」

 さりとて、助けに行くことも出来ず。

「(でもひょっとしたら、彼女が…)」

 フィンの頭の中に差し込む一筋の光。
 しかしすぐに、それが馬鹿馬鹿しい思いであることに気付いた後は、フィンは
悶々とするしか無いのでした。

(第156話(その4)完)

 (その5)へと続きます。
 では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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