神風・愛の劇場スレッド 冬のスペシャル版 『火炎回廊』 第8章(2/9付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 9 Feb 2001 17:06:26 +0900
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Lines: 396
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佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

これは神風怪盗ジャンヌのアニメ版に触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、この手の代物がお好きな方のみ以下をどうぞ。



妄想100話突破記念&冬だからスペシャル7本目です。
# 第1、2章<94a13v$akm@infonex.infonex.co.jp>、
# 第3章<94gv95$li5@infonex.infonex.co.jp>
# 第4章<94qqnh$59b@infonex.infonex.co.jp>
# 第5章<9535kq$jfn@infonex.infonex.co.jp>
# 第6章<95da1p$989@infonex.infonex.co.jp>
# 第7章<95ln87$nav@infonex.infonex.co.jp>の続きですので宜しく。

## ちなみにスペシャルが終わらなくても近々本編も再開予定です。(多分 ^^;)

# では、始めます。

★神風・愛の劇場 冬のスペシャル版 『火炎回廊』

●第8章・火炎回廊

それから四人は、そのまま梁の上で無言の時を過ごしていました。
もっとも、元々待ち伏せだったのですから都にとってはそれで
良かったのですが。ランプを消して息を殺している四人。
やがて、幾らかの時間が過ぎた頃に都が呟きます。

「…変ね」

まろんも声を潜めて応えました。

「もう通ってもいいのに」

と、その時でした。まろんの声に重なるように風が唸るような音が
通路を通り過ぎて行きました。顔を見合わせる都とまろん。
大和が言いました。

「今のはいったい…」
「声、かなぁ」
「多分ね」
「何処から?」
「奥の方からの様な気がしましたが」

都が舌打ちをしてランプを点しながら言いました。

「奴等、別の通路から入ったんだ」
「それじゃ、今の声が?」
「私達の前を通らずに祭壇の部屋に辿り着いたのよ」
「お宝が!」

既に綱を垂らして下へ降り始めていた都が、途中から呆れたように言います。

「あんた、遊んで暮らせる剣を手に入れたでしょうが」
「私達を襲った連中なのよ、びた一文儲けさせるもんですか」

降り切った都の隣りに、綱の途中から飛び下りたまろんが立つと
都は待っていた様に駆け出しました。後を追うまろんの声が通路に響きます。

「先に行ってるからね」

まだ梁の上に居たツグミと大和。綱を掴みながら大和が言います。

「上る時より降りる時の方が怖いですよね」
「じゃ、これ使います?」

ツグミは小さな皮袋を取り出して、ぶらぶらと振って見せました。

「遠慮します。ここに置いてきぼりは御免ですから」
「あら、そう」

大和は逃げるように下に降りて行き、最後にツグミが降りると
先に行った二人を追って再び祭壇の部屋へと向かいました。



後を追う二人の前方にはランプを揺らして走る影が微かに見えていましたが、
何故か進むにつれてその小さいはずの灯りが通路全体を照らして始めています。
大和は不思議に思いつつも、追い付く事を第一として先を急ぎました。
時々は少し後を振り向きますが、心配するまでもなくツグミは常に
後について来ていました。更に進むと通路を照らす光は祭壇の部屋の開け放した
扉の透き間から漏れている事が判ってきました。先程までとは違い、扉の奥は
昼間のように明るくなっている様子です。そして明るさだけでは無く
信じられない程に辺りが暑くなっていました。扉の奥があまりにも明るい為、
腕を掴まれて扉の影に引き込まれるまで、大和は都とまろんがそこに
立っている事に気付きませんでした。都が言います。

「危ないわね、覗くんじゃないわよ」
「てっきりお二人は中かと」
「まだ死にたくないもん」

扉の影の闇に目が慣れると、ツグミも既に同じ影に入っていました。

「どうやら、やってしまった様ですね」
「何がです?」
「火竜でしょう、この光と熱は」
「私達が来たときは中で誰かがぎゃって叫んでたけど」
「あれから声、しないね」

都は不快そうな表情を天井に向けていました。

「それでは彼等が?」
「あいつら、ツグミさんの真似したんだよ」
「でも失敗したらしいわ、でしょ?」

都の問いかけにツグミが答えました。

「蘇らせる前に、"手綱"を付け忘れたのかもしれませんね」
「手綱、ねぇ…」

都はツグミをしげしげと見詰めましたが、すぐに扉の方を向くと
誰へともなく言います。

「中、どうなってるか知りたいわ」
「覗いてみる訳にはいきませんか」
「誰が覗くの?」
「情報集めは賢者の仕事でしょ、頼むわよ」
「さっき危ないって言ったじゃないですか」
「情報と引き換えならいいのよ別に」
「…」
「止めたほうがいいでしょうね、情報以前に死んでしまいますよ」
「じゃぁどうするのよ」

ちょっと考えてからツグミは言いました。

「誰か鏡とか持ってませんか?」
「鏡をどうするの?」
「中を覗くんですよ、扉の陰からこっそり」
「あるわよ」

都はそう言って小さな手鏡を出しました。

「燃えてしまっても構いませんか?」
「それは嫌」
「けち」
「なら、まろんが出しなさいよ」
「鏡なら先週質屋に入れちゃった」
「では剣ではどうでしょうかね」
「おお、成程」

まろんは自分の剣を抜いて扉の透き間に刃先を突き出すと、刀身に
映る中の様子に目を凝らしました。

「あぁ居る居る、本当に蜥蜴みたい。二本足で立ってるけど」
「もっと具体的に言いなさいよ」
「じゃぁ自分で見れば?」

都はまろんから剣を受け取ると同じように中を覗きました。

「反対側の壁…じゃなくて別の扉ね、盛んに火を吹き掛けてる。でも」
「ん?」
「何であの火は白いのよ?」

任せてくださいと言わんばかりに頷き、大和が答えました。

「温度が高いのだと思います」
「つまり物凄く熱いって事?」
「そうです、その通りです」
「どれどれ」

再びまろんが中を覗いている間に、都がツグミと大和に言います。

「どうするのが最善だと思う?」
「放って行きましょう、僕らの手には負えないですよ」
「私も賢者さんの意見に賛成です」

耳聡く聞き付けると、まろんが振り向いて言いました。

「やだ。捕まえて帰る」
「もう無理ですって、暴れてるんですよ」
「だってさぁ…」

都はまろんに構わずツグミに聞きました。より小さな声で。

「放っておくと火竜はどうなるの?」
「白い火を吐いているという事は相当興奮しているのでしょうから、
 時間が経てば死ぬと思いますよ。自分の出す熱に耐えられないはず」
「神殿の外に出て暴れたりはしない?」
「大丈夫です。ここは火竜の檻でもあるのですから」
「確かに此で死ぬわね?」
「ええ、間違いなく。間もなく仕掛けも働くと思いますし」
「…ならいいか」

二人の会話にまろんの声が割って入りました。

「ねぇ、ツグミさん何とかしてよ。氷漬けにする術とか無い?」
「そんな術は知りません」
「だって背中向けてるしさぁ、隙だらけだよ」

そう言って再びまろんが剣を透き間に差し出した時でした。
燐寸を擦った時の様な音がしたかと思うと扉の透き間から閃光が溢れました。
ツグミ以外の三人は、一瞬目がくらんでしまい、各々が瞼を手で押さえたり
顔を背けたりしていました。やがてツグミがぽつりと一言。

「こちらに気付いたみたいですね」

都がきっぱりと宣言する様に言いました。

「帰るわよ、まろん」
「でも…」
「それ見てもまだ言うか?」

都が指差したのはまろんの剣でした。右手の剣を目の前に掲げたまろん。

「え゛?」

まろんの剣は途中から消えて無くなり短くなっていました。
切り口とでもいうべき部分は艶を失い黒ずんでいます。
それを隣りで見ていた大和が言いました。

「どうやら融けた様ですね、先程の閃光に触れて」

都がもう一度言います。

「帰るわよ、いいね?」
「うん、帰る」
「でも、追ってきませんか?」
「大丈夫でしょう。火竜に扉を自分で開く知恵は無いと思いますから」
「どのみち、結界の外に出てしまえばいいんだよね?」
「ええ」

通路をそろそろと歩き出す四人。柱と壁の間を通っていくのは、
扉の隙間の正面に立たない様にするためです。その後も繰り返し閃光が
通路を明るく照らし、時折甲高い鳴き声らしき物が響き渡りました。
しかし祭壇の部屋から離れるにつれ、その光も音も段々と遠ざかっていきました。
充分な距離が開いた辺りで四人の中に安堵感が漂い始めます。
ふと都が腕組みをして突然立ち止まりました。それから言います。

「ねぇ、ちょっと」

振り向く三人。都の視線はツグミに聞きたい事があると告げていました。
それに気付くと、まろんと大和もツグミの方を見ます。

「何ですか?」
「あんた、さっき仕掛けがどうとか言わなかった?」
「ああ、火竜の封印の事ですか」
「何よそれ」
「暴れだして手が付けられない状態になった時の用心らしいんですけど」
「用心?」
「神殿の中央部の柱だけ、わざと熱に弱くしてあるそうなんですよ」
「どういう意味よ、それ?」
「ですから、間もなく崩れちゃうんですね。中央部が」
「…」
「すると中央にそびえてる塔が全部のし掛かって来て」
「…」「…」
「それで火竜を埋めちゃえば安心って事でしょう」
「…」「…」「…」
「大胆な設計ですよね。昔の人達って面白い」

ツグミはそう言って笑っていましたが、残りの三人は黙って顔を見合わせます。
それから再び都が聞きました。

「中央ってどの辺りまでが中央なのよ?」
「柱が溶けるのは祭壇の部屋の周りだけですよ、話では」
「何だ…」
「吃驚した。脅かさないでよツグミさん」

今度は大和が言います。

「でもですね…」
「何さ?」
「あの塔が落ちてきたら、勢いで周りも崩れるのではないかと…」
「ツグミさん、そうなの?」
「さぁ?私も見た事は無いですから」
「あ、そうだよねぇ」
「感心するなボケ!」
「とっとと出てしまった方が…」
「急ぐわよ」

都が早足で先頭に立つと、三人も後に続きました。
しかし、ほんの僅かの距離を進んだ途端、都は振り向きざまに叫びました。

「柱の陰へ入りなさい!」

叫びながらも既に手近な柱を背にし身を隠している都。通路の反対側の柱の陰に、
まろんがツグミを引っ張り込んだ後で大和もどうやら姿を隠します。
都とまろんが放り出したランプが通路の真ん中で横倒しになりながらも
辺りを照らしています。ツグミと大和はそれを見て、自分のランプを
慌てて消しました。通路の前方、入り口に近い方から呼びかける声が響きます。

「お急ぎかね、お嬢さん方」

まろんは神経を集中して声のする方を伺います。
距離は案外近い様に思われました。

「何か用?」
「お別れのご挨拶さ」
「お気遣い無く」
「つれないね」
「判ったからさっさと消えてよ」
「消えないとどうなるのかな」
「あんたの首も祭壇に並ぶわよ」
「拝みに来てくれるのかい」
「二度と来るもんですか」
「それじゃ願い下げ」

まろんは都に向けて目配せしようとしたのですが、離れた柱の陰に
入った都の姿はよく見えませんでした。再び声が響きます。

「実は仲間を失ってしまってね」
「残念ね」
「暫くは休業になりそうだ」
「ついでに足を洗えば?」
「悪くない」
「じゃ火竜に感謝しないとね」
「それとあんた達にもな」
「遠慮しとく」
「そう言わずに」

闇に目が慣れた事を確認したまろん。これまでの会話から相手の位置は
正確に判っています。当然、向こうにも自分の居場所は知られている
はずでしたから、待っているのは得策ではありませんでした。
先程から都が声を発しないのは、自分に対して囮になるようにという
意味なのだろうとまろんは考えました。
柱と壁の間を通って一息に距離を詰めます。そして敵の眼前に踊り出ると
幽かに見える影に向け、低い位置から斜め上へと剣を振り抜きました。
無論、剣が短くなっている分を考えて充分に深く懐へと踏み込んでいます。
しかし。

「な!」

明らかに人では無い手応えに飛び退くまろん。その途端に影は床に向けて
崩れて行き、僅かな土の山を築きました。咄嗟にまろんは柱の陰に隠れます。
今まで立っていた辺りの闇を音もなく横切る線が一瞬だけ見えました。

「勘がいいな、あんた」

声がしました。目の前の土の山から。

「隠れてないで出てこい!」
「生憎と俺は剣は得意じゃなくてね」

まろんは通路の後方を伺いました。都が何かきっかけを作ってくれないかと
期待したのですが、それらしい気配は感じられませんでした。
敵の声だけが響いて来ます。

「そろそろ失礼するよ。時間も無さそうだし」
「それは賢明だわ」
「あんた達はゆっくりして行ってくれ」
「ご冗談」
「嫌とは言わせない」

今度は派手に風を切る音がまろんの耳に届きました。何か大きな物が
投げられたのです。それが床に落ちて砕ける音を通路に響かせると同時に
更に大きな破裂音がして辺りが徐々に、やがて勢い良く明るくなって行きます。

「それじゃぁな」

敵の気配が明らかになり、今度こそと身構えて柱の陰を出たまろんは
目の前の光景に釘付けになってしまいます。通路の先を走って行く敵の背中を
赤い光が照らしています。その光は敵の後を追い掛けてどんどん通路の先に
進んでいましたが、同じようにまろんの方に向かって近づいてもいます。
通路には既に天井まで届くほどの炎の海が拡がっていました。

「馬鹿野郎!」

まろんは既に見えなくなっている敵の背中に悪態をつくと、通路の奥へと
駆け戻りました。

「行く手を塞がれちゃったよ!」
「成程、染み付いた地の油に火が点いている訳ですね」
「感心するな!」
「大丈夫です。燃えてるのは油だけですから、消えるのを待てば」
「その前に塔が崩れてしまいますね、きっと」
「そっ!そうでした!どうしましょう!」
「うるさい!何とかしてよ、賢者でしょ!」
「そんな無茶な」
「取りあえず…」

ツグミが通路を指差して言います。

「少し奥へ逃げません?」

炎が目の前まで迫っていました。石に染み込んだ油は熱で蒸発し始めないと
火が着かないと見えて、炎の進みは人が歩く程度の速さで比較的ゆっくりしたもの
でした。炎の灯りに照らされた床を良く見ると、まろん達の立っている辺りも
湿った色をしています。炎は立ち止まらずにやって来る事は確実でした。

「取りあえず逃げよう!」
「そうしましょう!」
「その方がいいですよね」

走りだそうとしたまろんが言います。

「都も、早く!」

しかし返事はありませんでした。

(続く)

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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