神風・愛の劇場スレッド 冬のスペシャル版 『火炎回廊』 第1〜2章(1/20付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 20 Jan 2001 03:30:23 +0900
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佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

これは神風怪盗ジャンヌのアニメに触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、お好きな方のみ以下をどうぞ。



さてさて、寒い中如何お過ごしでしょうか。という訳で(何で? ^^;)
100話突破記念&冬だからスペシャルです。
去年の夏にお送りした「夏のスペシャル版 『魔物狩り』」の続編をどうぞ。
全12章で週1〜2本づつ(全11記事)お送りする予定です。

*前回スペシャルの粗筋
志だけは高い秘宝狩人であるまろん、稚空、大和の三人は、腐れ縁の
賞金稼ぎである都に騙されて魔獣退治を手伝わされた挙げ句に
分け前も無しにおいてきぼりにされる。損は取り返すという誓いを胸に
同じ依頼で仕事を共にした魔術士ツグミを伴って追跡の旅に出発したのだが。

# では、どうぞ。

★神風・愛の劇場 冬のスペシャル版 『火炎回廊』

●第1章・豪華な夕食

王国には経済的独立を保ちながら同盟関係にある衛星国家が
幾つか存在しました。ここはそんな国家の一つ、ロクアト。
都市国家として繁栄を極めていて、王国首都に負けずとも劣らない
賑やかな街です。そんな華やかな街の片隅には表の顔からは想像も出来ない
うらぶれた一画がありました。そんな街角に在る一軒の宿屋。

「うわぁ、汚い部屋…」

あてがわれた部屋に入った途端、剣士・まろんの開口一番の台詞でした。

「良かった。見えなくて」

相部屋となった魔術士・ツグミがぼそりと呟いた事をまろんは
聞き逃しません。

「嘘。その水晶の首飾りの魔術で見えてるんでしょ?」
「都合の悪い物はベールを被せて見ない事にしてますから」
「いんちき」

その時、戸口に戦士・稚空と賢者・大和が顔を覗かせました。

「うわぁ、汚ねぇ部屋」
「本当ですね」

まろんが振り向いて言います。

「部屋代わって」
「我侭女」
「何よ、男なら女の子の幸せの為に苦労するのは当然でしょ」
「誰が女の子なんだよ。ああ、ツグミか」
「私は平気ですよ。野宿よりはましでしょう」
「やだやだやだ、この部屋嫌っ!」

大和が溜息をついてまろんを手招きしました。
いそいそと後についていくまろん。そして男共の部屋を覗きました。

「野宿の方がましかも」

まろんの言葉に、もう一度溜息をつく大和なのでした。



荷物だけは部屋に残して、宿の外にでた四人。
そろそろ陽が傾き始めて居ましたが、街角を行き交う人々はむしろ
増えている様に見えました。もの珍しそうに辺りを見回しながら
まろんが言います。

「流石。大きい街は違うよねぇ」
「恥ずかしいからきょろきょろするなよ」
「うるさいなぁ。いいじゃない別に」
「それじゃ田舎から出てきたみたいだろ」
「どうせ私は田舎者ですよ〜だ」

宿を出てからずっと言いだす機会を伺っていたのでしょう。
二人の会話が途切れた時、意を決した様に大和が言いました。

「あの、荷物置いてきてしまって大丈夫だったでしょうか」

意味が判らないといった風にまろんが応えます。

「何で?」

まろんを無視して稚空が応えました。

「大丈夫さ。盗られる様な物、誰も持って無いだろ?」
「それもそうですね、遺憾ながら…」
「何だ。泥棒の心配してたのか」
「まろんが羨ましいぜ」
「ん?」
「呑気で」

まろんが稚空の向こうずねを蹴飛ばしたので、稚空はしゃがみ込み
黙ってしまいました。大和がツグミに言います。

「そうだ。魔術士さんは何か値打ちのある荷物をお持ちなんじゃ」
「えっ?」

上の空だったのか、ツグミは聞き返します。

「御免なさい。何かしら?」
「荷物ですよ、魔術士さん宿屋に荷物置いてきて平気ですか?」
「ええ。多分」

また辺りを見回していたまろんが言いました。

「ねぇ、あそこで御飯食べよう」

大和が心細そうに言います。

「高そうですけど」
「大丈夫大丈夫」

稚空がやおら起き上がって一言。

「まろんのおごりならいいぞ」
「冗談。稚空のおごり」
「あるか、そんな金」
「私だって無いよ。あれば綺麗な宿に泊まってるって」
「僕らには貧乏という事実が重いですね」

大和の言葉ですっかり押し黙ってしまう三人を尻目に、
ツグミはすたすたと先程まろんが指差した店に向かって歩いて行きます。
それに気付いた三人が後を追いますが、声をかける前にツグミは
店に入ってしまい、慌てて続いた三人も結局中へ。
そしてあれよあれよという間にテーブルに案内されてしまいました。
それも店の奥にある間仕切りされた場所にある、他の物とは一見して
造りが違うと判る高級な石のテーブルの席に。
羊皮紙の品書きを残して案内した店員が去っていくと、
待ってましたとばかりに三人が口を開きました。ただし小声で。

「ねぇねぇ」
「表から見た以上に高そうだぞ」
「逃げた方が良いのではないでしょうか」
「でもこの席から立つと必ず店員さんに見られちゃうよ」
「便所借りるフリで裏口へ出よう」
「ぞろぞろ行ったら変だよぅ」
「タダ食いの汚名よりはましです」
「気にしなくても私がご馳走しますよ」
「え?」「何?」「は?」

三人は暫くツグミが何を言ったのか理解する為に、今聞いた言葉を
反芻していました。やがて。

「嘘っ」
「本当かっ?」
「いいんですか?」

ツグミは微笑んで一言。

「お好きな物をどうぞ」

それを聞いた三人が品書きの料理を端から全部頼んだのは当然の事。
ついでに品書きに無い物をも追加してしまいました。勿論お酒も各種。
出された料理や酒は、これまた高級そうな器に見合ったすばらしい味でした。
たっぷりと堪能した三人。それなりに堪能したツグミ。
そして最後に出てきた精算書も当然のごとく店の高級そうな雰囲気に見合った物。
それを見た三人は引きつった顔をツグミに向けました。すがる様な三人の
視線に気付いているのかいないのか、水晶を通して精算書の金額を読んだツグミの
言葉が三人を凍りつかせます。

「あら。お金が足らないですね」

ひぃ〜っ。三人の悲鳴は声にはなりませんでした。


●第2章・贅沢の代償

黴臭い湿った空気が充満する空間。その奥から力なく零れる声。

「うわぁ、汚い部屋…」

薄暗い石の壁にまろんの声が吸い込まれます。

「部屋じゃねぇ。牢屋だ」

稚空の返事にも力はありませんでした。

「はぁ…」

勿論、大和の溜息にも。

「御免なさいね。意外に高かったから」

ツグミだけはいつもの調子でした。寧ろ面白がっている風でもあります。

「ツグミさんの所為じゃないよ。稚空食べ過ぎ」
「まろんだって、おごりって聞いた途端遠慮も無しに」
「何よ!」
「止めましょう。虚しいです」

大和の言葉に何も反論しないのが、まろんと稚空の同意の証。
やがて遠く通路の奥から鉄の扉がきしむ音が響き、数人の兵士が
鉄格子の前に立ち並びました。その兵士の中に一人だけ、象眼細工の模様の
入った鎧を身に付けた男が居ました。その兵士が言います。

「出たまえ」

牢屋の外に出された四人に夫々二人づつの兵士が付き、四人は随分な
距離を歩かされました。何処をどう歩いたのかも、やがて判らなくなりましたが
階段を何度も上りましたから既に地上よりも高い場所にいる事は確かでした。
そして単なる石壁の通路は絨緞を敷き詰めた廊下になり、ランプによる照明も
数を増していきました。やがて通された部屋は天井までの高さが
普通の部屋の三倍はあろうかという広間で、とても長いテーブルが
四人の数歩先の辺りから奥へと伸びています。
扉を閉じる音にふと気付くと、部屋に四人を残して兵士達は退出していました。
顔を見合わせている四人に部屋のずっと奥から声が掛かります。

「食い逃げなんて情けないですわ、稚空さま」

四人が声のした方に顔を向けると、テーブルの彼方にある椅子から
一人の女性が立ち上がってこちらに歩いてきます。
一目で高貴な身分であると判る服装でしたが、それが嫌味に見えない事が
生まれついての気品という事なのでしょう。
やがて四人の目の前にやってきた女性に稚空がぶっきらぼうに応えます。

「俺は食い逃げなんかしてないぞ」
「でも持ち合わせが無いのに沢山召し上がったのでしょう?」
「そりゃ、成り行きって奴だ」
「私を訪ねてくだされば幾らでもご馳走しますのに」
「結構だ」
「あんなボロ宿よりも上等なお部屋もご用意しますわ」
「放っておいてくれ」

話を続ける二人をよそに、まろん達は少し離れた所に寄り集まって
声をひそめていました。ツグミが興味深げに尋ねます。

「どなたです?」
「弥白姫。稚空の婚約者だよ」
「そういえば稚空さんはこの国の方でしたね」
「お姫様の婚約者って事は戦士さんも本当はお金持ちなのかしら?」
「そうらしいけど、身体一つで家出したんだって」
「どうりで貧乏な訳ですね。お互い様ですが」
「ふ〜ん」

稚空との話が途切れたのか、弥白は後ろの三人に言いました。

「お元気そうですわね。稚空さまのお供の方々」
「お供は稚空の方よっ!」
「僕はどちらにしてもお供ですね」

まろんは大和の脳天に一発食らわせました。
弥白はそんな様子を見ていないかの様に勝手に続けます。

「そちらの方は存じませんわ。それにあなたは…」
「初めまして。ツグミと申します。故あって皆さんと同行している者です」
「あらそう。酔狂ですこと」

弥白は言いたいことを言い放つと再び稚空に向き合いました。

「ずっと此に居て下さるでしょう?」
「断る」
「でも、城の外に出ますと、また捕まりますわ。"食い逃げ"で」
「夜更けを待って街を出るさ」
「そう仰有るだろうと思っていました」

残念がらずにむしろ勝ち誇った様に聞こえたので、稚空だけでなく
まろんも弥白の言葉に注意を引かれました。

「お店の支払いは私が済ませましたわ。ご安心を」
「何っ!」
「え〜っ?」
「どうもご馳走様です」
「初対面の方にそういう訳には…」

まろん達に一瞥をくれて弥白は言いました。

「稚空さまの為ですわ。あなた方は関係ありません」

稚空がきっぱりと応えます。

「弥白に借りは作らない。必ず返すからな」
「そんな事、気になさらないで。この城も含めていずれは稚空さまの物」
「その話は断ったはずだ」
「そんな事は承知してませんわよ」
「もういい。牢屋に帰る」

これには、まろんが反論。

「嫌!」
「何?まろんは弥白におごられてもいいってのか?」
「いいよ〜だ。稚空を質種にしたと思えば全然、気にならないし」
「お前なぁ…」

弥白が言います。

「話がまとまった様ですね。それでは皆さんご機嫌よう」

弥白の一言が合図になり部屋の扉が開きます。まろん、大和、そしてツグミが
ぞろぞろと外へ出ます。稚空が最後に出ようとしましたが、
稚空だけは衛兵に留められて部屋に戻されてしまいました。

「な、出せこら」
「聞いていらしたでしょう?稚空さまは私に売られたのですわ」
「何言ってんだ、ちくしょう!出せ〜」

まろん達の後ろで扉が閉じると稚空の声は全く聞こえなくなりました。
その後、別の兵士が丁重に城門まで案内してくれ、無事に解放された三人。
夜の賑わいがそろそろ醒めようかという街を歩きながら大和が言いました。

「いいんですか、あのままで」
「まさか」
「ではお金が必要ですね」
「その通り。ねぇ、賢者様、何か良いネタ無い?」
「判りました。情報を集めて来ます」

大和はそう言うと二人と別れて何処かへと消えていきました。

「戦士さんを取り戻すんですね」
「勿論よ。大切だもの」
「どういうふうに大切なんですか?」
「大切な…」
「?」
「荷物持ち」
「そう…」

笑いながら先を歩くまろんの背中をツグミはじっと見詰めていました。

(続く)

では、また。

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