神風・愛の劇場スレッド 第98話『企て』(12/23付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 23 Dec 2000 18:40:33 +0900
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佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

これは、神風怪盗ジャンヌ(アニメ版)を元にした妄想連載スレッドです。
趣味が合う方のみ、以下をどうぞ。

# 一部の方々にはバレバレな理由に依り、佐々木担当エピソードを
# 続けてお送りします。

## サブジェクトに年号を入れましょうか?(笑)

# いきなり本編。


★神風・愛の劇場 第98話 『企て』

●枇杷町

朝食を済ませて出かける仕度を始めていた弥白の手を、小さな電子音が
止めさせました。彼女の許に電子メールが届いた事を知らせるパソコンの
囁き。画面を覗き込んだ弥白は、それが稚空から昨日頼まれた調べ物、
首輪を預けた山茶花グループの企業の一つに属する研究施設から発信された
メールである事を確認します。
随分と早い返事だと思いながらも内容を早速読み始めました。
報告書と題されたその文章の中身は、検査結果の概略でした。
そして預かっていた品と更に詳しい報告をファイルに綴じた物を発送したので、
今日の午後には届くはずであると記されています。
その概略部分を読んで、弥白は考え込んでしまいました。

「何と言って、お知らせしたら良いかしら」

暫くしてふと気付くと、家を出なければならない時間になっていました。
弥白は慌てて着替えを済ませると部屋を出ていったのでした。



午後。弥白は悩んでいました。今から桃栗学園に車で乗り付ければ下校する
稚空を捕まえられるはずです。それに顔を合わせたくない二人は部活の練習で
稚空とは一緒には帰らない確信がありました。何故なら大会が近いのだから。
しかし、練習が忙しい事は自分も同じ。放課後、真っ直に向かわなければ
稚空には会えないでしょう。ですが練習をサボる事は自分に対して許せそうに
ありません。そんな事を考えているうちに、素敵な案を思い付きました。
気が晴れた弥白は微笑みを浮かべながら、勇んで更衣室へと向かいました。



弥白の家の近くまで来ていた稚空。見張りを頼んでいおいたアクセスに
ハンバーガーを買ってきたのです。ですが、どうもアクセスの居る気配が
感じられません。暫く考えた末に、弥白が新体操の練習で学校に居残っている
のだと気付きました。当然、アクセスもこの辺に居るはずはありません。
出直すか、待っているか。迷っていると、いつのまにか傍に人の気配がします。
振り向くと山茶花家の執事が温厚そうな笑顔を湛えて立っていました。

「いらっしゃいませ、稚空様」
「あ、ああ、どうも」
「丁度外から戻ってまいりましたところで、お姿をお見かけしましたので」
「ちょっと驚いたよ」
「申し訳ございません」
「別にいいんだ」
「折角御越し頂きましたが、生憎と弥白お嬢様はまだ」
「そう思ったんで出直すつもりだったんだ」
「宜しければ、中へお入り下さい。応接間の方でお待ちになられては?」
「いや…」
「最近、稚空様がよくお見えなので、お嬢様もご機嫌がよろしく」
「…」

今更、弥白に会いに来た訳では無いとは言えず、返事の言葉を探している内に
何となく言われるままに屋敷の中へと案内されてしまう稚空。
玄関から程近い応接間のソファに腰掛けて、結局は弥白の帰宅を待つ事に
なってしまいました。応接間の雰囲気にはそぐわない香ばしいハンバーガーの
匂いを漂わせながら。



すっかり日が暮れた頃になって、玄関の扉が開いた音が微かに聞こえました。
それに続く少しだけ慌ただしい足音が段々と近づいて来ると、今度は応接間の
扉が開きました。

「稚空さん!」
「よ、邪魔してる」
「いらしてると知っていれば、もっと早くに帰りましたのに」
「ちょっと近くに来ただけだったんだ」

ある意味では本当の事でしたが、弥白はそれを稚空の言い訳の様な物と
受け止めて、くすっ、と笑いました。

「でも丁度良かった」
「ん?」
「実はご連絡を差し上げるつもりでしたの」
「もしかして首輪の事、何か判ったのか」
「ええ。まぁ」
「どうだった?」
「あの…」
「何だ?」
「一つお願いを聞いて頂けますか?」
「いいぜ」
「お夕食をご一緒させて下さい」

ちょっとだけ考えた稚空。目の前から紙袋を拾い上げると答えました。

「コレの事か」

弥白は両手を広げて、やれやれとでも言いたげな顔をしました。それから。

「山茶花家の夕食にご招待させて下さいという意味ですわ」

やはり誤魔化せなかったかと稚空は思っていました。
そうして何とか用を済ませて帰る口実を探していたのですが。

「やはりご迷惑ですか…」

弥白が寂しそうな顔をしたのを見た稚空。最近彼女を便利に利用し過ぎていた
のかも知れないと思い始めていました。しかし、弥白の気持ちを知っている
稚空には、彼女の誘いを受ける事は不誠実な事に思われてなりませんでした。
ですが、稚空の返事を待たずに弥白は再び笑顔を取り戻して言いました。

「ご一緒してくださらないなら、首輪の件の報告は棄ててしまいますわよ」
「うっ…」

弥白の無邪気な笑顔に、稚空は初めからそういう計画だったのだと気付きます。
そしてこの計画には稚空の逃げ道は用意されていない事もまたはっきりして
いました。

「たまにはよろしいでしょう?」
「…判った」

こうして稚空は弥白の豪華な夕食に付き合わされる事になったのでした。



食後、弥白は稚空を自室に招いてお茶を出していました。
稚空は敢えて自分から本題を切り出す事はしません。
言わなくても弥白がこれ以上何かを要求することは無いと判っていましたから。
そして弥白もまた、稚空の信頼を裏切ることはありませんでした。
向かいに腰掛けた弥白は大きめの茶封筒を差し出しました。
少し盛り上がっている部分が中身を容易に想像させます。
稚空が思った通り、覗き込んだ中にはビニール袋に入った首輪と、紙の表紙の
ファイルが1部入っていました。

「詳しくは目を通して頂くとして、結論だけ」
「ああ」

そう答えながらも、稚空はファイルに目を通していました。

「判らなかったそうです」
「そうか…」
「首輪の方から得られたサンプルが少なくて比較出来なかったとか」
「ほんの少しのサンプルからでも判るのかと思っていたが」
「確かに理論上はそうですわね。でも、比較する為には在る程度の量の
 遺伝子が必要なのですわ。ですから普通はサンプルを先ず培養して、
 全体の嵩を増やしてから調べます」
「それが出来なかったのか?」
「そう聞いています。ちょっと…」
「ん?」
「いいえ。何でも」
「何だよ、何か気付いた事があるなら教えてくれ」
「手前味噌ですけれど、技術力は確かな研究室だったのですが。
 何だか素人の様な失敗の理由に思えて」
「そうなのか?」
「ファイルの…」

弥白はテーブル越しに身を乗り出し、逆さに見たままでページをめくります。
そしてあるページに書いてあった数字を指し示して言いました。

「ここですわ。この数字は培養した後の遺伝子情報の、簡単に言えば総数
 の様な物ですが。これは数が多すぎます。犬にしろ、人間にしろ」
「それが何を意味するんだ?」
「つまり培養している間に、他の遺伝情報…例えば雑菌とかが紛れ込んだか」
「専門家に頼んだんだろう?」
「ええ」
「じゃぁ違うんじゃないか?」
「後は、サンプルの遺伝子が元々不安定で培養の際に壊れてしまったのかも」
「ふ〜ん……」
「ごめんなさい…」

稚空は顔を上げました。

「ん?」
「お役に立てなくて」
「弥白の所為じゃ無いだろ。気にするな」
「でも」
「感謝してる。ありがとな」
「いいえ」

弥白はちょっと小首を傾げて微笑みました。
それからゆっくりとお茶を飲んでから稚空は帰って行きました。
弥白は車で送らせると言ったのですが、稚空は考え事をしながら帰るからと
言って、歩いて屋敷を出ていきました。
稚空の姿がすっかり見えなくなるまで見送っていた弥白。
部屋に戻ると寝室へ入りベッドに身を投げ出しました。
稚空と二人っきりでの夕食の事を思い出しています。ですが、あまり
嬉しくありませんでした。何故なのかも自分では良く判っています。

「稚空さん、私のこと嫌いになったでしょうね…」

わざと口に出してみると、楽になるどころか余計に苦しくなるのでした。

●桃栗町近傍

夜道を歩きながら、稚空は前後に人気の無い事を確認して話し始めます。

「悪かったな」

返事はありません。

「怒るなよ、仕方無かったんだ」
「稚空だけ旨い物食いやがって」
「これ、食うか?」
「冷めたハンバーガーなんて食えるかよ」
「じゃ、帰ったら電子レンジで温めるからさ」
「…まぁ、許してやるか」

途中で何か買っていってデザートぐらい豪華にしてやろうと、
稚空は思うのでした。

●オルレアン

深夜。ミストは、散歩から戻って眠っているアキコを眺めていました。
生きていないのですから、掛けている毛布が上下する事はありません。
そもそも毛布自体、掛けているつもりになっているだけの物なのですから。
ただ静止した一枚の写真を見ている様な物でしたが、壁際に腰を下ろして
片膝を立てた格好のまま、ミストは飽かずに眺めています。
そのベッドの下には黒い影が丸くなっていました。
そこへ一人の訪問者の気配。ミストは舌打ちを一つして立ち上がると
リビングへと向かいました。ミストがリビングへ足を踏み入れたのと、ほぼ
同時に人影が現れます。

「今宵は何の用だ」
「おとぼけを」
「何を言っているのか判らんが」
「では言いましょう。私が用意した首輪の事ですが」
「やつら、まだ調べている様だな」
「やはり」
「ん?」
「邪魔したのは、あなたですね」
「何の事だ?」

ノインは溜息を一つ漏らすと続けました。

「本来なら彼等の技術で首輪の正当性が確認されるはずでした」
「失敗したのだろう?」
「何かしましたね?」
「まさか」
「では何故検査が失敗したのです」
「私の知った事か」
「しかし」
「くどいな。頼まれもしない事をわざわざやる程、私は暇では無い」
「あの首輪は完璧でした」
「完璧過ぎて、バレそうになったではないか」
「それは本質的では無い部分に人間がこだわるからです」
「そうだな」

ミストは鼻で嗤っていましたが、ノインは無視しました。

「私の知る限りでは、今回の検査は完璧なサンプル程成功するはずの物。
 それが失敗したのは何者かの干渉があったとしか…」

再び嗤うミスト。今度は声を上げて。

「ノインよ。お前は何を作ったんだ?」
「は?」
「お前が作り出したのは"命"か?、それとも"物"か?」
「それは…」
「確かに物としては完璧だったのだろうさ。だが、命は無かった。
 やつらのやったのは命の痕を調べる行為だろう?
 元から命が無いのでは調べられないだろうな」
「…」
「どうした?」
「失敗すると判っていたのですか?」
「いや」
「判っていた様な気がして仕方ありませんが」
「だとしたら?」
「…」
「調査の邪魔をしろ、と?」
「そういう選択もあったでしょう」
「生憎、どういう結果が出ると成功なのか知らんのでな」
「前の様に報告の段階で誤魔化す事も出来たはず」
「馬鹿か」
「は?」
「お嬢様には小さいのが張り付いて居た。あれでは近付けん」
「殺してしまえば良いでしょう。あなたなら簡単なはず」
「お前、根本的な事を忘れているぞ」
「何でしょう?」
「首輪の件に我らが関わっている事自体が秘密なのだろうが」
「…」
「あのチビを殺したら、それこそ陰謀がありますと教える様なものだ」
「…確かに」
「前にお前自身が言ったな、首輪を消す訳にもいかないと」
「はい」
「ならば放っておくしか無いだろう」
「…」
「何も手出ししなければ、永遠に灰色のままさ。
 それでアレの用は済む。違うか?」

ノインはそれ以上は何も言わず、やがて姿が闇に溶けていきました。
気配が完全に去ったのを認めると、ミストは再び寝室へと戻ります。
話し声が聞こえたのか、アキコは半身を起こしてミストを見詰めていました。

「起こしてしまったか」

ベッドに腰を下ろすミスト。アキコの髪を撫でて言いました。

「もう済んだから、寝なさい」

アキコを再び横たえると、ミストもその横に寝ころがりました。
横向きになり肱で頭を支えて見詰めているミストを意識してか、
アキコは暫くは閉じた目を開いては隣りに視線を投げ掛けていました。
ですがやがてそんな事も無くなり、再び動かない風景が訪れるのでした。

(第98話・完)

# 年内の佐々木作になる妄想通常シリーズはこれが最後になります。
# 次回(多分第100話)は21世紀に入ってから。(笑)
# 恐らく1月12日ぐらいの予定です。

## 皆様、風邪などひかれません様に。

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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