From: hidero@po.iijnet.or.jp
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 13 Nov 2000 18:37:13 +0900
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佐々木@横浜市在住です。
<8tugu1$o6u@infonex.infonex.co.jp>の記事において
hidero@po.iijnet.or.jpは書いてます。
既に(多分)お馴染みの「神風怪盗ジャンヌ」妄想スレッドでございます。
趣味が合いそうな方のみ以下をどうぞ。
# とある事情により今回も佐々木担当でお送りします。^^;
★神風・愛の劇場 第89話 『無彩色』
●桃栗町郊外
留守番のお礼にと出された昼食を食べている最中にも、委員長は
ツグミの父の書斎で見た数々の本についての驚きを話していました。
「名古屋君に話は聞いていましたけれど、とにかく凄いです」
何度目かの"凄いです"を聞いた後で、まろんが言いました。
「はいはい。判ったから冷めない内に食べちゃいなよ」
「あ、そうですね。すいません」
歩いてきた後でもありましたし、ツグミも朝とは違って皆と同じ量を
食べるつもりでした。そして皿の上のパスタは間もなく終わる所。
まろんはパスタは食べ終えていて、サラザに混ざっているピーマンを
どけている真っ最中。そしてやっと真面目に食べ始めた委員長でした。
「あ、これ美味しいです」
すかさず、まろんの一言。
「今頃言うな~」
「御免なさい…」
「折角だから早目に食べて。日下部さんの得意技の一つだそうよ」
「そうなんですか」
何故か食べる速度が上がる委員長。あっと言う間にツグミに追い付いて
しまいました。
「美味しかったです。ソースが良く絡んで」
それを聞いたツグミはくすくす笑い始めました。
「あの~、何か変なこと言ったでしょうか」
「違うの。別に変じゃなくて。私も美味しいと思うけど」
そこまで言って、また笑ってしまうツグミ。まろんが反論しました。
「だからこれは失敗じゃなくてアレンジなの」
「これ、失敗だったんですか?」
まろんは委員長の素朴な疑問に渋々答える事になります。
「ちょっと予定よりクリームソースが薄くなっちゃっただけだって」
「何だ、全然平気ですよ。大丈夫です」
「そうね。溝付きの方のペンネで正解だったわ」
「もうっ!」
結局、委員長には何が可笑しくてツグミが笑っていたのかは判りませんでした。
食後、キッチンに食器を運びながら、ツグミがまろんに囁きます。
「グラタンの予定だったのは内証にしてあげる」
「もう勘弁して」
「夕食の時にもう一回挑戦する?」
「うん!」
*
食事の片付けも済んで、実のところ用が無くなっていた委員長ですが、
何か言いたい事がありそうな雰囲気にまろんは気付いていました。
助け船を出して話すきっかけを作ろうかと思っていた矢先にツグミが言います。
「水無月さん、午後の予定は?」
「ええと、別に何も」
「ならゆっくりしていって。気が済むまで」
「いいんですか?」
「ええ。勿論」
「有難うございます!」
そういうと委員長は一人ですたすたとリビングを出ていきました。
姿が見えなくなってから、まろんが呟く様に言います。
「ちょっと意外かも」
「何が?」
「委員長があんなになるなんて」
「他のことには目もくれずという事?」
「う~ん、まぁ、そうかな」
「口惜しい?」
「え?何で?」
「何でもないですよ」
「ずる~い、だって…」
続きは声にならずに消えてしまいました。
しばらく息を止めていたので、ツグミが身体を離した時に
まろんは深い溜息をつきます。
「やっぱり、ずるい」
「そう?」
「それに今は二人っきりじゃ無いよ」
「大丈夫。呼んでも出てこないから、きっと」
「それなら」
今度はまろんからツグミを抱きしめたのでした。
*
午前中出歩いていた為に後回しにしていた洗濯が済んだのは午後2時過ぎ。
今から外に乾しても日暮れまでには乾きそうにありません。
そこで風呂場や洗面所に洗濯物を吊して行きます。
半分はここ暫く居候しているまろんの衣類。もっとも毎日洗濯して
いますから大した量ではなく、すぐに仕事は終えました。
その吊り下げられ並んでいる洗濯物を見ていたまろんが言います。
「ねぇ」
「はい?」
「ふと思ったんだけど」
「何かしら」
「ツグミさんの服って暗い色ばっかり」
実を言うと、ツグミの服装が黒ばかりなのに気付いたのは今という
訳ではありませんでした。ただ何となく聞きそびれていた事を
思い出したというだけの事です。それと知ってか知らずか
ツグミは小さく頷くと、まろんを寝室へと連れて行きました。
そして作り付けの衣装箪笥を全部開いて見せるツグミ。
毎晩厄介になっている部屋ではありましたが、箪笥を全部覗いてみた訳では
ありませんでしたから、まろんは少なからず驚きました。
「うわぁ。見事に揃ってる」
入っている服は軒並み黒、纔かに濃紺のものが混じっているという感じです。
「何か落ち着いた趣味だよね、黒って」
「有難う」
「ここまで徹底しているひとって珍しいけどね」
ツグミはくすっと微かに笑って、それから言いました。
「例えばブティックに行って "赤いワンピース" と
言って出してもらったとして」
「ええ」
「それは何色かしら」
「赤…よね」
「どんな赤?」
「えっと、濃いとか薄いとか、そういう事?」
「そう。それとオレンジに近いとかワインレッド寄りとか」
「確かに幅があるね」
「私にはそれが選べないの」
一瞬、まろんはまずい話題だったかと思いツグミの様子を
伺わざるを得ませんでした。でも、当のツグミは何時も通りです。
ツグミは続けました。
「口で説明するだけじゃ、きっと私の思った通りの色にはならない」
「うん…難しいかも」
「でもね、説明しなくても、誰が見ても同じに見える色が2つあるの」
「それが黒?」
「そう。それと白ね」
「成程」
「でも白は駄目。汚れても気付けないから、私には」
やっぱり、この話題は良くなかったとまろんは思いました。
選んでいるのではなくて、選ばざるを得ない事。
今までもずっと目の前にありながら、つい忘れてしまうツグミの
不自由さがこんなにはっきりと示されていた事に気付いていなかった。
そんな自分の想像力の無さが嫌になります。
黙ってしまったまろんにツグミは言いました。
「あ、もしかして変な事を話題にしたとか思っている?」
「えっ?、う~ん、ちょっと」
「前に約束したでしょ」
「約束」
「変な遠慮は無しよ。思った事を話して」
「そうでした」
またも気を使われてしまうのは私の方。ツグミの傍にいると
まろんは子供になったような錯覚を覚えることがよくありました。
今は彼女の為に此に居るはずなのに。
「話を戻すとね。決して消極的な理由だけじゃないのよ」
「黒い色?」
「ええ。日下部さんもさっき言ってくれたけど、
ちょっと大人っぽく見えるからというのも理由のひとつ」
「ツグミさんは充分大人っぽいよ」
「それはあんまり嬉しくないなぁ。老けてるって事?」
「考え過ぎ~」
それから暫く、二人はツグミの服をあれこれ着てみては
取り留めの無い話で盛り上がっていたのでした。
*
まろんとツグミの何という事もない時間を止めたのは寝室の扉を叩く音でした。
「はい?」
ツグミの返事に扉の向こうから声がします。
「あのう…」
「構わないから入って」
開いた扉のところに立っている委員長。
「ちょっとお手洗いを拝借したいと思ったのですが」
「え?場所判りますよね?」
「はい」
「別にいちいち断わらなくていいわよ」
「それが…」
今度はまろんが聞きました。
「何?」
「ちょっと入りづらい情況が…」
ほんの少し考えてから、まろんとツグミは顔を見合わせました。
「あ」「あぁ」
洗面所から洗濯物を下げたままの物干しを運び出すと、廊下に居た
委員長は壁の方に顔を向けていました。
それを見たまろんは思わず吹き出してしまい、物干しを運び込んだ
キッチンでその事をツグミにも教えました。
「純情ね、水無月さん」
「でもこの下着は青少年には強力かも」
「そう?重ね着の都合があるから、下に明るい色って訳にもいかないし」
「それはそうかも知れないけど」
ツグミは意味ありげな笑顔を見せてから言います。
「そもそも水無月さん、これをどっちの下着って思ったかしら?」
「それは…」
ツグミがつまんで見せた黒い下着を見て、まろんは委員長に
聞いてみる訳にもいかないなと考えていました。
(第89話・完)
# 個人的疑問を解消してみました。(笑)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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