神風・愛の劇場スレッド 第84話 『冬の蛍』(後編)(10/20付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 20 Oct 2000 12:44:32 +0900
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佐々木@横浜市在住です。

この記事は神風怪盗ジャンヌの妄想第84話の後半です。
興味をもって頂けた方は前半<8soetd$pam@infonex.infonex.co.jp>から
先に読んでくださいませ。


★神風・愛の劇場 第84話 『冬の蛍』(後編)

●桃栗町郊外

特にこれと言った収穫も無く、寄り道を切り上げると四人はツグミの
家に到着しました。家の少し手前まで来た所で扉が開きましたから
まろんと都はツグミが少しは落ち着いているのだと知り、安堵します。

「あら、皆さんいらっしゃい」
「ただいまぁ」「また来たわよ」「どうも」「よっ」
「それに沢山の荷物」
「丁度いいから助けてもらっちゃった」
「俺達は運び屋かよ」
「その通り」
「それはあまりに可哀想」

そんな受け答えを聞いて、やっと稚空と委員長にもツグミの今の
様子が伝わったのでした。
部屋に案内された三人に、勝手知ったる何とやらでお茶を出すまろん。
テーブルに座った全員のカップに紅茶が注がれるのを待ってツグミが
言いました。

「もしかして皆さんイカロスを捜すために集まっていたの?」
「それもあるけど、まぁ散歩みたいなもんよ」

気を使わせない様にしたつもりでも、やはりツグミに
そう思わせない事は出来ず仕舞いでした。

「本当に有難う。でも掛かり切りにならないでね」

稚空がぼぞって言いました。

「掛かり切りになって何が悪い?」
「え?」

ツグミだけでなく皆が稚空の顔を見詰めました。

「特別な事じゃない。前にそう言ってくれただろ」

ゆっくり頷いてツグミは応えました。

「そうね。でもやっぱり言わせて。皆さん有難うって」

それにはやはり都が意識して軽く応じます。

「礼なら成果があったらたっぷり聞かせてもらうわよ」

委員長も応えました。

「今のところ手掛り無しですから」
「いいんですよ。まだお話を聞いてもらってから三日ですし」
「変な話はすぐ集まるんですけどね」
「変な話?」
「昨夜電話でしたでしょ。あんなのばっか」
「そうですか…」

慌てて委員長が付け足します。

「まぁ、ネットの情報は玉石混淆なんで、そのうち出ますよ」
「お化け以外が出るといいよね」

まろんは言ってしまってから、イカロスの死と結び付きそうな情報は
内証が良かったかと思ったのですが、ツグミは極く普通の
世間話としての興味しか持たなかった様子でした。

「お化けって何?」
「あのですね」

今度は委員長が深夜の目撃談を話しました。

「ふ〜ん」

どう感じたのかはっきりしないツグミの反応でしたが、
都は再度きっぱり言い切りました。

「お化けなんてものは居ないのよ!」
「あら、そうなのかしら」

そう言ったのはツグミでした。

「居ると思っている訳?」
「さぁ。ただ」
「何?」
「私が誰かと擦れ違った時に、仮にその誰かに目に見える姿が
 無くても判らないのよね。過去に、もしかしたらそういう事が
 あったかも知れないかなって」
「そんな事は無いわよ、絶対に」
「じゃ、そうしとく」

委員長がくちばしを挾みます。

「やはり一応確かめた方が良いのでは」
「何を確かめるのよ?」
「いや、だから夜の散歩をしてる女性が実在するのかどうかを」
「俺はそのつもりだけどな」
「じゃ僕も行きます」

この場でそういう話が出ては返事は一つしかありません。

「私も行くわよ」

そう言いながら都は委員長を睨んでいました。



イカロスの件とは別に、荷物運びの礼という事で夕飯をご馳走に
なった後、都、稚空と委員長はツグミの家を辞しました。
しかし、ツグミの家を出てすぐに稚空は一つ用を忘れていたと言って
まだ玄関先に居たツグミとまろんの許へと戻っていきます。

「どうしたの稚空?」
「これ、渡すの忘れていた」

そう言って稚空がツグミに渡したのは厚みのある大きな茶封筒。

「何かしら」
「後で開けてみてくれ。何かはすぐ判るさ。それとまろん」
「判ってる。私もやっぱり行くよ」
「いや、まろんは」
「都や委員長がいるとマズイでしょ?」
「そうだけど、それとまろんとは関係ないだろ」
「考えがあるの。ツグミさん、ちょっとだけ留守にしていい?」

ツグミが言いました。

「私なら平気よ」

家の中に戻って手提げを一つ持って来たまろん。

「すぐに戻るから。寝ててもいいよ」
「起きているわ。すぐなんでしょ」
「うん。いって来ます」

そうして四人は夜の町へと出かけて行きました。

●桃栗町某所

懐中電灯を用意する為に一旦それぞれの家に戻ったので
実際に目的の場所に辿り着いた時には商店街は静まりかえり、
その裏通りにも人影はまったく有りませんでした。

「うわっ、夜だと雰囲気違うね」

そう言ったのはまろん。稚空が続けます。

「行くぞまろん。都と委員長は外で見ていてくれ」

委員長がすかさず反論します。

「僕も行きますよ。中、ちょっと興味ありますし」

稚空は都に向けて意味ありげな視線を向けました。
それまで冴えない表情だった都は、意を察した途端に
やれやれといった顔をしましたが、委員長を押し留めます。

「あんたは私と外で待つのよ。この間に散歩に女が通ったらマズいでしょ」
「そうですけど…」
「じゃ頼んだぜ、都、委員長」
「じゃぁねぇ〜」

まろんと稚空は廃墟のホテルを囲んでいる鉄の塀の隙間を見付けると
中へと入っていきました。そして小声で話しかける稚空。

「これじゃ俺が下心剥き出し野郎みたいじゃないか」
「いいじゃん、その通りなんだし」
「何時も通りで違和感無かったぞ」

途中から合流したアクセスもまろんと同じ意見なのでした。

「お前らなぁ…」
「うまいこと私達だけになったでしょ」
「まぁそうだが…」

不満顔の稚空でしたが、この先に都と委員長が一緒では困る
事態が待っている事は間違いなさそうでした。
何故なら、まろんの手提げから既に小さな音が漏れていましたから。
そして建物に近づくにつれて音は段々けたたましさを増します。

「やっぱり、か」
「でも、何でこんな所に」
「さぁ?」

二人は割れているガラスに注意しながら、昔は小綺麗な
ロビーであったであろう広間を抜けていきました。

「何処だ?」

プティクレアを手にしているまろんに稚空が聞きました。

「あっち」

まろんの答です。それに付け加える様にアクセスが。

「下の方…かな」
「下?」
「あの下みたい」

まろんが指し示した先には鉄の扉がありました。
稚空がそれを開くとそこは非常階段でした。
そして確かに下に降りていく事が出来る様子です。
途中、扉の無い踊り場を何度か過ぎ、もっとも下と思われる
同じような鉄の扉の前に辿り着きました。
振り向いた稚空に黙って頷くまろん。稚空が意を決して扉を開きます。
中はコンクリートの角張った柱が数メートルおきに並んだ、天井の高い
がらんとした空間でした。床も打ち放しのコンクリートですが
白い線が長方形の升目を描いています。地下の駐車場の名残でした。

「何にも無いね」
「でも此だろ?」
「反応はそうなんだけど…」
「そこら中から気配がするぜ」

まろんはプティクレアを色々な方向に向けましたが、
どの方向に向けても同じ様に反応してしまうのでした。



特にする事も無く、ただぼんやりと立っている都と委員長。
廃墟を囲んでいる塀に寄り掛かる様にして向き合い、取り留めの無い
話をして時間を潰していました。と、突然言葉を失った都。
不審に思った委員長は都の視線が自分の肩越しにずっと後を
見ている事に気付きました。しかし、振り向いた先には何も無かったのです。



辺りに注意を払いつつ奥へと進むまろんと稚空、アクセス。
もっとも奥まった辺りまで辿り着きましたが、やはり何もありません。
三人が顔を見合わせていると突然プティクレアが一際大きな音を発しました。
そして後ろから声が。

「わざわざホテルへお楽しみに来たのか?」

嘲るような内容よりも不意に掛けられた言葉に対する驚きが上回り
三人は声の主を見詰めながらも瞬間声を失っていました。

「お邪魔だったか」

そこまで言わせて初めて何とか言い返す事が出来ました。

「ミストなのね!」

まろんの言葉にわざとらしく首を傾げるミスト。

「あぁ?、この姿で会うのは初めてか。
 そっちの男どもはすぐに判った様子だがなぁ」
「えっ?」

まろんは稚空とアクセスの顔を交互に見詰めましたが、二人は
何も言いませんでした。ミストはくすくすと嗤っています。

「どうでもいいけど何の用?」
「別に用など無いさ。ここで会ったのは偶然だ」
「嘘よっ、此で何かやってるでしょ!」
「知らん」
「それじゃどうしてあなたが現れる前から悪魔の気配がするのよ」
「そいつらに聞け」

ミストが顎をしゃくった先には、いつのまにか天井に届きそうな程の背丈の
悪魔が実体化してじりじりと三人に近づいていました。

「げっ」

アクセスの声に振り向くと、反対側にも一体の悪魔。
見回すとそこここの柱から床から数体の悪魔が姿を現しかけています。
そして次々と三人に襲いかかってくるのでした。

「チェックメイトだ、シンドバッド!」
「お、おうっ!」
「私も」
「まろんは黙って見てろ!」
「…」

稚空とアクセスがまろんを挾む様にして陣取り、悪魔を次々に
迎え撃ったので確かにまろんの出る幕はありませんでした。
襲い来る悪魔達の向こうに見え隠れするミストを、まろんは
隙を見せない為にもと思い、目を離さずに見詰め続けました。
そしてふと気付いたのです。ミストの影にもう一つの人影が隠れている事に。
ミストの肩越しに寄り添う様に見えているのですが、俯いているらしく
顔は良く判りませんでした。ただ何となく知っている様な気がしました。
そんな事を思った矢先、何体かの悪魔がミストの背後にもぬるりと
現れました。当然、こちらに向かってくると思い身構えるまろん。
しかしそれらの悪魔はミストに向けて、あるいはその背後の人影に向けて
爪を伸ばそうとしたのです。ですがそれは一瞬にして全て幻となりました。
まろんが瞬きをする間に悪魔は消えてしまっていたのです。
ふと他の多くの悪魔の事を思い出したまろんは稚空とアクセスの
様子を確かめる為に左右へと顔を振り向けました。
稚空もアクセスも丁度最後の悪魔を倒した所でしたので、まろんは
再び正面を見据えましたが、ミストもまた既に姿を決していました。

「ねぇ、稚空」
「な、何だよ…」
「何びくびくしてんの?」
「別に俺は」
「それよりさ、今の見た?」
「何を?」
「ミストの後ろに誰か居た様な気が」
「え?」
「アクセスは見なかった?」
「それどころじゃなかったからさぁ」
「う〜ん」

まろんは悪魔が消滅する直前に、その後ろの人影を庇うように
後ろに回されたミストの手の動きの事を思い出していました。



まろんと稚空が外に出てみると、何故か委員長が都の前で
大きな仕草で何かを必死に訴えているところでした。
まろんが近づいていって声をかけます。

「やっほ〜、都〜、戻ったよ」
「あ、日下部さん、良かった」
「どうしたの?」
「東大寺さん、固まってます…」
「え?」

ひと呼吸遅れて来た稚空も様子がおかしい都に気付きました。

「おい、どうしたんだ都」

よくよく注意して見ると都は何かを呟いているのでした。
まろんと稚空が耳をそばだてて聞いてみると。

「見てない見てない見てない見てない見てない……」

延々と同じことを繰り返しているだけでした。

「委員長、何があったの」
「それがですね、突然動かなくなってずっとこんな調子なんですが」

稚空が都の両肩を掴んで少し強く揺すりました。
すると都は稚空の顔を見て、それから気を失ってしまいました。

●桃栗町郊外

都を家に送り届け、落ち着かせてから話を聞いたりしていた為、
まろんがツグミの家に戻ったのは大分夜が更けてからでした。
遅くなった理由をまろんはツグミに話しました。

「それで結局見ちゃったのは東大寺さんだけなの?」
「うん。委員長は見なかったって」
「それって例の悪魔とかってのと違うのかしら」
「普通の人には見えないはずなんだけどなぁ」
「じゃぁ本物のお化け?幽霊?」
「人影の様にも見えたらしいけど、すぐに塀をすり抜けたから
 あんまり長くはそこに居なかったらしいし」
「ふ〜ん」
「ツグミさん、怖くない方?」
「別に何とも」
「私はちょっと怖いな」
「どういう所が?」
「だって勝手に家の中に入ってきたりするらしいよ」
「悪魔だってそうじゃないの?」
「それは…そうだね。なんで幽霊は怖いんだろう」
「さぁ?」

まろんはふと別なことを思い出しました。

「そうそう。稚空の置いていった物って何?」
「あれはね」

ツグミは椅子に座ったままで手を伸ばして引きだしを開くと
それを手に取ってまろんに差し出しました。
本の様ですが、それを開いた途端に目を丸くするまろん。

「何これ…」
「この前貸した写真から作ってくれたのね」
「触ってみた?」
「ええ。何だか変な感じ」
「変?」
「その場に行ったみたいで…」

ツグミの頬に涙が一筋流れました。

「ツグミさん…」
「さっき散々泣いちゃったけど、まだ出るわね」
「…」
「でも悲しいのとは違うのよ。切ない様な」
「切ない?」
「遠い昔の思い出の様な」

思わずクスっと笑ってしまうまろん。

「婆くさぁい」
「やっぱり?」

そういうと今度は二人でしばらく笑い続けていました。

●オルレアン

部屋に戻ってきたミスト。アキコはもうソファに座ってイカロスを
撫でていました。黒い影は一つだけ。イカロスもまた戻っています。
ミストは床に直接俯せに寝ころがると片手で頬杖を突き、
残った片手で目の前にある数個のキャンディを選別けていきました。

「堕天使め、連れてきた下っ端の躾ぐらいしろ」

そう言うといびつなキャンディの一つを口に放り込み、噛み砕きます。

「アキコ」

アキコは手を止めて顔をミストに向けました。

「ああいう場所をまた見付けても近寄るなよ」

アキコは頷きました。

「それから」

ミストは起き上がって胡座をかくと続けました。

「散歩の最中に人間に会っても、そいつらの事を考えるな。
 考えるとお前の姿が相手に見えやすくなる」

視線を落として、アキコは自分の手を見詰めていました。

(第84話・完)

# これも設定話の予定だったのに意外に長い。(爆)

では、また。

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