神風・愛の劇場スレッド 第69話『生き写し』(8/28付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 28 Aug 2000 07:26:48 +0900
Organization: So-net
Lines: 384
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References: <8m5h94$69l@infonex.infonex.co.jp>
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<8oc1hc$l7q$1@news01cd.so-net.ne.jp>

石崎です。

 このスレッドは、神風怪盗ジャンヌのアニメ版を元にした妄想小説スレッドです。
 この記事は第69話本編です。
 第68話のフォロー記事は、
 Keita Ishizakiさんの<8oc1hc$l7q$1@news01cd.so-net.ne.jp>
 から読んで下さいね。



★神風・愛の劇場 第69話『生き写し』

■山茶花弥白編

●山茶花邸 弥白の部屋

 弥白が目を覚ましたのは、庶民のマンション一軒分はあるであろう私室のリビ
ングに相当する部屋にあるソファの上でした。
 服はまだ寝間着に着替えておらず、どうやらソファに座ったまま眠り込んでし
まったようなのでした。

「私としたことが……」

 ひとりごちながら置き時計を見ると午前三時。
 もう一眠りする事も可能な時間。少し迷いましたが、眠気を感じなかったので
このまま朝まで起きている事にしました。
 まだお風呂に入っていなかった事を思い出し、弥白はバスルームへと向かいま
す。

 山茶花邸には、大浴場の他に客用を含めた各寝室毎にバスルームが備わってお
り、弥白の部屋のそれは、欧風の建物には似合わぬ檜風呂。
 先に熱いシャワーを浴びてから、湯船の中に入ります。
 敷地内から湧き出る温泉からお湯を引いているので、24時間入浴が可能とな
っているのでした。

 お湯の中に身体を浸しながら、昨日の出来事を思い出してみます。
 学校帰りにその日の撮影。そして家に帰ってからは暫く勉強。
 半分大学までエスカレーターのような高校とはいえ、弥白個人のプライドも
あり学業も疎かには出来ないのでした。
 それから、自分のホームページを更新、「弥白新聞」の編集をして……。

 特に変わった事は無い一日。
 最後に服を着たままソファで眠りこけてしまった事を除いては。
 でも、何かが記憶から抜け落ちている気がするのです。
 それが何かを弥白は思い出そうとしましたが、どうしても思い出せないのでし
た。



 いつもであればたっぷり一時間以上入浴している事も珍しくはない弥白ですが、
今日は「弥白新聞」の配達に向かう都合もあって、四十分程度で切り上げました。
 バスローブを着た弥白は、ベッドのある部屋を通り抜けて、リビングに相当す
る部屋に行き、先程のソファに座って一息。
 そうしてから、就寝前にいつも飲むハーブティでも入れようかと考えていると、
先程は気付かなかったのですがテーブルの上にデジタルビデオテープが一本無造
作に置いてあるのが見えました。

「あら、やだ……」

 きちんと整理して置かないと気持ち悪い性格の弥白。
 再生したまま片づけるのを忘れてしまったのかと思いました。
 ただ、このテープを再生した記憶がありません。
 テープを見ると、シールも何も無く、何が記録されているのか判りません。
 弥白はリモコンを手にしてボタンを押すと、壁の中から業務用モニターと各種
再生機材が姿を現しました。
 そしてDVデッキに弥白はテープを入れて再生します。

「東大寺都……稚空さんの事を一度ならずも二度までも……。許せませんわ」

 テープを途中まで再生した所で、弥白は停止ボタンを押しました。
 稚空の事なら何でも知っていると自負する弥白ですが、流石に365日24時
間監視している訳ではありません。
 だから、このビデオに記録されていた内容を見るのも初めてでした。
 時刻はつい数時間前。場所はどう見ても稚空の部屋。
 そこで、都は稚空の事を下着姿で誘っているのでした。
 音声部分は何故か良く聞こえず、しかも編集済みのようでした。
 一体誰がこのテープを……。

「ひょっとして……」

 ここ数日、忘れかけていた存在を思い出します。
 自分の裏面を知り、協力しようと持ちかけてきた人でない存在。
 そして何度も自分を操り、その度に自分に何かをさせていたらしい存在。
 稚空の心を弄び、都合の良い時だけ稚空を利用しているあの女から、稚空を取
り戻すために必要とあれば、例えそれが悪魔であろうとも手を結ぶ弥白ですが、
一方で真意が読めないだけに底知れぬ不気味さも感じています。

 不気味と言えば、あの女の側にいる盲目の少女。
 視覚障害者が視覚以外の感覚が発達している事が多いという程度の知識はあり
ましたが、それにしてもあの聴覚と嗅覚は人並み外れていました。
 そして、あの少女の家の側で、二人の様子を観察していた後に起きたあの事件。
 その後の町中でのあの少女との偶然の出会い。
 私の存在を気付かれているのかも。
 そもそも彼女は本当に人間なのかしら?
 不安が弥白の頭の中で広がっていきます。

「大丈夫ですわ。大丈夫」

 思わずそう呟いてしまいました。

「まぁ、東大寺さんに対する『罰』は後でゆっくり考える事に致しましょう。私、
稚空さんの事を信じていますもの」

 最近の弥白は、自分の身の回りに色々不気味な出来事が多い事もあり、派手な
動きは控えるようにしています。
 そして今までに集めた情報を整理分析して、自分がこの状況の中どう振る舞う
べきか、見つめ直しているのでした。
 しかし、弥白が動かないのはそのためだけでは無いのでしたが。



■悪魔ミスト編

●オルレアン ミスト達の部屋

「やはり、お嬢様は動かない、か」

 ミストは弥白の様子を映し出しているキャンディーを見ながら言いました。

「全く、使えるんだか使えないんだか……せっかく編集までして上げたのに」

 ミストがため息をついていると。

「お困りのようですね」

 音もなく、ノインが姿を現しました。

「何よノイン。こんな夜更けに」
「昼間は仕事があるので。それにあなたに昼夜の別など関係無いでしょう」
「それで? 何の用なのよ」
「『駒』が動かずにお困りなのでは?」
「あんたに心配される筋合いじゃないわよ」
「別に心配などしていません。ただ、今日ちょっとした仕掛けをしようと思いま
してね」
「相変わらずセコい仕掛けしてるんでしょ」
「あなたの『駒』も影響を受ける事になりますので、こうしてお知らせに」
「何よそれ。どういう事?」

 ミストは怒りの表情で言いました。

「貴方が『彼女』を連れて来た本来の目的と、一致する部分もあるかと思うので
すが」
「え!? どういう事よ」

 ノインは、横で寝ているアキコの方をちらりと見ると、作戦について話し始め
ました。

■山茶花弥白編(その2)

●桃栗町郊外 サンセットクリフ

 その日の夕方は、良く晴れていました。
 そろそろ日も暮れようという時刻。車で三枝の別荘へと向かう弥白。
 今日は新体操部の練習があったので、いつもより遅い時刻となりました。
 弥白は、ふと二日前に出会った不思議な少年の事を思い出します。
 あの子は今日も夕陽を見にここまで歩いて来ているのかと。

 車はやがて三枝の別荘の駐車場へとたどり着きました。
 建物は駐車場から離れた場所にあるために、自分は車から降りて歩いて行きま
した。

 別荘の前まで来た弥白は、ちょっと驚かそうと呼び鈴を鳴らさずに中に入りま
した。
 そして、恐らく三枝がいるであろう、一番広い部屋に入ろうとしたその時です。

「頼む! 君で無ければ駄目なんだ」
「で、でも……」

 聞き覚えのある声がしました。
 一人は三枝の声。
 そしてもう一人は……。

「(なんであの女がここにいるんですの?)」


■名古屋稚空編

●桃栗町郊外 サンセットクリフ 三枝の別荘の中

 そこは、稚空にとって居心地の悪い場所でした。
 そして恐らくはまろんにとっても。

 この場所には、あの出来事以来、一度も近づいた事はありませんでした。
 恐らくはまろんも同様であった筈。
 にも関わらず、この場所に来る事になったのは、今にも海に沈もうとしている
夕陽を窓から眺めている少年──全と出会った事がきっかけでした。

●2時間程前 桃栗公園近辺

 今日は新体操部の練習がお休みで、稚空は都とまろんと一緒に下校しました。
 その途中で、都が前方を歩いている少年に気がつくと、声をかけました。
 都の話では杖をついている筈でしたが、今日は杖を持っていませんでした。
 足取りはふらついているという話でしたが、確かにおぼつかない足取りながら
しっかりと歩いています。

 都が全に声をかけると、こちらに気付いた全は振り向いて手を振り、こちらへ
と歩いて来ました。
 こうして近くで見ると、確かに死んだ筈の高土屋全にそっくりでした。

「……っ」

 横を見ると、まろんが感極まって泣いているのが見えました。

「お姉さん、どうして泣いているんでぃすか?」

 全がまろんに声をかけました。

「あ……。ゴメンね。亡くなった知り合いの子にそっくりだったから……」
「そうなんでぃすか?」
「ええ。本当に」

 そう言うと、まろんは涙を拭いて、それまで泣いていたのが嘘の様に笑いまし
た。

「ねぇ全君。今日も夕陽を見に行くの?」
「はい。『さんせっとくりふ』まで行きます。足なら大丈夫です。もうちゃんと
歩けます」

 稚空は、弥白のホームページの日記でも、全がサンセットクリフを目指してい
た事が書いてあったのを思い出しました。
 まろんの方を見ると、表情が暗くなっているのが判ります。
 恐らくは稚空と同じ事を考えているのでしょう。

 サンセットクリフ、そこは稚空に取って苦い思い出の場所でした。
 悪魔に取り憑かれた写真家の三枝。
 その亡くなった娘の写真に悪魔が取り憑いていると思い込み、全ての写真を別
荘毎燃やしてしまった自分。
 それからの三枝の消息は不明で、気にはなっていたのですが、確かめる気もな
かなか起きずに、今日まで記憶の片隅に封印して来たのですが……。

 行きたくはありませんでした。別荘は焼失したので、三枝と出会う事は無いだ
ろうと思いつつも、やはり行けば当時の事を思い出してしまうのが怖かったので
す。

「ねぇ、やっぱり心配だから、この子をサンセットクリフまで送って行ってあげ
ようよ」

 しかし、都が全に付き合おうと提案した時に、稚空は断る事は出来ませんでし
た。何だか逃げているようにまろんに思われるのが嫌だったからです。
 そして、思いは同じなのかまろんも断りませんでした。

●サンセットクリフ

 結局みんなで、サンセットクリフまで歩いて行きました。
 歩きながら全と話していると、確かに高土屋全とは似ているだけの全くの別人
だと知れました。
 サンセットクリフに辿り着いた時、信じられない物が視界に入りました。

「おい、まろん」
「ええ。まさか…」

 そのまさかでした。
 炎上して消失した筈の三枝の別荘が、寸分違わぬ姿でまろん達の前に姿を現し
ました。

「へぇ。ここに建っていた三枝先生の別荘、放火で焼けちゃったんだけど建て直
したのかしら?」

 都が別荘を見て言いました。
 新聞報道でしかあの事件を知らない都は、この別荘の以前の姿を知らないのだ
ろうと稚空は推測しました。

「ねぇまろん! 『三枝』って書いてあるよ!」

 駐車場らしい場所の近くに門があり、都が表札を読み上げました。

「ほら稚空、まろん。行こうよ」
「でも、不法侵入罪になるんじゃ……」
「それもそうだけど…そう言えばまろん、あんた以前三枝先生にモデルになって
欲しいとか頼まれてたじゃない。あの話はどうなったのよ」
「え、えっとその……」
「別荘が全焼して以来、音信不通なんだよな」
「そ、そうなの!」
「ふ〜ん。じゃあさ、会いに行ってみようよ! ひょっとしたら又モデルを頼ん
でくれるかもしれないよ」
「で、でも……」

 まろんは明らかに嫌そうでしたが、さりとて拒絶する理由も思いつかず、結局
都に引っ張られる形となってしまいました。

 都は建物に辿り着くと、躊躇わずに呼び鈴を鳴らしました。

「どなたですか?」

 ドアから顔を覗かせたのは、確かにあの三枝の顔。
 少しやつれた感じですが、それ以外は元気そうでした。

「あ、あの! あたし、東大寺都と言います。以前先生と桃栗学園で……」
「東大寺…さん? すまない。思い出せない」
「じゃあ、この子ならどう?」
「あ、ちょっと、都……」

 都は、ドアの陰に隠れるように立っていたまろんの手を引っ張って、三枝の前
に立たせました。

「君は……」

 まろんの顔を見た瞬間、三枝の顔色が変わりました。

●そして再び別荘の中

「わぁ、夕陽が綺麗ですぅ」
「ははは…。それだけがここの取り柄さ」

 結局稚空達は、別荘の中へと招かれました。
 テーブルの上には、三枝が入れた紅茶と貰い物だというクッキーが並んでいま
す。

「(あれ、これはどこかで……いやまさかな)」

 稚空はクッキーを口にした瞬間、どこかで食べたような味なのに気付きますが、
すぐにその可能性を否定します。

「そうなんですか。記憶喪失で……」
「それであたしの事も忘れていたんですね」

 稚空達は、別荘が炎上してからの三枝の身の上話を聞きました。
 別荘が炎上して、気がついたらどこかの病院に運ばれていたこと。
 そして、直前の記憶が無くなっていたこと。
 今の別荘の再建の為に、援助してくれた人がいたこと……。

 それを聞いて、稚空は少し安堵しました。
 それならば、あの出来事も忘れているはず。
 まろんも同じ気持ちなのか、やや表情が和らいでいました。

「日下部さん……だったね」
「あ、はい」
「実は頼みがあるんだが」

 やっぱり来たかと稚空は思います。

「な、何でしょう」
「僕の写真のモデルになってくれないだろうか」
「え?」

 三枝はまろんの手を握りました。そして。

「頼む! 君で無ければ駄目なんだ」
「で、でも。私なんか」
「実は……君は死んだ娘に良く似ているんだ。だから……」

 そう言うと三枝は、懐中時計を取り出して開けて見せました。
 中には、まろんそっくりの少女の写真が収められていました。

「(なんだ、まだ娘さんの写真は残っているのか…。ま、そりゃそうだよな)」

 それを見て稚空の罪悪感が少しだけ薄れました。

「判りました。私、やります! あ、でも、学校に知られたらちょっとマズいか
な……」
「そうなのか? いや、発表出来なくても良いんだ。僕が個人的にどうしても撮
りたいんだ。君のことを」

 三枝はまろんの目を真っ直ぐ見て言いました。
 まろんを見ると、微笑みながらもどこかに陰があるように見えました。
 やはり気にしてるんだよなと思ったその時、稚空は良く知った顔が部屋の入り
口から顔を覗かせている事に気付きました。

「あ……」

 目が合ってしまいました。
 すると、覗いていた人物は、すぐに姿を消してしまいました。

バタン

 すぐに、ドアが勢い良く閉められる音がします。

「おや? ドアが開きっ放しだったかな?」
「あら? 稚空?」
「すいません、俺、ちょっと」

 稚空は立ち上がり、玄関まで走って外に出ました。
 見ると、脱兎の如く走り去る人影が見えました。

「弥白!」

 聞こえているのかいないのか、弥白は振り向かずに走り去って行きました。

(第69話:完)

 弥白様の明日はどっちだ?
 …というところで、では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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