3章 沈黙の世界 
   6 大脳の周波数地図

 ドップラー効果で虫の速度を測るためには、エコーの周波数を正確に知る必要があります。コウモリの大脳には、ある特定の周波数の音だけに興奮する神経細胞があって、それが脳の表面の前から後ろにかけて周波数の高い方から低い方まで順番に並んでいて、どこの細胞が興奮したかによって周波数がわかるようになっています。

 また、自分の出す声の周波数付近だけ扱う特別な場所も脳にはあります。たとえば61kHzを出すヒゲコウモリの仲間では、中心が61kHz、外に向かって62kHz、63kHzと同心円状に非常に細かく各周波数に対応している部分があり、このあたりの周波数に特に感度がよくなっています。ドップラー効果によって周波数が下がったときは、3-5で言ったように相手が自分より速く逃げているということなので、あきらめて、61kHzよりも高いときにだけ反応すればいいわけです。

 ところでコウモリが虫を追跡始めると、出す周波数の方を61kHzより少しずつ下げていって、ドップラー効果を受けたエコーのほうが61kHzになるように、調整します。つまりエコーはすべて一番感度のいい61kHzで処理するようにして、そのためにどのくらい発する音波の周波数を下げたかで虫の動きをはかるわけです。

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