4章 冬眠不覚暁 
   5 Wachet auf目覚めよ

 トーパーに入るのがオプション機能だったように、トーパーから目覚めるのも、必ずしも気温が上がったからというわけではなく、自発的に行うようです。覚醒が始まると心拍数と呼吸数が増加し、血流も増加します。背中に蓄積した褐色脂肪組織にはミトコンドリアがたくさんあり、脂肪のエネルギーで熱を発生させます。血液はこの褐色脂肪組織を通るときに暖められるので、だんだん体が暖まってきます。筋肉がある程度暖まると震えだし、更に熱が発生します。10−30分で十分活動的な状態になります。体が小さいほどこの覚醒のスピードは速いようですが、褐色脂肪組織が多いからではないかと言われています。第二次大戦中にアメリカの軍部ではコウモリを冬眠状態にして焼夷弾をつけて高高度から爆撃機で投下するということを真面目に考えていたそうですが、いくら覚醒が早くても、目覚める前に地面に激突してしまうでしょうね。悪魔の陰謀か、これは。

 ところで、冬眠中もずっとトーパーが続いているのではないようです。数日から数週間おきに覚醒して、水を飲んだり冬眠場所を移動したり、また後ほど出てきますが交尾をすることさえあるようです。また暖かい日には外へ出て採餌する事もあるようです。アブラコウモリも、冬の暖かい日には、採餌していることがあるというのを聞いたことがあります。ただしトーパーのままなら非常に省エネとなり、2年間も冬眠できるという話を前にしましたが、覚醒は結構エネルギーを使いますから、外に採餌に出た方がいいか、トーパーを長く続けた方がいいかの判断を誤ると、冬眠失敗なんてことにもなりかねないですね。

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