パナマのバロコロラド島のカエルクイコウモリは名前の通りカエルを餌にしています。トゥーンガラガエルは繁殖期にはメスを呼ぶために鳴きますが、繁殖池での観察によると、カエルがみな鳴いているとカエルクイコウモリの捕獲率は上がり、全然鳴かないと捕獲率が下がります。
このトゥーンガラガエルの声をテープで反復率や大きさを変えてカエルクイコウモリに聞かせてみると、速く大きな声で鳴くのがコウモリの好みであることがわかりました。
更にトゥーンガラガエルの繁殖コールは、whine(クーンと言う高い声?)を一声鳴いた後chuck(コッコッコッという声?)を0−6回続けます。このchuckがたくさん続くほどオスの体が大きいことを表しますが、一匹で鳴いているときはwhineだけで、他のオスがいるとchuckを増やします。メスはchuckの入る声のほうが好みです。しかしカエルクイコウモリもchuckがたくさんある声のカエルを好みます。スピーカーからwhineだけの声とchuckが3回加わる声を同じ音量で同じ速さで流すと、飼育下でもフィールド調査でもカエルクイコウモリはchuckが入る声に集まってきます。
ところでフィールド調査ってのはナイトスコープを用いてテープの声にひかれてやってくるコウモリを観察するのですが、こういう実験こそSONYのナイトショットつきビデオを貸してあげたいですね。
ちなみにこの地方には毒のあるBufo typhonius(Leaf Litter Toadコノハヒキガエル)というカエルも生息していますが、それとH.boulengeriというカエルの声を聞かせると、コウモリはH.boulengeriの方へ行きます。またトゥーンガラガエルとLeptodactylus
pentadactylus(ウシガエルの仲間?)の声はどちらも200から1000Hzですがテープを聴かせてみるとコウモリはみなトゥーンガラガエルの方へ行きます。Leptodactylus
pentadactylusはカエルクイコウモリが捕まえて食べるにはちょっと大きいのです。声でわかるのでしょうね。
更にカエルクイコウモリにとって未知の、フロリダに生息するカエルを3種(3種ともバロコロラド島の毒のあるBufo
typhoniusに似た声を出します)の声を聞かせると、コウモリはBufo
typhoniusに似てない順にカエルを選ぶという結果になりました。似てるか似てないかというのは、どういう間隔と強弱で鳴いているか、そして周波数特性です。
ということで、繁殖を成功させるためには、カエルにしてみれば、大きな長い繁殖コールを出してメスを惹きつけたいところですが、バロコロラド島では毒のあるカエルや大きくてコウモリの捕食対象にならないカエルを除いて、大きな長い繁殖コールは捕食者のカエルクイコウモリもひきつけてしまうので、その兼ね合いから、適度な長さと大きさで鳴くようになったということになります。捕食圧がカエルの声の進化に影響を与えている実例でしょう。
参考文献
M.Tuttle and M.J.Ryan SCIENCE,VOL.214,6(1981)
pp.677-678 Bat predation and the evolution
of frog vocalizations in the neotropics
M.J.Ryan, M.D.Tuttle and A.S.Rand Am.Nat.Vol.119
(1982) pp.136-139 Bat predation and sexual
advertisement in a neotropical anuran
M.J.Ryan, and M.D.Tuttle Anim. Behav.,31(1983)pp.827-833
The ability of the frog-eating bat to discriminate
amang novel and potentially poisonous frog
species using acoustic cues