プリン・ア・ラ・モードのごとく多様な生態を見せてくれるのはヘラコウモリ科です。昆虫など節足動物を食べるもの、脊椎動物を食べるもの、それも地域によってはカエルだけを食べるもの、果実を食べるもの、それもコシ
ョウの実だけを好んで食べるもの、花粉や花蜜を食べるもの、そして血液を食べるものなどがいます。食性に対応して形態や行動も多様です。どうしてこんなにバラエティに富んだ種が生まれてきたのでしょうか、食性の面から考えてみたいと思います。
ヘラコウモリ科の祖先は食虫性だったと考えられます。果実の上などにとまっている虫を獲るときに、つい果実までガブッと食べてしまったのかもしれません。大部分のコウモリは「げっ、まずい!ぺっぺっ 」と思ったでしょうけど、時には「結構いけるじゃん」と思うやつがいたのではないでしょうか。花にとまっている虫を獲るときに、顔に付いた花蜜や花粉をぺろっとなめてみたら「うーーん。デリシャス」と思ったやつもいたかもしれません。ここが旧世界の熱帯ならオオコウモリ科という強力な競争相手がいるのですが、ヘラコウモリ科は新熱帯だけに生息します。そのうちに雑食性になって、やがて果実食や花蜜食専門のものがでてきても不思議はありません。
また動物の傷口にもハエなどの昆虫が良く集まります。これを食べにきて血の味を覚えたコウモリが、やがて栄養分たっぷりのほ乳類や鳥の血液を専門に食べるようになったと考える人もいます。ちなみに旧世界には、アラコウモリのように肉食性のコウモリはいますが、チスイコウモリのように皮膚をそっと切り裂く大きく鋭い門歯をもっているものがいないのです。
なんといっても熱帯は餌となる生物の種も数も豊富ですから、新熱帯に生息するヘラコウモリ科は豊富な餌にあわせて適応放散していったのでしょう。