神風・愛の劇場スレッド 第170話『二つの故郷』(その9)(05/25付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 25 May 2003 19:25:36 +0900
Organization: So-net
Lines: 502
Message-ID: <baq5n2$j5j$1@news01bf.so-net.ne.jp>
References: <b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>
<b7tkbv$10s$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<b97u9k$ag3$1@news01ch.so-net.ne.jp>
<b9l9b5$ghe$1@news01di.so-net.ne.jp>
<ba7jci$934$1@news01bg.so-net.ne.jp>

石崎です。

例の妄想スレッドの第170話(その9)です。

(その1)は、<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
(その2)は、<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
(その3)は、<b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>
(その4)は、<b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>
(その5)は、<b7tkbv$10s$1@news01cf.so-net.ne.jp>
(その6)は、<b97u9k$ag3$1@news01ch.so-net.ne.jp>
(その7)は、<b9l9b5$ghe$1@news01di.so-net.ne.jp>
(その8)は、<ba7jci$934$1@news01bg.so-net.ne.jp>からどうぞ。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そう言うのが好きな人だけに。



★神風・愛の劇場 第170話『二つの故郷』(その9)

●…

「…フィン。聞こえるか? フィン・フィッシュよ」
「誰? どこにいるの?」

 フィンは暗闇に包まれた部屋の中で、寝台から身体を起こしました。
 灯りをつけ、周囲を見渡したものの、そこには誰の姿もありません。

「この『世界』の外側だ」

 再び、声だけが室内に響きました。
 いえ、その表現も適切ではありません。
 何故なら、その声はフィンの頭の中に直接響いているからなのでした。

”あなたは誰? どうして私を知っているの? それに、『楽園』の外って…”

 自分の心の中に直接話しかけられていることに気付いたフィンは最早、言葉を
口にしてはいませんでした。

”私には名など無い。だが人は、私のことを『魔王』と呼ぶ”
”『魔王』!?”

 声の主に名乗られ、フィンの心臓は高鳴ります。
 自分達の敵の総大将だと名乗られれば、それは無理もありません。

”あなた本物?”
”それを信じるかは君次第だ”

 フィンは、今自分に話しかけている声が、足下の方角から来ていることを察知
していました。

「(天界の中からの声では無い!?)」

 神の結界に守られた天界の外から話しかけているのだとすれば、魔王か余程の
高等魔族であるに違いない。
 そう感じたフィンは、話を続けることに決めました。

”良いわ、信じましょう。それで魔王が私に何の用?”
”君を魔界に誘いに来た”
”冗談でしょ。神様だけに忠誠を誓ったこの私が、天界を捨てると思う?”
”普通なら、思わないな”
”ならば、外を当たるのね”
”そうはいかない。私には君が必要なのだ”
”私が? どういうこと?”
”神だけに忠誠を誓ったと言ったな。天界を捨てる気が無いとも”
”そうよ”
”君が天界を捨てる気が無くとも、天界は君を捨てたのでは無いのかね?”
「馬鹿な!」

 口に出して叫び、直後にフィンは慌てて口を噤みます。
 周囲の部屋の住人にこの会話を聞かれる訳にはいかないからなのでした。

”馬鹿なことを言わないで! 私はこれから大切な使命を任されているの”
”君はとても賢い。だから、その使命がどういう意味を持つのか気づいている筈。
君は、天界に不要な存在だと思われているのだよ”
”天界が…私を……”
”未だ少し時間は残されている。私の誘いに乗るか、それとも天界の使い捨ての
駒のままでいるのか。考えることだ、哀れな天使よ”
”でも、貴方の誘いに乗っても…”
”君が望み、私にも叶えることが出来る。私は彼女程には嫉妬深くは無いから”


●桃栗町郊外

 フィンが目を覚ますと、目の前には大きな水晶玉がありました。
 どうやら居眠りをしていたらしい。
 眠ってばかりいたので、癖になってしまったようだ。
 そう思い、フィンは少しばかり頬を紅潮させました。

 フィンが居るのは、林の中に入念な偽装を施された天幕の中。
 そこに、魔界軍の前線司令部があるのでした。

 天幕の中心部にでんと置かれた水晶玉。
 その前にある玉座の反対側には、人間らしき者が立ちそれを操っており、水晶
玉には現在の状況が場面を切り替えつつ、映し出されていました。

「お目覚めですか? クイーンよ」

 現在玉座に座っているフィンの右前方から、第一大隊長のミカサが話しかけて
きました。

「ああ、済まぬ。大事な時に。戦況は?」
「いえ、未だ始まったばかりですから。大事な時はこれからです」

 そう言うと、ミカサは名古屋稚空と天使二人が(通常魔界では、天使を「匹」
と勘定するのですが)、第二大隊の一個小隊と戦闘状態に入ったことを報告しま
した。

「ちなみに第一小隊は第二猟兵大隊長が直率しております」
「何だと!? あいつがか?」
「クイーンはご存じで」
「ああ。魔王様の推薦で大隊長にしたが、少なくとも前線に出るタイプでは無い
な」
「同感です。まさか、彼が大隊長だとは…」

 昨日より食料を調達するために訪れていた伝令が、第二大隊長その人であった
と知った時の驚きをミカサは思い出していました。

「で、その大隊長はどこに?」
「はい。こちらを」

 ミカサが命じるまでも無く、意をくみ取って水晶玉を操る術者が場面を切り替
えると、ワイヤーでぐるぐる巻きにされた大隊長の無惨な姿がありました。

「誠に恥ずかしいことですが、敵にも情けをかけられた次第で」

 そう言い、ミカサは彼がこの様な状態となった経緯を説明しました。

「そうか。無事ならば良い」

 口だけでは無く、心底そう思うという感じでフィンは言いました。
 再び場面が切り替えられ、水晶玉は悪魔、そして稚空と天使達の戦闘の状況を
映し出しました。

 数を頼みに稚空達をなぶり殺しにしようとする悪魔達。
 しかしその攻撃は、指揮を取るべき隊長が真っ先に居なくなったためか統制が
取れておらず、更には天使達の移動速度が速すぎるため、それを追う内に集団は
いつしかばらばらとなり、孤立した悪魔を天使達は一体、また一体と狩っていき
ました。

 天界の者に対する魔界の者共の優位である、転移・融合能力。
 それを活かし地面に逃げ込もうとする者、瞬間移動で不意を突こうとする者も
いたものの、術力の低い者にあり勝ちな融合や転移の際に生じる一瞬の隙を突か
れ、彼らもやはり同じ運命を辿りました。
 気がつけば、追いつめられているのは悪魔の側でした。

「あらあら。もうお終い?」
「救援を送りますか?」
「無用よ。上官を後ろから撃つ様な兵など我が軍には不要。違う?」
「皆が皆、あの頭と同じ考えという訳では」
「もちろん、判っている」
「でしたら…」
「目端の利く者は既に逃げている。見かけ程損害は出ていない筈だ」

 そう言われ、確認させたミカサ。
 果たして、フィンの指摘はその通りだったのです。



 第二大隊長が目を覚ますと、何者かが自分を見下ろしていました。

「お、隊長殿が目を覚まされたぞ」
「隊長殿、大丈夫ですか?」

 確か自分は名古屋稚空にまんまとやられて…。
 自分が気を失う前の状態を思い出した隊長は、自分の身体が自由になっている
ことに気付きました。
 それはもちろん、自分を見下ろしている悪魔達が解放してくれたのでしょうが。

「そうだ。敵はどうなった?」
「頭達と未だ戦ってます」
「お前達は?」
「へへ…逃げて来ちゃいました」
「どうして!」
「我々一同、あの頭のために命を捨てるのはご免だからですよ。隊長殿」

 辺りを見回すと、少なくとも一個分隊程の悪魔が周囲に在り、足下からはそれ
に倍する悪魔の気配を感じるところを見ると、どうやら真面目に天界の連中と戦
っているのは、全体の四分の一程度と隊長は計算しました。

「お頭が怖いから、みんな渋々従ってたけどよ」
「あいつ、自分一人で食糧溜め込んで、側近だけに分け与えていたんだぜ」
「それに比べりゃ、隊長は、俺達兵卒一人一人に目を配って…」
「お頭の手前、言えなかったけどよ」
「ただ、隊長殿は弱いけどな」
「それが余計だって言うの」
「おい見ろよ! お頭の最期だぜ!」

 悪魔の一人が指さす方角を見ると、頭の手下は悉く封印されて駒となり地面に
転がっていて、頭が稚空と天使達に囲まれる形となっていました。

「助けなきゃ…」

 大隊長は立ち上がろうとして周囲の悪魔達に止められました。

「駄目ですよ隊長!」
「あいつら、気が立ってます。今出て行ったら瞬殺ですぜ」
「頭が死んで、喜ぶ者は多いですぜ」
「だけど…嫌われ者だって知っていたけど…だけど彼は私の部下なんだ!」

 そう叫ぶと、他の悪魔達の制止を振り切って、隊長は姿を消すのでした。



 戦うこと数十分。
 目の前の敵を倒す事に夢中となっていた稚空達は、突然、自分達が優勢となっ
ていることに気付きました。
 気がつけば敵は目の前に立っている悪魔が数匹。
 自暴自棄となって襲いかかってきた悪魔を即座に封印すると、残ったのは先程
「お頭」と呼ばれていた悪魔でした。

「どうやら、お前が最後の様だな、『お頭』」
「ぐ……」

 正面には稚空、背後にはアクセス、そして上はトキが待ちかまえ、『お頭』の
退路を塞いでいました。

「糞! 勝負はお預けだ!」

 言うなり、『お頭』は土の中へと急速に潜って行きました。
 同時に稚空の投げた封印のピンは、『お頭』の沈降速度が速すぎたために外れ
てしまい、稚空は逃がしてしまったかと舌打ちします。

「稚空さん! アクセス! 下がって下さい!」

 上空からトキの叫び声がしたのはその直後。
 見上げれば、トキが胸の前に構えた両の掌の間には、大きな光球が形成されつ
つありました。
 それを見て、稚空とアクセスは慌ててその場から後退しました。
 その直後、トキの手から放たれた光球が『お頭』が潜った地面に吸い込まれて
行くと、一瞬後には大爆発を起こしました。
 後退中であった稚空はその爆風に更に十数メートルは吹き飛ばされ、その上か
らは土塊がばらばらと降り注ぎました。
 稚空が起き上がり、前方を見やるとそこには巨大なクレーターが出来ていまし
た。

「おいおい…」

 稚空はクレーターの端に立ち、暫し呆然としていました。

「遅かったか…」

 後ろで聞き覚えのある声がして振り返ると、そこには真っ先に気絶させた筈の
隊長がやはり呆然とした顔で立っていました。

「お前、未だ居たのか」
「よくも私の…」
「え?」
「よくも私の可愛い部下を!」

 男の手に、何時の間にか拳銃が握られていることに稚空は気付きました。
 そして、その筒先が自分にぴたりと向けられていることも。
 臆病そうな見かけとは裏腹に、銃を持つ彼の手は微動だにしていませんでした。
 そして稚空が動き出す前に、彼はその引き金を引いたのです。

「稚空!」

 胸部に走る痛み。
 稚空は薄れ行く意識の中で、自分の名を呼ぶアクセスの声を聞いていました。

●桃栗町・桃栗学園

 部活が終了するまで、大人しく新体操部の練習を見学していたユキ達に、一緒
に帰ろうとまろんは声をかけました。
 部室のある建物の入り口で待ち合わせ、後片づけの後で部室に戻ったまろんと
都。
 着替えの途中で、都がロッカーの扉から顔を覗かせまろんを呼びました。

「何?」
「稚空から、留守電が入っていたの」
「稚空から?」
「それがね、まろんに電話して欲しいって」

 そう言い、都はPHSの端末をまろんに突き出しました。

「私に?」
「貸してあげるから、電話したら」
「うん…」

 都から電話の使い方を教わると、人気の少ない部室の隅に寄り電話をかけてい
たまろんは、すぐに都の所に戻って来て言いました。

「電波が届かない場所にいるか、電源が入っていませんって」
「留守電には?」
「あれ、ちょっと苦手なの」
「まろんは昔からそうね。ま、でも用事あるなら、又かけて来るでしょ」
「そうだよね」

 本当は稚空の用件が気になったものの、ユキ達と約束していたこともあり、ま
ろんは稚空からの再度の連絡を待つことにするのでした。


●桃栗町中心部

 帰り道。夕食の買い物をしたいとユキが言い出し、まろんの買い物も兼ねて、
四人は桃栗町中心部の商店街へと向かいました。

 商店街の中心であるスーパーP&M。
 地元密着型のスーパーで、この街の町名から取った「ももた」と「くりこ」の
マスコットはいつの間にか、スーパーのみならずこの街のシンボルとして町民に
愛されていました。
 生まれも育ちも桃栗町であるまろんと都は、当然の如く最近郊外の国道沿いに
出来た大手スーパーよりもこちらを愛用していましたが、その日のスーパーは普
段と少し様子が違っていたのです。

「どうしたの、これ…」
「売り切ればっかり」
「本当ですね」

 普段は夕食の買い物で大賑わいの筈の店内は、今日は客も疎ら。
 外からその様子を見て、一瞬ラッキーと感じたまろんと都。
 しかしその考えが誤りであったことは、店内に入って直ぐに明らかとなりまし
た。
 陳列ケースの中身はその多くが空となっており、特に、生鮮食料品に至っては
ほぼ全滅状態。
 普段なら売り込みに忙しい店員達が、お客に向かって平謝りという状況がそこ
かしこに見えました。

「どういうこと、これ?」
「いやぁ。午前中に、外人さん達が沢山押しかけてきて、みんな買って行っちゃ
ったんですよ。昨日も来たんで、今日は来ないと思っていたんですけどねぇ…」

 肉売場担当の店員に都が話しかけると、店員は事情を教えてくれました。

「外人さん?」
「そう。ああ、この子みたいな肌の色した人達」

 そう言うと、店員はアンのことを指し示すのです。

「アンの家族…かしら? そうなの?」
「(まずいわ!)」

 ユキは、内心慌てました。

「アン…家族…ココニハイナイ…」
「(ほっ)」
「どこか海外からの団体さんでも来ているのかしら?」
「(きっと、龍族の連中ね。気配がぷんぷんするわ。そう言えば、買い出し作戦
とか言っていたけど、ここに買いに来ていたのね)」

 買い物に誘ったのは失敗だったかと思ったものの、まろん達は特に気にする様
子も無かったのでユキは胸を撫で下ろすのでした。



 結局、商店街を回って何とか目的の買い物を済ませたまろん達。
 今日も家へと招待したまろんですが、ユキはその誘いを丁重に断りました。
 ならばせめてお茶でもと誘い、結局は広場のカフェへと行くことになりました。
 もちろん、都が「仕方無いなぁ」という表情をしていたことは言うまでも無く、
そしてその表情にまろんが気付くことが無いのもいつものことでした。
 まろんは嬉々として、先頭に立って広場に向かって歩き出しました。
 広場へと行く道すがら、横断歩道の信号待ちで立ち止まったまろん達。
 信号が青になって歩き出そうとして、一人足りないことに気付きました。

「アン!」

 真っ先に気がついたユキが声をかけると、アンは背中を向けて立っていました。
 そこは、販売よりは修理で成り立っている個人経営の電気屋で、ショーウイン
ドーに置かれたテレビをアンは熱心に観ているのでした。



 テレビにかじりついていたアンを何とか引き連れ、広場のカフェに腰を落ち着
けたまろん達。
 今日も何故か外側の席は満員となってしまい、まろんはきっとアンを近くで見
たいのねと、勝手に決めつけました。

「へぇ、アンって遊園地、行ったことが無いんだ」
「叔父さんの教育方針が厳しくて、遊園地は駄目だって言われたんだそうです」
「良く判らない教育方針ね」

 注文を終えた後、雑談の主な話題はテレビにかじり付いていたアンが観ていた
もの。
 音声は聞こえなかったものの、出ていたテロップから、それが自分達が今週に
行く予定の遊園地であることに、まろんと都は気づきました。

「その叔父さんは今、日本に?」
「ちょっと訳ありで、今は離れて暮らしています」
「そうなんだ。だったら、一度行ってみたら? 遊園地」
「そうですね。この街にも遊園地があると聞いていますが」

 相槌というだけで無く、本当にユキはアンを遊園地に連れて行こうかと考え始
めていたので、そうまろんに尋ねました。

「桃栗遊園地ね。そこも良いけど、今行くならさっきテレビに出てた遊園地はど
うかしら?」
「何とかギャラクシーワールドとか」
「水無月ギャラクシーワールド。今週の金曜日にリニューアルオープンする予定
なの。この街からも電車一本で行けるし、お勧め! 実は何を隠そう、私達もリ
ニューアルオープン初日に出かける予定なの」
「ちょっと、まろん…」

 平日に遊園地に行く予定を暴露したまろんの腕を都は肘で突きました。
 突かれた方のまろんは、きょとんとしていましたが直ぐに納得した表情となり
ました。

「ごめんなさい。リニューアル当日は招待券のある人しか入れないの。だから、
今度一緒に行こうよ。…あ、そうだ都! 委員長に頼んでもっと招待券を手に入
れられないかな? そうよ、それが良いわ!」

 一人で盛り上がり始めたまろんの横で、都は頭を抱えているのでした。


●桃栗町郊外

 稚空を拳銃で撃った後、一目散に大隊長は空間を越え、元居た場所に戻って来
ました。
 そこでは自分の部下達が、自分が先程居た方角を指さし歓声を上げていました。

「お、隊長が戻って来ましたぜ」
「やりましたな、隊長殿! 大手柄ですぜ!」
「いや、人間の銃という物も役に立つものですなぁ」
「隊長殿、今のうちに突撃命令を!」

 口々に隊長を褒め称える悪魔達は、しかし自分達の隊長の表情が浮かない様子
であることに気づきます。

「隊長殿?」
「……殺してしまった」
「どうされたんで?」
「ヒト一人、殺してしまった」
「これは戦です。味方も大勢死んで…あいや、封印されてまさぁ」
「こんなことになる筈では無かったのに…」

 よよ、と泣き崩れる隊長の姿を見て、どうしたものかと悪魔達は顔を見合わせ
ます。
 しかし、彼らが話しかける前に、立ち直ったのは流石、部下を率いる者である
と言うべきでした。

「作戦の第二段階は完了した。第二大隊の総員は、第三段階作戦発動の準備にか
かれ」
「しかし…」
「復唱は!」
「はっ! 第二大隊の総員は、第三段階作戦の開始線へと直ちに移動します!」

 そこには、普段通りの隊長の姿──頼りなくも、自分の役目は忘れない──が
ありました。
 周囲の悪魔達に安堵の表情が広がり、そして彼らは命令通りある者は地中に、
ある者は空間の狭間へと消えて行くのでした。


●桃栗町・オルレアン

「あたしは嫌だからね!」
「別に頼んでくれても良いじゃない」

 ユキ達と別れてから、都とまろんはこんな調子で喧嘩を続けていました。
 その原因はもちろん、まろんが遊園地の招待券の追加を都に頼もうとしたこと。

「とにかく、嫌。どうしてもって言うなら、委員長に直接頼めば良いじゃない」
「でも、もう二枚も貰っているのに頼みにくいし」

 そう言うまろん。実はこのチケットが本来、都と大和のための物だと気づいて
いるが故に、自分からは頼みにくいというのが本当のところでした。

「絶対嫌」
「どうしてぇ」

 扉が開き、二人は並んでエレベーターから出ました。
 ここから先は吹き抜けを挟んで別れる二人。
 それ故、最後のお願いをまろんはしようとしたのですが。

「判ってる!?」

 都はまろんの両肩を掴み、廊下の壁に押しやると、自分の顔をまろんの顔の直
ぐ側に寄せました。

「な…何!?」
「あたし達、何しに遊園地に行くのか、判ってる?」
「それは、二人で遊びに……」
「違う! まろんは何にも判ってない!」
「何を言いたいのか、判らないよ都」
「このどん!」

 都の瞳には涙まで浮かんでいました。
 最初、その意味がまるで判らなかったまろん。
 ですが突然、思い出しました。
 思い出すとその後は、まろんの頭の中は後悔の二文字で埋め尽くされて行きま
した。

「ごめん都」

 ふっと、穏やかな表情を見せたまろん。
 突然の表情の変化に、少し戸惑った様子の都の身体に、まろんは両手を回しま
した。そして都に抱きつくと、自分の顔を寄せ言いました。

「都の気持ち、知らない訳じゃないの。誤解させてごめん。当日は、二人きりで
行こう? ユキさんとアンには、チケットが手に入らなかったって言ってさ」
「まろん…」

 理解されて嬉しいという想いと、想いを見透かされたという恥ずかしい感情。
 そんな表情を見られまいとばかり、都は今日もしっかりとまろんを抱き寄せる
のでした。

(第170話・つづく)

 後少しの展開がとても長い気が少し。
 では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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