神風・愛の劇場スレッド 第170話『二つの故郷』(その8)(05/18付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 18 May 2003 18:22:28 +0900
Organization: So-net
Lines: 326
Message-ID: <ba7jci$934$1@news01bg.so-net.ne.jp>
References: <b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>
<b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>
<b7tkbv$10s$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<b97u9k$ag3$1@news01ch.so-net.ne.jp>
<b9l9b5$ghe$1@news01di.so-net.ne.jp>

石崎です。

例の妄想スレッドの第170話(その8)です。

(その1)は、<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
(その2)は、<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
(その3)は、<b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>
(その4)は、<b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>
(その5)は、<b7tkbv$10s$1@news01cf.so-net.ne.jp>
(その6)は、<b97u9k$ag3$1@news01ch.so-net.ne.jp>
(その7)は、<b9l9b5$ghe$1@news01di.so-net.ne.jp>からどうぞ。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そう言うのが好きな人だけに。



★神風・愛の劇場 第170話『二つの故郷』(その8)

●桃栗町中心部

”稚空、稚空!”

 稚空が普段身につけている天使の羽根を通し、アクセスからの連絡を受けたの
は、学校から帰宅途中のことでした。

”どうした? 悪魔達に何か動きが?”
”人間達が居なくなった”
”居ない?”
”ついさっき、車に乗って出て行った。一人残らず”
”工事を終わらせるには、ちょっと早いな”
”だろ? それに昨日のこともあるし”
”だが、好都合だな。悪魔の気配は?”
”相変わらずそのまま。ビンビン感じる”
”判った。直ぐにそっちに行く。トキにはこのことを?”
”これから連絡する。稚空は、まろんに連絡してくれ”
”まろんは今は…”
”緊急事態だ!”
”判った”

 アクセスとの通信が切れた後、少し悩みつつも結局は電話をかける稚空でした。



”稚空さん”

 稚空が方向を変えアクセスが見張り番をしている工事現場へと向かう途中、今
度はトキに声をかけられました。

「トキか」
「はい」

 トキは町中で人間にぶつからないよう、小さな身体で稚空の直ぐ側に寄って来
ました。

「まろんさんに連絡は?」
「練習中らしくて連絡が取れない。まろんは携帯を持っていないから、都に留守
電を入れておいた。気付けば俺の携帯に電話がある筈だ」
「アクセスが天使の羽根を通して連絡を取るという方法も」
「成る程。だが、流石に練習中には身につけていないと思う。だから、練習が終
わる頃合いにアクセスに連絡を入れて貰おう」
「そうですね」

 それで話がまとまると、二人は全速力で郊外へと向け駆けて行くのでした。


●桃栗町・桃栗学園

「アン! それにユキさん。どうしてこんな所に?」

 桃栗学園の体育館に突然現れたユキとアンに、まろんは驚いた顔で言いました。

「学校、ミタカッタ…」
「この子が日本の学園生活を見たいと言うもので、この学園を見学していたんで
す。制服が同じだからひょっとしたらと思ったけど、ここでまろんさんに会える
なんて」
「マタ、オ会イ出来テ、ウレシイデス…」

 昨日会った時よりも、アンの日本語が上手くなっているようにまろんは感じま
した。

「日下部! 東大寺! 何しているザマス」
「パッキャラマオ先生」
「この子達が、新体操部の練習を見学したいって言うんですけど」

 そこまでは頼まれていないのに、まろんが気を利かせて言いました。

「この子達? ふ…ん。良いザマスよ」

 アンとユキを頭のてっぺんからつま先まで、なめ回すように見た後で、パッキ
ャラマオは二人を体育館の中に入れることを許可してくれました。
 突然の珍客の登場に、練習を止め二人の方を見つめる部員達。
 その視線の多くが自分に向けられているのだと気付いたアンの顔が少し赤くな
りました。

「ほらほら、練習の手を休めないザマス!」
「は…はい」

 練習を再開した部員達の動きが、何故かぎこちないことに気付くと、外部の者
に見せるのに、こんな演技は恥ずかしいとパッキャラマオは感じます。

「ね、私達も練習に戻ろう」
「あ…うん」
「じゃあ、ゆっくり見て行って下さいね」
「はい」

 やがてまろんは軽やかに、都は気恥ずかしげにも見える演技を始めます。
 その様子を見て、ユキは昨日のノインの仮説が正しいのだろうと納得するので
した。

 ややあって、注目されることの無くなったアンが落ち着くに連れ、部員達は普
段の調子を取り戻して行きました。
 段々とアンが新体操の演技に見とれて行くうち、それに応えるように部員達の
演技は冴え渡り、パッキャラマオは心の中で感嘆の声を上げました。
 そんな中、一人だけ違う表情を自分達に向ける者が居ることにユキは気付きま
した。

「(何だろう? あの子)」

 長いであろう黒髪を纏めた痩身の少女。
 彼女だけが演技の最中にちらちらとこちらの方を見ているのです。
 それがアンのことを珍しがっているのか、それとも何か他の理由があるのかは、
彼女の心の中を覗いてみないことにはユキにも判らないのでした。


●桃栗町郊外・採石場跡地

 採石場跡地の近くまで辿り着くと、稚空は羽根を通してアクセスに連絡を取り
ました。
 アクセスによれば、人間は一人も居なくなり、ただ悪魔の気配がそこにあると
のことでした。

「ここは、迂闊に踏み込むのは止めるべきです」

 その報告を同時に聞いていたトキは、そう稚空に言いました。

「何故だ?」
「我々があの場所に関心を抱いているのは敵も承知している筈」
「だろうな」
「そして邪魔者だった人間達の姿が都合良く消えた。変だとは思いませんか?」
「つまりは、こう言いたいんだろ? あそこで働いていた人間達も悪魔に取り憑
かれているとかで奴らの仲間になっていて、あそこで工事が急に始まったのも、
人が突然消えたのも、みんな魔界の連中の差し金だと」
「やはり判っていたんですね」
「あの工事には色々と不自然な点が多かったからな」
「ならば何故」
「虎穴に入らずんば虎児を得ずと昔から言うだろう」
「それは判ります。ですがせめて、まろんさんと合流するのを待って…」
「いや。現場の様子を見るのを先にしよう。まろんと合流するのはそれからで良
い。罠ならば、尚更みんなで一緒に踏み込まない方が良いだろうから」

 稚空の言葉を聞き、腕組みをして考えたものの、結局は同意したトキ。
 やがてアクセスとも合流し、工事現場に乗り込んだのですが。

「……何にもないな」
「見事なまでに、何もありませんね」

 工事現場には人はおろか、土木機械も消え去っていました。
 山積みにされていた筈の資材まで持ち去られていて、残されていたのは昨日地
面に打ち込んでいた杭のみ。
 そんな現場の中心に立ちすくむ稚空達の間を風が吹き抜けて行きました。

「アクセス、気配はどうだ?」
「この真下に居る。間違いない」
「一昨日までは気配は殆どしなかったのにな」
「別の場所から、ここに移動して来たということでしょうか?」
「結界を張っていたのが薄れたということは?」
「さて、どうでしょうか…」
「兎に角、どこかに出入口が無いか、探そう」

 こうして、悪魔達の出入り口が無いものか、探し始めた稚空達。
 しかし、小一時間探してもどこにもそれらしきものは無く、やがて日が暮れ始
めて来た頃、再び稚空達は集合しました。

「どうだ?」
「全く」
「こちらもです」
「一体どこから出入りしているんだ?」
「出入口などそもそも無いのかもしれません」
「どういうことだ?」
「つまり、空間を移動出来る悪魔達には、出口なんか要らないってこと」
「付け加えれば、物質に融合する能力を持つ悪魔にも不要です。地面をすり抜け
られますので」
「成る程」

 アクセスとトキの説明に肯いた稚空。
 ですが、直ぐに待てよと言う表情となりました。

「それじゃ、こちらからは手出し出来ないということか?」
「攻撃する手が全く無い訳ではありません」
「どうするんだ?」
「はい。それは…」
「それは困るな」

 トキが何か言いかけた時です、足下から何者かの声がしました。

「悪魔か!」

 そう叫び、身構える稚空。
 アクセスとトキもそれぞれ、言われずとも散開し、どこからか現れるか判らな
い悪魔の出現に備えました。

「ゲラゲラゲラ…」

 昨日と同じように、稚空達を嘲笑している笑い声。

「くそ! 笑ってないで、出て来い!」

 稚空がそう叫ぶと、嘲笑はそのままに地面から続々と紺色をした物体が滲み出
る様に現れました。
 それは見る間にこれまでも見慣れた悪魔の形に姿を変えて行き、気がつけば稚
空はすっかり包囲される形となっていました。

「10…20…数え切れないな。だが、姿を現したのが運の尽きだ」
「それはどうでしょう?」

 今度は稚空の目の前の空間が歪むと、人型をした何かが出現しました。
 人型…と言うよりは、人間そのものにしか見えない者。
 しかし稚空は直感で、それが人間では無いのだと感じます。

「お前…人間か?」
「いいえ。ただ、人間の姿になれるだけが取り柄の小者です」

 そう言うと、その人型の男はお辞儀してみせました。

「するとお前も悪魔の仲間って訳か」
「悪魔…? そうでした。人間は我々魔界の住人のことをまとめてそう呼ぶので
したね」
「別に呼び名でもあるのか?」
「言っても、貴方には発音出来ますまい。さて、雑談はここまでとして、本題に
入らせて頂きたいのですが」
「本題? 戦うんじゃ無いのかよ」

 そう言い、封印用の武器の一つであるワイヤーを手にして稚空が前に進み出る
と、人型の悪魔は悲鳴を上げ、手を前に出して後ずさりました。
 その意外な反応に、稚空は足を止めました。

「お、お願いですから、私の話を最後まで聞いて下さい」
「話だと?」
「隊長さんよぉ。話なんかするだけ無駄だよ」
「そうだよ。あんたはとっとと引っ込んでろよ」

 隊長と呼ばれたその人型の男の後ろから悪魔達が囃し立て、続いてゲラゲラと
笑い声が辺り一帯に響き渡りました。
 その様子を見て、自分の友人を思い出してしまった稚空。

「判ったよ。何だ、話って?」
「ありがとうございます。実はその、名古屋稚空さんと、天界からいらっしゃっ
た天使の方々には、明日の朝までこの場所に留まって頂きたいのです」
「何故?」
「実はその…理由は言えないのですが、天界と魔界、そして人間界の平和のため」

 懐からハンカチを取り出し、汗を拭き拭きその男は言いました。

「理由も言わずに、はいそうですかって聞ける訳無いだろう」
「は、はぁ…そうですよね」
「どういう理由なんだ?」
「それは…言う事をノイン様から堅く禁じられておりまして」
「ノインだぁ!? どうせまたあいつ、ろくでも無いことを企んでいるんだろう」
「それは違います! ノイン様はそれは素晴らしいお方で…」
「ノインのことは良い。何で俺達がここに居なければならない」
「だからそれは…」

 幾ら理由を問い質そうとも、男の言う事は同じことの繰り返し。
 いい加減、稚空の我慢も限界に近づいて来た頃、上空に漂うアクセスも我慢の
限界に達した様子でした。

「稚空〜。やっちゃって良い?」
「駄目ですよアクセス。争いを避けられるなら、それに越したことは」
「理由も教えて貰えないんじゃ、そちらの言い分を聞く訳にはいかないな。アク
セス!」
「おう!」
「最後に聞く。理由は何だ?」
「それを言ったら、私は殺されてしまいます」
「ならば俺達に封印されるんだな」
「ひぃぃぃ。どうか命ばかりは…」

 腰を抜かして、”隊長”は言うのです。
 流石に、彼を封印するのは可哀想になって来ました。

「封印はしないでやるから、お前は引っ込んでろ」
「…だってよ。後は俺達に任せろよ。隊長さん!」
「天界の連中に情けかけられるなんざ、情けないったら無いぜ」
「ギャハハハハ…」

 ”隊長”の背後から悪魔達ははやし立てました。
 そして悪魔達は稚空の周りで包囲網をじりじりと縮めました。

「ま、待て。お前達…」
「お前の待ても聞き飽きたよ!」
「二ヶ月も待ったんだ。もう十分だろ?」
「大体お前は気に入らなかったんだよ!」
「まずはお前から血祭りだ!」

 言うなり、悪魔の一人の手が伸びその爪の切っ先が”隊長”の心臓を貫くかと
思われた瞬間、稚空は反射的に行動を起こしていました。
 手にしていたワイヤーを操り、”隊長”の身体を絡め取ると、彼をそのまま自
分の所に引き寄せ、”隊長”は地面に縛られたまま転がりました。

「こいつは味方じゃ無いのかよ!」

 稚空が言うと、周囲の悪魔達は再びゲラゲラと笑いました。

「魔王様が隊長に決めたから従ってたけどよ」
「こいつ、人間の姿が出来るだけでてんで力が無いと来てる」
「出来るのは伝令だけ」
「ギャハハハハ…」

 隊長のことを馬鹿にする悪魔達を見て、稚空はどうしようも無く腹が立って来
ました。

「こいつら…許せない」
「隊長の心配するより、まず自分の心配をするんだな! 行くぞお前ら!」
「おう! お頭!」

 お頭と呼ばれた悪魔の号令の元、周囲の悪魔達は一斉に雄叫びを上げ、稚空達
に襲いかかって来るのでした。

(第170話・つづく)

 予定では、後2話位なのですが…(←何気に1話程増えていたり)。
 では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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