神風・愛の劇場スレッド 第170話『二つの故郷』(その6)(05/06付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Tue, 06 May 2003 18:12:20 +0900
Organization: So-net
Lines: 552
Message-ID: <b97u9k$ag3$1@news01ch.so-net.ne.jp>
References: <b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
<b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>
<b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>
<b7tkbv$10s$1@news01cf.so-net.ne.jp>

石崎です。

先週は黄金週間のイベントのため、お休みしてました。

例の妄想スレッドの第170話(その6)です。

(その1)は、<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
(その2)は、<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
(その3)は、<b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>
(その4)は、<b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>
(その5)は、<b7tkbv$10s$1@news01cf.so-net.ne.jp>からどうぞ。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そう言うのが好きな人だけに。



★神風・愛の劇場 第170話『二つの故郷』(その6)

●桃栗町郊外

 何ら得るところ無く、採石場跡地改めマンション建設現場から車で立ち去るこ
とになった稚空達は、大和の提案で別の心霊ポイントに向かうことになりました。
 稚空としては、丁重にお断りしたいところでしたが、ひょっとしたら何かある
かと思い直し、今日一日位はとつきあうことにしたのです。

「さっきの工事現場ですけど、奇妙ですよね」

 車が走り出して工事現場が見えなくなった頃、大和がそう切り出しました。

「確かに。何も無いのにシンドバットが出現するというのは奇妙だが」
「いえ、シンドバットが出現したのは、あの場所では無く、あの場所の近くです
から…」
「この辺りにはあそこ以外は林しか無いから、狙いはあそこで間違いあるまい」
「ええと、そんなことじゃ無いんです。工事の様子が、変なんです」

 大和の言葉を聞き、工事の様子を思い出そうとした稚空。
 それは、どこでも見られる工事風景に見えたのですが…。

「昨日は、あそこは何も無い更地だったんですよ? いきなり杭打ち作業に入る
ものでしょうか?」
「杭打ち?」
「基礎工事ではあるんですけどね。僕、小さい頃にお爺ちゃんと一緒に本社ビル
の建設現場を見学したことがあるんですけど、その前にも鉄板を地面に打ち込ん
だり、他にも色々とやっていたような」
「手抜き工事なのかもしれんな」
「そうでしょうか…」

 腕組みをして、記憶の中で現場の様子を思い描こうとした稚空。
 その中で、自分が知る名がありました。

「山茶花建設…」
「え?」
「工事用の車両にその名があった」
「私が見たのは桃栗建設のものだったが…」

 昴がそう言った時、前方からトラックが走って来てすれ違いました。

「水無月建設ですよ」
「え?」
「水無月・桃栗JVと書いてありました。看板に。名古屋君も見てたじゃないで
すか」
「そう言えば…」

 そんなことも書いてあったなと思い出した稚空。

「じゃあ、弥白の所が委員長家の会社の下請けをやってるってことか…?」
「さぁ、そこまでは…」

 そう言い、大和は首を傾げます。
 この車の中にいる面々だけで結論が出る筈もなく、結局、その話題はそこで打
ち切りとなってしまうのでした。


●枇杷町・山茶花本邸

 その日も山茶花弥白の護衛及び監視の任務をセルシアは時々の居眠りを挟みつ
つ忠実にこなしていました。
 学校から戻って来た弥白の部屋を窓の外から覗いていたセルシアは、時々、彼
女と目が合いそうになると慌てて身を隠します。
 その所為でセルシアは、窓の外を見つめる弥白の暖かい眼差しを感じることは
ありませんでした。

 その日何度目かの身を隠した後、そっと部屋の中を覗き込んだセルシア。
 ソファに座り何かの本を読んでいた弥白。
 携帯電話が鳴ったらしく、その画面を覗き込むと表情を明るくしたところから、
誰か大切な人からの電話の様でした。
 窓越しなので声は殆ど聞き取れないものの、弾んだ声で話していた弥白は、電
話を切ると表情をたちまち曇らせました。

「(誰からの電話ですです?)」

 弥白の表情の急激な変化に、電話の内容が気になったセルシア。
 しかし、急に弥白の表情は明るさを取り戻すと、今度は立ち上がり窓際にある
机へと向かいました。
 机の上にディスプレイがせり上がり、何やら生き生きとした表情で端末(それ
がどういう機械であるものか、セルシアには想像もつかなかったのですが)に向
かう弥白の姿を見て、セルシアは胸を撫で下ろしました。
 また、何か嫌なことがあったのかと思ったけど、この様子なら大丈夫だろうと。

”セルシア”

 頭の中に、セルシアを呼ぶ声が響いたのはその時です。

「トキ!?」

 セルシアは自分を呼び出した者の名を口にしました。

「ここですよ、セルシア」
「トキですです?」
「はい」

 トキは屋根から、ふわりとバルコニーの手すりの上に舞い降りました。

「ちゃんと仕事をしていましたか?」
「ちゃんとやってたですです」
「弥白嬢に何か変わった様子は?」
「特に無いですです」

 先程弥白が見せた憂いの表情が気になったものの、セルシアはそのことをトキ
に伝えるのは止めにしました。
 トキに話すと、大騒ぎになりそうな気がしたからです。

「でしたら、一休みして何か温かい物をご馳走になっていらっしゃい」
「え?」
「何時もお弁当ばかりですから、偶にはちゃんと暖かい夕食を」
「でも…」
「ここは、私が見ていますから。それに私は先程食事は頂きましたので」
「…ありがとう、トキ」
「さ、そろそろ日下部さんが帰宅する刻限です。早く」
「じゃあ、直ぐに戻って来るですですっ!」
「ごゆっくり」

 最初は遠慮がちに、空中に浮かび上がって暫くしてからはいそいそと、オルレ
アンの方角へと飛んで行くセルシアを見送ったトキ。
 ごゆっくりと言った彼ですが、まさかセルシアが戻って来るのが翌朝になると
までは想像出来なかったのでした。


●桃栗町西部郊外・ツグミの家

「それじゃ、そろそろ…」

 午後のお茶の一時はたちまち過ぎていき、日も落ちかけた頃。
 レイ達はツグミの家を辞そうと立ち上がりました。

「あ、待って」

 慌てて立ち上がったツグミは、レイ達を引き留めようとして、そしてよろけま
した。

「危ない」

 よろけたツグミをレイは抱き留めました。

「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」

 顔を見上げ、礼を言うツグミ。
 その顔を間近に見て、レイの顔が何故か紅潮します。

「…お願いがあるんです」

 ツグミはレイの腰に手を回し、自分から抱きつく形になっていました。

「な、何だ?」
「せっかくだから、夕食もいかがですか?」

 そう言い、回した手に力を入れるツグミ。
 自然、身体はより密着する形になりました。

「駄目だよ。今日は…」
「待て、奈美。そうだな…良いんじゃないか?」
「麗子!」
「判った。夕食もご馳走になろう。ただし…」
「はい」
「料理、一緒に作らせてくれないかな?」

 もちろんツグミが、嫌と言う筈などありませんでした。


●桃栗町郊外

 とっぷりと日が暮れた頃。
 大和達と別れ、工事現場を監視していたアクセスと合流した稚空は、再び工事
現場を視認出来る場所に舞い戻っていました。

「俺が居ない間、状況は?」
「特に変わった様子は」
「工事の方は?」
「日没前に終了。人間はみんな引き揚げたらしい」
「良し。じゃ、行くぞ」

 そう言い、稚空はシンドバットの姿となり、工事現場へと跳躍して行きました。
 その後を慌てて追いかけるアクセス。

 ほんの一飛びで、工事現場を取り囲むパネルの内側に着地すると、シンドバッ
トは辺りを見回します。
 辺りは殆ど静寂と暗闇に包まれている他、特に変わった様子はありません。
 空に半円を描いている月明かりと星明かりだけが、工事現場と二人を照らし出
していました。

「待ってくれよ〜。シンドバット」
「悪魔の気配は?」

 シンドバットがアクセスに尋ねると、アクセスは周囲の気配を注意深く探りま
した。

「待ってくれ…。これは…当たりかも?」
「やはりな」
「やはりって?」
「昨日、この近くで現れた悪魔」
「悪魔位、この街にはどこにでも居るけど」
「そして昨日まで何も無かったのに、いきなり始まった工事」
「どこでも工事位やってるじゃん」
「委員長が言うには、建設の手順を幾つか省略しているらしい」
「手抜きなんじゃないの?」
「それと、あれだ」

 毎日運んで行くのが面倒なのか、置いたままになっている機械の一つをシンド
バットは指さしました。

「山茶花建設…? 弥白の会社じゃん」
「そうだ。しかし、山茶花グループはここの工事に関わっていないらしい」
「本当かよ?」
「弥白に調べて貰ったから確実な情報だ。だからこの工事は、どこかおかしい」
「それじゃ、ここは…」

 その時、二人が灯りで照らされました。

「誰だ!」
「げ…」
「人がいたのか!?」
「か…怪盗シンドバット!?」

 二人に灯りを向けた警備員が、シンドバットの姿を認めてそう言うと、今度は
笛を工事現場に響かせます。

「出たぞ! 怪盗シンドバットだ!!」

 それを合図に、それまで沈黙していた土木機械のエンジンが一斉に動き出し、
ライトがシンドバット達を照らし出しました。
 そして、どこから現れたのか警備員と作業員がじりじりと二人を取り囲みつつ
ありました。

「待ち伏せか!?」
「昨日の今日だしなぁ…。警察から連絡があったんじゃないの? どうする?」
「うーん。見た目、一般人だしな…。警察なら、遠慮しないのだが」
「でも、この工事自体怪しいんだろ? 悪魔の手先かもよ」

 などと、話している間にも警備員と作業員らしい人影がじりじりと二人に迫っ
て来ています。

「仕方無い。引き揚げるぞ」
「え〜」
「彼らが何者であれ、目標が判らないのでは戦う意味も無い」
「確かに」

 シンドバットは、自分を包囲している土木機械の頭上を飛び越えて、再び元来
た方向へと引き返そうとしたのですが。

「ゲラゲラゲラ…」

 何者かがシンドバット達を嘲笑している笑い声が響きました。
 最初、工事現場の警備員達が笑っているのだと思い、流石にむっとしたシンド
バット。
 しかし、声の主は彼らではありませんでした。

「おい、シンドバット!」
「ああ、見えている」

 シンドバット達を追いかける形となっている作業員と警備員達。
 その後ろには、見間違うことも無い魔界の住人が何匹か居て、シンドバットの
方を指さし腹を抱えて笑っているのでした。

「どうする?」
「決まってるだろ!」

 シンドバットは再び警備員達の頭上を舞い、魔界の住人達の前に降り立ちいき
なり封印のピンを投げつけました。

「チェックメイト!」

 しかし、ピンが彼らの所に到達する前に、魔物達は地面へと姿を消して行きま
した。
 そして地面からは彼らの嘲笑だけが響くのです。

「糞…」
「こっちだ!」

 再び背中から、警備員達の声が迫って来ました。
 今も響いている魔界の者達の嘲笑は、彼らの耳に届いているのだろうか?
 そう、シンドバットは思います。

「シンドバット!」
「仕方無い。出直すことにする」
「でもよ…」

 アクセスの言葉に直ぐには答えず、跳躍したシンドバット。
 再び一飛びで工事現場のパネルを飛び越え、敷地の外へ出たところで追いかけ
てきたアクセスの方を振り返り、そして言いました。

「アクセスに頼みがある」
「おうよ」
「この工事現場から、魔物達が移動しないかどうか、見張っていて欲しい」
「判った。けど…」
「うん。トキとも相談して、別の作戦を考えることにする」
「まろんとセルシアには?」
「セルシアは弥白の護衛で使えない。まろんについては、作戦を考えてから話す
かどうか決める」
「良いのか?」
「良いさ。まろんには…」
「はいはい。練習に集中させてやりたい、だろ?」
「判ってるじゃないか」
「へへ…」
「それじゃ、後は頼む」
「おう!」

 その頃には、敷地の外であるこの場所まで、警備員達が懐中電灯を手に迫りつ
つありました。それを確認したシンドバットは、彼らが来る方角とは反対方向で
ある林の中へと、姿を消して行きます。
 その間も魔界の者達の嘲笑はやまず、それはシンドバットの姿が完全に見えな
くなった後も暫く、アクセスの耳に届いているのでした。


●桃栗町西部郊外・ツグミの家

「ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした」

 ツグミ指導のもと作った夕食を平らげた三人。
 ツグミが聞くところ、二人の少女は箸の使い方に不慣れな様子で、本当に日本
に関する知識が無いのだろうと改めて感じました。

「もう夜も遅いし、今日は泊まっていって」

 ツグミが切り出したのは、食後のお茶を三人で飲んでいる時でした。

「え、でも…」

 戸惑った感じで、奈美が言いました。

「いや、私達はこれで」
「そう…今夜は寂しくなりそう」

 そう言うと、ツグミは本当に寂しそうな表情を見せました。

「う…」

 二人が顔を見合わせている様子が、目の見えないツグミにも判りました。
 暫しの沈黙の後で、麗子が言いました。

「そうだな…。夜も遅いし、泊まらせて頂くことにしよう」
「嬉しいわ」

 そう言い、ツグミは心からの笑顔を見せるのでした。



 居候の先に電話をするという名目で、部屋から出たレイ。
 その後から、ミナが追いかけて来て、手を握って心の中に囁きかけました。

”ちょっと、どういう積もり? 泊まるだなんて!”
”神の御子の愛人に、興味があってな”
”ははーん。惚れたか?”
”馬鹿なこと言うな”
”酷いわ。この私というものがありながら…”
”私はミナだけだぞ。…ホントだからな”
”だって、ツグミに抱きしめられて、顔真っ赤だったよ”
”それは…”
”冗談よ、冗談。本当は、あの娘に同情しただけでしょ”
”そんな訳ではない。神の御子の弱点について情報収集をだな”
”はいはい。そう言う事にしておきます”
”引っかかる言い方だな”
”とにかく、みんなに連絡を”
”そうだな”

 そんなやりとりの後、本陣に連絡を入れたレイ。
 しかしながら、彼女達の指揮官は未だ帰還していないとのことでした。
 代わりにトールンに外泊を告げると、予想通り彼は怒り出したものの、宿泊先
が神の御子に近しい人物であり、偵察活動の一環であると告げると渋々ミカサに
伝えておくとだけ言ってくれた後、明日作戦行動があるので、朝一番で帰還する
ようにと伝えられました。

”作戦行動…ですか? 一体どんな?”
”それが儂らにも良くわからんのじゃ。明日の朝の会議で伝えられるらしい。だ
から、朝の会議には遅れないようにな”

 明日の作戦行動のことが気になったものの、外泊の許可が出たことに安堵した
レイは、ミナを伴いリビングへと戻りました。

「あ、お風呂の用意が出来てますよ」
「お風呂…?」
「そうそう、日本のお風呂は、初めてかしら?」
「どこか余所と違うのか?」
「ジャグジーとか、温泉に入ったことは?」
「ジャグジー?」
「ふぅん。初めてなんだ」
「シャワーはあるんだろ?」
「あるけど…勿体ないわね。折角沸かしたのに」
「そ、そうなのか?」
「それじゃあ、一緒に入りましょう。日本のお風呂の入り方、教えて上げます」

 そう言うと、有無を言わさずレイの背中をツグミが押しました。

「あ、私も私も!」
「良いですよ。三人だとちょっと狭いかもしれないけど、それもまた良いかも」

 とても嬉しそうに、ツグミは言いました。
 その嬉しそうな声を聞くと、何だか自分も嬉しい気がするレイでした。


●桃栗町の外れ・ノインの館

「ところで、ノイン様が言い忘れた様子なので私から伝えるのだが」
「はい」

 独断行動の咎で自らかけた力の封印を暫くそのままにするよう命じられたユキ
が、次の作戦である、フィンとまろんの単独会見についてミカサから説明を受け
たのは、アンの力の影響を受けたノインが寝室に引き上げた後のことでした。

 自分の留守の間に、その様な作戦が既に進行していたことに、恥ずかしい思い
を抱いたユキは、作戦が失敗して良かったというノインの言葉を思い出します。

「それでは、作戦の第1段階は既に済んでいるのですね」
「うん。当初の作戦を急遽変更してね。幸か不幸か、偽装工作の方も不完全だっ
たので、好都合でもあった。それで現在、現場には天使が一人、張り付いている
らしい」
「追い払わないのですか?」
「彼には、見ていて貰わないといけないからね。それに、土の中にいる限り、天
使には手出しは出来まい」
「天使が力を合わせれば、土の中にある魔族を焼き尽くすことも可能かと」

 しかし人間に気づかれてはならない以上、それは出来ないだろう。
 ユキは言いながらそう思い、ミカサの答えもそれを肯定するものでした。
 そして彼は、溜息をつくとこう言ったのです。

「それにしても、流石に神が身近に置くために作り出した生物だけあって、巨大
な力を持つ天使だが、空間を跳躍する力だけは持っていなくて良かったと思うよ」
「ミカサ様は、どうして天使が空間を超えることが出来ないか、ご存じです
か?」
「不勉強にして、そこまでは」
「天使が勝手に『楽園』と称する天界から逃げ出すことが出来ないように、その
力だけは与えなかったのだそうです」
「ほぅ?」
「魔界の通説です。真実は神のみぞ知るというところですが」

 ユキはそう言うと、ワイングラスの中の赤い液体を飲み干しました。
 すると、ミカサは空いたグラスに液体を注ぎます。

「すると神は、自ら生み出した生物を信じられないということなんだね」
「ヒトに裏切られ、魔王様に裏切られれば、仕方の無いことなのかも」
「魔王様に?」
「魔界に住む天使達から聞きました。天界での伝承だそうです」
「魔界で聞いた話と違うな」
「はい。私の同胞の間では、神は自らに生き写しの魔王様を嫌悪し、次元の狭間
に捨てたのだと言い伝えられています」
「話が逆だね」
「ええ。今となっては、真実は魔王様と神のみが知ることかと」

 ユキの話を聞き、ミカサは思います。
 この戦いは、ひょっとして壮大な痴話喧嘩なのだろうかと。
 その考えを突き詰めると、魔王に対する叛意すら抱きかねないと感じたミカサ
は、自らの力ではどうにも出来そうにない大きな話題から、自分の力で何とか出
来る小さな話題に戻ることに決めました。

「話が逸れたな。作戦の話に戻ろう」
「はい。この作戦ですが、幾つか問題点を指摘しても宜しいですか?」
「うん」
「まず、第二大隊がこちらの指示通りに動くのかについてです」
「大隊長は同意してくれている。兵達には明日、私から改めて依頼するつもりだ」
「次に、天使達と神の御子をそう都合良く、引き離せるのかについてです。今日、
我らの存在の一部を暴露していることですし、統一行動を取られると面倒です」
「良い質問だ。それについては、考えがあるんだ」

 そう言うと、ミカサは自分の構想をユキに説明しました。
 少し不満な表情を見せつつも、その構想に同意したユキは、次に作戦の最終段
階についての質問をぶつけ、ミカサはそれに答えます。
 とうとう地図まで広げだし、二人の議論は終わることなく続き、結局、終わっ
たのは夜明け前となりました。
 先程願った小さな幸せとは違うものの、その時のユキはとても幸せでした。


●桃栗町西部郊外・ツグミの家

「この寝室を二人で使って」
「ああ、ありがとう」
「では、お休みなさい」

 この家に幾つか存在する空き部屋の一つ。
 そこにツグミに案内されたレイとミナは、部屋に一つだけあった寝台に仲良く
並んで横たわり、手をつなぐと二人だけの会話を始めました。

”流石に、一緒に寝ようとまでは言わなかったね”
”ああ。もし言われたらどうしようかと”
”本当は言われたかったくせに”
”馬鹿言うな!”
”でも、さっきはまんざらでも無さそうだったじゃない”
”ミナこそ、調子に乗ってツグミにべたべたと”
”あ、あれは、お返しって奴よ”
”…冗談はここまでにしよう”
”うん”
”これは推測なのだが、ツグミは私達の正体を探っていたのでは無いか?”
”そうなの?”
”だから初対面の我々を家に招き入れ、あんなにべたべたとすり寄ったのだ”
”でもどうして”
”情報では、ツグミは天使の存在を感じることが出来るとか”
”気配を探知出来るだけだと思っていたけれど”
”もしも、会話が出来るとしたら…”
”アクセス!”
”うん。昼間は気づかない様子だったが、振りだけかもしれん”
”そう言えば、彼女の心なんだけど”
”私には好奇心の色に見えた”
”私はその下に理性、そして寂しさの色を見たわ”
”成る程。彼女の行動には本音もある程度含まれているのかもな”
”でも、お風呂にまで我慢して入ったのは正解だったね”
”ああ。彼女が我々の正体に気づいた気配は無かったからな”
”神の御子の愛人の人物も判ったし、結果オーライかも”
”そうだな”

 そう言うと、ミナに顔を向けていたレイは、仰向けになりました。

「明日は早い。今日はもう寝ることにしよう」
「うん! じゃあ、今日は私の番だね」

 言うなり、ミナはレイに覆い被さってきました。

「わ、馬鹿! 今日は止せ。ツグミに聞こえる」
「別に良いじゃない」
「しかしだな」
「それに、あの娘に触られているうちに…」
「全く、仕方の無い奴だな」

 そう言うと、レイも腕をミナの身体に回すのでした。



 ツグミは暗闇の向こうから潮騒の音に混じり届く音を聞いていました。
 その音を聞きながら、思い描くのはただ一人。

 そう言えば、この前は何時だったろう。
 いけない、私が彼女の重荷になってしまっては。だけど……。
 枕を抱きかかえ、ツグミは眠れない一夜を過ごすのでした。

(第170話・つづく)

 漸く月曜日が終了。後、2〜3週位です。
 寄り道展開が長くなっちゃいました。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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