神風・愛の劇場スレッド 第170話『二つの故郷』(その5)(04/20付) 書いた人:携帯@さん
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ
From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 20 Apr 2003 17:05:15 +0900
Organization: So-net
Lines: 395
Message-ID: <b7tkbv$10s$1@news01cf.so-net.ne.jp>
References: <b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
<b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>
<b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>

石崎です。

先週は休日出勤でお休みしてしまいました。
残業が半月で百時間を超えてしまいました…(泣)。
春の新番組は未だ全く観ていなかったりして。

例の妄想スレッドの第170話(その5)です。

(その1)は、<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
(その2)は、<b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
(その3)は、<b5k511$5qt$1@news01bh.so-net.ne.jp>
(その4)は、<b6p2k8$pmc$1@news01bf.so-net.ne.jp>からどうぞ。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そう言うのが好きな人だけに。



★神風・愛の劇場 第170話『二つの故郷』(その5)

●桃栗町郊外

週初めの学園の一日は何事も無く過ぎて行き、授業終了後自宅で着替えてからア
クセスとの待ち合わせの場所である、町外れのバス停へと向かった稚空。
目的の場所に到着すると、彼の相棒は既に彼を待ちくたびれて欠伸をしていると
ころでした。

「すまない。待たせたな」
「いや、俺もさっき来たところ」
「そうか。それじゃあ行こうか」
「ああ」

そう言いつつ、昨日の採石場の跡地へと向かう稚空達。
採石場はここから歩いて30分程度かかるために、今日は自転車に乗って来ました。
それ程急ぐ事も無く、二車線の道路を自転車で進んで行く稚空とその上空をふわ
ふわと飛んで行くアクセス。
道程の半分を来たところで、彼の横を一台の車が通り過ぎて行き、そして前方で
急停車しました。
前方で止まったワゴン車の窓が開くとそこから見知った顔が出て来ました。
それを見て、稚空は困ったなという表情を一瞬だけ浮かべ、続いてその人物にそ
の感情を気づかれないように努めつつ、彼の名を呼びました。

「昴さん。どうしてこんなところに?」



「いやぁ。偶々今日、休みを取ることが出来てね」
「それで僕に連絡があったんですよ」
「うむ。水無月君も独自に行動を起こしていた様子なのでな、行動を共にするこ
とにしたのさ」
「割と広い街ですからね。やはり自動車があると助かります」

聞けば、稚空の目的地と同じ採石場跡地へと向かうと言う昴達。
昨日は危険な目に遭わせたくないという思いから、行動を別にすることにしたの
ですが、今日は渋々ながらも行動を共にせざるを得ませんでした。
ちなみに自転車はワゴン車の後部に載せています。

「委員長、昨日も採石場に行ったってさっき言ってなかったか?」
「ええ。ですけど、家でネットを確認したら、面白い書き込みがあったんです
よ」
「書き込み?」
「例のニュースグループですよ」
「ああ。momokuri.*な」
「昨日、怪盗シンドバットが現れたそうなんです。あの採石場跡地の近くで」
「……」
「でも、マスコミでは一切報じられていないらしいんです」

昨日警察に追いかけられたのに、テレビでも新聞でも何も報じられていないこと
を稚空は今更気づきました。

「警察が情報を伏せているだけだろう?」
「そうですよね。僕もそう思います」
「しかしだからと言って、再びあそこに行く理由にはならないだろう」
「名古屋君。僕が東大寺さんと日下部さんに何を約束したか、覚えています?」
「何だっけ?」

実際、大和の約束とやらを半分忘れ去っていた稚空。
考え込んでいると、やがて彼の方から教えてくれました。

「ほら。怪盗シンドバットを僕が捕まえるって…」
「そんな約束、してたっけ?」
「酷いなぁ。遊園地に行った時ですよ」
「……おお!」

漸く、稚空は思い出しました。そして首を傾げます。

「あれ? あの約束は確か…」

まろんに対しての約束であったはず。
それが今は、都に対するそれが加わっており、しかもまろんの前に来ている。

「何ですか?」
「あ、いや、何でも無い(そう言う事だったのか)」

そんな気はしていたものの、改めて大和の気持ちに気づいた稚空は、二人のこと
を応援してやるつもりでいます。
もちろんそれは、半分は自分のためという側面もあったのですが。

「怪盗シンドバットはあの場から逃げ出したと記事にはあります。だから、あそ
こで待っていれば、もう一度現れるかもしれない。そう思うんです」
「ふ〜ん(何でそんなことまで投稿されてんだよ!)」
「それにだ。怪盗シンドバットが現れたということは、何も無いはずのあそこに、
実は彼が狙う何かがあるかもしれないという事だろう? 興味深いねぇ。面白そ
うだねぇ。いやぁ、実にワクワクするよ」
「そ、そうですね(あんたは研究にだけ没頭してれば良いんだよ!)」

昴達に引きつった笑いを見せながら、稚空は誰がそんな投稿をしたのだろうと考
えていました。



採石場跡地へと近づいて行くにつれ、対向車線をすれ違う車の量が段々と増えて
行きました。もしも採石場が跡地で無かったのであれば、ダンプカーが何台通り
過ぎようとも稚空は気にしなかった筈ですが、今はただの空き地と崖しか無い場
所なのです。

「何だろう? どこかで工事でもしているのかな?」

昴も同じ感想を抱いたらしく、そう呟きました。

「昨日はそんなこと無かったんですけどね。日曜日だからでしょうか?」
「ひょっとすると、あれのせいかな?」
「え?」

昴の視線の先を見ると、そこには昨日までは無かった筈の工事用パネルが延々と
連なり壁となっていて、その中に唯一開けられた出入り口から、土砂を積んだダ
ンプカーや資材を積んだトラックがひっきりなしに出入りしていました。

「委員長、あれは…」
「昨日はあんな壁はありませんでしたよ?」
「それじゃあ今日、工事が始まったってことか?」
「そうなんでしょうねぇ」
「それじゃ君、ここが…」
「はい。採石場の跡地、なんですけど…」

工事用のパネルの前で車を停車させ、降り立った稚空達。
その場をうろうろして見ても、パネルの向こう側を見る事は出来ません。
しかし工事用パネルには、建築許可と合わせて完成予定図が掲げられていること
から、どうやらこの地にマンションを建設するということのようでした。
それを確かめるべく、入り口まで来て中を覗き込むと、中では建設機械が忙しく
動き回っている様子が見えました。

「そこの君達」
「はい?」

もっと中の様子を伺おうとすると、入口側に立っていた警備員に声をかけられま
した。

「危ないから、そんなところに立っていないで」
「あ、はい」
「それとあそこの車。君達のだろう? 邪魔だからどけてくれないかな」
「すいません。今、動かしますから」
「あの!」
「何?」
「この工事は…」
「そこにあるだろう? ここにマンションを建てるんだとさ」
「こんなバスも通らない場所に?」
「確かになぁ。だが、俺は警備会社に派遣されただけだからなぁ」
「それもそうですよね」
「とにかく、危ないからどいたどいた」
「あ、はぁい」

結局、今日も何も得るところ無く、この場を引き揚げることとなった稚空達。
何事も起きずにこの場を離れられることに安堵した稚空。
ですが、もちろんこれだけで納得するつもりはありませんでした。


●桃栗町西部郊外 ツグミの家

竜族側の買い出し部隊の指揮官にきちんと断ってから、レイ達はツグミの家へ向
かいました。
海沿いの崖の上にあるツグミの家に到着して、まず最初に行ったことは買い物し
た食材の仕分け。
購入した食材や調味料は、そのまま冷蔵庫や棚に収納するのでは無く、それぞれ
別々の容器に移し替えて保存しないと後で「見分け」が出来なくなるものがある
とのことで、ツグミの指示通りに移し替えを手伝いました。
それが終わった頃には丁度午後のお茶の時間。

「良かったらホットケーキを一緒に作ってみない?」

そうツグミに言われ、ホットケーキ作りをすることになったレイとミナ。
本当はホットケーキミックスを使うと簡単なのよ。
そう言うツグミの指導のもと、材料の計量から焼く段までの全てを自分達の手で
やり遂げたレイとミナ。
ツグミの言う事を全て記憶し、どんな些細な点についても疑問に感じたらツグミ
に聞きまくったのが良かったのか、完璧な焼き上がりとなりました。

「どう。美味しい?」

二人に即され、ツグミはホットケーキを一口。

「うん。完璧!」

ツグミが親指を立ててみせると、レイとミナは抱き合って喜ぶのでした。



「ごちそうさまでした」
「美味しかった〜」
「紅茶、お代わりは如何?」
「はい、頂きます」

そう言うと立ち上がり、慣れた様子でキッチンに紅茶のお代わりを入れに行くツ
グミの様子を見ながら、レイは言いました。

「慣れた様子だったけど、大変なんだろうな…」
「何が?」
「目が見えない状態で、一人で暮らすことがさ」
「ご両親とか、いないのかしら?」
「さぁな」
「父なら、遠くに住んでいるわ」

思ったよりも早く居間に戻って来たツグミが、ティーポットを手にしたままで言
いました。

「遠くに?」
「…と言っても、同じ日本だけど」
「一緒に住まないの?」
「私はこの街が好きだから。それに」
「それに、何?」
「奈美。止しなさい」
「良いの。父は亡くなった母とは別の女(ひと)と今は暮らしているから」
「そう…」

聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
そう感じた二人は、ずず…と小さな音を立てて紅茶のお代わりを口にしました。

「ねぇ、私からも聞いても良い?」
「何なりと」
「二人は、どこから来たの? この街の人では無いみたいだけれど」
「それは…」
「アウスト…」

アウストラリスと答えそうになったミナの口を慌てて押さえたレイ。

「ハワイの方から来た」
「まぁ、ハワイなんですか。じゃあ、アメリカの人なんですか?」
「一応、この国の出自なのよ。こんな髪の色だけど」

雰囲気を察して、ミナも口裏を合わせてくれている様子で、レイは密かに胸を撫
で下ろしました。



カフェで二人の正体ついて探って欲しいとアクセスから頼まれていたツグミは、
帰り道、そして家についてから今に至るまで、二人の様子をそれとなく伺ってみ
ましたが、今一つ彼女達の素性の確信が持てませんでした。
確かに、この街や日本のことについて知らないのは事実でしたが、外国育ちなの
だと聞けば、それで普通な気もします。

「(やはり、あの手しか無いのかな。うん、仕方無いわよね)」
「ツグミさん?」
「あ、はい」
「どうしたの?」
「え?」
「何だか、とても嬉しそう」

そう指摘されたツグミは慌てて表情を引き締めるのでした。


●桃栗町のどこか ノインの屋敷

フィンが目を覚ましたのは、既に午後のお茶の時刻を過ぎた頃でした。
ミストとの戦いで受けた傷は既に癒え、起き上がっていても良かったのですが、
それでも部屋から出なかったのは、この屋敷の新しい居候に原因がありました。
竜族の族長に連なる一族の娘、アン。

彼女が数年前に起きたアウストラリスの戦いで傷つき記憶を失っているばかりか、
天使の姿を見ると怯えるので、彼女の前では翼を見せない様にして欲しいとノイ
ンから依頼されたのは、魔界からの増援が到着した翌朝のことでした。

ノインには話しませんでしたが、実のところ変化の術は天使にとって高度な術で
あり、完全に人の姿に変化しようとすると、使える術に制限が出てしまうのです。
それは別に良いのですが、天使の誇りである翼を隠していろと言われたことが無
性に腹立たしく、結局はアンの前には決して姿を見せまいと決めたのです。

起き上がったフィンは、屋敷の中にアンの気配が無いことに気付くと、水晶玉で
屋敷の各部屋を確かめ、やはりアンが外出していることに気付きます。
それを確認してから扉をそっと開け、そろりそろりと廊下をそして階段を進んで
行くフィン。
そうしてリビングの前に来てから、そっと中の様子を伺います。
中に居たのはノイン、そして第一大隊長のミカサでした。
シルクの姿が見えませんが、どうやら台所で夕餉の支度をしている様子でした。

シルクのことをさておいて、中の会話を盗み聞きしようと尖った耳を動かしたフ
ィン。果たして、会話の内容が彼女の耳に届きました。

「彼女は先の人間界侵攻際に最前線で生き残ったと聞きました。それも間一髪で
あったと」
「私もその話を聞いたときに思いました。残忍な感情に支配されていた天使達、
それでも最後の一線を踏み越える事を纔かながら遅らせたのは彼女の絶対的な絶
望」
「それが天使達に彼女を絶望の中で既に息絶えた者として認識させた…」
「或いは既にその時、アンの中で心が壊れてしまっていたのかも」
「それは死者の感情という事ですか」
「想像の域は出ませんけれどね」

聞こえたのは会話の一部でしかありませんでしたが、アンの名が出たことから先
年のアウストラリスの戦いの話であるのだと思いました。
アンがどの様な恐ろしい目にあったのか、その話から想像してしまったフィン。
暫く、廊下の壁に背を預けて、じっとしたままでいたのです。
天使達の過去に侵した過ちについて話している場に、踏み込んで行くようなこと
は出来ませんでした。

暫く待ち、二人の話題が別の話題へと移行した頃合いを見計らい、フィンは今起
きたという風を装いつつリビングへと姿を現しました。
ミカサは即座に、ノインはゆっくりと立ち上がり、フィンに敬意を表しました。
手で二人に着席して良いと告げると、フィンも後から着席しました。
ノインが背中に在る翼に注目していることに気付いたフィン。

「アンは出かけているのだろう?」
「御意。ですが…」
「どこに出かけているのか?」
「はっ。実は……」

恐縮している風のミカサから報告を受けたフィン。

「不憫な娘だ。好きにさせてやるが良い」
「は…」

更に恐縮した風のミカサ。
そんな二人の様子を見ながら、ノインはミカサの心中を思います。
元は実の妹でありながら、今は主君と部下の関係であるミカサ。
そしてノインは知っています。
二人がどの様な状況で人の世界を離れることになったのか。
そのことをフィンが知ったなら。

「ノイン?」
「あ、はい」
「どうした。お前にしては珍しく呆けていたぞ」
「それは失礼を」
「実は、重大な話がある」
「重大な?」

そう言いはしたものの、ノインにはその用件が何であるのか判っていました。

「私は早ければ明後日の朝、魔界へと帰還する」
「明後日? 水曜日の朝ですか。それで、神の御子とは…」
「神の御子? ああ、まろんのことか。可能なら、明日の夜に会おうと思う」
「火曜日の夜。随分と急ですな。して、どこで会われるので?」
「知れたこと。まろんの家に私から出向く」
「何ですと?」

流石に少し驚いたノイン。
そして、直ぐに自分が何をすべきなのかを理解します。

「すると、日下部まろんの仲間達を全てクイーンとまろんが出会っている間中、
二人の側に近づけてはならない事になりますが…」
「その通りだ。結界でも張れば可能だろう?」
「は。しかし…」

正直、ミストとの戦いの時に結界を突破されていただけに、単純にまろんの部屋
の周囲に結界を張るだけでは駄目だろうと考えていたノイン。
もう少し策を練る必要がありそうでしたが、直ぐには上手い手が思いつきません
でした。
しかし、その時横からミカサが口を挟みます。

「そういうことでしたら」
「何か良いアイデアでも?」
「はい」

ミカサが立てた作戦案。
それは、最近の神の御子の仲間達の行動を逆用するものでした。
彼らの最近の行動は、魔界側に対して危機感を抱かせるものでしたが、今はこれ
を利用すべき。そうミカサは説いたのです。

「良かろう。作戦が上手く行ったならば、私はまろんの家に向かう事にする」

ミカサの作戦案を全て聞き終えたフィンは即座に許可を出しました。

「名古屋稚空達の相手はミカサに任せます。私は、クイーンを直接御守り申し上
げる」
「ははっ」
「頼む」

そう言うと、フィンはシルクに命じて食事を用意させ(急に用意させたので、タ
ンシチューは間に合わなかったそうです)、再び寝室へと引き揚げて行きました。

実のところ、ミカサの腹案では作戦における役割はノインの命令と逆でした。
ですが、何を考えたかノインが先に役割分担を決めてしまったので、不満には感
じても敢えて異議は唱える事はしませんでした。

そしてミカサの心中はノインも承知の上でした。
その上で、わざとミカサの思惑を外したのです。
それは理由あってのことでしたが、ノインはその後その理由をミカサに話すこと
は無かったと言います。

(第170話・つづく)

来週は春の黒ミサ準備のためお休みです。
では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ

 記事に対するご意見・ ご感想などがありましたら書いてやって下さい

 件名:
 名前: (ハンドル可)
 E-Mail: (書かなくても良いです)

 ご意見・ご感想記入欄