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虚業立国・日本の自叙伝

c55da8cd.jpgある催しで仕事をしていたらいきなりビル・クリントンが入ってきた。第42代米国大統領御本人だ。その場にいた300人ほどの人々は急な出来事に驚き歓声をあげスタンディング・オヴェイションで彼を迎えた。しかし、周囲の熱狂とは裏腹に私自身はいろいろと思うところが頭の中を過ぎってしまった。コイツのお陰でいま私は苦労しているんじゃないかと・・・。(笑) この人、日本人にとってはあまりありがたい大統領ではなかったように私は思っている。彼が大統領になった90年代前半の米国の国内経済の状態は悲惨そのものだった。冷戦が終結し軍需産業が再編に向けて動き出す中、経済の方は日本を中心とするアジアの新興国に押されてしまい、街には失業者が溢れ治安は最悪、米国はその威信をすっかり失っていた。その解決として彼が行った政策は経済のボーダレス化と自由化。そう云うと聞こえが良いが、実際は品物の生産や消費が無くても儲かる資本主義にゴーサインを出したってこと。実体経済ではよく働きよく創るアジアにかなわないから別の方法を考えたわけだ。株式会社は株主のものでありその筆頭株主がオーナーであることは100年以上前から変わらない原則。この原則を徹底しただけで米国の景気は回復した。商品開発力が無ければある会社を買収すれば良い。もちろんカネは必要だ。しかし、そのカネは別の事業で儲けたカネででも当然良いし、カネを持ってる会社を買収して得た金でも良い。ペーパーカンパニーがとりあえず実体のないカネを集め、実体のある企業が地道な商品開発で得たカネを奪うことも可能にした。会社は株主のものなのだがら株主になれば泥棒ではない。細かいルールも変えた。そうやって他国にも経済の自由化を迫り、実体経済で成長した他国の会社を次々に買収すれば、当然米国にカネは集まる。ついでに云えば、株や証券を運ぶのに荷車や船はいらない。情報さえ伝達すれば商売は成立する。そこでクリントンがブチあげたのが「情報スーパーハイウェイ構想」だった。それは一般的にはインターネットとして結実するが、本来の目的は「軍事」。しかし、それが民間にもたらした効果は「虚業の加速化」。そしてそれは大成功する。ところでカネを集めると簡単にいうがその元資はどこにあるのだろうか。実は米国、日本と違い景気が悪くてもカネは持っている。なぜなら世界の資源利権を握っているから。掘れば出てくるものに然したる工夫はいらない。資本主義社会では資源利権こそ打出の小槌。その資源利権が他国に奪われそうになれば、米国は即戦争。実に判り易い。わが日本も商品開発力が近年かなり落ちてきた。このまま行ったら実体経済ではアメリカどころかアジアの国々に負けてしまいそうだから、経済を自由化して米国のように生き残らねばならない。それがこれからの時代だなのだそうだ。折りしも日本有数のメディアグループにM&Aを仕掛けた若手実?業家に世間の注目が集まり、旧体制を倒すヒーローよろしく彼を応援する日本人も少なくない。しかし、よく考えて欲しい。その彼が企業買収をするために集めたカネは「米国の証券会社から借りたカネ」であり、奪い取るカネは「日本人が働いて蓄積したカネ」なのだ。既得権益を諸悪の根源の如く考えている人が多いが、日本の既得権益は日本人が戦後60年汗水垂らして働いて集まったカネではなかったのか。それを他国に供出することに喝采するとはとんでもない亡国行為だ。資源利権をほとんど持たず、働くことでしか元資を得られない日本がクリントンの猿真似をして生き残れるとは到底思えない。90年代を日本経済を空白の10年と云うらしいが、クリントンに騙された10年と云ってもいい。御本人は引退し、こんな片田舎にやってきているってのにまだ彼に騙されたいと思っている日本人が多いのがなんとも情けない。

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