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659fca00.jpgライブドアの堀江社長が日本外国特派員協会の講演で「インターネットが5~10年でメディアの主役になる」と云ったのに対し、フジテレビの日枝会長は「テレビは一番大衆に近いメディア。むしろテレビがネットを使いながら付加価値を広げていく。新しい技術革新と新しい視聴者サービスを怠らなければ、のみ込まれることは絶対にない。」と反論した。この議論、インターネットが普及し始めた10年程前からネット上ではよく行われていたものだ。パソコンやネットには詳しいがメディアの何たるかを知らないITおたくの皆様は口の中を泡だらけにしながら既存メディアに対するインターネットの優位性を説いたものが、なんと有名なIT企業の総帥が未だにそんな子供染みた理論を振り翳していたとは正に笑止千万、開いた口が塞がらない。10年前ならともかく、今それを云うのはペテンも甚だしい。仮に数年後にテレビがインターネットに飲み込まれるのなら、インターネット普及から10年の時を経た現在、既に新聞あたりはインターネットに飲み込まれていてしかるべきだろう。新聞1日分のデータ量など現在のパソコンやインターネットの処理速度からすれば取るに足らないものだ。しかし、インターネットの普及で新聞社が潰れたという話を私は聞いたことがない。むしろ実態は逆だ。新聞社のウェブサイトのトップページは検索サイトやテレビ局のホームページと並ぶ人気サイトであるばかりか、新聞社はインターネット上のポータルサイトや町や電車や航空機内にある電光ニュースに情報を流し、新たな稼ぎ口を見つけている。それもかつては専用線を敷設し経費がかけてやっていたものだが、現在は「インターネット」を利用している。こんな単純な例を示すだけでも技術的に可能だから飲み込まれると考えるのは実に小学生レヴェルの思考だってことがよくわかる。このようなことを書くと、既存メディアは規制に守られているから出来るのだとか暴利を貪っているくせにと罵る人が必ず現れる。確かに新聞は商法で守られテレビは免許事業として放送法で守られている。しかし、守られている反面、制約も多いことを世間の人々は知らない。例えば中波ラジオ局を買収すべく頑張っている昨今話題の会社のグループ企業にサラリーマン金融やアダルトエンターテイメント事業を行う会社があれば、定期的に行われる放送免許の更新はかなり面倒だ。放送局自身が放送以外に行える営利事業となると制約はさらに厳しい。やや話は逸れてしまったが、制約の多い電波事業に較べればインターネットは太平洋に自在に走り回れる高速船のように自由だ。その気になれば誰でもネット新聞を発行出来るし、ウェブラジオもウェブテレビも始められる。800億円も持っていてインターネットが優れていると力説するのであればすぐにでも始めれば良い。このように書くと今度は「日本は著作権規制が厳しいから商売にならないのだ」とネット厨は叫び出す。確かにJASRACの生真面目さは世界的に見れば異常。しかし、テレビ局も毎年億単位のカネをJASRACに払っているのだ。800億もカネを集められる会社ならそれは何とでもなるだろう。さて、皮肉はこの程度にして最後に「なぜテレビがネットに飲み込まれないのか」についての説明をしよう。テレビがネットに飲み込まれない理由(わけ)。それはメディアを使ったコンテンツビジネスに汎用性は不要だからだ。むしろメディアとしての特異性こそが商いのタネになる。インターネットでテレビを伝送したり新聞を表示したりすることは技術的にはそこそこ可能だが、テレビや新聞のメディアとしての特性をインターネット上で最大限に活かすことはかなり難しい。余分な機能が多いネットはマスメディアには向かないのだ。仮にシンプルな操作でウェブテレビが見られるように工夫したとしても表には見えないシステムそのものに多機能メディアゆえのリスクがついて回る。まあ、テレビの方も総務省のくだらん政策のために地上デジタル放送にはどうでも良い機能がたくさん付いてたりもするが、そんなもの実はテレビのメディアとしての特徴を弱めるものでしかない。極論してしまえば双方向性などテレビには不要なのだ。リモコンのボタンを2回押すだけで世界80億の人々が同時に同じ画面を見られるのがテレビ。光回線が各家庭に普及しようがそれをインターネットで実現するのは至難の業であることはITおたくの君ならわかるだろう。「道路があればどこへでも走っていける自動車の方が、駅でしか乗り降りできない鉄道より優れている。だから東名高速道路を片道10車線にして高速バスをたくさん走らせよう。」ってなものだ。決まった道しか往復しないのなら短時間に大量輸送が可能な新幹線の方がずっと快適で有利。私はJRの廻し者じゃないが駅を降りたら駅レンターカーを利用すればさらに便利だ。つまり、メディアとメディアの連携は重要で、それは時として莫大な富を生む。しかし、それぞれのメディアが合体することでそれぞれの特性が失われてしまったら、お客さまは見向きもしなくなる。かつてNHK紅白歌合戦の視聴率が70%であった時代があったが、正月休みに東京都民の70%が一斉にクルマで行楽に出かけたら、東名高速や中央道の車線は片道100車線あっても足りない。オマケに高速道路の中に路面電車の如く新幹線が走っていようものなら邪魔でしょうがない。大渋滞の原因どころか深刻な事故が起きるだろう。メディアの融合も同じなのだ。インターネットが優れたメディアであることは疑いのない事実だが、多機能であるがゆえの足かせがあることも見逃せない。そのあたりの損得の見抜き方は実際にメディアで働いてみないと判りにくい。昨今、インターネットの普及により個人が情報を発信可能な時代となり、メディアの特性を理解する一般の人は確実に増えてはいるが、そのノウハウはやはり100年も情報を発信し続けている新聞や70年程の歴史のある放送などマスメディアに一日の長がある。商売にならないコンテンツの虚しさも肌で知っている。今日、電通がフジテレビのTOBに応じた。株の取り合いの結果は別としてコンテンツビジネス界での勝敗はこれで決まったと云っていい。株のプロもメディア操作に関しては素人だったようだ。

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