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大森林に向かって立つ

33289d5f.jpg大森林に向かって立つ 1961年 カラー 84分 日活

■監督:野村孝
■出演:小林旭/浅丘ルリ子/かまやつヒロシ

この頃のプログラムピクチャーは大量に生産されていたためか、タイトルが類型化していたり大袈裟なものが少なくない。大森林に向かって立ってどうするんだ? ・・・とも思うが、これは山林を舞台にした小林旭のアクション映画。同年公開の「散弾銃の男」(監督:鈴木清順、主演:二谷英明)は飛騨、木曽方面でのロケ、こちらは伊那が舞台だ。映画の随所に伊那周辺の1961年風景が現れる。冒頭、労務者を載せ浅丘ルリ子が運転するトラックは、旧伊那市役所の前を北から南に通過し、伊那大橋をなぜか高遠方面から伊那市内に向けて渡り、美和ダムの上を走って進んでいく。上映数分で伊那市民は大満足?? 美和ダムは映画公開の2年前1959年に竣工した多目的ダム。この三峰川(みぶがわ)総合開発事業ではその後いろいろなことがあったが、とりあえず当時は地元自慢の施設だったようだ。続く森林のシーンは太田切渓谷での撮影。このあたりには中央アルプスの山々から天竜川に注ぐ急峻な支流がいくつかあり、その渓谷はそれぞれ大田切、与田切など「〇〇切」と呼ばれている。「〇〇切」は登ればどこも大森林だ。途中で登場する見事な夕景は、千畳敷から南アルプス方面を見た朝焼けに似ている。が撮影場所は不明。ちなみに駒ケ岳ロープウェーなどまだ出来ていない。小林旭や労務者たちが繰り出す夜の街は錦町あたりのようだ。「酒は仙醸」なる電柱看板も見える。酒場で歌うは当然、小林旭。しかし注目はギターを持ち彼とデュエットする若者だ。なんとそれは「短髪の」かまやつひろし、驚け! 驚くと云えば100人以上のエキストラが櫓を囲んで勘太郎踊りを踊るシーンもあるが、ロケ場所が地元民でない私には不明。小林旭が歩く傍らにはなぜか「つばめタクシー」なるわざとらしい看板も登場、地元では著名なタクシー会社だ。きっとロケ移動の便宜を図ったのだろう。櫓の場所は駅前あたりと思われるが、朝焼け同様もう少し調べないと正確なことはわからない。さてこの時期の映画でヒーローヒロインが語らうシーンと云えばなぜか街が一望出来る高台ってのがお決まりのパターンだったりするが、この映画にもそれはある。春日城址だ。桜の名所。全国的には高遠城址の桜の方が圧倒的に有名だがシーズン中は観光客でいっぱい、そのため、地元民のお花見はこの春日城址らしい。そして、浅丘ルリ子が融資を受けに訪れる銀行は、そのものズバリ、八十二銀行伊那支店!! 浅丘ルリ子の父が療養している場所は伊那からやや離れた蓼科。広大な八ヶ岳から蓼科山方面にゆっくりとパンニングする映像が見られるが道路は未舗装だ。当然ビーナスラインはない。最後に今回最大のサプライズ(?)。それは後半部で蓼科に向かった浅丘ルリ子を小林旭がジープで追いかけるシーンに隠れていた。ジープは冒頭でも登場した伊那大橋を今度は伊那(入舟)側から高遠(中央)側に渡るのだが、ボンネットに乗せたカメラが、運転する小林旭を撮ればその背景に当然町並みも映る。それをコマ送りでツブサに見るとロケ見物の野次馬が数十人みなこちらを見ているのがよく判る。まあそれはご愛嬌として、橋のたもとにある食堂の看板に私は驚いた。「飯島食堂」。知る人ぞ知る伊那の名所?(笑)。4人以上で一緒に食べると昼からサービス満点の中華定食。蓋から具が溢れるほどのボリウムたっぷりのソースカツ丼は、駒ヶ根が名物として売る出すずっと以前からから地元の人々に親しまれていた。(「中華料理 飯島」で Google検索すればと地元の方のBlogでその写真が閲覧可能だ。驚け!)「研ナオコさん元気ですか?」などと誰にもわからんオチもつけておこう。(^_^) 最近の伊那市はあちらこちらの地方都市と同様、中心市街地の空洞化が進み夜の街の勢いはサッパリだが、その伊那市もかつては人口あたりの飲み屋の数が全国3位と云われた時期もあったらしい。戦前戦後は映画「伊那の勘太郎」が大ヒットし有名となった街でもある。この映画に映る伊那の街はその往時の賑わい留めているのが嬉しい。

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