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1986

セールスが伸びず試行錯誤するサウンド
シーンの構築者であるマリリオンはバンドとしての人気も安定し、来日公演も行われるほどになったが、続く4バンドのアルバムは思ったようにセールスが伸びず、その試行錯誤が音楽に表れるようになる。重厚なプログレハードでデビューしたパラスは、いつの間にかニューウェイブ風の軽快なサウンドに転身。他のバンドもそれぞれ売らんかなのポップ路線に走り、逆にシーンは冷めてしまう。メジャーレーヴェルに残れたのは、結局"MARILLION" だけだった。


THE BIG LAD IN THE WINDMILL ( IT BITES ) 1986

It Bites のデビューアルバム。彼等の登場は、ヘヴィ・メタルもダメ、ポンプもダメそう・・・な雰囲気 になり、いよいよどうしようもなくなってきた英国ロック界に「救世主が現れた」と云われたものだ。 プレスはこぞって70年代のブリティッシュ・プログレとの比較を行ったが、 何故か「ポンプ」としては紹介されることは無かった。 いきなり、ヴァージンレーベルから1発デビュー出来る実力だから、 インディーズっぽい「ポンプ」と一緒にしてしまっては、彼等の印象を矮小化されると考えたのだろう。 実際、このアルバムを聴くと、そのポップセンス、演奏力の凄さ、コンビネーションの良さ、 作曲能力の高さ、そして何よりロックスピリッツの強さに驚く。 このアルバムはまだ全体のまとまりとしてはイマイチだが、既に自分達の世界を持っている。 "Calling All Heroes" "All in Red" などのヒット曲も良いが、 ブルースフィーリングたっぷりの Francis Dunnery のギターが炸裂する "Cold, Tired and Hungry" や "You'll Never Go to Heroes" は、骨太なロックを演奏するようになる後年の姿を予感させるものだ。 しかし、このアルバム、ジャケットだけは、如何にも「ポンプ」というか売れない英国インディーズっぽくてイタダケナイ。(^^;


LIVING PROOF( IQ ) 1986

この年のIQはこのライブ盤の他、"NINE IN A POND IS HERE" というブートのような装幀の 2枚組のライブを出している。どうしてこういうことになったのかは知らない。 LIVING PROOF の方が正規盤風のライブで、これまでの彼等の代表曲をコンパクトにまとめているが、 このアイドルバンドのような手抜きジャケットは何とかならなかったのだろうか?(笑)  音の方はライブとは云えとても録音が良く、ベスト代わりにもなりそうな出来だ。 "Awake and Nervouse" で始まり、"Corners" で終わるのがイイ。 下手だ音が薄いとポンプを非難する声は昔からあるが、それは意図的にやってること なのだからいいではないか。重厚長大な音では一部の熱心なシンフォニック・ロック・ファンにしか 聴いてもらえそうにないから、敢えて軽量なサウンドで勝負しようとしたのがポンプだ。 嫌な方は聴かなければよい。所詮インディーズに毛が生えた程度のモノなのだ。 しかし、彼等が英国のプログレを再興したってことはあってもダメにしたって事実はない。


THE WEDGE ( PALLAS ) 1986

ありゃりゃ、パラスがポリスのようになってきた。1年や2年でここまでサウンドが 変わってしまったのは、レコード会社からの圧力か? ちょっと可哀想なモノを感じる。 毎晩ライブハウスでギグをやるような立場ではなく、コンサート・ツアーで全英を廻らなければ ならないバンドの苦労みたいなものもあるのだろう。 しかし、これじゃ The Sentinel のメタルサウンドが気に入ってファンになった連中は みんな逃げていってしまうよな〜。(^^;  不安的中、パラスはこのアルバムを最期にメジャー契約をうち切られてしまう。 私の場合は、むしろ The Sentinel 以前のパラスが好きだから、こういうメタル色が 消えたサウンドは大歓迎。カッコイイ路線も相変わらず。 アルバムには入っていないが、このアルバムからカットされた12吋の B面にこの時期に録音された "Crown of Thorns" のライブが入っておりこれにはもう涙。 あのカッコ良さにはやっぱりシビレる。


9:15 LIVE ( PENDRAGON ) 1986

ペンドラゴンのライブ。いよいよキーボードは、Clive Nolan だ。 "Victim of Life" や "Leviathan" など初期の名曲も聴くことができる。 ミニアルバム、アルバム、ライブと年1枚づづ順調なペースで新作を発表して来ている にもかかわらず、今回はEMI傘下の別のレーヴェルに移籍してたりしていて、 ペンドラゴンにも商売の御苦労がヒタヒタと迫ってきていたことが判ります。 結局、マリリオンのように自分の看板だけで食べていけるバンドでないと、 メジャーのレコード会社は契約を存続させてはくれないようだ。 昨今の日本のCD業界はメジャーとインディーズの区別がはっきりしないが、 この時期はまだメジャーとインディーズは厳然と分かれていた。 メジャーから脱落するということは、同時に普通のレコード店から自分達のアルバムが 消えることを意味していたのだ。


X ( TWELFTH NIGHT ) 1986

TWELFTH NIGHT が、Virgin と契約。それもあのジェネシスと同じカリスマレーベル。 "Take a Look" は、TWELFTH NIGHT サウンドの集大成のような曲。気合いが入っている。 自分達の個性を思い切り出した渾身の力作だと私は思うのだが、 セールス的には空振りだったのか、TWELFTH NIGHT はこのアルバムを最期に活動を停止 してしまいまう。ポンプの長所は自らが「流行」になろうとしたことだったが、 流行は移ろいやすいもの。数年のその夢は消えてしまった。 流行になり損ねたツケは重く、これだけの力作を作っても、人々の関心が遠のいていって しまうのだ。このアルバムは、Virgin が版権を持っているせいかなかなかCD化されないが、 "Collectors Item" というCDで、"Take a Look" と "Blondon Fair" の2曲はそこで聴くことが 出来る。

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