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大峰ヶ台の南斜面、ひっそりとした住宅街の奥に、大宝寺がある。愛光からだと大峰ヶ台の山頂をはさんでほぼ反対側にあたり、歩くと15分から20分の距離である。
小学校時代に学校で習ったうば桜伝説でしか、私は大宝寺を知らなかったのだが、調べてみると、大宝寺の歴史は古く、大宝元年(701年)の開創という。本堂は鎌倉期に造られ、伊予の国では最古の建造物だとのこと。国宝である。また、本堂に祀られている阿弥陀仏、釈迦如来、阿弥陀如来の三仏は、国の重要文化財である。 このように由緒ある寺院であるにもかかわらず参拝者は少なく、いつでもひっそりしている。宣伝不足と、四国八十八ヶ所からはずれていることが原因であろうか。 観光地ずれしておらず、しかも一石一木に古い歴史がしみこんでいるこのようなお寺を、わたしは愛する。京都であれば、たとえば法然院など。散歩がてらに京大生がときおり訪れる程度の、ひっそりした境内に、こけむした情趣たっぷりの庭園と、谷崎潤一郎、河上肇などの墓がある。大宝寺の山門をくぐったあたりで感じるひっそりとした静まりは、あの法然院に印象がとても似ている。
昔、この地に住んでいた角ノ木長者の娘るり姫が病気になった。そこで乳母が自分の命と引き換えに姫の命を助けてほしいと、大宝寺本尊の薬師如来に祈願した。すると、娘は全快し、そのかわりに乳母は急病になって命を失った。そのときの遺言で、境内に桜の木が植えられた。それが今ある桜で、以後、うば桜と呼ばれるようになった。桜は幹から直接花びらをつけたという。 |