神風・愛の劇場スレッド 第64話『距離』(7/17付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: hidero@po.iijnet.or.jp
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 17 Jul 2000 18:34:22 +0900
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佐々木@横浜市在住です。

<8ksgpb$l2f$1@news01cf.so-net.ne.jp>の記事において
keitai@fa2.so-net.ne.jpさんは書きました。

>> 石崎です。

こんにちわ。

>>  このスレッドは、神風怪盗ジャンヌのアニメ版の設定を元にした妄想スレッド
>> です。作品世界が壊れるのが嫌な人は、読まないで下さいね。

ですですっ。(影響されやすい性格 ^^;)


>>  都ちゃんは人外な存在と一体化したり、あんな事やこんな事をし続けているの
>> で、波長が合っているらしいです(笑)。

確かに都ちゃんは体験の幅が広いですね。^^;

>> >★神風・愛の劇場 第62話『包み』
>>  ツグミさんの父親の登場ですね。

そろそろ、まろんちゃんのよそ様の家庭の事情お節介話を
出しておこうかなぁ、などと思ったのがそもそもの発端です。(笑)
ただ、石崎さんの書かれたツグミさんの夢の中の人物像よりも
少々円くしてしまいました。まぁ歳をとったという事で。^^;;;

>>  ツグミさんが父親に良い感情を持っていないのは、父が母と自分を捨てたと思
>> っているからなのでしょうか。

そういう部分は在るだろうと思います。
ただ、ツグミさん自身、どう思っているのかしっかり
自己の分析が出来ていないというか、結論が出ていない、
そんなあやふやな感じかもしれません。
# って私がヒトゴトの様に書いてどうする。^^;;;

>>  まだこのシリーズは続くようですが、最終的にはどういう結末かな。。

第56話、第62話、そして今回の第64話で一応、
ツグミさん家の家庭の事情は三部作で一区切りつけてみました。
# その後については追々。

>>  ミストには大した事をさせる予定でしたが、諸般の事情により後回し(笑)。

う〜ん、「大それた事」なのかなぁ。^^;;;;;

>>  今回は設定話です。佐々木さん版の展開を壊していなければ幸い。

天界に関してはほとんど考察していない為問題ありません。(笑)

>> ★神風・愛の劇場 第63話『汚れ無き世界』

ゲートが二重扉になっているのが興味深いです。最初に連想したのは宇宙船。
でも、中はスペースコロニーだった模様。(笑)
公にはなって無かったんですね、フィンの件は。
フィンの為とは言いつつ、単に不祥事を隠しているという印象ですし。
体裁だけ取り繕った理想郷って感じがします。
もっとも、堅苦しい所程、ウラでは乱れているものなんですけど。(爆)

しかし、何ですね、美味しそうなキャラです。天使達。特にセルシア。^^;
当然、また出てくるんでしょうね。一度だけのゲストなんてもったいない。

# では、いきます。


★神風・愛の劇場 第64話『距離』

●桃栗学園

昼休み。既に昼食を終えていたので、まろんと都は教室で無駄話中。
ふと目をやると委員長が何やら熱心に読んでいます。
当然ちょっかいを出す二人でした。

「何見てるの?」
「ああ、日下部さん」
「無視すんじゃないわよ」
「まぁまぁ、都。で、何?」

委員長は二つ折りになった一枚の紙を広げました。
『桃栗大学・冬期公開講座』と最初に大きく書いてあります。

「何よコレ」
「平たく言いますと、誰でも聞ける大学の授業ですね。
 面白いテーマが多いので結構人気があるんです」

委員長が指した先には、幾つかのテーマと数人の講師の名前があり、
その中に聞き慣れた名前が混ざっていました。

「ねぇ、この人、瀬川だって。ツグミと同じね」
「うん」
「ご家族とか親戚とかでしょうか」
「バカね、別に珍しい苗字でもないでしょう」
「それはそうなんですけど…」
「私もツグミさんの御家族の名前までは知らない」

そこへ今まで黙って聞いていた稚空が口を挾みました。

「その瀬川って何の講義を担当するんだ?」
「どういう事?」
「ツグミの親父さんて医者だろ?ならテーマが医学方面なら本人かも」

成程と言った顔で頷いた後、委員長は言いました。

「えっと、瀬川先生の担当は『幻想文学から垣間見る中世』です」
「全然違うじゃない」
「いや、待てよほら、あの本棚」
「あの全然訳判らない本ばかりの?」
「ああ。何かそういう方向だっただろう」
「そうだっけ…」

苦笑しているまろんを放っておいて、稚空は委員長に
幾つかの書名を思い出しながら上げて行きました。

「関係ありそうな気がしますね」
「ほらコレ良く見なさいよ」

都が肩書を指差します。

「医学博士だって」
「当りみたいですね」
「ふ〜ん…」

暫く考えていたまろん。委員長に向かって言いました。

「聞きに行くの?」
「はい。午後の部は1時半からなんで、ホームルーム終わってから
 すぐ行けば間に合うはずです」
「私も」
「まろんはダメよ」

都が遮りました。

「何で〜っ?」
「私とまろんは先週も水曜サボってるでしょ。今日は練習出るのよ」
「ぶ〜っ」
「ぶうじゃない」


●桃栗大学公会堂

部活を終えた後、まろんは取りあえず駄目でもともとというつもりで
公開講座の会場に行ってみました。案の定、会場は片付けが始まっています。
仕方がないので会場の係と思われる人物の何人かに瀬川という
講師の宿泊先を聞いて回りました。すると。

「君、瀬川先生に何の用?」
「あの、ちょっとお話を聞きたいなぁって」
「ふ〜ん。でも、確か今日お帰りになるんじゃないかな」
「え?泊まらないんですか?」
「うん。昨日打ち合わせにお見えになった時にホテルの手配を
 頼まれたんだけど、一泊だけって仰有っていたから」
「先生はもう出られたんですか?」
「そのはずだけど」
「そうですか。ありがとうございました」

諦めて帰ろうかと思っていた矢先、まろんを呼ぶ声がします。

「日下部さ〜ん」
「あ、委員長」
「来ていたんですね」
「今来たの。でも瀬川先生、帰っちゃったんだって」
「ええ、たった今です」
「え?」
「今し方まで質問を聞いて頂いてたんですよ。
 で、タクシーでお帰りになるのを見送って」
「何で帰るか聞いた?」
「今夜の便と仰有いましたから飛行機では?」

まろんは委員長の腕をつかむと走りだしました。

「日下部さんっ、何処へ行くんですか〜」
「空港!」


●空港出発ロビー

委員長を連れて空港へとやってきたまろん。
相手の顔を知っているのは委員長だけでしたので、
彼を連れ回して瀬川を探します。やがて。

「あ、居ました。あの人です、あの背の高い…」
「あの人ね、有難う委員長。もう帰っていいよ!」

まろんは委員長を残して、長身の紳士の元へと走って行きました。

「あの、すいません」
「はい?」

相手は訝しげな顔でしたが、まろんが用件を言うまで
黙って待っていてくれました。
まろんは息を整えてから切り出します。

「もし間違っていたら御免なさい。
 もしかして、瀬川ツグミさんのお父様ですか?」

瀬川の顔から警戒心が薄れていき、代わって柔和な笑顔が拡がりました。

「娘のお友達でしたか」
「私、日下部まろんと言います」
「瀬川です。立ち話も何ですから、その辺に入りましょう」


●空港内喫茶店

目の前に居る紳士は、まろんの想像していたよりも
老けた人物でした。もっとも頭に混じる白いものが与える
印象の所為かもしれません。

「正直言って驚きました。あの娘に友人が出来たとは」
「ツグミさんには色々とお世話になってます」
「いやいや、娘の方がお世話になっているのでしょう。
 どうもありがとう」
「そんな事、無いです」
「それで、ご用件は」
「あの」

多分に勢いだけで来てしまった所為もあり、
まろんは会ってから後の事をあまり考えていませんでした。
もしツグミの父であるなら、会ってみたい。
その思いだけが大きくなっていたのでした。
まろんが話を切り出さないので、代わりに瀬川が聞きました。

「娘はどうなんでしょう。普段元気にやっていますか」
「え?、ええ。でも、そういう事ご存知ないんですか?」
「あ、いや失礼。聞いておられるでしょうが
 別々に暮らしていましてね。普段の暮らしぶりは、あまり」
「でも、こんな風に近くまでいらしたらお会いになれば」
「昨日、顔は見てきました。それと家内から預ったお土産を置いて」
「それって、もしかしてモンブランだったりします?」
「ええ、家内の手造りなんですよ。私はもう少し甘くても
 いいんじゃないかと思っているんですが、
 若い子にはこれでいいんだとか」
「昨日、ご馳走になりました。美味しかったです」
「そうでしたか。あの娘は何か言っていましたか」
「あっ、はい。美味しいって。でも、それってツグミさんに電話して
 お聞きになってもいいんじゃないでしょうか」
「あの娘が嫌がりますから」
「そんな事、無いと思います」
「不思議に思われるのも無理は無いですね」
「変です!」

一瞬、周囲の注目を浴びた様な気がして、
まろんは恥ずかしくなりました。

「…御免なさい」
「いや、いいんですよ。当然の疑問ですね」
「だったら、どうして」
「これはツグミが望んだ事なんですよ」
「聞きました。お父様が一緒に暮らそうと仰有ったのを
 ツグミさんが断わったって。でも電話までしないでって
 言ったわけじゃ無いと思うんです」

ウエイトレスがコーヒーを運んできたので、
その間だけ沈黙が漂います。
瀬川は運ばれたコーヒーを一口飲むと、ぽつぽつと話はじめました。

「ツグミの母親が亡くなった時、私は一緒に暮らす様に勧めました。
 今の私の家内も賛成してくれましたし。でも、あの娘はそれを断りました」
「…」
「考える素振りも見せませんでしたね。正直ショックでした。
 私はあの娘に父親としての役割を演じる事を望まれていない。
 始めはそう思いました。でも、最近はそうでは無いのかもしれない、
 そうも考えるようになりました。ツグミは私と離れている事で
 何かを見付けようと思っているのではないかと。
 苦し紛れの勝手な思い込みかもしれませんが」
「…」
「いずれにしても、あの娘が一人で暮らすことを決めた以上は、
 私もあの娘の生活には立ち入らない様にしようと決めました。
 勘違いしないで欲しいのですが、私自身はツグミの父親を辞めたつもりは
 ありませんよ。援助はします。ツグミが望むだけのものを」
「でも」

まろんは、何と言って良いのか判らなくなっていました。

「まろんさん。あなたのご両親は?」
「はい、あの、二人とも仕事で海外に」
「そうですか。こんな私でも、これだけは断言できます。
 どんな所にいても、親というものは子供の事は忘れません。
 近くに居るのか遠くに居るのかは関係ないのです。
 今この瞬間も、ご両親はあなたの事を思っています。
 もちろん私も同じなんですよ。信じては貰えないかもしれないが」
「いえ」

瀬川はもう一口コーヒーを飲むと、腕時計にちらと目をやりました。

「そろそろ時間なので」
「あ、はい。すみませんでした。お忙しいのに」
「いいえ。こちらこそ有難う。
 これからもツグミと仲良くしてやってください」
「はい」

瀬川は店の勘定を済ませると、随分と年下であるはずの
まろんに深々とお辞儀をしてから去っていきました。



「日下部さ〜ん」
「あれ、まだ居たの?」
「ひどいですぅ。待ってたんですから」
「あはは。有難うね。さ、帰ろう」
「はい」


●桃栗町郊外

翌日の午後遅く、まろんはツグミの許を尋ねました。一つの包みを持って。

「あら、いらっしゃい」
「御免ね、突然」
「日下部さんなら何時でも歓迎よ」

扉を大きく開け放って、ツグミはまろんを迎え入れました。
まろんは、目の前にお茶が運ばれて来るのを眺めながら、
ツグミが坐るのを待ちました。

「さて、と、何かしら」
「え?」
「何かご用があるみたい」
「そんなんじゃ無いよ。コレ、何時出そうかと思って」
「まぁ、何を持ってきてくれたの?」

まろんは持参した包みをツグミに差し出しました。
ツグミはそれを手に持って、周囲をぐるりと撫でてから、
テープで留めてあった所を丁寧に剥がし、紙を解きます。
そして蓋を開いて、暫く考えている様でした。やがて。

「日下部さん。あなたの考えている通りよ」
「え?」
「確かに私は嘘をついた。モンブランは嫌いじゃないわ」
「何の事かなぁ」
「これ、ルルイエのケーキね?」
「やっぱり判っちゃうんだ」
「苺の香りがする。でも、少し弱いからゼラチンでコートしてあるわね。
 桃栗町のケーキ屋さんで苺をコートして使うのはルルイエだけよ。
 それにマロンクリームの香り。あそこでマロンクリームを使うのは
 モンブラン1品しかないの。それとメイプルシロップの香りも。
 このシロップはシフォンか抹茶ショートにしか使ってないはず。
 だからこの箱には少なくとも3種類のケーキが入っている。
 でも手に持ったとき、重さのバランスが均等だったから、
 最初、中身は一種類だと思ったの。
 これってケーキが互い違いに並べ直してあるでしょう?
 お店の人はこんな入れ方は、しないでしょうから。
 私がモンブランを間違って食べないか、
 その時にどんな顔をするか、試そうとしたわね?」
「…御免なさい。完敗です…」

ふぅっ。ツグミは微かに溜息をついて暫く黙っていました。
本当にちょっとの間だったのですが、まろんには随分長く感じられました。

「父に会ったの?」
「…うん。ツグミさんの事聞かれたよ。何で自分で聞かないのかって
 逆に聞いたら、ツグミさんの暮らしに踏み込まない様にしてるんだって。
 でも、お土産の事も聞いたから、本当は違うんじゃないかって」
「何が違うの?」
「ツグミさんのお父さんの新しい奥さんって、悪い人じゃないと思うの。
 ただ、ツグミさんと仲良くしたいだけなんだよ。もちろんお父さんも」
「それは日下部さんの想像でしょう?」
「…うん。でも、きっとツグミさんも仲良くしたいって思ってる」
「それでケーキを食べなかった理由を確かめに来たの?」
「怒ってる…よね」
「…そうね」
「本当に御免なさい。私、すぐに首突っ込んじゃうんだ。
 都や稚空によく"止めとけ"って言われるんだけど、つい」
「でも、どうして父の事が判ったの?」

まろんは昨日の事を全部話しました。

「そっか。委員長は父の趣味の方のファンだったんだ」
「うん、何かそういう変な事に詳しいのよね」
「確かに"変な事"だわ」
「あ、御免なさいっ」
「これで、今日は大きなバツ印2個よ」
「お願い、許して」
「許しません。罰としてこのケーキ全部食べてね」
「え〜っ、半分救けて」
「モンブランだけ、救けてあげる」
「ぅぅぅぅぅぅ」

まろんは今後絶対ツグミに挑戦しないと心に誓いました。



夕食、といっても夕方にケーキを沢山食べていましたから
サラダとスープだけの極々軽いメニューでした。
それでもお風呂から上がってみると、ちょっとだけ
お腹が空いている様な気がしました。

「ねぇ、ツグミさん。お腹空かない?」
「ラーメンでも作ろうか」
「ええとね。おとといのモンブランが2個残ってるでしょ」
「捨てちゃったわよ」
「嘘。ツグミさんはそんな事しないよ」
「どうかしら。冷蔵庫を見てみるわね」

暫くして、ツグミはトレーに2杯の紅茶と2皿のケーキを
持ってきました。

「捨てるの忘れていたみたい」
「ほら」
「でも、固いわよ多分」
「平気だって」
「2個共食べていいのよ」
「いらない。1個は食べて。嫌じゃないなら」

ふふん。ツグミは小さく笑うと言いました。

「私はそんなにヒネクレ者じゃないわ」

そしてフォークをケーキに突き挿して大きめに取ると
一口で頬張りました。そして。

「もっと甘くてもいいのに」

それを聞いたまろんは、それからしばらく笑い続けていました。

(第64話・完)

# おおっ、62、64のたった2話で3日も進んだ。快挙!(笑)

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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