神風・愛の劇場スレッド 第170話『二つの故郷』(その2)(03/16付) 書いた人:携帯@さん
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ
From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 16 Mar 2003 20:13:59 +0900
Organization: So-net
Lines: 322
Message-ID: <b51m9o$6fm$1@news01dh.so-net.ne.jp>
References: <_J25a.3308$WC3.341924@news7.dion.ne.jp>
<b3a25s$672$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<zm16a.4114$WC3.360177@news7.dion.ne.jp>
<b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>

石崎です。

例の妄想スレッドの第170話(その2)です。

(その1)は<b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>からどうぞ

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そう言うのが好きな人だけに。



★神風・愛の劇場 第170話『二つの故郷』(その2)

●オルレアン・稚空の部屋

「本当にまろんに、昨日のことを話さなくても良いのか?」

アクセスが昨日に続きそのことを言い出したのは、朝食の席でした。

「今はまだ良い」

茶碗を手に、稚空はそれだけを答えました。

「昨日のこと?」

昨日の夕食時には魔物探索の後で山茶花邸に居たセルシアと共に過ごしていたト
キが、何だか判らないという表情を浮かべて言いました。

「あ、そうか。実は…」

昨日の出来事を要約してトキに話した稚空。
トキはその話を最後までじっと目を閉じて聞いていました。

「成る程。その場所についてはもう少し調べてみた方が良さそうですね」
「トキもそう思うか」
「ですが、それをまろんさんに伝えなくて良いという理由が判りません」
「だろ?」
「情報は共有すべきと考えます」

トキがそう言うと、アクセスも肯き二人は稚空の方を注目します。

「それはだな」

稚空が話し始めようとしたその時です。
玄関のドアの外でばたばたと足音が通り過ぎ、隣人の部屋の前で止まります。
そしてチャイムの連打。

「相変わらず、朝が早いですね」
「早いのは都だろ?」

などと話していると、今度は隣の部屋のドアが開き、複数の足音がエレベーター
の方向に都がまろんを叱りつける声と共に駆け抜けて行きました。

「これが、理由さ」

廊下が静けさを取り戻すと、稚空はそうとだけ言いました。
さっぱり判らないという表情を浮かべるトキ。
アクセスの表情もそれに近いものがあります。

「つまりだ、新体操の大会に向けて、まろんは特訓中の訳だ。判るだろ?」
「ああ、成る程」
「今度の地区大会にはまろんさんは出場されないと聞いていますが」
「全国大会の方さ。この前の大会は滅茶苦茶になってしまったが、結果は確定し
ているからな。表彰式も今度の団体戦の時に行われるんじゃないのかな」

それで納得の表情を浮かべたのはアクセス。
しかし、トキは未だ納得していない様子でした。

「練習に集中させてやりたいという思いやりは判ります。しかし、敵の情報を伝
えずにいて、もし万が一のことがあれば」
「トキの考えは判る。だが、もしもこのことをまろんに教えたとする。どうなる
と思う?」
「絶対、黙って見ているとは思わないぜ」

アクセスが口を挟むと、稚空も肯きました。

「せめて確信が持てるまでは、まろんには少しでも練習に集中させてやりたい」
「判りました。では、まずはその場所についてもう少し精査してから、まろんさ
んにこのことを伝えるのかどうか決めることに」

トキがそう言うと、稚空は安堵の表情を浮かべます。
そうしてから、どうしてトキに一々お伺いを立てなければならんのかと思う稚空。
ですがもちろんその事を表情や態度に見せることはありませんでした。

「それはそれとしてです」
「まだ何かあるのかよ」

話が終わったと思い、箸でご飯を口に運ぼうとしていた稚空。
今度はうんざりという感情を隠さずに言いました。

「人間の警察に追いかけられた件ですが、何故わざわざ変身を?」
「稚空がシンドバットになって仕事がしたいって言うからよ」
「一応あの服もアクセスに出して貰ったものだしな。能力はあの姿の方が高い。
それに…」
「それに?」
「気分の問題だ。あの姿の方が仕事をしているという気分になれるんでな」

稚空がそう言うと、アクセスは呆れたという表情を見せました。

「気分だぁ!? 俺はてっきり…」

危険をおかしてシンドバットの姿となった理由が只の気分。
それを聞き、怒りの声を上げようとしたアクセス。
ですが、彼の言葉はトキの笑い声によって中断されました。

「ククククク…」
「トキ?」

アクセスは、どうしてトキが笑っているのか理解出来ませんでした。
もちろん、稚空も。

「いや、これは失礼」
「何か可笑しいこと言ったかな、俺」
「その、気分ですよ」
「はぁ?」
「彼女も気分で行動しますので、つい思い出し笑いを」
「ああ、成る程」

セルシアには悪いと思いつつ、アクセスは微笑を浮かべます。
同じく微笑を浮かべかけ、何だか馬鹿にされた様な思いを抱く稚空なのでした。


●久ヶ原神社跡地 ミカサ戦闘団本陣

レイが目を覚ますと、ミナは横ですやすやと寝息を立て、夢の中の世界を彷徨っ
ている様子でした。
彼女を起こさぬよう、そっと身を起こしたレイは、直ちに術で制服姿を整えます。
そして物音を立てぬ様に扉を開け、灯りも疎らな洞窟の通路を足音も立てず、角
を曲がった向こうにある自分の部屋へと戻って行こうとしたのですが。

「誰か!」

背中から誰何され、ぎくりとするレイ。
しかしその声が自分の部下であると知り、振り返りいつもの厳しい表情を見せま
した。
洞窟の中で巡回警備の任務についていたその天使は、声をかけた相手が自分の中
隊長だと知ると、慌てて敬礼をします。

「任務ご苦労」
「はっ」

答礼をしながら、声をかけるレイは、身を翻し自分の部屋へと歩いて行きます。
内心、拙いところを見られたなと思いつつ。

角を曲がるとそこは大隊長であるミカサの部屋、その隣には従兵であるユキの部
屋がありました。自分の部屋は更にその隣。
すると、ミカサとユキの部屋の扉から、灯りが漏れているのが判りました。
時刻は間もなく夜明けになろうという頃。
レイは、ユキの部屋の扉の前に立ち、扉を叩きました。
中からの返事を待ち、扉を開けたレイ。

自分の物に比べて明らかに粗末な寝台の側にユキがやはり制服姿で立っていまし
た。
彼女の姿に違和感を感じたレイは、やがて天使たる証しである一対の翼が彼女の
背中に無いことに気付きます。

「おい、翼…」

こんな時間にどこに行くのか。
驚きから肝心な質問をするのを忘れてレイはユキに尋ねました。

「あ、はい。ノイン様の家には天使を怖がる少女がいますので、それで…」

レイは、アウストラリスで出会った竜族の少女のことを思い出しました。

「変化の術が使えるのか?」
「はい、少しは」
「(この娘、侮れんな)」

ユキをミカサが従兵として使っている理由について、レイは判った気がしました。

「それで何でしょうか?」
「ああ。今日もノイン様の屋敷に行くのか」
「はい。…えっと、作戦会議の続きです」

一瞬口籠もったユキですが、レイは特には気にしませんでした。

「そうか」
「あ! もうこんな時間。そろそろ行かないと!」

机の上に置いてある時計を見て、飛び上がったユキ。

「今日も昨日と同じ面子か?」
「はい。ミカサ様とトールン様と一緒に。では、失礼します」

そう言い残し、ユキは小走りに部屋を出て行きました。
取り残された形となったレイは、少ししてから呟きます。

「ミカサ様だと? あいつ…」



ミカサ達を見送った後、自室に籠もりきりとなったレイ。
暫くの間、書類と睨めっこしているうちに、ノックの音と同時に扉が開き、ミナ
がお盆の上に朝食を載せて現れました。

「朝ご飯だよ〜」
「ああ、そこに置いてくれ」

朝食のメニューはパンとスープとのみ。
昨日、食材を余所に提供した関係で、メニューが貧相になったのは疑いもありま
せん。
それを見ても眉一つ動かさず、書類を手にしたままでパンを口にするレイ。
その姿を見て、ミナは少しむっとした表情を見せます。

「ちょっと、食べる時位、お仕事は止めたら?」
「ああ…」

ミナの言葉に僅かな怒気を感じ取ったのか、素直に書類をテーブルに置いたレイ
が顔を上げると、ミナも自分の分の食事をテーブルの反対側に置いて、こちらを
見ていました。

「一緒に食べよ」
「ああ」

レイは姿勢を直し、普段は省略する食前の祈りを捧げると、ミナもそれに合わせ
ます。
暫く、黙々とパンを食べ、スープを啜る音がさして広くもない室内に響き、それ
が収まった頃、ミナが口を開きます。

「あのさ、レイ」
「何だ?」
「ちょっと、根を詰め過ぎ」
「そうか?」
「そう! みんな、噂してるよ」
「上が働かずにどうする」
「そうだけど…そうじゃない」

ミナは何か自分に忠告したいのだろう。
そう感じたレイは、それを待つことにしました。

「フィンも言ってたよね。次の戦いに備えて休養を取れと」
「それと訓練と愛情もな」

特に後半部を強調して言うと、ミナの頬が少し赤味を増した様に感じたのは気の
所為では無いだろうとレイは思います。

「そうだね。でもレイは私の見る所、『あちら側』に居た頃から働き過ぎ」
「判っているだろう? これは私達の…」
「判ってる! …判っているよ」

そう言い、ミナはレイの手に自分の手を重ねました。

”良いこと、レイ。私達だけで全てを進めようと考えないで。ここには、他にも
沢山天使もヒトも、竜族のみんなだって居るんだし”

触れ合った手を通して、ミナの言葉がレイの頭の中に直接流れ込んで来ます。

”しかし、作戦の円滑な遂行のためには、やはり我々が主導権を取らないと。判
るだろう?”
”判ってる。だけどそれはみんな同じだよ。自分だけで何かしようとすれば、他
のみんなから反発されるだけ。だから…”

「判った。判ったよ」
「本当に?」
「本当さ」
「それじゃあ、その証しに…」

ミナが何事かを言おうとした時です。
洞窟の中に大音声でミナの名を呼ぶ者がありました。

「ミナ! ミナはおるか!」
「げ…トールン様だよ。今度は何だろう」

うげげと言った感じの表情を浮かべたミナ。
仕方無いといった感じで、腰を浮かせかけました。
しかしその前に、今居るこの部屋の扉が叩かれました。
レイが返事をすると、果たしてトールンが姿を見せました。

「おお。ここにおったか」
「これはトールン様。今日は早かったですね」
「ミカサ殿に大変な話を聞いて戻って来た」
「大変な話?」
「食事の話だ」
「食事…ですか?」
「ミカサ殿より道すがら、第二大隊の魔族共に食料の大半を分け与えたと聞き及
び、我ら同胞の食事が足りているのか確認に戻って来た」
「大丈夫。それならば足りている筈です」

レイは横に置いてあった書類の中から、一枚の紙を探し出し、トールンに見せま
した。
それをしげしげと眺めたトールンは一言。

「足りないな」
「は?」
「我らには、この配給量では足りぬ」
「一人当たり我々の3倍の配給量としていますが」
「天使達と違って我らは食べねば生きていけぬからな」
「夕刻に、ヒト族の皆さんにお願いして…」
「待てぬ」
「しかし…」
「我らはヒトの姿をとる事が出来る。昼前には食料を調達したい」

現在の生鮮食料品の在庫を頭の中で計算したレイ。
どう考えても、足りないとは思えませんでした。
それでもトールンが足りないと言っているのだから、竜族は余程の大食らいが揃
っているのだろう。そう思わざるを得ませんでした。

「判りました。ですが、一つ宜しいでしょうか」
「何だ?」
「その現地調達の作戦に、我々天使族からも、何名か同行して宜しいでしょう
か?」
「構わないが」
「それと、トールン様には留守居役をお願いします」
「何!?」
「私と、ミナが現地調達部隊に同行しますので」
「副官と第一中隊長が同時に?」
「はい。次なる作戦に備え、街の様子をこの目で確認したいのです」
「ううむ…」

腕組みをし、しばし考えていたトールン。
しかし食料を余計に消費している負い目もあったのでしょう。
結局は留守居役を承知するのでした。

(第170話・つづく)

ちょっと予定より遅れ気味です(汗)。
では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ

 記事に対するご意見・ ご感想などがありましたら書いてやって下さい

 件名:
 名前: (ハンドル可)
 E-Mail: (書かなくても良いです)

 ご意見・ご感想記入欄