神風・愛の劇場スレッド 第170話『二つの故郷』(その1)(03/09付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 09 Mar 2003 16:22:19 +0900
Organization: So-net
Lines: 482
Message-ID: <b4eq3c$scr$1@news01ch.so-net.ne.jp>
References: <Yo23a.2551$WC3.310686@news7.dion.ne.jp>
<_J25a.3308$WC3.341924@news7.dion.ne.jp>
<b3a25s$672$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<zm16a.4114$WC3.360177@news7.dion.ne.jp>
<b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>

石崎です。

例の妄想スレッドの本編です。

Keita Ishizakiさんの<b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>から

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられている妄想スレッドです。
# そう言うのが好きな人だけに。



★神風・愛の劇場 第170話『二つの故郷』(その1)

●桃栗町某所

その事件が起きたのは、日曜日の早朝のことでした。
国道沿いにあるコンビニエンスストアの一つ。
その前にチェーン店のマークを描いたトラックが止まり、荷台から運転手が商品
を運んで行きました。
何往復かして、トラックに戻ろうとした時に、運転手は声にならない叫びを上げ、
運転手の様子に気付いた店員もやはり同じ態度を取ります。

運転手と店員が見たもの。
それは、トラックの荷台から商品──全て食料品──が運び出され、そして消失
して行く光景なのでした。

●桃栗警察 プレハブ庁舎内ジャンヌ特捜班

「…という事件があったそうなんですよ」

日曜日であるにも関わらず出勤して来ていた春田は、そう氷室警部に話しかけま
した。
書類の山を机の上に積み上げ、シャープペンシルを手に何事か唸っていた氷室は、
少しだけ顔を上げ、直ぐに書類に視線を落とします。
ほんの少し、残念そうな表情を見せた春田。
ですが、直ぐに気を取り直して自分の仕事へと戻ります。
とは言え、余り進捗状況ははかばかしくはありません。
昨晩の東大寺家におけるパーティーでの酒が、未だ残っているからなのでした。

「その事件なら、僕も聞きましたよ。はい、どうぞ」

春田の机の上に、秋田が緑茶が入った湯飲みを置きました。
彼が特に気が利いているという訳でもなく、しばしば忘れ去られている茶坊主の
当番が彼であるというだけのことでしたが。

「お、ありがとう」
「少し、濃いめに入れておきましたよ」
「しかし不思議な事件だよな。姿の見えない強盗犯だなんて」
「怪盗ジャンヌ…」

夜勤明けで机に突っ伏して寝ていると思われた冬田は、そう呟くと再び目を閉じ
ました。

「それは無いと思いますよ」
「そうそう。予告状は出ていないしな」
「そもそも怪盗ジャンヌ、無事なんでしょうか」
「そうだなぁ…」

先週…正確には先々週の土曜日に発生した桃栗体育館倒壊事件。
東大寺警部の見ている前で超常的な力を発し、体育館の中に居た一般市民を避難
させた後に行方不明となった怪盗ジャンヌ。
現場はその後直ぐに今度は謎の爆発事故──公式発表では──でただの穴となっ
てしまったため、その消息は知れませんでした。

「空を飛んで脱出したって証言もありますけど」
「怪盗ジャンヌは、死んではおらんさ」

仕事に没頭しているかに見えた氷室が、口を挟みました。

「警部」
「死んではおらん。あれ程の力を隠し持っていた怪盗ジャンヌが、簡単に死ぬな
ど」

そう呟くと、再び氷室は書類に視線を戻しました。

「ま、特殊部隊を呼び寄せた位だし、上も死んだとは思ってないでしょうけど」
「怪盗ジャンヌなら、姿を現さずに仕事も出来そうなんだけどな」
「そうですね…。ただ、一つ疑問があるのですが」
「何だ?」
「ジャンヌは今まで、盗んだ物を自分で持ち去ったことがありません」
「そういや、そうだよな」
「予告した物を盗むというよりその場で消滅させる。それが彼女の手口です。し
かし今回は少し違う」

自分一人だけコーヒーを煎れた秋田が、カップと受け皿を手にして言うと、コー
ヒーを一口飲みました。

「盗まれた物はコンビニ弁当、パン、お総菜…食料品ばかりだとか」
「ジャンヌが狙いそうに無いものばかりですね」
「ひょっとして、生活に困っているのでは?」
「まさか」
「お前ら、サボるのも程々にしろ〜」
「あ、はい」

氷室に言われ、その日の仕事に取りかかった春田達。
この事件のことが気にならなかった訳では無いものの、最早それがジャンヌと関
係があるとは思ってはいませんでした。
そして彼らの考えは概ね正しかったのですが、ほんの少しだけ間違っていました。
そう、犯人はジャンヌとは全く関係が無い訳ではなかったのですから。

●久ヶ原神社跡地 ミカサ達の本陣

神社の直ぐ側にある洞窟。
その中の士官用に用意された個室の一つで目を覚ましたミカサ戦闘団副官のミナ。
隣で寝ていた筈のレイの姿はそこには無かったので、寝ぼけ眼のままで身体を起
こします。
部屋の片隅には灯りが点いていて、その灯りの下ではレイがテーブルを前にして
腕組みをしつつ何事か考えている様子でした。

「おはよう、レイ」
「起こしてしまったか。まだ寝ていても大丈夫だぞ。フィンも休めと仰せだし
な」
「ううん。今起きるよ」

毛布を身に纏い、寝台から降り立ったミナは、テーブルを挟んでレイの正面に座
ります。
目の前にはこの街の地図が広げられ、そこには長方形の中に様々な紋様が描かれ
た記号を用いて部隊の配置が記されていました。
自分達の部隊についても長方形の内側には羽根を意識しているらしい紋様、そし
て上辺には二本の線が載った記号という形で地図の上に在りました。
その記号の意味について魔界に来るまでは知らなかったのですが、空より舞い降
りる兵士達を表す記号なのだとミナはヒト達から教えられていました。

それを見て、レイはこれからの作戦について思いを巡らせていたのだろうと理解
したミナ。

「まさか、ずっと作戦について考えていたの?」
「起きたのはついさっきさ」
「嘘」

明るいとは言えぬ灯りの下、レイの顔色を伺いつつミナは断言します。

「一体今は何時…?」

壁際にしつらえてある小さな棚から、時計を手にしたミナ。
この地の時刻を示す時計故、当然示しているのは人間界の時刻。
一瞬だけ首を傾げてから、直ぐに今の時刻を理解します。

「外は夜が明けた位?」
「そのようだ。日の出と共に、大隊長殿はユキとトールン殿と一緒に出て行かれ
た」
「どこに?」
「ノイン様の屋敷らしい。今後の作戦についての打ち合わせだとか」
「私たちは置いてきぼり?」
「フィンが居るから、問題は無いということなのだろう」

天界とは異なり、雑多な種族で構成されている魔界。
そこにおいて、異なる種族が統一的に作戦行動を行うのは極めて難しいものがあ
りました。
そのため、作戦行動の調整は極めて慎重に行わなければならない。
それは、魔界で戦いの仕事に従事する者にとり、常識とでもいうべき事項なので
した。

ミナが気にしたのは、天使の代表者が作戦の打ち合わせの場に居なくて良いもの
か(この場合、只の従兵に過ぎないユキの存在は無視)ということでしたが、レ
イが指摘するとおり、この街に存在する魔界軍全体の指揮官は自分達と同族なの
で、その心配は無用の筈でした。
もっとも、フィンがノインの屋敷で眠り続けていると知っていれば、レイの反応
も異なっていたのかもしれませんが。

「まぁ、それはそれとしてだ。作戦計画を立てておく必要があると思ってな」
「その計画を大隊長殿が立てているのに?」
「ほら、昨日の話を覚えているだろう? ミナも居たじゃないか」
「うーんと、何だっけ?」
「ほら、ノイン様が仰った、フィンが居ない間の作戦についてだ」
「ああ。少人数で奇襲するってあれ?」
「今回の打ち合わせは、それについてなのだと思う。だから、私は本番の作戦に
ついて考えているのだ」
「失敗すると思っているんだ」

ミナがそう言うと、レイはテーブルの上に紙の束を置いて言いました。

「これまでの作戦の記録だ。読んだか?」
「昨日渡された分は未だ…」
「それも読んだのだが、小規模な作戦では失敗の確率が大と考える」
「どういうこと?」
「個々の戦力では我々が劣る。人間の目を気にしての作戦では、我々の数の優位
を生かせない」
「だけど…」

ドアがノックされたのは、ミナが反論しようとした時でした。
この部屋の主であるレイが応じると、ドアが開けられて一人の準天使が入って来
ました。

「失礼しま…あ!」

部屋に入りかけ、固まってしまった天使の様子を見て、一瞬首を傾げ、直ぐに事
態に気付いたレイは、慌ててミナの方を見て、次いでその身体を指さしました。
ミナは慌てて術で制服に「着替え」たものの、二人が何をしていたか誤解された
のは間違いありませんでした。
いや、誤解とは言い切れない部分も多々あったのですが。

「朝早くから何用だ」
「あ…はい。お休みのところ申し訳ありません。実は、第二大隊から伝令が」
「こんな時間にか?」
「火急の用件とのことで」
「判った」

レイが肯くと、やがて先程の準天使の案内で一人の男が連れられて来ました。
一見、普通のヒトに見えるものの、身体から発する邪気が、魔界の出自であるこ
とをレイ達に感じさせました。

「火急の用件とは何事か」
「はい。実は、少々面倒なことになりまして」
「面倒?」
「はい。我々が魔界からクイーンと共に降下し、別名あるまで待てとのノイン様
の指図により地下に潜んで二月。一部部隊が作戦に参加したものの、大半の部隊
は地下で喰っては寝るばかり。些か、飽きているところでございます」
「近々作戦行動を開始することになっている。それまで待て」
「判っております。それよりも今問題なのは、食料のことです」
「量は足りているのだろう?」
「ええ。しかし、保存食ばかりで兵共はこれにも飽きております」
「その気持ちは判るが…」

ここまでの話で、大体の用件は掴めたレイ。
しかし、その先が重要でした。

「そこで一部の愚か者が、地上に這い出て人間共の食料を奪ったのでございま
す」
「何だと!」

思わず叫び、立ち上がったレイ。
ミナが見ると、伝令の者は縮こまっている様子でした。

「人間達にこのことは?」
「姿は見られて居ない筈なのですが」
「その言い振りだと、奪っている様子は人間に見られたのね?」
「はい。実は」
「このたわけが!」

再びレイが伝令を怒鳴りつけると、伝令も首をすくめます。

「して、下手人は」
「はい。取りあえず捕らえてはあります」
「これは、重大な犯罪だぞ。当然、軍規に照らせば…」

処刑すべし。
レイの続く言葉を感じ取ったミナは、慌てて止めに入りました。

「待って、レイ」
「何だ?」
「下手人の処罰は、第二大隊でちゃんとするんだよね?」
「はい」
「ここに来たのは下手人の処罰についてお伺いを立てるのでは無く、別のお願い
なんでしょう?」

そうミナが言うと、伝令もほっとした表情を浮かべ、本題を切り出しました。

「はい。それで我々としては、生鮮食料品を手に入れたいのですが、生憎と人間
の姿を取れる者があまりおらず、真っ当な手段で現地調達がなかなか行えないの
です」
「それで、我らを頼ったか」
「はい。資金は十分にありますので、これで何とか」

伝令は足下に置いてあったスーツケースを床に置いたまま開けてみせました。
中に現地の紙幣がぎっしりと詰められているのを見て、口笛を吹くミナ。

「判った。既に我々の分の食料を現地調達することにしている。その一部をそち
らに手配しよう。どこに運べば良いのか?」
「はい、では…」

伝令は進み出ると、地図の一点を指し示すのでした。



「全く来て早々、こんな面倒を押しつけられるとはな」

伝令が自分達の隠れ家へと帰っていった後で、ぼやいたレイ。

「困った時はお互い様。断って勝手に『現地調達』されたら大変だよ」
「それはそうだが、しかし気にいらん」
「何が?」
「どうせ奴ら、罪悪感のかけらもあるまい。全く魔界の連中と来たら…」
「私たちだってその魔界の連中の一人じゃない。今は」
「私達は奴らとは違…」
「違わない! レイ、私達は確かに天界の生まれだけど、今は魔界で生きる者な
んだよ!? レイの気持ちは判るけどさ、私達だけの時でも、そんなことを口にし
ちゃ駄目だよ」

ミナは真剣極まりない表情をレイに見せました。

「判ったよミナ。お前の言い分が正しい」
「レイ…」

レイは天井を見上げ、そして呟きました。

「私達は、ここでなさねばならない仕事がある。私達の将来のため、それを何よ
りも優先しないとな」
「うん…」

レイは立ち上がると、ミナの隣の椅子に腰を下ろします。
そしてその肩に手を載せ、自分の方に引き寄せるのでした。

●桃栗町郊外

郊外にある採石場の跡地に通じる道路をすごすごと引き上げてくる大和。
その様子をシンドバットに姿を変えた稚空は双眼鏡で眺めていました。

「委員長、何も見つけられなかったみたいだぜ。シンドバット」

いつの間にか側に飛んで来ていたアクセスが、稚空に声をかけました。

「その様だな」

昨日のパーティー会場で話題に上った心霊スポットに行ってみませんかと、大和
から携帯電話を通じて誘われたのは、午前中のこと。
どのみちそこに出かける積もりではあったものの、稚空が誘いを断ったのは昨日、
昴からの誘いを断ったのと同じ理由でした。

興味半分で何物かを探索する彼らとは違って、彼は本気で魔界の者共を探索しな
ければならないのです。足手まといが居る状態で魔界の住人と遭遇する。その事
態だけは避けなければなりませんでした。

「それじゃ、行こうか」
「おう!」

桃栗町の郊外に在るそれ程険しくもない山の中。
その森の中の木々をシンドバットは枝から枝へと飛んで行きました。
アクセスはその間、上空を警戒し他の人間や魔界の者が居ないのかどうか、探索
しています。

程なく、採石場の跡地が見えてきました。
その地に降り立ち、アクセスから貰った「天使の羽根」をセンサー代わりに魔界
の者共の気配を探索するシンドバット。
しかし、以前この場所を探索した時同様、その気配は弱いものでした。

とは言え、昴の話にあった微小地震の震源地の一つとなっているこの地の地中奥
深くに魔界の者共が居るのは間違いない様に感じられました。

どこかに出入り口があるのでは無いか。
シンドバットが周囲の様子をもう少し詳しく調べようとした時のことです。

「シンドバット!」
「何だ」
「こっちに車が沢山来る!」
「何?」

こんなところに何用とは思ったものの、今の自分の姿を見られる訳にも
いきません。
稚空の姿に戻ったとしても、この場でうろうろしているのは拙そうです。
そう判断したシンドバットは、慌ててこの場を引き上げる事にするのでした。



採石場跡地を視界に入れることの出来る木の枝に立ち、シンドバットは双眼鏡を
手にしていました。
双眼鏡の向こう側では、トラックやワゴン車が続々と停車して、男達が段ボール
や発泡スチロール等で出来た箱を次々と降ろしている最中でした。

「何してるんだろう、あいつら」
「さぁな」
「あれ、食い物か? キャンプ…でもするのか?」
「それならもっと良い場所が沢山この街にはある」

二人して首を傾げていると、やがて荷下ろしが済んだらしく車は一台を残して去
って行きました。
とは言え、荷物の側には番をしている男が居るために、再び近寄る事も出来ませ
ん。

「どうする、シンドバット?」
「気になるな、あれ」
「そうかぁ?」
「気の所為ならそれで良い。とにかく、あの荷物の正体を確かめようぜ」
「シンドバットがそう言うなら、つきあうけどよ」
「済まないな」



シンドバット達が採石場の跡にある荷物を見張り始めてから、数時間が経過しま
した。
その間、採石場の跡には動きはまるで無く、欠伸をしかけた時のことです。
近隣の警戒に当たっていたアクセスが文字通りすっ飛んできました。

「シンドバット!」
「何だよ」
「人が来る! こっちに向かってる!」
「何だって?」

見ると、シンドバットが立っている木から見える位置を走る山道を何人かの人間
が歩いて来るのが見えました。
その人間達の服装が、警官のそれだと気付くとシンドバットの緊張が高まります。
幸いにして、この場所は山道からは離れており、このままじっとしていれば見つ
からずに済みそうでした。
しかし、彼の思惑は意外な形で外れることになったのです。

彼が立っている木の幹が突然捻れ、枝がシンドバットを包み込む様に動きました。

「何!?」

その場で跳躍して、最初の一撃を回避したシンドバット。
しかし、気がつくと周囲の木全てがまるで生き物の様に蠢き、枝を伸ばし、葉を
飛ばして彼に襲いかかって来るのです。

「ちぃっ! こんな時に!」

蠢く枝の一本に着地して即座に再びの跳躍。空中で念を込めるとピンを取り出し、
木の一本にそれを投げつけました。

「チェックメイト!」

願い違わず、目標にそれは突き刺さり、その木の動きが止まりました。

「やったのか…?」

地上に降り立ったシンドバット。
気がつくと、他の木全ての動きは収まっていました。。

「何なんだ、今のは…」

シンドバットが呟いた時、彼の側にある木に何かが命中し、弾けました。

「いたぞ! シンドバットだ!!」

木が動き出した音を聞き、木々の間を縫って駆けつけてきたのか、警察官の姿が
シンドバットから少し離れた場所に在りました。
彼の手には拳銃が在り、シンドバットに狙いを定めていました。
そして彼の声を聞き、こちらに駆け寄ってくる足音が複数。

「拙いな」
「動くな! 動くと……」
「警告無しに撃っておいて、良く言うぜ」

そう言いつつ、懐から折りたたみ式のブーメランを取り出しそれを警官に向けて
投げつけると、狙い違わず拳銃にブーメランが命中、彼はそれを取り落としまし
た。
警官に向かって走り、戻って来たブーメランを回収したシンドバット。
前方には新手の警官が見え、彼の方を指さしているのが見えました。

「ひとまず撤退だ!」
「おう!」

その場で跳躍し、逃亡を開始したシンドバット。
そして、その後を追いかけるように銃声が響くのでした。

●桃栗警察プレハブ庁舎 ジャンヌ特捜班

「それじゃ俺達はこれで上がります」

昨日から泊まり込みの夏田と冬田は口々にそう言うと、事務室を後にしました。
春田と秋田は、氷室と残業です。
今夜も泊まり込みでの仕事となりそうでした。

「夜食、買って来ました」

コンビニの袋を下げて、戻って来たのは秋田。

「おう、すまないな」
「幾らだ?」
「えっとですね…」

レシートを取り出し、それぞれの代金を計算する秋田に、氷室が声をかけました。

「そう言えば、あの事件はどうなったかな?」
「あの事件?」
「ほら、姿の見えない強盗事件だよ。本庁舎通った時、お前の事だから何か聞い
てるんじゃないかと思ってな」
「はい。余り進展は無いみたいですね。現場には、指紋一つ、髪の毛一本無かっ
たみたいで」
「そうか」

特に残念そうという雰囲気も無く、氷室は肯きました。

「それにしても、何時までこんなのが続くんですかね」
「そりゃあ、この調書の山を片づけて、報告書を作るまでさ」
「あーあ。ジャンヌかシンドバットでも現れれば、仕事を中断して外に出られる
のになぁ」
「おぃおぃ、仕事が先延ばしになるだけだろう」

幸か不幸か、春田の願いが天に届くことはありませんでした。
その日の夜、桃栗警察署にジャンヌやシンドバットに関する通報は一件も無かっ
たからです。

(第170話・つづく)

最近余り活躍して居ない人に活躍して貰いました(笑)。
日曜日から始まってますが、水曜日の朝まで進む予定です。

では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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