神風・愛の劇場スレッド 第168話『再会』(その4)(11/24付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 24 Nov 2002 19:32:22 +0900
Organization: So-net
Lines: 399
Message-ID: <arq9rp$mt9$1@news01bh.so-net.ne.jp>
References: <aotnc6$hfs$1@news01cj.so-net.ne.jp>
<20021021173850.1b607df3.hidero@po.iijnet.or.jp>
<aq4tca$hju$1@news01bb.so-net.ne.jp>
<aq50pd$hvf$1@news01bb.so-net.ne.jp>
<ar7uvj$nlu$1@news01bh.so-net.ne.jp>

石崎です。

某妄想第168話本編(その4)です。

>># 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
>># 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
>># 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。

第168話(その1)は、<aq4tca$hju$1@news01bb.so-net.ne.jp>から
     (その2)は、<aq50pd$hvf$1@news01bb.so-net.ne.jp>から
     (その3)は、<ar7uvj$nlu$1@news01bh.so-net.ne.jp>からどうぞ。



★神風・愛の劇場 第168話『再会』(その4)

●魔界中心部

 新たな魔界の軍勢が、神の御子の魂を求めて地上界へと旅立ったその日の夜。
 自然多き魔界の中心部に在る、魔界最大の集落である魔都。
 その中心部にある、魔王の王宮を訪れる者がありました。
 小さな龍の姿をしたその者が辿り着き、応対した異形の者──人間にとって─
─である門番は彼がクイーンからの使いであると知ると、慌てて水晶玉を通じて
中に連絡を取りました。
 連絡を受けた男は、人間に似た姿──と言うよりは人間そのものでした。

 やがて男の前に現れた龍族の幼生体──人間界からの伝令──から、クイーン、
そしてノインからの言伝を聞くと、男はこの話を直ちに魔王へと伝えることを決
意します。
 まだ起きている時刻であるかが気がかりでしたが、クイーンの事に関しては遅
滞なく連絡するようにとの命令を受けていた上に、報告の中にはそれ以上に重要
な内容が含まれていたのです。



 魔王の寝室の前に立ち、中に入る許しを請うたその男。
 ややあって、内部より応じる声がありました。
 それを待ち、男は扉を開けました。

 内部には豪奢な寝台があり、寝台の周囲に降ろされた幕の向こう側で魔王が起
き上がろうとしているのが判りました。
 その周囲にも何人かの者が横たわっているのが判りましたが、男は長年の習慣
通りその存在を無視します。

「この様なお時間に申し訳ありません。魔王様」
「良い。何か地上より報せがあったのだな?」
「はい」

 男が恭しく何やら小型の機械を取り出すと、寝台の方へと差し出します。
 すると、それは勝手に浮かび上がり、魔王への方へと飛んで行きました。
 それを耳にして、魔王は何かを聞いている様子でした。

「この話はお前も聞いているのだな?」
「はい。畏れ多い事ながら」
「魔界宰相たるお前にはその権利がある」
「はっ」
「クイーンが一時帰還するそうだ。準備せよ」
「ははっ。では、まずは魔王様の周囲を片付けることから」

 何時の間にか、魔王の周囲に居た人影は物音一つ立てずに消え去っていました。
 もっとも、その程度の気配りが出来ぬ者が、魔王の側に居る筈もありません。

「判っている。しかしフィンも人の事は言えぬぞ」
「そうなのですか?」
「いや…。今のことは忘れろ」
「判っております」

 既に長年側に使えているのです。
 魔王の考えている事は手に取るように判る。
 少なくとも、魔界宰相と呼ばれたその男はそう思っていました。

「ところで、クイーンの言伝とは別に、ノイン様からの言伝にあった件ですが」
「真実だ。あの娘の言い分に嘘偽りは無い」
「まさか、あの娘に魔界を出ることをお許しに?」
「許してはいない」
「気付かれなかったので?」

 魔王がありとあらゆる場所──それが天界であっても──を見通すことが出来
る力があることを知っていた魔界宰相は、首を傾げつつ言いました。

「気付いては居た」
「では、何故」
「何時までも私の都合でこの世界に留めおくことが不憫になったのだ。可笑しい
か? この私がその様な感情を抱くなど」
「いえ。しかし、それではあの娘は…」
「心配か?」
「お戯れを。私は人間。正統悪魔族の娘になど」

 即座に宰相がそう答えると、魔王は暫し、無言でした。

「そうであったな」
「どうされますか?」
「ノインに再び、使いを送ることにする」

 そう言うと、再び龍族の伝令を用意することを魔王は命じるのでした。


●人間界・枇杷町・山茶花本邸

「一緒に…ですか?」
「そうよ」

 弥白の部屋に泊めて欲しい。
 そう願ったのは確かに椿ですが、この階には他にも部屋があったので、そこで
寝るつもりでいたのです。
 だから、一緒の寝台で寝ようと言われた時には心底驚きました。

「ですが、私のような」
「今日はお仕事ではありませんもの。お友達同士、何か問題があるかしら」

 そう言いながら、つい習慣でネグリジェへの着替えを椿に任せきりにしている
弥白。

「いえ、その」
「女の子同士だから、特に問題無いでしょ」
「…はい。弥白様がそう仰るのなら」

 そう答える椿は、何故か耳たぶまで真っ赤なのでした。



 弥白の眠る寝台は、二人が並んで横たわってもなお、余裕がありました。
 その寝台で、眠れない夜を過ごしていた椿は、既に眠っていると思い込んでい
た弥白に声をかけられました。

「椿さん、起きてる?」
「はい。弥白様」

 寝台の天蓋を見上げていた椿が声をかけて来た弥白の方を見やると、存外近く
にその顔があることに驚きます。
 余りくっついていては失礼だと思い、少し離れて身体を横たえた筈でしたが、
弥白の方からこちらに近付いて来ていた様子でした。

「眠れないのですか? 弥白様」
「椿さんも?」
「紅茶の飲み過ぎでしょうか」
「少しお話ししましょうか」
「はい」

 椿が同意すると、弥白は仰向けだった身体を俯せにして、何個も置かれている
枕の一つに片肘をついて顔を支えると、椿の方を見ました。

「今夜、椿さんが泊まるって言って下さって、本当に嬉しかった」
「そんな…。私如きが勿体ないお言葉です」
「本当よ。こんな広い場所で、独り寝は寂しいもの」

 そう言えば、主人の婚約者だと言うあの男性が、最近は、特に夜はご無沙汰だ
った事を思い出しました。
 弥白に使えてそれ程年月が経った訳では無くとも、二人の関係の深さを理解し
ている積もりでいた椿は、弥白が寂しいというこの言葉が真実であろうと確信し
ていました。

「どうして、私が今晩弥白様の所に泊めて頂きたかったか判りますか?」

 そう言えば、名古屋様は最近来られないのですね。
 その言葉を思いついた瞬間に封印した椿は、自分の事を話すことにしました。
 それで、主人の気を紛らわすことが出来るのならと。

「判りませんわ」
「今日、お休みを頂きました」
「ええ。そう言えば、大分前から届けが出ていましたわね」
「はい。今日は私の兄と姉の命日なんです。ですから、去年も同じ日に」
「命日? お兄様とお姉様?」

 一寸驚いた風で、弥白は言いました。
 とっくに知っているとばかり思っていたのですが、どうやら弥白にも知らない
ことがある様子で、椿は何故かほっとしました。

「もっとも、まだ失踪中ということになっていますけど。生きているとは」
「どういう事ですの? 確か、お父様と二人暮らしだったと聞いてましたけど」
「それは、父が亡くなった時の話です。本当は、兄と姉、そして私の三人兄妹で
した」
「そうでしたの」

 椿は身体全体を横にして弥白に向き合うと、話を続けました。

「余り幸せな家庭とは言えなかったと思います。何かの研究をしていた父は、会
社に住んでいる様な状態。母は家庭を置き去りにして遊び回ってばかり。兄と姉
が、私の両親の代わりだったようなものです。やがて母が別に男を作ったことが
原因で、両親は別れることになりました」

 一言も発さず、瞬きすら殆どせず、ただ弥白は椿の言う事を聞いていました。
 その表情からは、弥白が何を考えているのか伺い知る事は出来ません。

 そう言えば、弥白様のご両親は、一体何時家に帰っているのだろう?
 滅多に姿を見ることが無いのだけど…。
 それを思い出し、椿は両親のことを話したのは失敗だったかと思いましたが、
ここで話を止める訳にも行きません。

「その時、姉は母が、兄と私は父が引き取ることになりました。そして、姉が母
の所に引き取られていく前の晩。兄と姉は揃って姿を消しました」

 その日の出来事は、今でも昨日の事の様に思い出せました。
 そして、その時に何を感じたのかも覚えています。

「兄さんと姉さんは、愛し合っていたんです」
「え?」

 どう反応したものか。弥白はそれを考えているのだろうと思いました。
 それも当然かと思います。自分自身がそれを知った時にそう思ったのですから。

「二人は離ればなれになる事を悲しんでいました。でも、姉は母を捨てることも
出来ませんでした。それで悩んだ二人はバイクで家を飛び出て…そして二度と家
には帰りませんでした。目撃者が居て、兄さんのバイクだけが桃栗西岬の海底か
ら発見されて、それで」
「事故でしたのね」
「覚悟の上…だったのだと思います」
「まさか」

 弥白の表情に、若干の変化が見えました。
 そう言えばこのところ、弥白に何かとても嫌なことがあったらしく、相談出来
る者の無いままに、落ち込み気味の日々が続いていたことを椿は思い出します。
 それは婚約者が泊まり込みで看病して以来、快方へと向かいつつありましたが、
ひょっとしたら、死を考えたことがあるのかも。
 そこまで考え、慌ててその考え自体を椿は頭の中から消去します。

「母はこの後で音信不通となり、私は父と二人きり。その父も二年前に…。それ
からのことは弥白様もご存じですよね」
「ええ」
「今日、弥白様が一緒に寝て下さると言われて、本当に嬉しかったです。普段は
心の中に封印していても、今日だけは。一人で居ると、兄さんと姉さんの事を思
い出して、泣いてしまいそうだったので。だから、今晩はここに来たんです」
「そう…でしたの」

 弥白の両の瞳に涙が溢れかえり、それが枕を濡らしていたのを見て、椿は慌て
ました。

「お嬢様。私なんかの為に…」
「…私の大切な人は皆生きて居るんですもの。ごめんなさい」
「え?」
「本当に寂しいのは、椿さんの方だったのに」

 弥白は起き上がると腕で両目を擦りました。
 慌てて起き上がり、ハンカチか何かを用意しようとした椿。
 しかし、弥白の両腕がそれを許しませんでした。

「弥白様、その」
「寂しくなったら何時でも私の所に来て下さい。私で代わりになるのなら」

 自分を両の腕でしっかりと抱きしめている弥白の表情は、弥白の頭が自分の頭
の真横にあるため伺うことは出来ませんが、多分泣いているのだろうと椿は思い
ます。

「はい…。弥白お嬢様」

 主人がそう望むのなら、私も。
 最初はおずおずと、やがてしっかりと椿は両腕を弥白の背中に回します。
 羽根布団から出た二人をひんやりとした部屋の空気が包み込みますが、互いの
体温で暖め合うことで、二人は寒さを感じることはありませんでした。
 そして暫くの間、二人は涙を流し続けているのでした。

 実はこの時、涙を流しているのは二人では無かったのですが、椿はそれは弥白
の泣き声だと思い、気にすることはありませんでした。


●天界中心部・神殿

「まさか、彼女が『魔王の御子』だとは。天使だとばかり」

 謁見の間で神からその事実を教えられたリルは、驚きを隠せませんでした。
 目の前に浮かんだ映像。
 その人物にリルは見覚えがありました。
 ここ最近、人間である親衛隊の大隊長に離れずついていた天使。
 その様に理解していました。
 魔界に放った諜報員から得た情報からも、それは裏付けられていたのです。

「そうでしょう。元々正統悪魔族は貴方達天使を模してあの人が作った生物。本
来の姿ではあっても、羽根の数が違うので普通は見分けられるのですが、彼女は
何故か貴方達と同じ数の翼しか」
「天界にも希に普通と違う特徴を持つ子供が生まれます。そう、緑色の髪を持つ
フィンがそうである様に。正統悪魔族にも同じ様なことが起きている。そういう
事なのでしょう」

 天使の髪の色は、最も多い勢力である銀色を中心に黒髪まで様々でしたが、緑
色というのは天界が始まって以来、フィンが初めてだと言われていました。
 それは突然変異だとも、神の気まぐれだとも言われていましたが、陰では兎も
角、正面切って同期の中で最優秀であるフィンを差別する者はいませんでした。

 だが、正統悪魔族の異端者はどうだろうか?
 そんな事をリルは一瞬考え、それが無意味であることに気付きます。
 そもそも、正統悪魔族は本来の姿で生きる者は少なく、自分達だけで固まって
暮らすことなど無いのですから。
 もしかしたら、今見ている姿も実は偽なのかも。

「リルの言う通りです。ですから、見かけでは絶対に正体は分かりますまい。で
すが、過去の天使達の記録を調べれば、天界の住人で無いことはいずれ判りま
す」
「御意。指揮官級から内密に調査を進めていたので、従卒までは」

 リルは一度に大勢の素性を探り、情報局に痛くもない腹を探られることを嫌っ
ていたのでした。

「それで、この御子のことですが…」
「やはり、ご指示通りに?」

 例え敵であっても、見た目が自分達と同じ者と戦い、倒すことは出来ればした
くなかったリル。
 しかし、神の命令は絶対。従わない訳には行きませんでした。

「安心なさい、リル。私が命じたいのはその逆です」
「は?」
「とても難しい任務です。貴方にしか頼めない」
「何でしょう」
「彼女の立ち居振る舞いを暫くの間見ていました。彼女は恐らく、自分の正体を
知らないでしょう」
「私もそう思います」

 自分が正統悪魔族だという自覚すら薄いのではないか。
 同時に、その様にリルは感じていたのですが。

「お願いです。彼女が目覚めぬよう、そして彼女の正体が明らかにならないよう、
彼女が彼女の生まれた世界に戻れるようにして欲しい」
「しかし、それは…」
「そうです。私が以前、貴方達の先祖に命じたこととは矛盾します。だから他の
天使には頼めない。私が今心を許せる、貴方以外には」
「しかし、本当に宜しいのですか? 確かあの魂は…」

 可愛らしい少女の命を神の命で奪う必要が無くなったことに安堵しつつ、リル
はある疑問を口にしようとしました。

「そうですね。貴方達には全て告げていないのでした。リルには話しておきます。
あの魂についての真実を」

 そう言うと、神は魔王の御子──ユキと呼ばれる従兵──の持つ魂について話
し始めました。


●人間界・桃栗町・オルレアン

 東大寺家で都の兄の昴、そして大和と、マニアックな話で盛り上がった稚空は、
ほろ酔い気分で自分の部屋へと帰って来ました。
 リビングに入り、身震いを感じた稚空。
 見ると、居候の天使達の為に開け放してあった窓が、少しだけ開いたままでし
た。
 未だトキが帰って居ないのだろうか?
 そう思い、彼らの寝室となっているロフトへ忍び足で行くと、二人は仲良く横
になって寝ているのでした。
 ため息をつき、帰り道も忍び足で戻って来た稚空。

 氷室警部の手前、あまり飲むことが出来なかった物足りなさから、もう少し飲
み直そうかと思い、棚から寝酒を見繕う事にした稚空。
 しかし、取りかけた瓶をやがて棚に戻してしまいました。
 飲酒を我慢した原因に気付き、稚空は苦笑するしかありませんでした。

 ──怒られるのが嫌だから──

 先日、飲酒しようとしてトキに見つかり、大目玉を喰らったことがあるのでし
た。
 その時はどうして天界から来たばかりの天使にこんな事を言われなければなら
んのかと腹立たしく感じつつも、正論ではあったので黙って耐えて聞いていた稚
空。
 ですが、決して悪い気はしませんでした。
 その原因に、稚空は直ぐに思い当たりました。
 自分の父から、その様に注意された事が無かったからです。

 自分が何をしても、自分を褒めて、そして応援するばかりだった父。
 そのくせ自分では無く、母親以外の女の尻ばかり追い回し、その誰とも長続き
しなかった父。

「何が俺には母親が必要だ…」

 そう、一人ごちる稚空。
 最近はそれでも父親の気持ちが判るようにはなっていたのですが。

 そんな事を思いつつ、稚空は窓を閉めるついでにバルコニーへと出ようとして
思い止まりました。
 雪は大分解けてはいたものの、未だバルコニーには雪が残っていたからでした。
 そしてそこには、天使がつけたものらしい足跡がくっきりと残っていました。

 窓から顔を出し、左隣の部屋の様子を確かめた稚空。
 カーテンの隙間から灯りが漏れていて、まろんはまだ起きている様子でした。
 バルコニーを乗り越え、まろんの部屋を訪れたい。
 その様な衝動が襲ったものの、毎晩そうであるように何とか耐え、窓を閉めよ
うとした稚空。

「!」

 正面に広がる夜空に、何かが横切った気がしました。
 しかしそれは一瞬で、直ぐにいつもの夜空が目の前に広がっていたのですが。

「(潜んでいる悪魔が散歩でもしているのか?)」

 ここまでの戦いで、すっかり悪魔という存在に対して鈍感になっていた。
 それがこの街に在るということが、まるで日常の出来事の様に感じていた。
 後に、稚空はその様にまろんに対して述懐したと言います。

 それから暫くの後、桃栗町を襲うことになる災厄。
 それは、この晩に始まっていたのですから。

(第168話(その4)完)

 体調に問題が無ければ、次週末で完結する予定です。

#…と書いておけば、意地でも完結するでしょう(^_^;

 では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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