From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 04 Nov 2002 14:32:28 +0900
Organization: So-net
Lines: 517
Message-ID: <aq50pd$hvf$1@news01bb.so-net.ne.jp>
References: <20021011174031.7f494617.hidero@po.iijnet.or.jp>
<20021018174503.49e6e0ca.hidero@po.iijnet.or.jp>
<aotnc6$hfs$1@news01cj.so-net.ne.jp>
<20021021173850.1b607df3.hidero@po.iijnet.or.jp>
<aq4tca$hju$1@news01bb.so-net.ne.jp>
石崎です。
例の妄想の第168話(その2)本編です。
第168話(その1)は、<aq4tca$hju$1@news01bb.so-net.ne.jp>からどうぞ。
>># 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
>># 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
>># 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。
と言うことで。
★神風・愛の劇場 第168話『再会』(その2)
●桃栗町・名古屋病院
佳奈子の病室を訪れた弥白。
すると、扉の向こうから楽しそうな笑い声が聞こえて来ました。
家族が居るのだろうか? それとも、誰かお友達?
そう思い、少し身構えて中に入っていった弥白。
しかし、ベット毎上半身を起こしていた佳奈子と話していたのは意外な人物な
のでした。
「海生おじ様?」
「やあ、弥白ちゃん。いらっしゃい」
「院長自ら回診ですか? それに回診の時間は今頃でしたかしら」
「うん、まぁ、ちょっとね」
曖昧な言葉を海生は返します。
それを聞いて、ある想像をした弥白。
ですが、佳奈子もいる手前、その言葉はぐっと飲み込みました。
「そうそう、佳奈子ちゃんだけど…」
「明後日には退院出来るそうですわね」
「うん。良く知ってるね」
「さっき、そこで神楽に聞きましたわ」
「ああ、成る程ね。それで弥白ちゃん」
「何ですの?」
「何て返事したの?」
「はぁ?」
「あ、まだなんだ」
「後で神楽の部屋に行くことになってますけど…」
「あ、そうなんだ。そりゃ、しまったなぁ…」
「何ですの?」
「まぁ、その時になれば判ると思うよ」
「もう、変なおじ様」
そう言ったものの、神楽の用件というものが判った様な気がしました。
特に驚きはありません。
それまでの態度に気付かない程、鈍い弥白ではありません。
ただ、気付かない振りをしていただけなのです。
その方が、自分のため、神楽のため。
そう思い続けてきたのですが。
「あ、そうなの。判った。今行くよ」
出来れば二人きりで話したかったので、海生を追い出すか、出て行くのを待と
うかと考えていた弥白。
しかし、その必要はありませんでした。
海生は携帯端末を取り出し何事か話すと、「ごめん弥白ちゃん。話はまた今度
ね」と言い残し、あたふたと出て行ってしまいました。
「弥白様、その」
海生が出てしまった後で、佳奈子がおずおずと話しかけてきました。
昨日の晩、ツグミが病室を去った後で、弥白は佳奈子を休ませ、佳奈子も眠り
に落ちてしまったので、昨日の出来事からまともに話すのはこれが最初でした。
「何?」
「私、あの、弥白様に大変なこと」
それだけで、佳奈子が何を言いたいのか察した弥白。
それまでに起きた出来事同様、昨日までの出来事の記憶の一部分が飛んでしま
っていますが、それでもかなりの出来事が記憶に残っていました。
「大丈夫。あれは私が望んだこと。佳奈子さんは手伝ってくれただけ。だから、
佳奈子さんは何も悪くありませんわ」
「違います」
「ごめんなさい、巻き込んでしまって」
有無を言わさず、弥白はそう言うと佳奈子の手を握りました。
「弥白様」
「私、決めましたの。もう佳奈子さんを心配させることはしませんわ」
「だけど弥白様。な…」
佳奈子の口に指を当てることで、弥白は佳奈子が続きを喋るのを阻止しました。
「良いんですの。そうまでして、手に入れても空しいだけ」
「諦められるのですか?」
弥白は、首を振りました。
「いいえ。まだ諦めた訳ではありませんわ。だけど」
「……判りました。弥白様がそうまで仰るのなら」
具体的な事は何も話さずとも、この子には話が通じている。
と言うことは、この子も記憶を残しているのだろう。
忘れていた方が幸せだと思うのだけど。
「そう言えば、明後日には退院出来るそうね」
「そうみたいです」
「身体の具合は? ずっと寝たきりだったのに」
「それが…嘘みたいに調子が良いんです。お医者様も驚いていました。あり得な
いって」
「それは、良かったですわ。だったら、これも無駄にならないで済むかしら」
弥白は、学校の指定鞄から封筒を取り出しました。
「実は、手伝って欲しいことがあるの」
「弥白様のお願いでしたら何なりと」
「今度、湾岸地区に遊園地がリニューアルオープンするのはご存じ?」
「え…はい。何とかギャラクシーワールドとか。地下鉄が通る関係で、アトラク
ションの移設工事ついでにリニューアルしたんですよね」
「あら、意外に詳しいのね」
「いえ、新聞で偶々…」
「それで、水無月のお爺さまから、これを頂いたの」
開催日の招待券を弥白は取り出し、佳奈子に見せてやりました。
「開催日の招待券ですか?」
「そう。佳奈子さんの体調が良ければ、つき合って頂こうと思って。今度の金曜
日なので、学校を一日お休みして」
「私が…ですか?」
見るからに、佳奈子の表情が明るくなるのが判りました。
「そう。佳奈子さんにしか頼めないことなの」
「あ、そう言えば、手伝うことがあるんですよね。私に頼みと言うと、ボランテ
ィアか何かで」
「ええ。当日、視覚障害者の方を遊園地に招待していますの。それで、その人を
案内して欲しいんですって。ただ、その日来るかどうかは判らないから、来なか
ったら遊んでも良いそうよ」
「成る程。判りました。それは確かに良い経験になると思います。それに、弥白
様と…あ」
顔を真っ赤にした佳奈子を見て、弥白は微笑み、そして言いました。
「私も佳奈子さんと一緒に行けることを楽しみにしていますわ」
「…はい」
ますます顔を赤くした佳奈子は、とうとう俯いてしまいました。
「じゃ、決まりね。その日までに、しっかりと身体を養生して、当日は楽しみま
しょう。あ、ちょっと変かしらね」
「はい。でも、身体は本当にもう大丈夫なので安心して下さい」
「随分と自信があるのね」
「……笑わないで下さいますか」
「何?」
「馬鹿な話です。御伽噺みたいな」
「笑わないわ。約束します」
「では、弥白様だけにお話しします。私、ずっと夢を見てました」
「夢?」
「はい。夢の中で、自信の無い私を勇気づけてくれていた、もう一人の私」
弥白は、ここ一週間ばかり姿を見せない、あの悪魔と名乗る少女の事を思い出
しました。
そう言えば、彼女は今どこで、何をしているのだろう。
「でも、もう一人の私に頼り過ぎたのがいけなかったのか、彼女は居なくなって
しまいました」
「それで?」
「私は落ち込みました。また、前の意気地なしの私に戻るのかと思った。だけど、
そんな私を勇気づけてくれたお友達が、私に囁いてくれたんです」
「お友達?」
「はい。ちょっとドジな羽根を生やした…そう、あれは天使」
「天使?」
自分の記憶にある銀色の髪を持つ者は、翼があっただろうか。
そう、弥白は思います。
「彼女が言うんです。今まで出来たことがこれからも出来ない筈は無いって」
恐らくそれは夢では無く、現実であるに違いない。
その様に弥白は確信していました。
それは、自分がそれまで散々経験して来た事だから。
「それに…」
弥白は続く言葉を待ちましたが、佳奈子は何故か顔を赤らめるばかり。
「それで、目を覚ましたら、元気に?」
「あ、はい。その天使とは、夢の中で一体となっていた瞬間があって、そうして
いると身体の中が何と言うか、暖まるような気がして…。説明は難しいのです
が」
「きっとその天使が、佳奈子さんに勇気と元気を運んで来てくれたのね」
「はい。そう思うことにします」
佳奈子はそう言い、肯くのでした。
*
佳奈子の病室を出た後で、弥白は約束通り病院の事務長である彼方木神楽の個
室へと向かいました。
ノックをして返事があった後で部屋の中に入ると、書類の山に埋もれる様に神
楽が仕事をしている様子が見えました。
弥白が入って来た事に気付き、慌ててこちらに歩いて来た神楽。
「弥白様でしたか。これは気付きませんで」
「良いですわ、気になさらずに」
「今、お茶を入れます」
そう言うなり、部屋の片隅で緑茶を用意している神楽。
弥白は、特に断りも無く部屋の中央部にあるソファに腰を下ろしました。
「佳奈子さんの病室で、おじ様に会いましたわ」
「海生様にですか?」
「ええ」
「そう言えばあの子の回診は、必ず海生様が自らやっておられる様ですね」
「そうなんですの?」
「また、悪い癖が出たのかも」
「悪い癖?」
「海生様は、可愛い女の子には見境無しですから」
「まさか」
神楽の言葉には、これは冗談ですという響きがありましたが、急に不安になっ
た弥白。
「ま、それは冗談として」
「本気であっては困りますわ」
「彼女のことが大切なのですね」
「ええ。とても…」
「ならばお話ししますが、海生様は彼女の心の方を心配されている様子です」
「心?」
「この前の事件で、刃物を握りしめて倒れていたそうです、彼女」
「そう…ですの」
「今月の8日に彼女がこの病院に担ぎ込まれた時も何者かに襲われたという話で
したし。彼女の強い希望で、事件にはなっていませんが」
その話を海生院長自身から聞いていたことを弥白は思い出しました。
それで海生の意図を知り、安堵した弥白は小さくため息をつきました。
「そうでしたわね」
「ですから、彼女のことは宜しくお願いします。弥白様」
「判りましたわ。実は海生おじ様にも以前、同じことを頼まれていましたの」
「そうでしたか」
そう。私はこの子の事を守る義務がある。
それが、自分を慕ってくれる者に対する私の義務。
それが守るどころか、逆に危険な事まで。
私がしっかりしなければと、改めて決意する弥白でした。
「ところで神楽」
「はい」
「私に何か用があったのでは」
「あ、はい。その…」
「話は早くなさい」
「判りました」
神楽は立ち上がると机の引き出しを開け、何かを取り出しました。
取り出した物を見た瞬間、それが何であるのか判ってしまった弥白。
何て間が悪い事だろう。そう、弥白は思います。
「実は、院長のつてで手に入れたのですが」
「まぁ、何ですの?」
「雛祭りの日にリニューアルオープンする遊園地のチケットなのですが。もし、
宜しければ、一緒に…。その、ホワイトデーには少し早いのですが…」
そう言うと、テーブルの上に「水無月ギャラクシーワールド」と書かれたチケ
ットを神楽は出しました。
「お気持ちは有り難いのですが、これは受け取れませんわ」
「そう…ですか…」
神楽の表情がみるみる暗くなっていくのが判りました。
とは言え、それを観察して面白がる趣味はもちろんありません。
「実は、お友達と一緒にその日、そこに行く先約がありますの」
「そのお友達とは? あ…。失礼しました。今のは聞かなかったことにして下さ
い」
弥白の言葉に思わず反応してしまった神楽は、慌てて前言を撤回しました。
「神楽は気になる様ですから、教えて差し上げますわ。一緒に行くのは、佳奈子
さん。ちなみに遊びに行くんでは無いんですのよ」
「遊びでは無いと?」
「秘密、守れます?」
「弥白様のご命令であれば」
「実は水無月のおじい様に視覚障害者の隠し子が居て、その子の案内を頼まれま
したの」
「水無月会長に隠し子? 本当ですか?」
心から驚いた様子で、神楽は言いました。
この病院には、山茶花家程では無いとは言え、水無月家も出資しているので、
神楽も鏡太郎のことを知っているのでした。
「冗談ですわ。でも、後ろ半分は本当」
「成る程。ところで、何で秘密なんです?」
「その辺りの事情は聞きませんでした。自分の名を出したくないのでしょう」
「成る程、会長らしいですね」
そう言い、神楽は肯きました。
「とにかく、そんな訳ですの。神楽には悪いのですが」
「そう言う事でしたら、仕方ありませんね」
ため息をついて、神楽はチケットをスーツの懐にしまい込みました。
「何でしたら、神楽も一緒に如何? 人手はあって困る訳でも無いし」
「いえ、遠慮しておきます。お友達との大切な一時を邪魔したくは無いですか
ら」
「ならば、こうしましょう」
「はい?」
「ホワイトデーの代わりに、どこか遊びに連れて行って下さいな」
「私と…ですか?」
「他に誰が居るんですの?」
「あの、その…」
「お嫌かしら?」
「いえ! そんなことは!」
慌てて、神楽は言いました。
「そうですわね。三月下旬に全国大会があるから、その後が良いですわ」
「はい。四月になれば、少しは仕事も余裕が出来るので丁度良いです」
「では、そう言う事で、期待してますわよ、神楽」
「あ、はい!」
その時の神楽の顔は、本当に嬉しそうに見えました。
それは、私の一番大切な人ですら、滅多に見せてくれない表情。
多分彼は、あの人よりも私のことを好いてくれるのだろう。
でも私はそれにどう答えたら良いのだろう。
答えは直ぐには出そうにありませんでしたが、ゆっくり考えれば良い。
そう思う弥白なのでした。
●枇杷町・山茶花邸
山茶花邸に弥白が戻って来た頃は、既に日も落ちた時刻。
リムジンを降り立つ時に、視界の隅に見慣れた車が停まっていたので、来客が
あることに気付きました。
そう言えば、暫くご無沙汰していた相手でした。
「お待たせしました」
「暫くだね」
応接室に入ると、ソファに座っていた三枝が手を上げました。
「新体操の大会の時にお会いしましたわ」
「殆ど話は出来なかったけどね」
「良い写真は撮れました?」
「あの事件で幾らかフィルムを無くしてしまってね。山茶花さんが写っているの
はこんなところかな」
そう言うと、テーブルの上にプリント済の写真を出しました。
日下部まろんの写真ばかり撮っていると思っていたのですが、弥白の演技もき
ちんと一通り撮ってあったので、少し驚いた弥白。
「これの中から、例の写真集に入れたいと思ってね。今日は、どれを使うのかの
相談に来た訳さ。それから、こちらも」
別の袋を出した三枝。
こちらは、やはりプリント済のこちらは殿方の前で出すことが少し躊躇われる
写真が入っていました。
とは言え、その写真を撮って貰った本人を前にして恥ずかしがるのも何だと思
い、思い切ってその写真をテーブルの上に並べました。
「失礼します」
ドアがノックされ、弥白の分の紅茶が入ったティーポットとカップを乗せて椿
が部屋に入って来ました。
「あっ」
小さく、椿が声を上げましたが、それ以上は何も言わずに出て行ってしまうの
でした。
「ちょっと、拙かったかな」
「平気ですわ。彼女でしたら」
「忠実なメイドだからかい?」
「そして、大切なお友達ですわ」
「そうかい。実は、山茶花さんが帰って来るまで、彼女が話し相手になってくれ
てね」
「そう言えば、今日は椿さんはお休みだった筈」
「そう。実は桃栗町で偶然会ってね、ここに来る途中だから乗せて来たんだ」
「そうでしたの」
「まだ若いのに、大分苦労してる様だね。そして、良い子だ」
「ええ」
「大切にしてやりなさい」
「もちろんですわ」
まるで自分の父親の様に言うなと弥白は思いましたが、それでも素直に肯く弥
白でした。
*
窓から椿と三枝が話している様子を伺っていたセルシア。
とは言え、何を話しているのか良く聞こえる訳でも無く、あまり変化の無い二
人の様子に欠伸が出かかった頃。
セルシアの頭の中に彼女を呼ぶ声が響きました。
「(トキ? 今、どこですです?)」
「(弥白嬢が、まもなくそっちに自動車で戻ります)」
「(トキも来るですです?)」
「(はい。今、車の上空です。こっちから、お屋敷が見えてきましたよ)」
「(本当ですです?)」
慌てて、辺りを見回したセルシア。
しかし、遠くから見通す能力は持っていても、どこに居るのか判らないのでは
なかなかその姿を捉えることが出来ません。
とは言え、波の送られてくる方角から、程なくこちらに向けて走って来る黒塗
りの車と、その上空を飛行する光球の姿をセルシアの眼は捉えます。
「(あ、こちらからも見えたですです!)」
「(こちらからも見えました。そちらには何か変化は?)」
「(特に異常は無いですです)」
「(こちらもです。佳奈子嬢も、悪魔の影響は感じられませんでした)」
「(それは良かったですです)」
それから程なく、弥白の乗った車がセルシアの眼下に停車しました。
そして、トキもセルシアの居る場所に飛んで来ました。
「セルシア」
「はいです?」
「途中で、寝てましたね」
「そんなこと無いですです」
「病院に着いた時、連絡したのですが、応答がありませんでした」
「あやや…。ごめんなさいですです」
「まぁ、弥白嬢が居なかったのですから、良しとしましょう。休息も大事です」
ため息をつきつつも、トキがそう言ってくれたので、セルシアの表情も明るく
なりました。
「それでは、弥白嬢のことは頼みます」
「トキはどうするですです?」
「名古屋君の家に帰ります。天界との連絡も必要ですし」
「そう…ですです」
一緒に居て欲しい。それがセルシアの願いでしたが、任務で来ている以上、あ
まり我が儘は言えませんでした。
「では、しっかりと見張って居て下さい」
「任せるですです!」
「また、明日様子を見に来ます」
そう言うと、トキはオルレアンのある方角に向かって飛び去って行きました。
「待ってる…ですです」
トキの背中をどこまでも目で追いながら、そうセルシアは呟いていました。
*
弥白が屋敷に戻って来てから暫くは、真面目に任務を果たしていたセルシア。
三枝とテーブルに写真──これ自体は天界にも存在する物──を広げ、談笑し
ている様子でした。
その広げられた写真を覗き見て、赤面した事を別とすれば、特段変わったこと
は無いとセルシアは感じました。
「え?」
段々退屈してきたセルシア。
先程昼寝したばかりなので、眠気は感じません。
では仕事に集中するかと言えばそうでも無く、自分でも知らず知らず、別の考
え事をしていました。
その考え事──トキとの将来の妄想──から、視線を感じてセルシアは現実に
引き戻されました。
その視線の主は、窓の側に立っていました。
「(弥白さん?)」
姿を消す術を忘れたのかと思い慌てたセルシアですが、術は完璧な筈でした。
にも関わらず、弥白はこちらを見ている様な気がするのです。
しかし、弥白は微笑むと、やがて窓の側を離れました。
「ふぅっ」
どうやら気付かれてはいないらしい。
そう思い、セルシアは安堵のため息をつきました。
*
やがて三枝は屋敷から帰って行き、弥白は夕食を摂った後で私室へと引き揚げ
てきました。
それに合わせて、バルコニーの手すりの上に腰を下ろし、セルシアは弥白の姿
を追い続けていました。
先程の出来事があったので、身体の大きさは小さくしています。
何時もは日毎に違う女の子を側に侍らせている弥白。
しかしその日は、弥白は一人きりでした。
普段は上品に過ごしている弥白が、これまでとは異なりラフな格好でくつろい
でいる様を眺めていたセルシアは、ふと寒さを感じました。
神に作られし生命である天使。
宇宙空間に作られた『楽園』の中で生きて行く必要から、暑さ寒さの感覚はあっ
ても、それを深くは気にせずとも生きていける。
その筈でしたが、セルシアはこの手の感覚に関しては敏感でした。
そんな事ではいけないと、上級天使達に注意されていたのですが。
暦の上では春とは言え、夜の気温はまだまだ低く、白い半袖のドレス姿のセル
シアは、寒さに身を縮めました。
すると、目の前の窓の向こうに、弥白が立っていました。
弥白は微笑むと、何を思ったのか窓を開け、ソファへと戻って行きました。
「(弥白さんも暑いんですです?)」
先程の出来事を思い出し、そして弥白の今の姿を見て、そう思ったセルシア。
窓が開いたままなのを確認すると、迷わず部屋の中に入って行きました。
「暖かい…」
セルシアの想像通り、部屋の中は暖房が入っていて暖かでした。
弥白が座るソファの反対側のソファの背もたれの向こう側に隠れ、様子を伺う
と、弥白はセルシアの存在など気付かない様に、くつろいでいました。
どうやら、気付かれたと思ったのは気の所為らしい。
そう気付くと、セルシアはソファの背もたれの上に腰を落ち着け、弥白を見張
ることにするのでした。
(第168話(その2)終わり)
弥白様のラブコメの方も、そろそろ…。
では、また。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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