神風・愛の劇場スレッド 第159話『あなたの傍に』(前編)(1/18付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 18 Jan 2002 16:35:55 +0900
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佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。


★神風・愛の劇場 第159話 『あなたの傍に』(前編)

●桃栗町郊外

その日少し早起きをしたツグミ。数人分のお弁当を作ろうと思い立ち、その為の
早起きでした。本当は予め迷惑にならないかどうか、そもそも顔を出すかどうかを
確かめておきたかったのですが、前日は無性に眠くて一日中ゴロゴロして過ごして
しまい結局連絡をする事を忘れていました。まろんも今日は流石に起きている
だろう。そうは考えましたが色々と忙しい朝でもあるだろうと思い今朝も電話は
掛けていません。もし持参したお弁当が無駄になっても大した事では無い、それに
言わずに持っていって驚かせるのも面白いかも…と、そんな風に結論付けました。
冷蔵庫から取り出したレタスの玉を一枚づつ剥きながらふとある事を思いだします。
そう言えば一昨日の騒ぎは何だったのだろうかと。下ごしらえの手を止めて、
滅多に使わず冷蔵庫の上にほとんど置いてあるだけの様な状態のラジオのスイッチを
入れてみました。選局がズレていなければ今の時間は地元FM放送局のニュースが
流れているはず。流れてきたのはツグミの予想通りの聞いた事のあるキャスターの
声と、これまた最近聞いた事のある単語でした。

「…続いて桃栗体育館倒壊事件の続報です」
「へっ?」

ツグミが素っ頓狂な声を上げたのと手で口を塞いだのは殆ど同時でした。
驚きのあまりニュースの一部を聞き逃してしまいましたがすぐに落ち着きを
取り戻すとラジオから流れる声に耳を傾けました。そして思ったのです。
会場が無くなってしまったら新体操の地区大会はどうなるのだろうかと。
延期?それとも会場の変更だろうか。キャスターの口振りからすると事件が
あったのは今朝という訳では無い様子でした。ならば大会がどうなるのかくらいは
まろんから連絡があっても良さそうな物なのに。それとも余程混乱しているのか。
それは充分にありそうな話ではありました。ですからツグミから連絡を取る事は
少し待ってみよう、そこまで考えた時に耳に飛び込んできた声は驚きを通り越して
唖然とさせられる物だったのです。

「それでは週明け月曜日のお天気…」

ツグミが我に返って次の行動を起こすまでには少々時間が必要でした。
真っ先にすべきことはとにかく連絡を取る事に他なりません。受話器から聞こえる
呼出し音の繰り返しが長くもどかしく感じます。やがて小さな音がして電話は
つながりました。

「もしもし?日下部さん?」

妙に小さな遠くから聞こえてくる様な声が、やや間を置いてから聞こえました。

「えっとぉ…」

そして電話は唐突に切れてしまいました。番号を間違えたとは思えませんでした。
慌ててはいましたが、それ故にツグミは間違いの無い様に慎重に番号を押したの
ですから。ですが今聞こえたのは。

「今の…誰?」

全く知らない若い女性の声に困惑して電話機の前に立ち尽くすツグミでした。

●オルレアン

何時の間にか隣りに立っていたトキの顔をまじまじと見詰めているセルシア。
トキは電話機のフックボタンを押し込んでいた指を離しながら、何か言いたげに
口をもごもご動かしているセルシアに言いました。

「何をしているのですか」
「え?だってほら、これは音がしたらお話をする機械で」
「貴女が出ても仕方無いでしょう。第一」

トキはセルシアの手にしている受話器を指差します。

「それ、逆さまですよ」
「ん?」
「尻尾の着いている方に話しかけるんです」
「あぁ〜」
「ああじゃありません。勝手に人間界の機械に触らない事」
「はい…ですですぅ…」

そこへ部屋着に着替えたまろんが寝室から出てきました。

「今、電話鳴らなかった?」

トキが応えます。

「すみません。この娘が受けてしまいました」
「誰から?」
「判りません。すぐに切りましたから」
「って、どうして切っちゃうのよ!」
「人間界との関わりは極力避ける事になっていますから」
「相手に待ってもらって取り次いでくれたっていいのに」
「それは難しいです。相手の方には私達の声は聞こえないでしょうから」
「そっか、成程」
「ごめんなさいですです…」
「いいよ、別に。きっとすぐまた掛かって来るから」

そう言いながら電話機の小さなディスプレイを覗き込むまろん。今し方掛けてきた
相手の電話番号が表示されていました。まろんは慌ててセルシアの手から受話器を
取り返すと耳に押し当て、短縮ボタンの一つを押します。ほんの纔かの後に
聞こえてきたのは話中を標す音でした。まろんは受話器を戻すと溜息を一つついて
からトキとセルシアの顔を見比べ、そして部屋を見回しました。

「稚空とアクセスは?」
「アクセスはまた出かけました。フィンを探すそうです」
「…そっか。そうだよね」
「稚空くんはちょっと自分の部屋に行って来るって言ってたですです」
「ふ〜ん」

まろんは気のない返事をすると、お茶でも入れようと思い立ってキッチンへと
向かいました。

●桃栗町郊外

今は細かい事を考えている場合では無いと思い直したツグミ。再びまろんの
家に電話を掛けましたが今度は話中でした。やはり先程の電話は番号を間違って
しまったのだろう。そう結論しましたが用が済んだ事にはなりません。少し
考えてから思い立って稚空の所に電話を掛けてみました。まろんの事ならば、
まろん自身の次くらいに知っているはずだから…という根拠に関しては努めて
頭の中から追い出す様にします。こちらは間髪入れずにといった感じで相手に
つながりました。

「どうしたっ!」
「もしもし?名古屋さんのお宅ですか?」
「あ、そうです…何だツグミか」
「ごめんなさいね、待ち人でなくて」
「いや、そういう訳じゃ無いんだ」
「それでちょっと教えて欲しい事があって」
「判ってる。まろんなら無事だ」
「無事って、やっぱり何かあったのね」
「ん?一昨日の話じゃ無かったのか?」
「それなんだけど、今日何日?」
「何日って21日だぜ」
「やっぱり聞き違いじゃ無かったのね…」
「話が良く見えないんだが」
「私もよ。何がなんだか全然判らないわ」
「…」
「21日って事は月曜よね。今日学校の授業が終わるのは何時かしら」
「いや、今日は臨時休校だと思う。応援に来ていた生徒の殆どは
 2〜3日は授業どころじゃ無いだろうし」
「そう…」

しばし互いに無言。稚空は何故ツグミが自分の所に連絡して来たのだろうかと
考えており、ツグミは今一つ要領を得ない話を何とか筋の通った話に組み立てようと
頭を捻っていました。

「あのね、もし迷惑で無かったら」
「何だ?」
「会ってお話がしたいんだけど、お邪魔してもいいかしら」
「こっちに来るって事か?」
「ええ。長くなりそうだし電話より良いと思うの」
「別に構わないが…」
「有難う。では後で、お昼前には着くわ」
「判った」

●オルレアン

受話器を置いた稚空は何か大事な事を忘れている様な気がしていました。
腕組みをしながら暫く考えを巡らせます。



ツグミが来るって?俺の所にか?俺に惚れたか?……違うだろ、こっちってのは
まろんの所を言ってるんだ。それは判ってる。何だかマズい事があった気が
するんだがな。あ、セルシアとトキを追い出しておかないと…いやいや奴等は別に
見えないから構わないか…そもそもツグミには見えな…いや、ツグミには見えてた
じゃないかアクセスが!ってそうじゃ無いか。ツグミは事情を知ってるから別に
構わないんだった。じゃ、何がマズいんだっけか………



乱暴な足音を響かせてリビングに現れた稚空をまろんは睨み付けていました。

「ちょっと、勝手に上がり込まないでよっ!」
「緊急事態なんだ!」
「もうずっと異常事態だもん、今更何よ」
「ツグミが来る」
「え?ほんと?」

まろんの顔があからさまに明るくなった事が面白くない稚空でしたが、今は
それをとやかく言っている場合では無い事は忘れませんでした。

「どうするんだよ、考えてあるのか?」
「ん?何を?」
「イカロスの事だよ!」

名前を呼ばれたと思ったのかイカロスはむっくり起き上がると尻尾を振り、
自分を呼んだのが誰なのかを探す様に周囲を見回していました。

「あっ!」
「犬さん?」
「今度は何事ですか」
「どうしよう…」

まろんはセルシアとトキの顔を交互に見詰めましたが、無論彼等から良い
アイデアが出るはずはありません。そもそもイカロスの本当の飼い主が
まろんでは無い事すら満足に説明していないのですから。大分混乱している
らしく、そわそわと部屋の中を歩き回り始めるまろん。意味不明の仕草で
両手をばたばたと動かしているので何かの踊りの様に見えなくもありません。
逆に稚空の方はその様子を見ている間に冷静さを取戻しつつありました。

「落ち着け、まろん」
「でもでもでもでもでも」
「取りあえず避難だ」
「え?」
「俺の部屋にイカロスを連れて行こう」
「あ、うん、それがいいね。とにかくツグミさんには先に説明しないと」



ツグミがオルレアンを訪れたのは午前10時を少し回った頃でした。
この時には既にイカロスは稚空の部屋に移されており、セルシアがイカロスの
相手をして大人しくさせておくという話もまとまっていました。
それほど頻繁に訪れている訳ではありませんでしたが、確かな記憶力を具えた
ツグミでしたから迷うことは無くまっすぐ目的の部屋に辿り着きました。
呼び鈴を鳴らして待っていると程なく扉が開かれました。

「はいですです」
「え?」
「あ…」
「ごめんなさい。間違えてしまいました…」

しかしツグミは気付いたのです。知らない声では無い事に。

「こちら、名古屋稚空さんのお宅ですよね?」
「そうですです」
「申し遅れましたが私、瀬川ツグミと言います」
「あぁご丁寧にどうもですです。セルシア・フォームですですぅ」

ツグミの耳にやっと届く程の軽い足音が慌ただしく奥から近づいて来ました。

「何やってるんですかセルシア!」
「お客様ですです」
「勝手に玄関先に出るんじゃありません。第一、私達は隠れているんですよ」
「あ…」
「はぁ…まったく…」
「お取り込み中のところ申し訳無いのですけど」

相手の会話が途切れたらしい事を確認してからツグミは話を戻す事を試みました。

「名古屋くんは御在宅ではありませんか?」
「彼なら隣りに行ってます」

セルシアの口はトキが押さえていた為、代わりに彼が答える事になります。

「そうですか。ところでお二人は名古屋くんではなくてアクセスのお友達でしょ?」
「ええ、まぁ」
「やっぱり。ちょっとそんな気がしたから」
「気、ですか。それは興味深い…」

トキは返事が出来るように手を離してからセルシアに尋ねました。

「セルシア」
「はい?」
「私は今、何をしているのでしょうか」
「えっと、お客様とお話ししてるですです」
「それは普通の事なのですか?」
「あんまり普通じゃ無いはずですです」
「貴女は驚いていない様ですね」
「…あっ!」

トキとセルシアは互いの顔をまじまじと見詰め、それから同時に視線をツグミに
向けました。

「あなた、私達が見えるんですか?」
「いいえ、見えませんよ」
「じゃぁ何で会話が成立しているのですか!」
「何でって言われても、目の他は一応人並みのはずですから」
「有り得ません!」
「はぁ…」

妙な具合になって来たわ。ツグミがどうした物かと考えあぐねていると、ふっと
左足に触れる何かを感じました。スカートを通していても判る温かい感触です。
ずっしりと重く力強く、それでいてとても柔らかいものが寄り添っていました。
ツグミは自分の身体を震えが走るのが判りました。前に居る二人が何か話しかけて
いる気がしましたが、内容はまるで耳には入って来ませんでした。
恐る恐る左手で腰の辺りから下の空間をまさぐってみます。少しごわごわした
毛皮がそこにあって、撫でると毛皮の下の筋肉が波打っている様子が伝わって
来ました。

「駄目ですイカロス、お部屋に入ってるですです」
「嘘よ…」

しゃがみ込んでイカロスの頭を撫でていたセルシアが顔を上げると、その顔に
ぽたぽたと雫が降って来ました。止め処無く流れる涙がツグミの頬を伝って
落ちています。やがてツグミはその場に崩れる様に座り込むとイカロスに
しがみ付き、その背中に顔を埋めてすすり泣きを始めてしまいました。

「ど、どうしましょう、お客様を泣かしちゃったですですっ」
「…そんなはずは…しかし…」
「あわわわ、と、とにかくまろんちゃんと稚空くんを呼ぶですです」

ですがこの時には呼ぶまでも無く、話し声を聞き付けたまろんと稚空が隣りの
玄関から既に顔を覗かせていたのでした。

「あちゃ〜…」
「これで説明の手間が省けたな」
「そうかなぁ」

その時のまろんには、どう見ても情況が悪化した様にしか思えませんでした。

(第159話・つづく)

# 後編は来週末予定です。

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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