神風・愛の劇場スレッド 第157話『還る』(その1)(11/30付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 30 Nov 2001 12:01:05 +0900
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佐々木@横浜市在住です。

こんにちわ。

少し間を開けてしまいましたが、まだ完結はしてません。^^;
という訳で次のお話をお送りします。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第157話 『還る』(その1)

●桃栗町郊外

ざわざわと音を立てている木々が凍った様に動きを止めると、辺りは色を失い
全てが石で出来ているのかと思わせる風景に変わりました。しかしそれは
一瞬の事。すぐに元の光景に戻ります。何処からか現れた人影を除いて。

「ノイン、貴様…」

ミストは興奮の為か途中で言葉を飲み込んでしまいましたが、ノインには何を
言いたかったのかは良く判っていました。そして落ち着く様に促す意味も
込め、努めて冷静に話します。

「想定外の要素が存在したのです」
「判っている!」

声を荒げると共に空を切って振り上げられたミストの手。直接届いては
いませんが、その先にあった数本の木の根元が粉々になり、やや間を置いて
からそれらの木々は軋みを上げながら倒れていきました。

「まぁ、そう興奮せずに」
「うるさい!」

今度はミストを挾んで反対側に立ち並んだ木々が倒れました。微かに焦げた
様な臭いを乗せて微風が流れて来ています。

「それぐらいで止めて頂けませんか。景色が変わってしまいますので」

ミストはノインの言葉の中に意味を汲み取れない部分があったらしく、
何かを反芻するかの様に言葉を返します。

「景色が、何だって?」
「この辺りの森は窓から良く見えるのですよ」

ノインが身振りで示した方角には木々に囲まれた屋敷の2階部分と屋根が
見えていました。

「貴様の家の裏山か」
「貴女の家に行くと今は面倒な事になりそうですし」

ミストは腕組みをし、指で自分の腕をとんとんと叩いていました。

「…天使共など何匹居ようが同じだ」

返事まで間が開いた事から、ノインはミストに考える余裕が出てきたの
だろうと理解します。ならば本題に戻っても良いだろうと考えるノイン。

「現にその天使共に虚を衝かれたではありませんか」
「チッ…」
「穴が開いてしまった以上、"穏便に"という前提が守れませんし」
「判った。分析はもう充分だ」
「いいでしょう。では次の作戦ですが」

ミストは片方の眉を吊り上げて疑わしげな視線をノインに向けます。

「ノイン」
「はい」
「貴様、最初から失敗すると思っていたのか」
「常に凡ゆる情況を想定しているだけの事」
「私は乗らんぞ」
「結構です。変わりにお願いがあるのですが」
「何だ」
「先程の騒動でこぼれた手駒があるはずです」
「好きにしろ」
「よろしいので?」

ミストはノインから顔を背けると言いました。

「もう他の奴は使わない」
「お気に入りのお嬢様も?」
「皮肉か」
「いいえ」

ノインはミストが他に何か言うのでは無いかと考えて様子を伺っていました。
しかしそのつもりはなさそうだと判り、先程から気になっていた事を
言ってみます。

「ところで先程から気になっているのですが」
「何がだ」
「影が薄いですよ、ミスト」

ノインに向けて、その視線を遮るかの様に左手を突き出すミスト。
自覚があったのか、それ以上は言うなとでも言いたげに。
向けられた半透明の手のひらを通してミストの横顔が見えています。
ノインには顔を向けず、正面を見据えたままでミストは応えました。

「入れ物だけだ。大した問題ではない」

ノインの目の前で、うっすらとミストの身体の輪郭を被っていた光る靄が
内側に吸い込まれる様に消えていきました。そして見る間にミストの身体は
影を濃くしていき、やがて差し出されたままの手のひらがノインの視線を
完全に遮りました。ミストは手のひらをぐっと握りしめ、それを自分の
目の前に引き寄せてから再び開きました。じっと手のひらを見詰めるミスト。
先程までの様な強い気が周囲を圧する事はありませんでしたが、ノインは
逆に後退りたい衝動に駆られていました。ミストの内側に光を発せずに
揺らめく黒い炎が宿っている事が判っていたからです。

「ミスト」

今度は首をひねってノインの顔を見るミスト。

「何だ」
「私が何故あの場から強引に貴女を連れ出したかお判りですね?」

薄く開いた口がまるで耳元まで割けているかと思わせる程につり上がり、
声の無い嗤いがノインの頭の中に満ちました。

「勿論、判っているさ」

否です…ノインはそのミストの表情から目を離さずに応えました。
もっとも、それは声には出さない応えだったのですが。

「(貴女は判っていない。もし貴女の姿を映せる鏡があるなら、覗いてみる
べきでしょう。自分の姿が破れ始めていると気付く為に…)」

静かに見詰めるノインの様子を訝しんだか、逆にミストの方が問いかけます。

「何かまだ言いたい事がある様だが」
「別に」

手のひらを合わせ、その手に口づけするような姿勢でじっと考え込んで
いる様に見えるミスト。その様子をノインは辛抱強く黙って見ていました。
やがて、どれくらいの時が過ぎてからか。ミストが静かに口を開きました。

「ノイン」
「何でしょう」
「お前とは短い付き合いだが」
「不本意ながら、貴女とは随分と長い気がしますが」
「そうだったか…」
「およそ六百年程になりますか」
「やはり短いではないか」
「私には随分と永い時間でした」
「飽きたのか?」
「待つ事には少々」
「あと少しだ」

ミストは身体全体をノインの方に向けると彼の顔を正面から見据えました。
一時は側に居るだけで焼尽くされそうに感じたミストの気配が今は静かに
なっています。凪いだ水面の様に。

「お前、総ての用が済んだら何処へゆく?」
「は?」
「魔界で暮らすか?それとも人に戻る事を望むか?」
「人として暮らす事は二度と無いでしょう。私は人を捨てた身ですから」
「ならば人間界に特別な思いは無いな?」

一瞬だけ、ノインの脳裏には彼に付きまとう娘の顔がよぎります。
マントの下で抱きかかえられたままで眠るその娘の感触を確かめるノイン。
ですが、口から出たのはそんな姿を追い払う為の言葉。

「私には用の無い世界です」
「結構」

姿を空間に溶け込ませ始めたミストにノインが問いかけます。

「どちらへ?」
「少し休ませてもらう…ほんの少し…だけだ」

声がノインに届いた時にはミストの姿は完全に消え去っていました。

「さて…」

思案顔で呟くノイン。

「急ぐ必要がありそうです」

そしてノインもまた何処かへと姿を消すのでした。

●桃栗町町内某所

夕方5時を告げるメロディが広報用のスピーカーから流れ出したのを聞いて、
ツグミはそこが良く知っている桃栗町の中心部である事に気付きました。
何時の間にここまで戻っていたのだろう、そんな思いはありましたが
表情には穏やかな微笑みのみを浮かべます。

「もう、此まででいいわ」

立ち止まって隣りを歩いている全に声を掛けます。

「家まで送って行きまぁす」
「平気よ。此からなら判るし、それに全君も急いで帰らないと遅くなるわ」
「判りましたぁ」
「それじゃ、さようなら。またね」
「さよならでぃす」

軽い足取りで離れていく全の足音。その音が小さくなるにつれて、ツグミの
耳に届く町の喧噪に普段はあまり耳にしない音が多く含まれている事に
注意が向いて行きます。事故だろうか、それとも火事か。
自分の知り合いが巻き込まれて居ない事を祈りつつも、敢えてそれ以上の興味を
持つ事は無く家路を急ぐツグミでした。



一方、ツグミの言葉に素直に従って家に戻った全。屋敷には灯りが点っていて
全は出がけに消し忘れたのかと少々うろたえましたが、すぐに違うのだと気付きます。
中に入り物音のする方へ行ってみるとノインがキッチンでコーヒーをいれている
所でした。

「ノイン様ぁ、僕がやりまぁす」

ノインは手を止めずに応えます。

「良いのです。それよりも」
「何でぃすか?」

2つのカップにコーヒーを注ぎ終えると、そこでやっとノインは顔を全の方へ
向けて言いました。

「ちょっと使いに行ってもらいますよ」
「はぁい。何処へ行くのでぃすか?」
「魔王様の許へ」

全はノインを見詰めたまま硬直し、半開きの口からは言葉も息も出ては来ません。
ノインは少しの間、その彼の反応を微笑ましく思いながら眺めました。それから。

「大丈夫、何も心配は要りません。ちゃんと用件は手紙にしたためてあげます。
あなたはそれを持っていって王宮の取次ぎ役の者に渡して返事を貰ってくるだけ」
「…はぁぃ……」

その不安気な表情を見て、もう少し詳しく手順を教える必要がありそうだと
ノインは思うのでした。

●桃栗町郊外

桃栗体育館での騒動の後、怪我人のほとんどは町内や隣り町の病院へと
搬送され検査を受けていました。ですが多くの人々は日暮れ前後には
病院を後にし、ある者は一人で、或いは迎えに来た家族らと共に帰宅して
いました。タクシーに乗って郊外の家に帰り着いた三枝もそんな一人。
怪我はありませんでしたが極端に顔色が悪く、桃栗体育館を
茫然と見詰めていた所を半ば強引に救急車に乗せられてしまったのです。
その様な訳でしたから不必要に念入りな検査を受ける事になってしまい、
下手な怪我人よりも帰宅が遅くなっていました。担ぎ込まれた病院は
過去に入院していた事もあったが為に顔見知りの医者がおり、彼は念の為
と言って一晩の入院を勧めたのですが、三枝はそれを断わって帰宅しました。
どうしても帰りたい訳があったのです。愛用のカメラは瓦礫の下敷きとなり、
最後に撮影したフィルムと共に失われていました。しかし、それまでに
撮り貯めたフィルムが数本ポケットの中に残されています。それを
現像しなければならない。三枝をそんな衝動が突き動かしていました。
正直な所、何故どうやって自分が崩壊した桃栗体育館の外に出たのかさえ
記憶がはっきりしません。恐らく誰かに救けられたのだろうとは思いますが、
それ以前に何故自分は他人の世話になるような情況にあったのか。
大会の順位が決し、彼が注目していた日下部まろんの晴の姿を収めよう…
そう思って席を離れた事までは思い出せます。ですがそこから先はぽっかりと
記憶が途切れていました。そして思い至ったのです。自分にはフィルムがあると。
このフィルムにはきっと何が起こったのかを知る手掛りが残されている、
それは考えれば考えるほどに確信に満ちた物となっていきました。
扉を開く間ももどかしく、家に入った三枝が真っ先に向かったのは彼の
仕事場である暗室。そして慣れた手際でフィルムを次々に現像して行きます。
乾燥が済んだフィルムを順番に確認していく三枝。やがてその中の一コマに
彼の目は釘付けになります。演技を終えて控え席に向かう日下部まろん、
出迎える者達。まろんをズームアップせずに撮影した写真には周囲の猥雑な
風景までもが写り込んでいました。誰が主役なのか判らない写真は素人の
撮った物ならばいざ知らず、三枝にとっては失敗作意外の何物でもありません。
ですが恥ずかしい出来故に、見過ごしてしまいそうなフレームの隅の異変に
気付いた事も事実。そこには彼が追い求めて止まず、そして絶対に写るはずの
無い者が写っていました。三枝はすぐにその部分を引き延ばして印画紙に
焼き付けます。そうして改めてじっくりと確認しました。ルーペを使って
拡大する必要は最早ありません。体育館の壁にもたれて佇む姿を見間違える
はずは無かったのです。

「アキコ…」



ソファに腰を下ろし手元の写真をじっと見詰めている三枝。
暖房を入れ忘れたままの室内の空気は冷え切っていて、まるで重さを増している
かの様です。気分を落ち着かせようとたて続けに口にしたブランデーの所為で
寒くは感じませんでした。しかし酔いが訪れる事もありません。
手元を見るとテーブルに乗せたブランデーのボトルは空になっています。
台所の戸棚には、まだ開けていない壜が在ったのでは…と、そこまで考えて
目の前のボトルがそれであった事を思い出しました。
そんな時、ふと何者かの気配を感じて視線を上げる三枝。
彼が座っているソファの向かい、丁度暖炉を挾んで反対側の位置に
誰かが立っています。古風なマントを身に付けた長身痩躯の男が。
急に酔いが回ってきたらしく意識がぼんやりとし始め、三枝は驚く事を
忘れていました。動かない思考に鞭を打ちながら、やっとそれが異常な事だと
気付いても、逃げようという考えには至りません。

「誰だね…」

相手は顔を三枝には向けず、壁の方を向いたまま言いました。
何の飾りも無い、寂しく空疎な壁を見詰め続けながら。

「悪魔、と人は呼びますね」

三枝は口許に微かに笑みを浮かべました。

「悪魔は間に合っているよ。死神なら相談したい事が無くもない」

三枝の軽口を受け流してノインは淡々と続けます。

「写真を拝見しました」
「何?」
「可愛らしいお嬢さんですね」
「君は何を言って」
「ですが既にお亡くなりだ」
「…」
「ですが、まだ諦める事はありません」
「何だと」
「取り戻したくはありませんか?」

ノインは初めて顔を三枝の方に向けました。

「そんな事が出来るはずは…」
「私にはそれが可能です」
「からかわないでくれ」
「にわかには信じられないのも無理はありません」
「いったい…」
「簡単な事です」
「?」
「貴方の手元をご覧なさい」

手元…三枝はずっと手にしたままの写真に視線を落とします。

「あなたの愛しい者が二人写っています」
「ああ…」
「それは変ではありませんか。あなたが愛する者は本当は一人だけ」
「そう、その通りだ」
「ならば話は簡単ではありませんか」
「むぅ…」
「二人を一つに。あなたの手元に」
「だが、どうやって」

三枝が聞き返した時にはノインの姿は何処にも在りませんでした。

(第157話・つづく)

# 目標は4部作(もしかしたら5部まで)です。
# その2は特別な事態が無い限りは12月7日にお送りします。
## テレ東深夜アニメ枠ぐらいの信用性と思って下さい。(笑)

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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