神風・愛の劇場スレッド 第125話『迷い牢』(6/15付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 15 Jun 2001 16:41:08 +0900
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佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

# "ある"事情により佐々木パートが続きます。よしなに。

この記事は『神風怪盗ジャンヌ』アニメ版から派生した妄想小説スレッドです。
そういう代物に拒否反応が無い方のみ以下をご覧ください。



★神風・愛の劇場 第125話 『迷い牢』

●オルレアン

朝、窓から見える景色はぼんやりと霞んでいました。

「まだ、止んで無いんだ」

この季節の遅い日の出と澱んだ空の所為で辺りは暗いままです。
まろんはベランダに出て昨夜何度も繰り返した様に隣家の様子を窺いました。
部屋は暗いまま。しかし時間が時間ですから起きていないだけかもと
思い直します。そんな事を考えていると玄関の呼び鈴が鳴りました。
もうそんな時間かと気付かされるまろん。慌てて途中で止まっていた身仕度を
再開すると、鳴りっぱなしの呼び鈴の主の許へと飛んで行くのでした。

●桃栗学園

朝練と言っても本来ならば休みの日でもあり、練習は休憩を挾んで午前中
いっぱい続きました。体育館の後始末を終えて、まろん達がロッカー室に
戻った時には先輩達は帰ってしまっています。それでも数人居る同級生の
手前もあり、まろんは小声で都に言いました。

「やっぱり、何も言われなかったね」

別に悪巧みという訳でも無いのですが、都も自然と耳打ちする様な形に。

「ま、そういう事で明日は休みよ」
「うん」

多少は気がとがめるものの、公式には練習日では無いという事もあり、
二人は溜息ともつかない微笑を洩らしました。その周囲ではそんな事には
全く無頓着な同輩達がすっかり休日気分の話題で盛り上がっているのですが。
着替えを終えた二人が校舎の外に出た時にも、空模様は相変わらずでした。
恨めしげに空を見上げながら都が聞きます。

「どうする?って言っても、この天気じゃ何処にも行けないか」
「…そうだね」
「お昼は?喫茶店にでも転がり込むとか」
「あぁ、私、午後からちょっと用が」
「そうなんだ。それじゃ大人しく帰りましょ」

そんな事を話しながら歩いていた二人でしたが、途中で買い物をして帰ると
都が言いだした所で別れる事になり、家に戻った時はまろん一人でした。

●オルレアン

一人ならば気兼ねもありません。それでも少しだけ迷ってから稚空の部屋の
呼び鈴を鳴らしてみます。暫く待って留守だと判っても、殆ど何も感じなかった
のは自分でも不思議でした。予想していたから、と言えばそうなのですが。
自分の部屋に戻りそのままベッドに転がって、まろんは暫く考えました。
また、何か起こるかも知れないと。やがて。

「昼間だから大丈夫!」

という根拠の無い結論へ強引に到達すると、それ以上考え込むのは止めて
服を替えて家を飛び出しました。出がけに稚空の部屋に向かって舌を出し、
心の中で悪態をつくのは忘れませんでしたが。

●桃栗町郊外

普通なら手ぶらで訪問したりはしない所ではありますが、まろんは何の
手土産も持たずにやって来ました。今日は傘さえ邪魔に思えます。
持っているのはレインコートのポケットに忍ばせた極くわずかな小物だけ。
まるで怪盗としての役目を果たしに行く時の様な緊張感が何時の間にか全身を
固くしていました。そして見えてきたのはツグミの家。
何だか随分と永い間、ここを訪れていない気がします。
ほんの少しの距離のはずの小道ですら、林の中を延々と続いている感覚。
それでもやがてツグミの家の玄関先のポーチに辿り着きました。
誰の気配もありません。それでも、或いはそれだからこそ心臓の鼓動は
どんどん高鳴って行くのです。呼び鈴を鳴らします。物音一つも無し。
今度は扉を叩こうとして、そこで気付きました。
ほんの少しだけですが、扉が開いているのです。
まろんは迷わずに扉を大きく開くと身体を滑り込ませて声を掛けます。

「こんにちは。ツグミさん、居る?」

返事はありません。相変わらず人の気配もありませんでした。
出かけていて鍵の掛け忘れ…初めはそう考えましたが、まろんの知っている
ツグミはそういう事を忘れる様な人物ではありませんでした。もっと嫌な
考えが脳裏に浮かんでしまい、最早まろんは大人しく玄関先で様子を
窺っている事などでは我慢出来なくなっていました。

「ツグミさん、お邪魔しまぁす!」

返事を期待しないまま大声を上げると、まろんは勝手知ったる家に
上がり込みます。そして、ひと部屋ひと部屋と順番に覗いて行きました。
勿論部屋毎に声は掛けましたし、寝室、バスルーム、そしてトイレには
特に慎重に気を配りました。しかし、すぐにそんな気配りは無意味だと
まろんは悟ります。家中何処にもツグミの姿は無かったのですから。

「やっぱり留守だったんだ…」

脱力感に襲われながらも、何事もなかった事を喜ぶまろん。
ツグミの帰宅を待つ事に決めましたが、流石に知り合いとはいえ留守中の
家に上がり込んで待っているのは良くないだろうと考えて玄関の外に
出る事にしました。扉を開いて外に出ると迫り出した屋根の下であるのにも
関わらず、風に乗った雨粒が吹き付けて来ました。

「もうっ」

扉の内側に一旦戻ったまろんはコートのボタンを嵌めようと胸元に視線を
落とします。そしてその先にちらっと見えた足下に目を止めました。
言葉にはならない違和感を感じます。それが何かを気付かせたのは、コート
から滴り落ちた雨粒でした。三和土に拡がる雨粒の染み。それは直ぐには
消えずに暗い灰色の歪な円をぼんやりと残し続けています。

「ん?」

まろんは濡れる事を覚悟して扉の外側に出て振り向きました。肩を越えて
吹き込む雨が見る間に足下を灰色で埋めて行きます。しかし、再び中へ入ると
そこには今まさに落ちた真新しい染みがじわじわと拡がっていくだけです。
目を見開いて正面を凝視するまろん。そこにあるのは何の変哲も無い外の風景。
その景色に向かって手を差し伸べてみました。特に変わった事は無い様にも
思えましたが、何度も手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す内に微かに
違いを感じます。それはほんの纔かな温度の違いの様でした。
締め切った家の中のと屋外の間の事ですから、普通は当たり前の事として
気にもしないでしょう。しかし、そこには顕かな境目があるのです。
まるで切り落としたかの様に完全なる断面が。まろんは再びツグミの家に
上がり込むと真っ直に室内を突っ切り海側のテラスに出ます。
そこでも室内と屋外には何とも形容し難い空気の差がありました。

「何…これ…」

何だか判らないモノとしか言い様がありませんでした。しかし何かがすっぽりと
ツグミの家を覆っている、或いは家の中にぎっしりと詰まっているという
感触です。一度気付いてしまうと、それは確かにそこに存在する何かでした。
まろんは再び家中を歩き回り始めます。今度は先ほど以上に注意深く各々の
部屋の様子を観察しました。一回り終わっても三度四度と繰り返します。
その内にリビングで、ある物が気になりました。出しっぱなしの
ティーカップです。中には飲み残しらしい紅茶が半分。カップに触れてみても
温もりはありません。室温と同じにまで冷めているのだと最初は思いました。
ですが様子が変です。薄暗い室内だったので初めは判りませんでした。
紅茶の表面に靄が漂って…正確には靄の様に見える物が載っています。
どう考えてもそれは。

「湯気?」

見慣れた入れたてのお茶の表面に漂う白いもの。しかしそれは全く動かず
同じ形で浮かんでいます。指でそっと触れてみると泡立てた生クリームの様に
なぞった跡が残りました。そしてそのままの形で相変わらず浮かんでいます。
全く訳が判りませんでした。それが何なのかも、何故そうなるのかも。
理解する手掛りを求めて家中を歩き回りました。ですがそんな変な物は他の
部屋では見つかりませんでした。諦めてリビングに戻ってみて唖然とします。
カップの中の白いものに有ったはずの、指でなぞった跡が消えていました。
心なしかそもそも全体の形も変わっている気がします。
それはこの家の中に満ちた何かを知る上でとても重要な事なのだろうとは
判りました。もっともそこから先へと論理を飛躍させる為の足掛かりが
決定的に不足していましたが。テーブルの脇に立って唸っているまろん。
その思考を撃ち破ったのは叩き付ける様な雨音を上回る雷鳴でした。
一瞬だけ明るくなる室内。まろんは光に誘われるように窓辺に向かいます。
やや間をおいて再び起こる稲妻。その光が照らした室内が窓ガラスに映りました。

「えっ!」

慌てて振り向いたまろん。そこは先ほどからと変わらぬ薄暗く人気の無い部屋。
錯覚かとも思いましたが、続く稲妻の度に窓ガラスに映る部屋の様子は
まろんが見ている部屋とは違っていました。一番窓に近い所に居るまろんは
映らず、代わりにテーブルに座っているツグミが見えました。

「ツグミさん!」

しかし振り向いてもそこには誰も居ません。少なくとも誰も見えませんでした。
焦れる気持ちを押えつつ次の雷鳴を待ちました。今まで雷が鳴るのを心待ちに
した事など無かったのに、この時ばかりは絶え間なく鳴っていて欲しいと
心底思ったのです。そして次の稲妻が照らした室内には紛れもなくツグミの
姿がありました。それともう一つの影が。ですがそれを良く確かめる前に
まろんは窓に映ったツグミの居る辺りに近づいていました。椅子は確かに人が
一人座っているぐらいの透き間をテーブルとの間に空けていました。
ですがその辺りに手を差し伸べても何も手応えがありません。
そのままの姿勢で祈るような気持ちを込めた視線を窓の方に向けます。
写真の様に光が切り取る一瞬の影像。その中でまろんの手はツグミの身体に
重なって見えました。混乱しかかるまろんを落ち着かせたのは皮肉な事に
先ほどよりもはっきりとした姿を見せた招かれざるもう一つの影でした。
その場で影の見えた辺りを仰ぎ見ます。まろんの居る場所からは正面の少し上、
ツグミが居るであろう辺りの真上。窓に映った室内ではそこに緩やかな曲線を
描く鈍い銀色の物が見えた様に思えました。窓とその空間を交互に見比べる
まろん。何度かの稲妻の後に確信しました。それは天井から伸びる赤黒い皮膚に
覆われた腕と、その先に並ぶ鎌の様な爪なのです。そして窓に映るその爪は
見る度に下に伸びていました。映画のフィルムをひとこまづつ見ている様に
確実に動いているその影像。頭の中でそれを繋いで見れば、後に続く光景は
簡単に想像出来ました。爪が向かっている先はツグミの首筋に違いありません。

「逃げて!」

その叫びが届かない事は判っていました。その赤黒い腕を振り払おうとしても
無論何物も、まろんの手に触れはしません。絶望に陥りそうになりながら、
それでもまろんは一つの光明を自分のコートのポケットの中に見つけました。
まろんは迷いました。此でそれが出来るのかどうかを。明らかに此は普通の場所
ではありません。何か特別な仕掛けの中なのだろう事は判っていました。
一旦外に出て…しかし最後に見た影像では爪は殆どツグミの肌に触れんばかりの
所まで迫っていました。まろんの直感が間に合わないと告げています。
まろんはその場で願いました。そして手を高く掲げます。一瞬の後、まろんは
身体が軽くなる独特の感覚に身震いしました。と同時に稲妻が照らしていない
にも関わらず目の前に禍々しい何者かの腕がはっきりと見えたのです。

「このっ!」

右手を伸ばしてその腕につかみ掛かります。確かに掴んだ感触が伝わりましたから、
右手にそのまま力を込めます。引きずり出す、出せる物なのか、そもそも重さすら
想像出来ませんでしたから最悪の事を考えて引くと同時に自分の身体を爪と
ツグミの間に滑り込ませるべく前に移動させました。ですがその腕はとても軽く
細く薄い物でした。掴んだ途端に手の中で小さく潰れてしまっていたのです。
全くの予想外の事に最早身体のバランスを立て直す余裕はありませんでした。
勢い余って倒れ込んだ先には柔らかく温かいものが待っていましたが、
それは支えになる程に強固なものでは無かったのです。
結果としてそれ…ツグミを椅子毎押し倒してしまいました。
その時に指でコップを弾いた様な甲高い音が極く小さく鳴ったのですが、もっと
大きく派手な音に掻き消されて二人の耳には届きませんでした。
咄嗟の事でまったく無防備に倒れてしまったツグミでしたが、身体が横向きで
あった為に肩から床に当る形だったのは幸運と言えるでしょう。その直後に
仰向けになっていましたが、頭を強く打ってはおらず、すぐに身の辺りの情況を
把握していました。もっとも、何故そんな事になったのかは理解出来ませんでしたが。
それでも直前まで動揺していたまろんよりは先に行動を起こしていました。
左肘で上体をやや起こした姿勢で右手を伸ばしました。
その手がそっとまろんの頬に触れます。まろんはそれに気付いてじっとしていました。

「日下部さん?」
「うぅっ…」

言葉が詰まって返事が出来なかったので、まろんは返事の代わりにツグミに
飛び付きました。実際には既に殆ど飛び付いた状態ではあったのですが。

「ねぇ、日下部さんってば」

再びツグミが声を掛けると、まろんは聞かれるより先に何故こんな事に
なっているのかを早口でまくしたてました。
ですがその説明には"やっと逢えた"だの"電話がつながらない"だのといった
昨日以前の事柄や、ツグミにとっては全く意味不明の夜の出来事の
事などが所どころに混ざっているのでサッパリ要領を得ません。
それでも始めは黙って聞いていたツグミでしたが、やがて指をまろんの口許に
突き出して溢れ出る言葉を制すると、こう言いました。

「ねぇ、とりあえずちゃんと椅子にでも座らない?」

そう言われてやっと、まろんはツグミの上に跨っている自分に気付いたのでした。

「ご、ごめんなさい!」

慌てて飛び退いてから手を貸してツグミを起こします。

「大丈夫?何処か怪我しなかった?」
「多分平気」
「驚いたでしょ?突然で」
「そうね。まぁ、説明はゆっくり聞かせてくれるんでしょ?」

ツグミは"ゆっくり"の所を強調して言葉にすると、小首を傾げて笑顔を見せます。

「うん!」

まろんが再び飛び付いても、今度はツグミがしっかり受け止めてくれました。

(第125話・完)

# あっちが仲良くしてるので、こっちも復縁。(笑)
## 2月12日土曜日(昼)終り。

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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