神風・愛の劇場スレッド 第117話『告白(後編)』(4/22付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 22 Apr 2001 16:44:43 +0900
Organization: So-net
Lines: 443
Message-ID: <9bu25e$kku$1@news01bi.so-net.ne.jp>
References: <9b69ct$oh9@infonex.infonex.co.jp>
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<9bu0a9$jdg$1@news01bj.so-net.ne.jp>

石崎です。

これは神風怪盗ジャンヌのアニメに触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、お好きな方のみ以下をどうぞ。

今週も長さの関係でフォロー記事&前編及び後半の分割記事です。
こちらは第117話後編です。
前編は、<9bu0a9$jdg$1@news01bj.so-net.ne.jp>からどうぞ。



★神風・愛の劇場 第117話『告白(後編)』


●桃栗学園

「日下部は休みザマスか?」

 先週以来、久しぶりに登校した稚空。
 しかし、教室にまろんの姿はありませんでした。

「東大寺、名古屋。何か聞いて無いザマスか?」
「聞いてません」
「同じく」

 しかも、欠席の連絡を学校にしていない様子なのでした。
 稚空は、都は何か知っているのでは無いかと思い、小声で話しかけてみました。

「まろんはどうしたんだ、都」
「知らないわよ。昨日から家に帰って無いみたいなの」
「何だって?」
「それより、稚空こそ昨日までどこ行ってたのよ」
「う…」
「東大寺、名古屋! 何を話しているザマス!」
「すみません」

 パッキャラマオ先生の叱責も、この時ばかりは稚空は有り難いと思いました。



 昼休みの屋上。
 購買部でそれぞれがパンやおにぎりを買い込んでの昼食。
 都の追求は誤魔化しきれないと感じた稚空が、都を誘ったのです。

「そう言えば屋上で食べるのは久しぶりですね」

 稚空達の後から勝手について来た委員長が言いました。
 本当は二人切りで話したかったのですが、断る理由が無かったので仕方ありま
せんでした。

「そうなのか?」
「はい。名古屋君が休んでいる間、学食で食べてましたから」
「そうか」

 稚空は、いつの間にか限定発売で無くなり、希少価値を大きく減少させていた
ウルトラビッグ焼きそばパンを食べながら言いました。

「さっきの話の続きなんだが」
「何よ」
「昨日からまろんが帰ってないという話だが」
「どうせまた外泊でしょ」

 都が素っ気なく言いました。

「ええっ? 日下部さんが外泊?」
「多分、ツグミさんの所。心配?」
「何だ、それなら安心ですね」

 都は稚空の方を向いて意地悪そうに言ったのですが、委員長は全くその事に気
付いている様子はありませんでした。
 そんな委員長を見て、稚空はクスリと笑いますがそれも一瞬。
 都の表情の変化に合わせて、自分も表情を引き締めました。

「それより今度はあたしの方からさっきの話の続きなんだけど」
「何だ?」

 来たか、そう稚空は思いました。

「風邪引いて休むって連絡してたけど、本当はどこ行ってたのよ」
「それは…」
「山茶花さんの所にいたんですよね?」
「どうしてそれを」

 そうは言いましたが、まろんから電話がかかって来た時に、ばれたと覚悟はし
ていましたから委員長が知っていても驚きはしませんでした。

「弥白の所で何してたのよ?」
「弥白が病気で倒れたんだ。親父が往診に行ったんだが、後の看病を頼まれて
な」

 予め用意していた回答を答えながら、嘘はついて無いなと思います。

「山茶花さん、そんなに悪いんですか?」
「ああ。風呂場で突然倒れたらしい」
「弥白の看病? そんなに悪いのなら、とっとと入院すれば良いのよ」

 ジト目で都が言いました。

「そんな言い方は無いだろう、都」
「それにしても名古屋君、学校を休んでまで看病だなんて、やっぱり許嫁なんで
すね」

 委員長はうんうんと肯きながら言いました。

「だから許嫁じゃないって」
「だったらどうして泊まり込みで看病だなんて」
「弥白は大切な幼なじみだ」
「ふ〜ん。幼なじみだったら、つきっきりで看病するんだ」
「だったら都は、まろんが倒れたら看病はしないのか?」
「…………する」

 渋々、都は認めました。

「で、まろんはこの事、知ってるの?」
「多分知らない。実は最初、咄嗟に実家に行くと言ってしまってな」
「何で嘘なんてついたのよ!」

 続いて何か言おうとした都ですが、委員長が横に居るのに気付いて止めました。

「それは弁解の余地も無いと思ってる」
「悪いと思うなら、本人に言いなさいよ」
「判ってるさ」
「それで? 今日学校に出て来たって事は弥白はもう治ったんでしょ?」
「その事なんだが」
「何よ」
「しばらく、彼女の側についていようと思う」
「どうしてよ!」
「今、彼女の周りで色々あってな。誰かが側にいないと危ない」
「どういう事?」
「俺は、都ならば判ってくれるんじゃ無いかと思ってる」
「あたしが?」
「俺があの時に都に話した事だが」
「あの時?」

 暫く記憶を辿っている様子の都でしたが。

「まさか、あの夜の」
「ああ。あの時の言葉に、嘘偽りは無いから」
「本当?」
「だから、暫くは黙って見てて欲しい」

 暫く、都は考え込んでいる風でした。
 時々、何かをブツブツ呟いているのが、稚空には判りました。
 嫌なことを思い出させてしまったのだろうかと思います。
 都は真実の全てを知らない。知らせる事も出来ない。

 でもだからこそ。稚空は思うのです。
 都なら、何故自分が弥白の側にいなければならないのか理解出来る。

「あたしからはまろんに話さないわよ。必要だと思ったら稚空から話しなさい」
「判ってるさ」

 稚空と都は肯き合いました。
 自分を無視して言い争いを始め、止めに入る前に勝手に和解したそんな二人を
委員長はキョトンとした顔で見ているのでした。


●名古屋病院

 午後、名古屋病院の前に停車したリムジンより降り立った弥白。
 昨日学校から出る時に出会った「親衛隊」の少女が、ここに入院していると聞
いたので、見舞いに来たのでした。
 その結果、また練習を休んでしまう事になってしまいましたが、既に先輩達か
らの信用は無きに等しいと感じていましたので、気にはしませんでした。
 どのみち、結果さえ出せば誰も文句は言えないのですから。



「弥白様!」

 病室に入ると、驚いた少女は起き上がろうとしました。

「ああ、そのままで良いわ」
「弥白様がお見舞いに来て下さるなんて…」

 少女が、頬を染めました。
 その表情には、他の「親衛隊」の構成員から感じる打算は感じられませんでし
た。
 自分に対する純粋な好意。
 それを向けてくれる者は、実は弥白の周りにそれ程いる訳では無いのです。
 だから、入院したと聞いたその日の内に、見舞いに来たのでした。

「足、怪我したんですって?」
「はい…。骨には異常は無いそうですけど、打撲と捻挫で。一応念のために入院
しましたけど、すぐに退院出来そうです」
「一体どうしてこんな事に…」
「それは…それは…」

 少女はガタガタと震え始めました。

「どうしたの?」
「それは…」

 聞いてはいけない事を聞いてしまったのに気付きました。

「ごめんなさい。もう思い出させたりしないから。だからもう…」
「弥白様…」

 暫く、弥白の胸元で少女は泣き続けていました。



 病室から出ようとした弥白は、入り口の所で一人の男と出くわしました。
 どこかで見たような気がしましたが、名前が思い出せません。
 病院に空き部屋が他に無かったとかで、特別に個室に入院していましたから、
やはり少女に用があるのでしょうか。

「あ、先生!」

 少女が、男に声をかけました。

「先生?」
「はい。桃栗学園の紫界堂先生です。弥白様」
「紫界堂聖です。あなたが枇杷高校の山茶花弥白さんですね。お噂はかねがね」
「噂とは?」
「随分と電算関係にお詳しいようで」

 弥白は、へぇという顔になりました。
 新体操部員としての顔を知っている者は多いのですが、そちらの顔を知る方は
少数派だったからです。

「良くご存じですわね」
「私、桃栗学園のOA担当の講師をしておりますので」
「成る程ね。それで、彼女とは?」
「昨日、倒れている所を病院まで運んで頂いたんです」
「そうでしたの。有り難うございました」

 弥白は聖に一礼して、病室を後にしました。



「実は彼女は、知らない男に襲われたらしいんだ」
「それは本当ですの? おじさま」

 名古屋病院の院長室で、先日の往診のお礼の名目で海生の所を訪れた弥白は、
少女が怪我をした原因について知らされていました。

「ああ。ただ、未遂だったそうだが。それで怪我はその時らしい」
「それで…」

 彼女の様子がおかしかった理由が、それで判りました。

「判りましたわ。彼女の事は私に任せて下さい」
「それより、弥白ちゃんの身体は大丈夫なのかい?」
「私は、もう大丈夫ですわ」
「稚空君は迷惑をかけてないかな」
「そんな、迷惑だなんて…」

 弥白の胸がチクリと痛みました。


●山茶花本邸 弥白の部屋

 稚空との約束通り、夕食のメインはシーフードとマカロニのグラタンにしまし
た。
 食卓を挟んで、稚空と二人での楽しい一時。
 その日一日の出来事を話しました。
 今日部活を休む原因となった少女の話もしました。
 もちろん、入院の原因については彼女の事を考えて、話しませんでした。
 話がそこに及んだ時、稚空が意外そうな顔をして言いました。

「珍しいな」
「何がですの?」
「弥白が、友達の事を話すことがさ」
「そうですの?」
「ああ。弥白は本当にその娘の事が好きなんだな」
「そうね…好きなのかも。ですけど」
「何だ?」
「日下部さんのような意味とは違いますわ」
「……」

 言ってから、ただの嫌味になってしまったと気がつきました。

「冗談ですわ。ご免なさい」
「弥白が気にする事じゃない」

 そう言ってから、稚空はグラスを持って残りのワインを飲み干しました。
 弥白は、お代わりを薦めます。

「もう良いよ」
「そう言わず。私もおつき合い致しますわ」
「弥白も随分強くなったな」
「弥白は何時までも子供の弥白ではありません。稚空さんと同じように」
「……そうだな」

 そう言うと、稚空は再びワイングラスに口をつけました。



 食事が終わった後、二人で紅茶を飲みながら色々と話しました。

「お怪我の方は本当にもう良いんですの」
「まだ少し痛むが、大分楽になった。弥白に塗って貰った薬のお陰だな」
「本当に、危ない真似はしないで下さいね」
「努力するよ」

 そう言ってから、稚空は置き時計の方にちらりと目をやりました。

「もうこんな時間か。そろそろ…」
「お風呂、お先にどうぞ」
「ああ」
「お背中、お流し致しましょうか?」
「よせやい」



 稚空が浴場に入った後で、ティーカップやポットの後片付けをしました。
 洗い物をしながら、自分の鼓動が高まっていくのが感じられました。
 ふと、辺りにある鏡や食器棚のガラスを見ましたが、そこには、ただ自分の顔
が映っているだけ。
 思わず、ため息が出ました。

 稚空が風呂から上がった後で、今度は自分が入りました。
 今日も丹念に、自分の身体を磨きました。
 こちらの鏡に彼女が現れるかと思いましたが、ただ自分の裸身が映るのみ。

「(今日は、現れないのですね…)」

 ひょっとしたら、誰かが後ろから自分の背中を押してくれるのを待っていたの
かもしれません。
 そんな人がいるとすればそれは稚空でしたが、今の弥白に必要なのは、彼に対
して前に進む勇気なのでした。



 お風呂から上がると、予想通り既に稚空は寝室に引っ込んだ後のようでした。
 弥白は、身体の火照りも十分に冷まさないまま、髪だけをドライヤーで乾かし
寝間着であるネグリジェに着替えました。

「稚空さん?」

 稚空の寝室の扉をそっと開けると、中は既に暗闇でした。
 弥白の呼びかけへの返事は、ただ寝息のみ。

「寝た振りをしても、無駄ですわよ」
「……」
「稚空さん!」
「何だ」

 観念したのか、稚空は起き上がって返事を返しました。

「お願いがあるんですの」
「お願い?」
「……今夜一緒に、寝させて下さい」

 やっとの思いで言いました。
 その瞬間、その場の空気が凍り付いた気がしました。

「一緒に寝るだけ…ですから…」

 そう消え入りそうな声で言うと、持っていた枕をぎゅっと握りしめました。

「嫌…ですか?」
「一緒に寝るだけだからな」

 稚空が肯くと、弥白はそそくさと布団の中に潜り込み、稚空の側に横たわりま
した。
 恥ずかしいのか、稚空は弥白に背中を向けてしまいました。

「ねぇ、稚空さん」
「何だ?」
「私の側にいて、迷惑ですか?」
「…そんな事は無いさ」
「同情…ですか?」
「何の事だ」
「私が何も知らないと思っているんですの?」
「まさか」

 稚空は、弥白の方に向き直りました。

「知っています。稚空さんが私の命を救ってくれたこと」
「あれは…」
「心配なさっているんですよね。私がまた馬鹿な事をしないかと」
「……」
「安心して下さい。私はもうあんな馬鹿な事はしません」
「もうその事は言わなくて良い。俺は俺の意志でここに居る」
「…嘘です」
「え?」
「本当は、怖くて怖くて堪らない。誰かが私の事をじっと見ているんですの」
「弥白」
「判っています。本当に悪いのは私。だから、罰は甘んじて受けます」
「弥白は何も悪くない!」
「でも、貴方が…稚空さんが側にいれば、これからどんな辛いことがあっても、
きっと耐えていけます」
「お前…」
「弥白の我が儘、聞いて頂けますか?」
「弥白の頼みだ。聞かない訳無いだろう」
「嬉しい…」

 弥白は、嬉しさの余り稚空をぎゅっと抱きしめました。
 稚空は驚きの余り目を見開いていましたが、やがて自分からも弥白を抱きしめ
ます。
 密着する二人の身体。
 稚空の胸に顔を埋めていた弥白は、顔を上げて稚空を見つめ、そして囁きまし
た。

「お休みのキス、頂けますか?」

 返事は、ありませんでした。
 その代わりに、弥白の唇に稚空の唇が重ねられました。
 弥白は、稚空の身体に回した手に力を込めました。
 暫くそのままで居て、二人の唇は離れ、そして見つめ合いました。

「泣いているのか?」
「だって…嬉しくて」

 涙を指で拭いながら、弥白は言いました。

「稚空さん」
「何?」
「私を…」
「?」
「ううん。何でもありませんわ」

 そう言うと、弥白は稚空から身体を離しました。

「約束、ですものね。今日はもう休みましょう」
「ああ…」
「最後に一つだけ」
「?」
「手、握って下さいますか?」

 今度も稚空の返事は無く、代わりに黙って弥白の手を握りました。
 それを感じたまま弥白は、深い眠りへと落ちていくのでした。

(第117話 後編 完)

 弥白様パート 2/9完了

#やっと佐々木さんパートに追い付きました(笑)。


●予告編

「僕には、そういうのいません」

#抽象的な予告(笑)。
#もちろん、何話先かは判らないですが。

 では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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