神風・愛の劇場スレッド 第115話『受容(前編)』(4/15付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 15 Apr 2001 18:12:13 +0900
Organization: So-net
Lines: 466
Message-ID: <9bbolh$afo$1@news01bd.so-net.ne.jp>
References: <9ajs7p$kkp@infonex.infonex.co.jp>
<9apll8$rr0$1@news01bd.so-net.ne.jp>
<9apotq$k04$1@news01dc.so-net.ne.jp>
<9b69ct$oh9@infonex.infonex.co.jp>
<9b69cu$ohm@infonex.infonex.co.jp>

石崎です。

hidero@po.iijnet.or.jpさんの<9b69ct$oh9@infonex.infonex.co.jp>から
>佐々木@横浜市在住です。

こんにちわ。

これは神風怪盗ジャンヌのアニメに触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、お好きな方のみ以下をどうぞ。

長いのでフォロー記事&前編と後編の2分割記事にしました。
この記事はフォロー記事と前編です。



>>> >>> >★神風・愛の劇場 第110話 『視線』
>
>任せて頂ければ、ある方面の方々からの絶大なる支持があるかと。(爆)
># TBS深夜かOVAって事で。^^;

 支持者の先頭に私がいるような気が(爆)。

>>> >>> ★神風・愛の劇場 第111話『勇気』

>あとは怒るか悲しむかでも後々の展開が変わりますが、さてどちら。

 まろんちゃんなら悲しむ…と思うのですが、妄想編では一度殴り飛ばしている
のでどちらも可能性があるかと。

>>> >★神風・愛の劇場 第112話 『蜘蛛』
>
>そのはず…ですが、本当に気にしてないとしたら稚空の立場が。(笑)

 気にして貰わないとノインの作戦の意味が根底から崩れるような(笑)

>>> ★神風・愛の劇場番外編 『道具』
>
>都ちゃん、別れ際に何を耳打ちしたんでしょうねぇ。
>#「今度、私にも教えて」とか何とか言ってたりして。(核爆)

 もちろん、そういう意味の事です(爆)。

#逆に、自分がまろんちゃんに使おうとしていたのかも(笑)。

># 番外部分に限らず、最近話が固いなぁと私自身思ってまして、
># より娯楽性を追求しようという気がしないでもないのです。(そうなの
か?)

 同じ懸念があったので、今回は一部に娯楽を導入してみました(そうか?)。

>>>  そう言えば何気なくリバウンドボールも出ていますね。
>
>単なる運動能力ではジャンヌと2号さんはほとんど差が無いので、
>装備(笑)がジャンヌの優位性を保つ重要な部分であると強調したかったので
す。

 ツグミツーは2号さんが正式名称ですか(笑)。
 ターザン用具としてはリボンも使えますが、リバウンドボールの方が「巻き付
く」必要が無いのでこういう場面では有効なのかな。

#リボンは自分の意志で「曲げる」事が出来るので、見えない場所に予め巻き付
かせて…という事が出来るかも。

>>> ★神風・愛の劇場 第113話『迷い』
>
>でもやはり男故か、或いは鈍い(笑)のか、弥白様をじっと見ている者が
>他にも居る事までは気付いては居ない様子。
># マメで気の利く男としか思われて無いらしいぞ>神楽。^^;

 実は神楽の事に気付いている描写を入れようかどうか、少し迷いました。
 ただ、それに気がついているとこれからの展開に支障があるかもしれないと考
えたのと、原作でも直前まで全く気がついていない雰囲気でしたので。

#原作だと、神楽の気持ちに稚空が気付いてから、弥白と神楽がらぶらぶになる
まで1話のエピソードでしたし。

>弥白様、学校では気を使って生活してるんですねぇ。健気。
>それならば学校以外の場所では好き勝手に暴れたい気持ちも判ります。(笑)
>そして誰かに甘えたい気持ちも。

 実はこの部分は、第45話『刻印』での枇杷高校の描写と比べると少し違和感
があります。それで今回、整合性を取ってみました(笑)。

#お金持ちのお嬢様にはそれなりの苦労が絶えないという事で。

># いめぇじ的には**学園の方が偉そうに聞こえるんですけどね。
># 弥白様と怪しい仲間達…何か番外編のネタになりそうな感じです。(笑)

 一応、再登場も視野に入れて出したキャラなのですが、登場を決めたのはこの
話を書いている途中だったりします。やはり名前と容姿の設定が各キャラ毎に必
要に…(笑)。

#以前、弥白に励ましのメールを送った連中がいたなぁと思い出したのが発端。

>悪者稚空の方が今度は包囲されてきていて、本人にも
>自覚がある様ですが……男だからいいや、別に。^^;

 男なら幾ら傷つこうとも良心が痛みませんから(ぉぃ)。

>それにしても。枇杷高校にも向こう側の内通者(違)が潜伏して
>いるのでしょうか。

 実はこの部分については別に設定があったのですが、このフォローに触発され
て新たに設定を作ってしまいました。
 それと、上述した辻褄合わせのために今回は予定していた話まで進まず(爆)。

>それともご丁寧にネットの画像をプリントアウトした嫌がらせか。

 例の写真は、メールで送られただけでネット上では今のところ公開されていな
い(と思う)ので、その線は考えていませんでした。

>立ち直りの足掛かりをやっと見つけそうだったのに可哀想な弥白様。
>稚空が迎えに行ったら失踪していたなんて事にならなければ良いのですが。

 少し違うのですが、割と鋭い予想です。

>>> ●次々回予告
>
># どっちの弥白様が言うのかなぁ。

 予想は当たりましたか?

#でも本当は、この台詞を予定していたシーンまで届かず、別のシーンで言わせ
たのが真相らしい(ぉぃ)。

hidero@po.iijnet.or.jpさんの<9b69cu$ohm@infonex.infonex.co.jp>から

>★神風・愛の劇場 第114話 『帰結』

 まろんちゃんの事を想ってバスタオル一枚で身体を熱くしているツグミさん…
妄想し甲斐のあるシーンです(笑)。
 後で飛び上がっている事から推定して、行間を読みたくなってしまうのは妄想
のし過ぎでしょうか。
 続いて着たゆったりした服というのも、隙間から色々覗いたりして絵的には妄
想出来る服なのですが(笑)。

 自分の駒の事を思い出したらしいフィンですが、やはり死んでしまっては良心
が痛むのでしょうね。まろんを殺す使命を持ちながら、迷っている内に無関係な
人を殺してしまいそうになったとすると、フィンは辛いでしょうね。
 ツグミを生かす為に、漸く本気になってまろんを倒しに来るのか、それとも。

#基本的に、天使の心を完全に失った訳では無さそうで。

 ツグミさんの料理のメニューは、某所で書いていたメニューですね。
 手抜きの方法も(笑)。
 フィンが中身を確認していたのは、椎茸が入ってないかという事なのでしょう
ね。

#アニメだけだと絶対判らないシーンですね。

 まろんちゃんがあの後ツグミさんの家に行かない訳は無いと思っていましたが、
既にノイン様は対策を練っていたようで。
 そして、ノイン様がフィンに言おうとしていた事が気になります。
 私なりに、妄想してみましたが、こんな事かな。

#決めつけないように書いたので、今後の展開はお任せします。

 まろんちゃん、あれから一日中ツグミさんの事を探し続けていたんですね。
 まさか、学校まで休んでしまうとは。

#最後にあんな状態になって、気にしない方が変ではありますが。

 未だにツグミとも連絡が取れず、稚空とも断絶したままで、最早まろんちゃん
の頼みの綱は…都ちゃんのみの状態になりつつあるようで。

 そして、ミストによって明かされた真実。
 ツグミツーはツグミさんの命を削って動いているのか。
 すると、ダメージを受けてもすぐに回復しているように見えるのは、それだけ
ツグミさんの命が余計に削られている事になる訳ね。

 フィンが「今の片割れ」と言ったのが気になります。
 それと、ミストが「似合うだろうか」とアキコに言った台詞も。

#実は最初読んだ時、フィンがアキコをまろんの二重身だと勘違いしたと読んで
いまったのですが、アキコの事をフィンは知っているのでそれは無いだろうと思
い直しました。

>●次々回予告編
>
># そこまで書けるかどうかだけが問題。(笑)

 大長編の予感(笑)。

#最近、お互いに多いですね。

 では、本編へと続きます。


★神風・愛の劇場 第115話『受容(前編)』

●枇杷町 枇杷高校

 枇杷高校の門前で、稚空は弥白が出て来るのを待っていました。
 大会を控え、毎日新体操部の練習があるために今日も遅いはずでしたが、少し
早い時間に屋敷を出て、バスで高校に行きました。
 生徒会活動にボランティア活動など活動的な弥白は、帰宅時間もまちまちでし
たので、忙しい朝の登校時にはリムジンを使いますが、下校時は歩いて帰る事が
多いのでした。
 歩いても30分そこそこの距離。足腰を鍛える意味でも敢えてそうしています。

 その気になれば、顔馴染みの弥白付きの運転手に頼んでリムジンを出して貰う
事も出来たのですが、稚空がそうしなかったのはそのような訳でした。

 学校の門前で、稚空は弥白が出て来るのを待ちました。
 しかし、弥白は日が暮れてもなかなか出て来ません。
 気になって、新体操部の練習場に出かけてみると、既に灯りは落ちていました。

 しかし、他に用事があるかもしれません。
 生徒でも無いのに建物内に入るのは気が引けたので電話をかけましたが、聞こ
えて来たのは留守電のメッセージ。

「どこにいるんだ?」

 仕方が無いので建物の中に入ろうと、校舎の正面玄関に回ると、知った顔がい
たので声をかけました。
 名前は忘れましたが、弥白の取り巻きの生徒でした。
 ショートカットの髪。顔には眼鏡。小柄な身体。
 見るからに大人しそうな印象を漂わせる彼女は、弥白を取り巻く女性達の中で
浮いていた印象が残っています。

「弥白様は、お帰りになりました」

 弥白は、既に数時間前に帰宅したと言うのです。
 嫌な予感がしました。

「弥白と会った時、何か変わった様子は無かったか?」
「どことなく、顔色が悪かったような…。」
「そうか。有り難う」
「あ、あの!」

 礼を言い、立ち去ろうとした稚空をその女生徒が呼び止めました。

「何か?」
「い、いえ…。その…」

 か細い声で言うのでした。
 しかし稚空は気付きました。
 彼を見るその瞳は、そのおどおどとした態度とは裏腹に、何か強い意思を感じ
させる事に。

「俺に何か用?」
「…何でもありません。名古屋さん」
「そうか。それじゃ、俺は行くから」
「ご機嫌よう」

 女生徒と別れて校門へと向かいながら、何故か彼女の事が気になって仕方があ
りませんでした。


●枇杷町 枇杷高校 数時間前

 それを見た時、ここ二日程は感じずに済んでいた恐怖が蘇って来るのがはっき
りと自覚できました。
 そして次の瞬間、目の前にあった自分の写真を引き剥がしました。
 写真は、コピー用紙にプリンターで印刷したもののようでした。
 それを手でクシャクシャに丸めて制服のポケットに入れました。
 そうしても何の解決にもならないのは判ってはいたのですが。

 後ろの方で笑い声がして、誰か来たのに気付きました。
 笑い声に続いて何かひそひそ話。
 内容は判りませんでしたが、それが聞こえた時に背中が凍る気がしました。
 振り向くと、今話していた彼女達は別の話題に切り替えた所でした。

「(嫌…嫌…)」

 理性では彼女達が自分の事を笑っている訳では無い事を理解しています。
 しかし、それ以外の何かが、笑いの対象が自分なのだと告げるのです。
 そう思って聞くと、彼女達の会話の端々に、自分の名前が聞こえているような
気がします。
 被害妄想。
 その単語が頭の中で閃き、すぐに消えました。
 続いて頭の中を支配するのは後悔と自己嫌悪。
 悪いのは全て私なのだから、笑われても仕方が無い。

 居たたまれなくなり、部室を飛び出ました。
 部活は体調が悪いので休むと、丁度入って来た同級生の部員に連絡を頼みまし
た。
 それを言った時、またクスクス笑いがして、自分が笑われたような気がしまし
た。
 本当は自分とは関係無い話をしていたのかもしれませんが、その時はそう聞こ
えたのでした。

 廊下を早足で歩いて出口へと向かいました。
 本当は駆け出したい位でしたが、自らの矜持がそれを許しませんでした。



「弥白様」

 玄関口で、女生徒に声をかけられました。
 見ると、頼みもしないのに弥白の親衛隊を自称している取り巻きの一人でした。

 朝の登校時の出迎えを始めとして、何かと理由をつけては自分の周りに付き従
う女生徒達。
 自称「親衛隊」が弥白に近づく理由は様々でしたが、その背景が透けて見えま
したので、正直、あまり付き合いたくありませんでした。
 現に今、大会が近いので終わるまでは余り周囲にいないように頼んでもいます。

 さりとて、邪険に扱う事も出来ませんでした。
 女学校時代からの名門校で知られる枇杷高校には良家の子女が多く、彼女の「親
衛隊」の構成員も、彼女の一族が経営するグループ企業や取引先の重役クラスを
父に持つ場合が多いのでした。
 両親に頼まれたのか、自ら両親の為に動いたのか、それとも自分自身の将来の
ためか。
 彼女達の意図は図りかねましたが、自分が彼女達を邪険に扱う事で、彼女達の
両親に妙な誤解を与える事だけは避けなくてはならないのでした。

 その様な事情でしたので、「親衛隊」には好きにさせておく事にしていました。
 その代わりに、細々とした雑用をして貰います。
 そうする事で、彼女達が満足し、彼女達の両親が満足出来るのであれば、それ
で良いと思っていました。

 しかし今声をかけて来た少女は、「親衛隊」の間では一風変わった存在でした。
 他の「親衛隊」のメンバーが、弥白の歓心を得るが為に必死なのに対して、彼
女はいつも一歩引いた場所にいました。
 それでいて、彼女の目は弥白を捉えて離しません。

 大人しく地味な雰囲気の彼女は、親衛隊の他のメンバーから虐められているよ
うでした。
 そうであるのに、彼女が親衛隊から抜ける事はありませんでした。
 虐めにあって、親衛隊から抜けたメンバーは決して少なくないと言うのに。

 不思議に思い、一度調べてみましたが、彼女の父は勤務医で母は専業主婦。自
分に近づく理由はありません。
 弥白の取り巻きになる事で学校の特権階級に入るという野望がある風にも見え
ませんので、苛められてまで側にいようとする理由が判りませんでした。

「どうかしたんですの?」
「いえ…。あの、今日はもうお帰りなのですか?」
「体調が優れませんの」
「昨日もお休みでしたよね。お身体、大丈夫なのですか?」

 小柄で眼鏡をかけた彼女は上目遣いで弥白を見ています。
 自然と眼鏡と顔の隙間を通して彼女の目を見る格好になりました。
 眼鏡を外せばなかなかの美形ね。一瞬、そう感じました。

「有り難う。私のことなど心配してくれて」
「いえ、そんな…」

 彼女の頬が少し赤く染まった気がしました。
 声をかける度、彼女が見せるそんな表情が何とも愛おしく、「親衛隊」メン
バーの中では珍しいことですが、彼女には親しみを覚えていました。

「では私は帰りますわ。ご機嫌よう」
「あ…。ご機嫌よう」

 別れた後でも、彼女は弥白が角を曲がって見えなくなるまで、じっと見送って
いるのでした。



「弥白様」

 校舎から出て校門へと歩いて行くと、今度は男から声をかけられました。

「神楽? 何の用ですの?」
「お迎えに上がりました」
「そんな事、頼んでいませんわ」
「病み上がりのお身体です。無理をなさらずに」
「私の身体は…」
「体調が悪いから、部活を休まれたのでは?」
「どうして知っているんですの?」
「いえ、大会が近いのにこんな時間にお帰りでしたので、勘です」

 本当の事を言う事は出来ませんでしたので、素直に神楽の好意に従いました。
 神楽が運転して来たのはリムジンでこそありませんでしたが、国産の最高級車。
 良く神楽が運転している海生院長の車とも違いましたので、これは神楽の車の
ようでした。
 その後部座席に身を沈めると同時に神楽は車を発進させました。

「真っ直ぐのお帰りで良いですね?」
「ええ」

 寄り道はする気は起きませんでした。
 本当は、稚空にご馳走を振る舞うべく、材料を色々買い込もうかと考えていた
のですが、今はただ、一刻も早く稚空の元に帰りたかったのです。

 山茶花邸へと向かう途中にある県道は、高速道路と接続しているために週末と
もなれば桃栗町へと向かう行楽客で渋滞が出来る程でしたが、今日この時間は車
は殆ど通っておらず、途中でバスとすれ違った位でした。

「稚空様は弥白様にご迷惑をおかけしていませんか?」

 車中で、神楽にそう話しかけられました。

「とんでもありませんわ。稚空さんには本当に良くして頂いてます」
「稚空様は学校にちゃんと行ってますでしょうか」
「それは…」

 昨日は自分の為に休ませてしまいました。
 今日はどうしているだろうか。
 ひょっとして、今日も自分の為に学校を休んでいるのだろうか。

 弥白の胸がチクリと痛みます。
 稚空にはもう帰って貰った方が良いのかもしれない。
 だけど。

「稚空様は今日も学校を休まれたようです。こちらに問い合わせがありました」
「そうでしたの…」

 どうするのが良いのかは判っていました。
 しかし、今の弥白にはそれを言う勇気はありませんでした。
 それで、それきり黙ってしまいました。

 どれ程車内に沈黙の時が流れたでしょうか。
 やがて、神楽の方から口を開きました。

「弥白様」
「はい」
「神楽では、稚空様の代わりにはなれないのでしょうか」
「有り難う神楽。その気持ちだけ、有り難く頂いておきますわ」
「弥白様」
「お仕事、忙しいのでしょう?」
「仕事など…」
「目の下に、クマが出来ていますわよ」

 どうやら、稚空が言っていた事は事実らしく、本当にやつれた表情なのでした。

「でも…」
「はい」
「本当に困った時は、頼っても良いかしら」
「え…あ、はい! 喜んで」

 神楽に迷惑をかける積もりはありませんでしたが、そう言うと、神楽は本当に
嬉しそうな顔をするのでした。



 神楽も仕事があるだろうと思い、山茶花邸の門前で車から降ろして貰いました。
 弥白は広い庭園の中を知らず知らず早足で歩き、最後には駆け出しました。
 息を切らせて本館の建物の中に入った時には、先程の嫌な出来事は弥白の頭の
中からすっかり消え去っていました。

「出かけた?」

 しかし、屋敷に稚空の姿はありませんでした。
 用事があるので外出すると言い残して出て行ったと、執事より聞かされました。

 自分の部屋に入った弥白は制服のまま、ソファに横たわりました。
 ふと、ポケットの中に入っていた自分の写真を取り出します。
 丸めていたそれを再び広げました。

 それは、自分の記念であると同時に、今の自分の本当の姿を見て貰いたい為に
撮って貰った物だったのですが、こんな使われ方をされるとは。

 これを持ち出し、弥白に送り付けた犯人に、弥白は目星をつけていました。
 もしそれが正しいとすれば、弥白に逃れる術はありません。
 ここ二日、忘れていたこの事実を今日、改めて思い知らされました。

「(こんな真綿で首を絞めるようなやり方…)」

 逃れられぬ運命ならば、せめて最後は愛する人と共にありたい。
 それに彼ならば、ひょっとしたら。

「甘いですわね」

 頭の片隅に現出した希望を直後に打ち消し、弥白は立ち上がりました。
 稚空に夕食を振る舞う約束をしていたのです。
 その支度をしなくてはいけませんでした。

(第115話 前編 完)

 では、後編へと続きます。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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