From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 01 Apr 2001 13:04:32 +0900
Organization: So-net
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石崎です。
これは神風怪盗ジャンヌのアニメに触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、お好きな方のみ以下をどうぞ。
今回もフォロー記事と本編に別れています。
こちらは本編第111話です。
フォロー記事は以下よりどうぞ。
Keita Ishizakiさんの<9a679t$3i9$2@news01cb.so-net.ne.jp>
★神風・愛の劇場 第111話『勇気』
●オルレアン ミストの隠れ家
「ジャンヌが動き出すか」
キャンディーの中に映るまろんを見ながら、ミストは呟きました。
ノインの仕掛けがどうなろうと、ミストにはどうでも良い事でしたが、ツグミ
の二重身の動きは、この前アキコを捜しに行った時に出会って以来、監視を怠ら
ないようにはしています。
もっとも、自分の『駒』の監視の方がもっと重要でしたので、四六時中監視し
ている訳にもいかないのですが。
「果たして…見つけられるかしらね」
部屋の片隅にある黒い塊を見て呟きました。
もっとも、いずれは見つけだすだろうと思っています。
「それにしても…」
ミストは、キャンディーの中を見ながら呟きました。
「良い身体をしているわね」
ノインには見せられない光景でした。
ミストはアキコが見ているのにも気付かずに、暫くまろんの肢体を見つめて舌
なめずりしていたのですから。
●枇杷町 山茶花本邸 弥白の部屋
約束通り、稚空は日が暮れる頃には弥白の所に帰って来ました。
「それでは、私は仕事に戻ります」
稚空が居ない間に側についてくれていた神楽は、入れ替わりに病院に戻って行
きました。
折角だから、夕食を一緒に如何? と誘ったのですが、「仕事がありますか
ら」と断られました。
「だったら、私の側になどいて下さらなくても良かったのに」
つい嫌味を言ってしまい、直後に後悔しました。
「弥白様! 神楽は…」
「冗談ですわ。心配して下さって有り難う神楽。弥白はもう、大丈夫ですから…」
そう安心させるように言うと、神楽は一礼して帰って行きました。
神楽が出て行くと、今度は稚空の方をちらりと見ました。
その表情には、不安の色があります。
「稚空さん、あの…」
「優しいな。弥白は」
「え?」
「神楽のこと、心配してくれているんだよな。あいつ今、仕事が忙しいらしいか
ら」
「そうでしたの」
「着替えも持って来たから、もうこれ以上神楽に迷惑をかけないようにしないと
な」
そう、肩に手を置いて言いました。
それで弥白は気付きました。
稚空は自分の側に暫くはいると言っていることに。
「さ、夕食の支度が出来てますわ。一緒に食べましょう」
弥白は、そう言うと背中を向けてダイニングの方へすたすたと歩いて行ってし
まいました。稚空に今の顔を見せたくなかったからです。
●オルレアン まろんの部屋
お風呂の中で妄想に暫し耽っていた為に、少しのぼせてしまったまろん。
身体にバスタオルを巻いて洗面所で髪をドライヤーで乾かしながらも、まろん
は悪魔に取り憑かれたツグミとの戦い方を頭の中でシミュレートしていました。
髪をすっかり乾かし終わり、パジャマに着替えた後になっても、結論は出ませ
んでした。
こんな時、フィンがいたらとの思いが一瞬頭を過ぎり、すぐに打ち消しました。
「…そうだよね。ツグミさんを助ける為だもん」
一人ごちると、まろんはリビングへと向かいました。
殆ど使うことの無い電話帳を捲ると、すぐに番号は見つかりました。
珍しい名字と名前でしたから、間違えようもありません。
「うん。悪魔の事だもん。稚空だって協力してくれるよ」
そう呟いて、ボタンを押していきました。
数回呼び出し音がした後に繋がった先は、確かに稚空の実家の海生の家でした
が、電話に出た若い女性の話では、稚空は来ておらず、海生もまだ病院にいると
の事でした。
「お父様の所って言ったのに…」
それじゃあ母方の実家かなと一瞬考え、それを否定します。
そう言えば、小さい頃に亡くなっていたんだっけ。
電話する前は稚空に相談するかどうか悩んでいたまろんでしたが、連絡がつか
ないとなると、何だか意地でも連絡をつけたくなって来るのは不思議でした。
最初にかけたのは隣の稚空の部屋。
続いて名古屋病院に電話をかけてみました。
「稚空様の居場所は存じません」
海生院長は所用で外出しているとの事で、代わりに電話に出た秘書の彼方木神
楽に言われました。
「でも、実家に行くって言ってましたけど?」
「稚空様はそんな事言ってたんですか…」
「何か知ってるんですか?」
「いえ、何も知りません。何でしたら、携帯にかけられては如何ですか? 番号
は…」
「あ、知ってます」
そう言って、電話を切りました。
「全く、どこ遊び歩いてるんだか」
稚空の携帯の番号をアドレス帳から探し出し、電話をかけました。
暫く待たされた後で、電話は繋がりました。
「あ、稚空?」
「まろんか? 携帯にかけて来るなんて珍しいな。何かあったのか?」
「それが…」
ツグミの事を話そうとしたその時、電話の向こうから別の声がしました。
「稚空さん、どうかしたんですの?」
「あ、いや…。すまない。今ちょっと立て込んでるんだ。又後で電話…」
そこで、稚空の声は途切れました。
まろんが自分から電話を叩き切ったからです。
「馬鹿…」
そう呟くと、まろんはそのまま寝てしまいました。
それから暫くして、電話が何度か鳴りましたが、まろんは布団を被ったまま、
それを取ることはありませんでした。
●枇杷町 山茶花本邸 弥白の部屋
食事が終わった後、リビングで二人でお茶を飲みながら、暫くの間たわいも無
い話をしました。
それは、見た目だけならばありふれた恋人同士の光景。
もっとも、二人の共通の趣味が趣味だけに、会話の内容はとてもそれには似つ
かわしくないものなのでしたが、もちろんそんな事を二人は気にする事はありま
せんでした。
あっと言う間に楽しい時は過ぎ、既に日付が変わっていました。
弥白が少し席を離れていた間に、稚空の姿が部屋から見えなくなったので、不
安にかられて探し回ると、廊下の柱の陰に稚空がいるのを見つけました。
「稚空さん、どうかしたんですの?」
思わず声をかけて、すぐに後悔しました。
稚空は電話中で、声をかけた為に電話を切らせてしまった様子だったからです。
「ごめんなさい、驚かせてしまって…」
「いや、大した電話じゃないから、弥白が気にする事は無いさ」
そう言うと、稚空は手にしていた携帯電話をポケットに仕舞いました。
「すぐにかけ直さなくて良いんですの?」
「言ったろ。大した話じゃ無いって」
そう言うと、稚空は先に部屋へと戻って行きました。
*
リビングに戻った弥白は、テレビをつけました。
しかし、テレビの内容など、弥白にはどうでも良いのでした。
現に、音量は出演者の声が微かに聞こえる位。
それを見る振りをして、さり気なく、稚空と同じソファに座りました。
そうしてから、少しずつ稚空に近づきました。
「お、おい…」
最終的には稚空に密着して、その身体を預けました。
「暫く、このままで居させて下さい」
稚空は一瞬戸惑ったようでしたが、やがて、弥白の肩に手を置きました。
暫くの間、弥白と稚空は肩を寄せ合ったままでいました。
会話はありませんでした。
愛する二人に言葉は要らないって本当ね。
そんな事を考えました。
肩を稚空に預けたまま目を瞑っていたので、稚空の方はどんな顔をしている
のかは判りませんでした。
迷惑だろうか。
でも、こうして肩を抱いてくれている。
これは同情? それとも…。
思い切って、身体を起こすと稚空の方を向きました。
但し、目を瞑ったまま。
昔も、こんな事をした事がありました。
その時は、答がありました。
だから今日も、答をくれる筈。
暫くは何も起こりませんでした。
ただ、稚空が戸惑っている様子なのが、何となく判りました。
本当はそんなに時間は経ってはいなかったのでしょうが、その時の弥白には長
い時間に感じられました。
頬に、何かが触れました。
そして、肩から手が離れました。
弥白は目を開けました。
稚空は弥白から離れて立ち上がった所でした。
「稚空さん」
「もうこんな時間だし、そろそろ休もう。それでその…下の風呂貸して欲しいん
だが。実は昨日、入ってなくてな」
「わざわざ断る必要などありませんわ。それにお風呂でしたら、そこのお風呂も
支度が出来てます。そうですわ、何でしたら一緒に入りましょうか。昔のよう
に」
弥白がそう言うと、稚空の頬が赤くなったようでした。
「おいおい。もう子供じゃないんだから」
「あら。昨日裸を見られたんですもの。恥ずかしくなどありませんわ」
そう真顔で言うと、稚空の顔はますます赤くなりました。
その様子を見て、弥白はクスリと笑いました。
「冗談ですわ。私も後で入りますから、先に使ってて下さい」
「そうか。判った」
心なしか、稚空はほっとした顔のように見えました。
稚空が脱衣所へと消えた後で、弥白はソファに背中を預けて呟きました。
「冗談ではありませんでしたのに」
*
稚空と入れ替わりに、弥白もお風呂に入りました。
「それで俺は、どの部屋で寝れば良いのかな? 別にソファでも構わないが」
お風呂に入る前に、稚空に聞かれました。
弥白は、一瞬躊躇った後に答えました。
「寝室の隣の部屋にベットを用意してありますわ」
「判った」
本当は、別の答もありました。
でも、弥白からそれを言うことはどうしても出来ないのでした。
浴室に入り、シャワーで身体を流しながら、弥白はため息を一つ。
気を取り直して身体をブラシで擦り始めました。
普段から身体に磨きをかける事にかけては怠りなく、それが弥白の長い入浴時
間の要因の一つでもあったのですが、今日は特に念を入れました。
「(稚空さんと一緒の夜ですもの…)」
一人だけの妄想の世界に浸りかけました。
しかしそれは、思いもしなかった形で破られました。
「待っているだけでは、望みは叶わないですわ」
「!」
心臓が止まるかと思いました。
手近なタオルで前を隠し辺りを見回しますが、浴室の中には弥白ただ一人。
「どこを見ているのかしら?」
もう一度話しかけられて、声の正体に気付きました。
弥白に話しかけているのは、目の前の鏡に映っている弥白自身なのでした。
弥白自身というのは、正確な表現ではありません。
確かに目の前の鏡の中にいるのは自分でしたが、それは今の自分ではありませ
んでした。
弥白は、前を隠していたタオルを持っていた手を下ろして立ち上がりました。
それで違いがより明確になりました。
弥白より低い背の丈。
まだまだ発展途上といった感のある胸の僅かな膨らみ。
「(昔の…私?)」
「そうですわ」
弥白の思考に反応するかのように、鏡の中の自分が答えました。
「一体これは…」
「あなたは本当に、今のままで良いと思っているのかしら?」
弥白の疑問には答えずに、鏡の中のもう一人の弥白が問いました。
「何を言いたいんですの?」
「今のままだと、やがて彼はあの女の所に戻って行ってしまう。それでも良いの
かしら?」
「私は、稚空さんの幸せだけを願っています。だから…」
「本当に?」
「そうですわ」
きっぱりと弥白は答えました。
「だったらどうしてあの時、彼を拒んだのかしら」
「それは…」
それは、弥白と稚空に取ってある意味甘く、そして苦い記憶。
あの時以来、お互い口にしていなかった思い出。
それを持ち出され、弥白は理解しました。
鏡の中の自分は、その頃の自分の姿なのだと。
「あの時拒んだから、彼は離れていった。そう考えたことは無いかしら?」
「稚空さんはそんな方ではありませんわ」
「彼の本性は、あなたも良く知っているでしょう?」
「稚空さんはそんな方では…」
本当は鏡の中の自分の方が正しいのかもしれない。
何しろ、本当に考えた事ばかりなのですから。
しかし、弥白はそれを認める事は出来ませんでした。
「でも今ならば、やり直すことも出来ますわ」
鏡の中の自分が言いました。
「やり直す?」
「あなたも、心の底ではそれを願っているのでしょう?」
「私は…」
「彼の前でも、自分に素直になった方が良いですわ」
「でもそれで…」
「それで駄目なら、待っていてもやっぱり駄目。あなたも判っている筈ですわ」
言われた事は判っていました。
自分の中で、何度も自問自答した事なのですから。
「私…」
「何でしたら、手伝いましょうか?」
「手伝う?」
「自分に素直になれる、お手伝い」
どうして鏡の中の自分が手伝うことが出来るのだろうとは、不思議に思いませ
んでした。
しかし、素直に聞く気も起きませんでした。
何故ならば。
「結構ですわ。自分のことは、自分で決めます」
「そうですか。ならばそうなさい。でも、覚えていて下さいね。あなたが望むの
なら、私が手を貸すという事を」
「あなたは一体…」
答は、ありませんでした。
気がつくと鏡の中のもう一人の自分は消えていて、現在の自分が鏡に映し出さ
れているのでした。
「自分に素直に…」
暫く弥白は、じっと立ち尽くしていました。
●オルレアン ミストの隠れ家
空間が揺らぎ、ミストは塒へと戻って来ました。
アキコと黒い塊が待っているのを見て、安堵のため息をつきました。
状況が状況です。アキコ達だけで外に出すのは危険なのでした。
アキコの無事を確認すると、疲れがどっと押し寄せて来ました。
それは、肉体的なものではありません。
「お嬢様の振りをするのも、楽じゃないわね…」
そう呟くと、ミストは悪魔でも欲する自らの欲求に素直に従うことにしました。
●枇杷町 山茶花本邸 弥白の部屋
お風呂から出た弥白は白いバスローブだけを身につけ、脱衣所の鏡の前に座り
ました。
身体の火照りを冷ますまでのいつものスタイルでしたが、この姿になると浴室
では意識して排除していた昨日の悪夢を思い出してしまいます。
弥白は、バスローブの袖を顔に近づけて、じっと見つめました。
そこは、昨日赤く染まった箇所でしたが、今日見る袖はあくまでも純白。
昨日の事はやはり夢だったのだろうかと一瞬思い、それを打ち消します。
毎日クリーニングに出しているので、これは昨日のとは別物の筈でした。
昨日着ていたものがどうなったのか気になりました。
夢が現実なら、騒ぎになってもおかしくない筈です。
自分の事を気遣って、何も言わないでくれているのかと思いました。
だとしたら、尚更確かめるべきではありませんでした。
そう思い、弥白はこの事について考えるのは止めにしました。
それよりも、大事な事があったからです。
弥白は、座っていた籐椅子から立ち上がりました。
在る決意を胸に。
*
「稚空さん?」
バスローブ姿のまま、弥白がリビングに戻ると、稚空の姿はありませんでした。
何か用があって席を外しているのだろうと思い、暫くそのままソファに座って
待ちました。
しかし、なかなか戻って来ませんでしたので、不安になって立ち上り、その姿
を探し回りました。
トイレにも、廊下にも、稚空の姿はありませんでした。
まさかとの思いが、弥白の頭を過ぎります。
しかし、それは杞憂でした。
寝室の隣にある、客用のベットに稚空はいました。
電気が消されていたので、最初は気付かなかったのです。
稚空は既に眠っているのか、すやすやと寝息を立てていました。
「昨日は徹夜で私を見ていて下さったんですものね…」
そう呟き、ため息をつきました。
そのため息は落胆とも安堵とも取れましたが、本当はどちらなのかは本人にも
判りませんでした。
弥白は、寝ている稚空の側まで歩き、稚空の顔を覗き込みました。
「弥白は、もう子供ではありませんから」
そう言うと弥白は、稚空の唇に自分の唇を重ねました。
「何時でも、待っていますから」
それから暫く、弥白は稚空の寝ている枕元に両肘をついて、その寝顔を眺めて
いました。
「稚空さんの、鈍感…」
どれ位の時間そうしていたでしょうか。
そう言うと弥白は立ち上がり出て行きました。
*
弥白が出て行ってから暫くして。
寝ていた筈の稚空は、むっくりと身体を起こしました。
稚空は自分の指で唇に触れて、そして呟きました。
「据え膳喰わぬは男の恥と言うが…」
稚空の顔には、困惑の色が浮かんでいるのでした。
(第111話 完)
どうも最近疲れているのか、余計な妄想シーンが多くなるようです(笑)。
まろんちゃんの件に関しては、佐々木さんパートの今後の展開に影響を与えな
かったでしょうかが少し気になっていたり(汗)。
●次々回予告編(その場の思いつきで変更可能性大)
「最低だな。俺は…」
では、また。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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