From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Tue, 20 Mar 2001 13:32:31 +0900
Organization: So-net
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石崎です。
これは神風怪盗ジャンヌのアニメに触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、お好きな方のみ以下をどうぞ。
長くなりましたので、フォロー記事と前編・後編の三分割記事です
こちらは本編第107話(後編)です。
フォロー記事は
<996ec3$d06$1@news01dg.so-net.ne.jp>
第107話(前編)の記事は
<996g46$bj0$1@news01de.so-net.ne.jp>
よりそれぞれご覧下さい。
★神風・愛の劇場 第107話『逃避(後編)』
●枇杷町 山茶花本邸上空
直接目的地へは向かわず、一端目的地上空に姿を現したミスト。
一応出現先周辺には何も居ないのは確認済みですが、一応周囲を見回すと、下
の方を何かが飛んでいるのに気付きました。
「ふ〜ん」
屋内への瞬間移動、殊に視界外に対する瞬間移動には、精度の面で色々と不安
があったので安全策を採ったのですが、普段ならば面倒に感じられるその手順を
踏んだお陰で、今回は面倒を避ける事が出来そうでした。
「それじゃあ、あたしは高見の見物としましょうか」
*
弥白の身に何かが起こったらしい。行って、様子を見て欲しい。
稚空がアクセスに依頼した内容はそれだけでしたが、アクセスは稚空には教え
ていない視力の良さで、稚空の携帯電話に届いたメールの内容を読んでいました。
「(あれって、まるで……)」
文章を見た瞬間、ある可能性がアクセスの頭に浮かびます。
恐らくは、稚空も同じ事を考えたはず。
だから、アクセスは稚空の依頼を敢えて問い直す事はせずに、直ちに枇杷町へ
と向かったのでした。
桃栗町の中心部を見下ろす高台の上にあるオルレアンから、枇杷町郊外の緩や
かな丘陵地帯全てを占有する山茶花本邸までは、アクセス達天使の人間界におけ
る巡航速度でこの星の時間で10分といったところでしょうか。
本当は1分もかからずに行けるのですが、それ程高速に移動を行った場合、人
間にその存在を気付かれてしまう恐れがあるのでした。
現に、フィンとの追いかけっこの最中に、互いに高速で飛び回り戦っていたた
めに、その事が人間界で報じられ、稚空に注意されてしまいました。
だから、人間に気付かれない程度に、最大の速度でアクセスは目的地へと向か
いました。
目的地が肉眼で確認出来た頃、上空で空間の揺らぎと直後に悪魔の気配を感じ
ましたが、無視しました。
どうせ桃栗町とその近辺に悪魔の気配が多いのは以前から判っていた事ですし、
今はそれどころではありません。
「間に合ってくれよ」
アクセスは、広大な山茶花本邸本館の三階にある、弥白の私室の窓の前まで辿
り着きました。
カーテンの開いている窓から中を覗き込みましたが、弥白の姿は見えませんで
した。
「どこにいるんだろう? この部屋、広いからなぁ…」
その時、覗き込んだ窓の下にある文机にあるものに気がつきました。
それは、アクセスには判らなかったのですが山茶花家の家紋入りの便箋。
濡れた手で書いたのか、所々濡れているようでした。
それに書かれた走り書きの内容を読んで、アクセスの表情が変わりました。
「やばいぜ、こりゃ…」
事は急を要しました。
人を呼ぶのは簡単でした。
すぐに本来の大きさに姿を戻し、目の前の窓を叩き割れば良いのです。
警報装置が鳴り響いて人が飛んで来るでしょう。
でも、それは躊躇われました。
それで弥白が助かったとしても、それは彼女の心に絶対に消えない傷を残すは
ず。
アクセスには、それが何故か我が身の事の様に良く判りました。
それがどうしてなのかまでは判りませんでしたが。
とにかく、自分が今ここですべきことはただ一つ。
自分で彼女を捜し出し、彼女を助けること。
「掟」に反している事は判っていました。
でも、そんな事は微塵も気になりませんでした。
自分のために、何の得にもならないのに付き合ってくれた相棒を悲しませる事
に比べれば、それが何だと言うのでしょう。
ひょっとすると、こうして自分が天使でいるのは、今この時の為だったのでは
無いかとすら思えました。
「弥白!」
聞こえないのは承知で、その名を呼んでみました。
もちろん、返事はありませんでした。
弥白の部屋の窓を順番に覗いてみましたが、彼女の姿はありませんでした。
ひょっとしたら、彼女は部屋にいないのかも。
そう考え、それを一瞬で打ち消しました。
あの便箋はまだ濡れていた。きっと、弥白はこの近くにいる。
リビングや寝室など、窓から見える場所には弥白の姿はありませんでした。
「ひょっとすると…」
アクセスは、屋根の上を経由して建物の裏側に回りました。
そちらに浴室があるのは、以前張り込んだ時に稚空に教えて貰いました。
しかし、以前覗こうとして判っていた事なのですが、浴室の窓は曇り硝子とな
っていて、中の様子は良く判りませんでした。
「う〜ん」
窓に顔を近づけて、何とか中の様子を伺おうとしたその時です。
微かに、物音が聞こえました。
どうやら、水が流れる音のようでした。
それを聞いて、アクセスは安堵のため息をつきました。
しかし、それは誤りでした。
その事に気付いたのは、シャワーのある側の窓から中の様子を伺った時でした。
曇り硝子の向こうには、この浴室にはあり得るはずの無い色があり、しかもそ
れは徐々に広がりつつありました。
●………
祖母から譲り受けた守り刀で、手首を切ろうとしました。
もっと楽に、確実に死ねる手段があるのは判っていましたが、醜い死に様を人
には見せたくありませんでしたし、薬物の用意もすぐには無理でした。
最初は手が震えて、上手く行きませんでした。
何度も、何度も切りつけました。
血が流れるように流し続けていたシャワーのお湯が赤く染まり、床を流れてい
きました。
最初から胸を刺すなり喉を突くなりすれば良かったのかも知れませんが、それ
は出来ませんでした。
自分でも馬鹿馬鹿しい考えだとは判っているのですが、痛そうで嫌だったので
す。
そうしている内に、頭がぼうとして、真っ赤なお湯が流れる床に倒れました。
その時に、着ていたバスローブの帯が解けてしまったのが判りましたが、もう
直す事は出来ませんでした。
最早立ち上がる事も、腕を動かすことすら出来なかったのです。
私はこれで終わりなのね。
薄れ行く意識の中で、そう思いました。
この事を知ったら、あの人はどう思うだろうか。
泣いてくれるだろうか。
こんな事になる位だったら、もっともっとあの人と……
「弥白!」
ああ。幻聴まで聞こえてきた。あの人の声がするなんて。
「死ぬな!」
誰かに、自分の身体を持ち上げられました。
「絶対に死なせないからな!」
そう、確かに言われました。
ああ、そうだった。
書き置きを残せばいいものをわざわざメールを送ったのも、部屋の鍵を開ける
暗証番号をあの人と私だけが知っている暗証番号以外で開かないように変更した
のも、あの人に真っ先に来て欲しかったから。
でももう手遅れ。
もう私は死ぬのだから。でも、最後をあの人の腕の中で迎えることが出来て良
かった……。
それきり、意識は途切れました。
●山茶花本邸 弥白の部屋
稚空が弥白の家を訪れた時、応対に出た執事が弥白を呼んだのですが、返事は
ありませんでした。
──部屋からは出ておりませんので、恐らくは入浴されているのでしょう。
そう言われ、暫く応接室で待つように勧められたのですが、弥白に呼ばれたか
らと嘘をついて強引に部屋に行きました。
執事はいつものように部屋まで案内しようとしたのですが、
──場所なら判っている。
いつもなら素直に案内される稚空は、この時ばかりは一人で行くと主張しまし
た。
二人の関係を知っている執事は、二人の邪魔をされたくないのだろうと解釈し
て、稚空の言う通りに一人で行かせました。
弥白の部屋の扉は鍵がかかっていて、暗証番号を入力しなければ開かなくなっ
ていましたが、稚空が弥白に教えて貰っていた番号を入力すると、あっさり扉は
開きました。
弥白の名前を呼びつつ、部屋を一つずつ回りましたが、弥白の姿はありません
でした。
「本当に風呂か?」
そう思いかけた時です。
弥白が書き物をする机の上に、置いてある便箋に気付きました。
弥白は普段、紙に何かを書く事など滅多にしませんでしたので、それはとても
珍しい事でした。
嫌な予感がしました。
便箋を覗き込むと、果たしてその予感は現実のものとなりました。
何の迷いも躊躇いもなく、稚空は脱衣所を通り抜けて浴室へと向かいました。
浴室のガラス戸を開けると、向こうの方からシャワーの音が微かに聞こえまし
たので、そちらの方に走って行きました。
「弥白!」
流れ続けるシャワーの下には、バスローブ姿の弥白が仰向けになって倒れてい
ました。
何かの拍子で帯が解けたのでしょう。バスローブの前がはだけた状態で、長い
黒髪がその白い肌に濡れてまとわりついているのは、何とも色っぽくはありまし
たが、その時の稚空はそのような感情は抱きませんでした。
何しろ弥白の純白のバスローブは血で染まっていたのですから。
弥白の側に短刀が転がっているのが見えました。
柄に山茶花家の家紋が入っているので代々の守り刀か何かでしょうか。
これを使って自殺を図ったのでしょう。
「良かった。まだ生きてる…」
弥白の脈を素早く診た稚空は、弥白がまだ生きている事を確認しました。
ざっと診察して、弥白は気を失ってはいるものの、生命の危険は無さそうでし
た。
父に反発しつつも、医者を目指していて良かったと、この時は思いました。
応急処置をしようとした稚空は、すぐにおかしい点に気がつきました。
「どういうことだ?」
弥白の手首、首筋、果ては胸元まで覗き込みましたが、周りにあれだけ血が流
れているにも関わらず、弥白の柔肌には傷一つついてはいなかったのです。
とにかく、ここから動かそう…。
そう思い、弥白の身体を持ち上げた時です。
「アクセス!」
弥白の下に、気を失ったアクセスが下敷きになっていたのでした。
***
「それじゃ、僕は帰るからね」
「すまねぇな、親父」
倒れた弥白のために、急遽ホームドクターである海生がヘリコプターで呼ばれ
ましたが、診察の結果はただの貧血。暫く安静にしていれば良いとの事でした。
「ああそうそう。稚空君」
「何だよ」
「弥白ちゃんの事、ちゃんと看病するんだよ。弱った時は、大切な人が側にいて
やる事が何よりの薬だ」
「当たり前だろう」
「当たり前…か。耳が痛いね。ハハハ…。今でも後悔しているよ」
「親父…」
稚空は何か言いかけましたが、海生はその前にそそくさと病院に戻ってしまい
ました。
*
後には、稚空と今はすやすやと寝ているように見える弥白だけが残されました。
それともう一人。
「アクセス、大丈夫か?」
ソファをベット代わりに横たわっているアクセスに、稚空は声をかけました。
「ああ…何とかな」
アクセスは、そういうとよろよろと起き上がりました。
「ったく稚空は、人…いや天使使いが荒いぜ。彼女を助けるだけで力を殆ど使い
切っていたのに、風呂場の掃除までやらせるんだもんな」
異変を察知したアクセスは、僅かに開いていた脱衣所の格子窓から建物の中に
入り込み、本来あるべき姿に戻ると、倒れて虫の息の弥白に自らが持つ力──聖
気──を大量に弥白の身体に注ぎ込み、その命を救ったのでした。
稚空が弥白を発見した時、傷一つついていなかったのは、そう言う訳でした。
「それを言うなら俺だって弥白をベットまで運んで着替えさせて…」
「ほ〜」
稚空が反論すると、アクセスはジト目になりました。
「何だよ」
「着替えさせたって事は、見たんだ。弥白の裸」
「幼なじみだぞ。それくらい見慣れてる」
少し赤くなりながら、稚空は反論しました。
実は、少し見とれてしまった事は内緒です。
「稚空は着替えさせると称して脱がすのが好きだからな」
「どういうことだ」
稚空の問いに、アクセスはニヤニヤするばかり。
やがて、アクセスは立ち上がると、
「それじゃあ俺は帰るから、稚空、後は宜しくな」
「おい、もう少し休んだ方が良いんじゃ無いのか?」
「いや。弥白が目を覚ましたら、俺がいたら拙いだろう。それに、稚空の家の方
が落ち着いて休める」
「そうか…」
稚空は、窓まで歩いて行くと、アクセスの為に窓を開けてやりました。
アクセスは、ふらふらと窓際まで飛んで来ましたが、いざ外に出ようとする所
で立ち止まりました。
「なぁ稚空」
「どうした?」
「彼女の事は頼むぜ」
「ああ。アクセスに言われるまでも無いさ」
そう稚空が言った後、暫しの沈黙がありましたが、やがて決意したように言い
ました。
「あの子に…弥白に俺の聖気を注ぎ込んだ時に、彼女の想いが俺の頭の中に流れ
込んできたんだ」
「…」
「彼女の頭の中、稚空の事だけで一杯だった」
「そうか」
「多分、今の彼女を支えることが出来るのは、稚空だけだ」
「判ってるさ」
「でも稚空。本当にそれで良いと思っているのか?」
「思ってる。少なくとも今は」
「彼女を傷つけることになるかも知れないぜ?」
「それでも、俺は弥白を見捨てることは出来ないんだ」
一瞬の迷いも無く、稚空は答えました。
その目は真っ直ぐアクセスを見つめ、些かの迷いもありません。
「そう言うと思った」
アクセスは、稚空に笑みを見せました。
「じゃあ、後は宜しくな」
「ああ。ゆっくり休んでくれ」
肯くとアクセスは、桃栗町の方へ向けて飛び去って行きました。
飛び去った後の空を見ながら稚空は自分の一番愛しい人の事を思い出しました。
愛が判らないと言った彼女。
信じても良いんだよねと聞いた彼女。
稚空だけで無く、色々な人からの愛を知り、受け入れた彼女。
そんな彼女なら、今の自分の事を理解してくれるはず。
「彼女なら…許してくれるよな」
勝手な思い込みかも知れないのは判っていました。
それでもなお、稚空は今はそう信じる他は無かったのでした。
***
「う…ん…」
長い長い眠りから目覚めると、そこは寝台の上でした。
何だか身体がだるく、頭がぼうっとしています。
それでも段々と頭が冴えて来る内に、急に眠りにつく前の出来事を思い出し、
跳ね起きました。
「え…?」
弥白は、いつの間にか寝間着として使っている白いネグリジェを着ていました。
弥白は手首を見てみました。
あの出来事が嘘のように、傷一つついてはいませんでした。
「夢…でしたの?」
自らの身体を傷つけたのは、その痛みと共に覚えています。
そして、自分を助けに来てくれた人の事も。
弥白は、寝台から降りようとして、そこに人がいる事に気付きました。
既に外は夜で星明かりで僅かに照らされた寝室に置かれた椅子に、その人は腰
掛け眠っているのでした。
「稚空…さん?」
その人の名前を呼びましたが、ぐっすり寝ているのか返事は寝息ばかり。
ため息をつく弥白でしたが、やがて稚空の為に毛布を一枚持って来て、かけて
やりました。
「夢じゃ無かったんですのね」
そう言うと、弥白は稚空の頬にキスをして、それから稚空の膝に自分の頭を預
けました。
そうしてからかけた毛布を自分の上にもかけ、暫くそのままの状態でいる内に、
何時しか再び眠りへと落ちていくのでした。
●オルレアン ミストの隠れ家
「成る程ね。ノインのやりたい事が漸く判った気がするわ」
ミストは、たった今まで映像を映し出していたキャンディーを口の中に放り込
みました。
そうしてから、キャンディーボックスの中を覗き込み、ため息を一つ。
暫く何か思案している様子でしたが、やがて思い出したように言いました。
「そうね。『お嬢様』が『契約』の事を気にしてくれているのなら、こっちも
『契約』を守らないといけないかしら。考えてみれば彼女の『願い』は未だ果た
されていない訳だし。ねぇ、あなたもそう思わない? アキコ」
そう呼びかけましたが、いつの間にかアキコは黒い塊と一緒にどこかに消えて
しまっていたのでした。
(第107話 完)
弥白様の2/6(日)済です。
またまたとんでも無い話にしてしまったような…。
#ちなみに弥白の部屋の浴室の構造はどうしようか悩みました。
#最初に檜風呂を出した時はこぢんまりとしたものを想像していたのですが、以
#前の記事での佐々木さんの妄想に従って大きくしてみました
#やはり、窓は透明の方が良かったでしょうか(笑)。
●次々回予告編
絶望の闇の深淵。
そこで彼女を救った一本の糸
その糸は赤く、そして細かった。
それを頼りに這い上がろうとする彼女。
だが彼女は知っているだろうか。
その糸を操る者がいることを。
#あくまでも「予定」なのでその時の気分で変更の可能性あり(笑)
では、また。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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