From: hidero@po.iijnet.or.jp
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 23 Feb 2001 16:10:16 +0900
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佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。
これは神風怪盗ジャンヌのアニメ版に触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、この手の代物がお好きな方のみ以下をどうぞ。
妄想100話突破記念&冬だからスペシャルの最終回です。
# 第1、2章<94a13v$akm@infonex.infonex.co.jp>、
# 第3章<94gv95$li5@infonex.infonex.co.jp>
# 第4章<94qqnh$59b@infonex.infonex.co.jp>
# 第5章<9535kq$jfn@infonex.infonex.co.jp>
# 第6章<95da1p$989@infonex.infonex.co.jp>
# 第7章<95ln87$nav@infonex.infonex.co.jp>
# 第8章<9608e2$e5f@infonex.infonex.co.jp>
# 第9章<96at6b$2qb@infonex.infonex.co.jp>
# 第10章<96ii2l$hjf@infonex.infonex.co.jp>
# 第11章<96qigd$2c0@infonex.infonex.co.jp>の続きですので宜しく。
# では、始めます。
★神風・愛の劇場 冬のスペシャル版 『火炎回廊』
●第12章・眠り
目を開けると真っ暗でした。ぼんやりした頭で何がどうしたのか考えようと
しましたが、よく思い出せませんでした。顔を横に向けると、開いた窓から
月明りが射し込んでいて、今が夜で、此が何処かの部屋だという事だけは
判りました。顔を反対側に向けると、自分の腕の辺りにまろんの寝顔が見えます。
無性に喉が乾いていて、何か飲みたいと思いました。しかし身体を起こそうとしても
腕が辛うじて上がるだけで自分では起き上がる事が出来ず、もそもそと寝台が
揺れるだけでした。やがて諦めようと思った頃、ふいに呼びかけられました。
「都、起きた?」
まろんが顔を覗き込んでいました。
「気分は?」
「…最悪」
「何か欲しい物ある?」
「水…頂戴」
「喉が乾いたのね」
他にどんな理由があるんじゃボケ…と悪態をつきたい所ですが、今はその気力が
ありませんでした。黙って寝台の脇でカップを用意している様子を見詰めます。
まろんは枕の下に足下から拾い上げた荷物を突っ込んで、都の身体を起こすと
カップを渡しました。ぐいっとあおって喉に流し込みましたが、思わぬ苦味が
口に拡がり半分ほどを吐き出してしまいました。
「あぁん、もう、濡らしちゃって」
「何よ…これ…は」
「身体の中に残った毒を出す為のお薬だって」
「…毒って…何よ」
まろんが何やら耳元で長々と説明を始めましたが、途中から自分で思いだそうとして
考えに耽ってしまい、ろくに話を聞いてはいませんでした。それでも耳に飛び込んで
くる話の断片と記憶を繋ぎ合わせて大体の経緯を理解しました。
「世話になった…みたいね」
「いいのよ、そんな事」
「…あんたに…言ってる訳じゃないわよ」
「あ、そう…」
都はカップに入っていた残りの液体を飲み乾すと、まろんに渡します。
まろんは受け取ったカップを置くと枕の下の荷物をどけて、都を再び寝かせました。
「あんたも寝な」
「寝るよ、ここで」
「暑苦しいっての」
都は必死に寝返りをうってまろんに背中を向けようとしましたが、結局出来ずに
顔だけ横に向けて目を閉じました。
「いいじゃん、たまには」
耳元で聞こえたまろんの声には返事をせずに、都は再び眠りに落ちて行きました。
*
翌朝、目覚めた都は汗びっしょりの服を半ば強引に脱がされて風呂に放り込まれ
ました。まろんがついてきて背中を流すと言ったのですが、都はまろんを追い出して
一人で身体を綺麗に流しました。風呂から出ると自分の荷物から勝手に引っ張り
出されたらしい着替えが置いてあります。その服を着て話し声のする部屋へ向かい
ます。扉を開けると他の四人は朝食を前にして椅子に座っていました。
「早く座ってよ、待ちくたびれた」
「別に待ってなくていいのよ」
「そりゃないだろう」
「まぁ、いいじゃないですか」
都は空いている椅子に座ると、テーブルに視線を落としました。その時には
もう皆は食事を始めています。パンを一個食べ終えてから、まろんが言いました。
「食べないの?」
「まだ食欲が出ませんか?」
と聞いたのは大和。都はひと呼吸置いてから小さな声で言いました。
「みんな、有難うね」
まろんと稚空、それに大和の手が止まりました。
ツグミは黙々とスープを口に運んでいます。
「今、何か言ったか?」
「何て仰有いました?」
「都?」
都はジロりと三人を睨んで言いました。
「何も言ってないわよ」
そして籠からパンを二個両手で掴み取ると、交互に口に運んで食べ始めました。
*
そこはロクアトと隣りの都市を結ぶ街道から、砂漠へと続く脇道へ逸れて間もない
村の農家の離れでした。農家と言っても土地持ちの地主で、離れは下手な宿よりも
立派な物でした。前日に収穫した産物を馬でロクアトに運ぶという条件で、一夜の
宿と馬を借りる約束をしたのでした。弥白姫の許を逃げ出して来た手前、
稚空が使いに行く訳にもいかず、馬に乗れない大和は論外でした。
賞金首を連れていって賞金を受け取れるのは賞金稼ぎの資格を持っている都だけ。
街に用があると言うツグミが同行しました。まろんも行くと駄々をこねたのですが、
三頭の馬の内二頭には目一杯の荷物と縛り上げた男が一人。
残りの一頭に三人乗るのは無理だったのです。
*
旅の仕度を終えて所在無げに待っていた三人の許にツグミが帰ってきたのは
昼下がりの事でした。ツグミは先に農家の母家へ顔を出し、使いで得てきた
代金を渡し三頭の馬も返して、一夜の宿の礼を済ませてから戻ったと言いました。
「街道に出て待ちませんか?」
ツグミの提案に誰も異論は無く、四人は街道の辻まで行き、草むらに腰を下ろして
道行く人々や荷馬車を眺めながら時間を潰しました。
その間、まろんは何度かツグミの方を覗き見る様な仕草をします。
同じようにツグミは稚空を何度か見ていたので、結果としてまろんはツグミが
稚空を見ている事に気付きました。何か面白くないまろん。
黙ってはいられない情況でした。
「ツグミさん」
「はい?」
「何で稚空を見てるのっ!?」
「俺?」
「実は、ちょっとお話が」
「何だよ遠慮するな」
「何?何?何なの?」
ツグミは暫く考えてから言いました。
「私が言えた義理では無い事なのですが」
「ん?」
「弥白姫様の事で」
「ああ、借りはいずれ返す」
「簡単な事だと思うのですが」
「どういう意味だ?」
「旅先から手紙の一つも出して差し上げたら良いのではないでしょうか」
「手紙を出せって?」
「ええ。弥白姫様はそれで満足されるでしょう。金銭を返される事など
期待しては居ないと思うのですが」
「…」
「御免なさい。やはり差し出口でしたね」
「いや、いいんだ。多分、その通りだろうから」
まろんもきっとツグミの言う通りだろうとは思います。しかし、気付いていても
それはまろんには言えない事。でも、何故言えないのだろう。まろんはツグミの
横顔を見詰めながら考えるのでした。するとツグミがくるりとまろんの顔の方を
向いて言いました。
「怒りました?」
「えっ?何で?」
「判らないならいいんです」
ツグミはそう言って笑いました。それから急に何かを思い出した様子で。
「そうそう。忘れていました」
そう言って一通の手紙を取り出しました。
「これ、賞金稼ぎさんから預っていたのでした。皆さんへって」
大和が手紙を受け取って声に出して読み始めました。
"世話になったわね。じゃぁまた何処かで"
「だ、そうです…」
「何よ、それ…」
「お別れという意味ですかね、多分」
「ちょっと待て、賞金の分け前は!」
「さぁ、僕に言われましても」
「ツグミ、何か他に預って無いのか?」
「いいえ。何も」
「何もって、あの賞金首を捕まえたのはツグミだろう?」
「私はちょっと用があったので足止めしただけですから」
「おぃおぃ…」
まろんが呟きました。
「また、置いて行かれちゃったね」
「行くぞ、まろん、大和、ツグミ」
稚空は一人で立ち上がって、今にも走り出しそうな剣幕です。
まるで動き出す気配の無いまろんが言いました。
「何処へ?」
「追うに決まっているだろう。ツグミ、都がどっちに行ったか判るか?」
「街中で別れましたので、さっぱり…」
「いいじゃん別に」
「何ぃ?」
「のんびり行こう。また会えるよ、すぐに」
「どうしたまろん?いやに淡泊だな」
「今回、私は分け前とか関係無いし。お宝もあるし」
「お前なぁ…」
稚空はまろんの背中の剣を見下ろして言いました。
「そうだ、それだ。売り飛ばして遊んで暮らすんだろう?少しは分け前よこせ」
まろんは背中の剣を手に持つとじっと見詰めました。それから顔を上げ、
ツグミに聞きます。
「あのね、ツグミさん」
「何ですか?」
「この剣…」
「ええ」
「暫く私が持っていちゃ駄目かな…」
まろんは鞘に納まったままの剣を頭上に掲げました。今度はツグミが尋ねます。
「気にいりましたか?」
「うん」
「どんな所がでしょう?」
「とっても軽くて、自分の手の一部みたいなの、それに」
「ん?」
「…よく判らないや」
掲げていた剣を下ろして膝の上に置いたまろん。ツグミは剣の柄の模様にふと
目を留めました。
「また、ちょっと貸して頂けますか?」
「うん」
明るい陽射しの下で剣の柄の模様を再度確かめるツグミ。
微かに頷くとまろんに剣を返し、微笑みを浮かべて言いました。
「では好きなだけ持っていればいいでしょう」
「え?いいの?」
「いいも何も、それはもう剣士さんの物ですから。私は譲って頂けるのを待つだけ」
「有難う!」
まろんはツグミに抱き付いて押し倒してしまいました。
稚空が食い下がります。
「おい、それじゃ遊んで暮らす話は?」
ツグミが応えました。
「ご破算という事になりましたね」
暫く唸っていた稚空が声を上げます。
「やっぱり都を追うぞ!」
「はいはい」
今度はまろんもおっとり立ち上がりました。大和とツグミも後に続きます。
そしてまろんが聞きました。
「で、どっちへ行くの?」
「取りあえず俺達の前を都は通らなかった。あっちだ」
「でもロクアトへ行くのはマズいんでしょ?」
「脇道から迂回して行く」
「ますます遅れるね」
「うるさい!出発だ!」
先に歩き出した稚空を追うまろん、そして大和にツグミ。
歩きながら大和がツグミに尋ねます。
「先程、柄の模様を見て何か気付かれた様子でしたが」
「ああ、あれですか」
「何か新しい発見でも?」
「賢者さんは銘と仰有ったけれど、ちょっと違う様ですね」
「と言いますと?」
「文字が変化している様子なんですよ」
「書いてある文字が変わったんですか?」
「そう見えます。もしかしたら光線の加減かも知れませんけれど」
「今は何と?」
「"粗暴"とか何とか…」
大和が小声で言います。
「それって、剣の置かれている情況を現している様な気が…」
「やはりそう思われますか」
大和とツグミは立ち止まって顔を見合わせ、それから二人で大声で笑いました。
その声を聞き付けて稚空とまろんが振り向いて叫びます。
「何笑ってるの〜、早く〜」
「置いて行くぞ!」
「は〜い」
「待って下さ〜い」
ツグミは歩き出しながら大和に言いました。
「内証にした方がいいでしょうね、この事」
「ええ、そうしましょう」
再び控えめに笑い合う二人。稚空とまろんは追い付いた二人を訝しげに
見詰めましたが、すぐに次の目的地を何処にしようかという話題に花が咲きます。
こうして四人は、またまた当ての無い旅へと出発したのでした。
(『火炎回廊』・完)
●桃栗町郊外
黙って話を聞いていたまろんはツグミの声が止んで暫くしてから目を開けました。
ツグミが聞きます。
「どう?」
「凄い凄い。ちゃんと続編になってるよ」
「そう。良かった」
「でも、長編だね」
「ええ、暇は売るほどあるから」
「でもね、ちょっと判らない事があるんだけど」
「何かしら?」
「遺跡から脱出する時にね」
「ええ」
「話の中のツグミさんは、どうやって私達を追い抜いたの?」
「……判らなかった?」
「うん。全然」
「…そう…」
「ねぇ、どうやったのぉ?」
「教えない」
「え〜、どうして何で何でなの〜」
「そういう事を作者が喋っちゃ駄目でしょ」
「気になるよぅ〜」
「教えないったら教えない」
「けち〜」
どうやら自分には物語を作る才能が無いようだと、
ツグミはしみじみ感じていました。
(終り)
# 仕掛けが残っている様に見えるのは気の所為です。(多分 ^^;)
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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