神風・愛の劇場スレッド 冬のスペシャル版 『火炎回廊』 第10章(2/17付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 16 Feb 2001 15:41:25 +0900
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佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

これは神風怪盗ジャンヌのアニメ版に触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、この手の代物がお好きな方のみ以下をどうぞ。


妄想100話突破記念&冬だからスペシャル9本目です。
# 第1、2章<94a13v$akm@infonex.infonex.co.jp>、
# 第3章<94gv95$li5@infonex.infonex.co.jp>
# 第4章<94qqnh$59b@infonex.infonex.co.jp>
# 第5章<9535kq$jfn@infonex.infonex.co.jp>
# 第6章<95da1p$989@infonex.infonex.co.jp>
# 第7章<95ln87$nav@infonex.infonex.co.jp>
# 第8章<9608e2$e5f@infonex.infonex.co.jp>
# 第9章<96at6b$2qb@infonex.infonex.co.jp>の続きですので宜しく。

## 本編も再開してます。そちらもよろしく。

# では、始めます。

★神風・愛の劇場 冬のスペシャル版 『火炎回廊』

●第10章・砂の罠

遺跡を見下ろす砂丘を行く一人の男。注意深く、しかし速やかに歩を進めます。
来たときに辿った様に、砂に残された足跡の上を踏んで歩きます。
結界の中でしたから風で砂が動くことなど無く、付けられた足跡は鮮明に
残されていました。やがて結界の前まで来ると、闇雲に手探りをして
隙間を探し当てます。そっと手を差し入れて広げると、本当の砂漠の景色と
一緒に熱い風が舞い込んで来ました。砂漠の午後の風が。
結界を潜り抜けると、そこで初めて男は安堵の溜息を漏らしました。

「これで一安心だ…」

呟きの言葉は途中で途切れて、その後に声にならない喘ぎが続きます。
誰もいない事を慎重に確かめて出たはずの外の世界。しかし今は間違いなく
背後に人の気配を感じました。中から出てきた訳ではありません。
結界の切れ目とは随分と離れた所から、まるで湧き出す様に現れた気配です。
額に浮かんだ汗が流れ落ちても、男は身動き一つせずに気配だけを伺いました。
顔を向けることもせず。実は向けたくても既に身体は動かせなくなって
いたのですが。それでも何とか声を振り絞ると詰問しました。

「誰だ!」

答えは無く、代わりに砂を踏む足音が近づいて来ました。男の斜め後ろから。
男はぎょろぎょろと目だけを動かして相手の姿を見定めようとしますが、
相手は視界ぎりぎりの所に居るらしく、何者なのかは判りません。
やがて砂漠に落ちた影が男の足下にまで届くと、漸くそれが誰なのか想像が
つきました。

「お前、何時の間に先に」

男の問いに答えは無く、代わりに静かな言葉が発せられます。

「やはりあなたが最初に戻って来ましたね」
「待っていた様な口振りだな」
「ええ。待っていました。あなたが独りになるのを」
「光栄だね、女に待たれるとは」
「不運かも知れませんよ」
「そうでも無さそうだが?」

男は下品な語尾の上げ方をしましたが、相手は動じません。

「教えてください。あなたが使った思惟人形の術、誰に方法を聞きましたか?」
「うん?ああ、お前らはそういう呼び方をするのか」
「何時、誰から聞いたのです?」
「聞いてどうするよ?」
「あなたには関係ありません」
「じゃ、言わねぇ」
「では仕方ありませんね」

砂を踏む音が再び聞こえて気配が遠ざかって行きます。

「ちょっと待て」
「言う気になってくれましたか?」
「術を解け」
「質問に答えてくれたら自由にします」
「先ず俺を自由にしろ」
「条件を出せる立場だと思います?」
「"交渉決裂"ってやつだな」

踵を返す気配。

「おい!」
「何です?」
「俺をこのままにして行く気か!」
「ええ、そうですけれど」
「お前ら、術で人を殺すのは禁じられているはずだぞ」
「それが?」
「掟を破るって言うのか」
「別に私の術で殺す訳ではありませんから」
「何言っていやがる?」
「そのまま、そこで骸になるまで立っていなさい」
「ふざけんな!」

更に遠ざかる気配。どうやら本気で放って行く気らしいと悟ります。
男はびっしょりと汗をかき、それでも必死に考えを巡らせて説得の余地を
探りました。しかし駆け引きの材料は男の方には見当たりません。

「待て、判った」

止まる足音。

「何が判ったのです?」
「話す。話すから待て」

砂が擦れ、地に届く程の長さの着衣の裾が振り向く音がしました。

「俺に術を教えてくれたのはな、以前住んでいた村の魔術士の爺さんだ」
「魔術士なら誰でも知っているという様な術ではありませんが」
「あんたの同業だったらしいぜ。本人の弁だが」
「その魔術士の方は今何処に?」
「墓の下だ」
「確かですか?」
「ああ、俺が葬式を出したからな。一応弟子みたいなもんだったから」
「他にあなたの様に術を習った人はいますか?」
「居ないはずだ」
「安心しました」

再び足音が遠ざかって行きます。

「おいっ!」
「何です?もう用は済みましたが」
「あ、あんた、さっき自由にするって言ったよな」
「ええ。話を聞いたら自由にするつもりでした」
「なら自由にしてくれ、もうあんた達にはちょっかいは出さ無ぇからよ!」
「もちろん自由にしますとも」
「そうか」

男は自分の溜息とほとんど同時に別の音を聞きました。足下に何かが放り
投げられた音だと気付くのに時間はかかりません。それを確かめようと下を向こうと
しましたが、首はまるで動きませんでした。

「おいっ!身体が動かねぇぞ!」
「当然ですよ。呪縛ですから」
「自由にするって言ったろう!」
「あなたを自由にするなんて言ってませんけど」
「汚ねぇぞ!」
「ずっと裏道を歩いてきたくせに。何を今更」
「お…」

男は自分の足下の感覚がおかしい事に気付きました。身体がよろめきましたが、
視野が傾いただけで倒れはしません。段々と自分の視点が下がった事がはっきりして
くると、どうやら身体が砂に沈んでいるのだと思い当たりました。

「救けてくれ!」

返事はありません。男は何とか説得しようと考えに考え、そしてある事を
思い出します。

「俺を殺すとあの女が助からないぞ!」
「誰が?助からないですって?」
「あんたの連れだ、俺が吹き矢で倒した」

暫くの沈黙。

「彼女は死にました」
「なっ…」
「私の友人に酷い事をして。許せない」
「おい、お前まさか最初から…」
「ですからあなたを救ける理由は無いのです」

冷徹な相手の声には迷いが感じられません。
真っ白になる思考。ですが一つの光明が射しました。

「騙されないぜ、ハッタリだ」
「何がでしょう?」
「まだあの女は生きているはずだ」
「見苦しいですよ」
「スコリアの汁でそんなに早く死ぬ訳が無ぇ」
「…そう…あれを使ったのね」

微かに息が漏れる音。それは微笑みを洩らした時の物だと男は気付きました。

「やっぱり引っかけやがったな」
「だから?」
「これで用は済んだんだろう、だから早く」

男は言いながら必死にもがきます。もがいている内に再び身体がよろめき、
今度は前のめりになってしまいました。その所為で自分の足下に拡がる砂が
見えたのです。鉄錆の様な赤い砂が。

「何で呪いの砂が外に在るんだ!」
「私が持ってきたから」
「どうやって?!」

男は返事の代わりに再び含み笑いを聞いた気がしましたが、もはや確かめる事は
出来ませんでした。その気力もありませんでしたが。両手が砂に触れ始めた頃には
意識も朦朧としており、これが死ぬという事かと漠然と考えるのがやっと。
最後には男の顔には笑顔すら浮かんでいました。もっとも、単に顔の筋肉が
弛緩しただけだったのかもしれませんが。
そして男の意識は完全な闇の底へ沈みきってしまうのでした。

(続く)

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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