神風・愛の劇場スレッド 冬のスペシャル版 『火炎回廊』 第4章(1/26付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 26 Jan 2001 12:25:37 +0900
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佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

これは神風怪盗ジャンヌのアニメに触発されて書き連ねられている
妄想小説のスレッドですので、お好きな方のみ以下をどうぞ。



妄想100話突破記念&冬だからスペシャル3本目です。
# 第1、2章 <94a13v$akm@infonex.infonex.co.jp>、
# 第3章 <94gv95$li5@infonex.infonex.co.jp>の続きですので宜しく。

# では、始めます。

★神風・愛の劇場 冬のスペシャル版 『火炎回廊』

●第4章・二流剣士

ロクアトの郊外、街道から逸れて最後の農村を後にして半日の所で、
砂防の為に植えられている針の木の林が途切れました。
まだ高い陽射しを受けた砂の海が陽炎の向こうで波打っています。

「全然見えないね、遺跡」
「砂漠をさらに半日と少しくらい渡った先のはずですよ」
「昼間は止めたほうが良さそうですね」

大和の意見はもっともでしたから、三人は林の中で日暮れを待つ事にしました。
思い思いの場所に腰を下ろして休息します。
暫くしてから、まろんはツグミの腰掛けている木の傍に来て言いました。

「ねぇねぇ、ツグミさん」
「……はい?」
「あ、御免。寝てたのね」
「構いません。それで何か?」
「あのね、その外套なんだけど暑く無い?」
「ええ」
「何か秘密付き?」
「拮抗繊維なんですよ」
「けっこうな繊維…」
「外部からの凡ゆる変動に対して反発するって事ですね。
 つまり暑い所では涼しく、寒い所では暖かいという」
「へぇ〜、羨ましい〜」
「入ってみます?」
「うん!」

ツグミが外套の前を開いてまろんに言うと、まろんは隣りに坐ります。
まろんの肩に外套を持ったままのツグミの手が廻され、そのまま
抱き寄せました。まるで身を寄せ合って暖を取っている様に見えますが。

「あ、本当に涼しい!」
「でしょう」
「それにいい匂いがするね」
「香を薫き込んだ物だからかしら」
「なんだか気持ち良くて眠ってしまいそう」
「ではこのまま夜まで休んで下さい。一晩歩き徹しでしょうから」
「本当?有難う」

その様子を見ていた大和は、大きな溜息をついてから目をつぶりました。



どの位の時間が経ったのか、陽が傾き出した頃の事です。
まろんはツグミがそっと身体を離した所為で目を覚ましました。

「…どうしたの…」
「人の気配がします。大勢…」
「えっ!」

咄嗟にまろんは立ち上がると自分の荷物の所へ駆け寄り剣を取りました。
その時、一瞬だけツグミの外套が下に落ちて彼女の身体から離れたのですが。

「ぁ」

物音に気付いたまろんが振り向くと、ツグミが木の根元に倒れています。
まろんはすぐにツグミを抱き起こすと叫びました。

「ツグミさん!」

その首筋に細く短い矢が刺さっているのに気が付くと、まろんは声を失います。
最初のまろんの声に飛び起きた大和もやってきて、その矢を引き抜きます。
それから青い顔をしているまろんの肩を少し強く揺すって言いました。

「しっかりして下さい!魔術士さんは眠らされただけです!」
「えっっ?」
「良く見てください、吹き矢ですよ。脈も普通ですし毒矢じゃないです」
「良かったぁ」
「良くないです。敵が近く…」

その時になって初めて、まろんはツグミの言ったことを思い出していました。
もっとも既にそこら中の草むらから足音が聞こえていて、思い出さなくても
情況は明白でしたが。
やがて姿を見せたのは誰が見ても盗賊にしか見えない集団でした。

「はいはい、お嬢さんがた〜っ、大人しくしな」

まろんの正面に立った男が言うと、その隣りの男が付け足します。

「取りあえずこっちは十人ばかし居るんで、そのつもりで」

ツグミを大和に任せると、まろんは立ち上がって言いました。

「これ、あんた達の仕業ね!」

そう言ってツグミの首に刺さっていた矢を投げ付けます。

「そっちのお嬢さん、術士だろ。厄介だし、暴れられて怪我されても困る」
「何の用なの!言っておくけど、私達貧乏よ!」

そんな事を声高に言わなくてもなぁと大和は聞きながら思っていました。
盗賊達の何人かは嗤って聞いていましたが、最初に声を掛けてきた男は
表情を崩しはしたものの、声の調子は変わりません。

「お金には用は無いんだよなぁ。用があるのはその魔術士さ」
「ツグミさんに用?」
「あんたら伝説の遺跡へ行くんだろ?」
「…何の事?」
「いいって、惚けなくても。手下があんたらの話を宿で聞いてね」
「盗み聞きなんてセコい」
「情報が大事だから、今の世の中は」
「お宝目当てなら勝手に行けばいいでしょ!」
「道案内して貰おうかと思ってるのよ、その魔術士に」
「冗談じゃないわ」
「大人しくしてくれれば、あんたにも楽しい事してやるぜ」

他の盗賊達が一斉に嗤った瞬間に、まろんは剣を抜いて走り出していました。

「交渉決裂!」

まろんが行動を起こすのが彼等の思っていたよりも早かったのでした。
右手方向に居た一番近い数人へ向けて振るった最初の一閃は、二人の盗賊が
構えていた剣を手首と一緒に空高く跳ね飛ばし、三人目の肩に
食い込んで止まりました。構わずそれを引き抜くと返す勢いのまま四人目に
叩きつけます。兜代わりに被っていたらしい獅子の頭蓋骨と盗賊の頭蓋骨が
一緒に砕けました。腕や肩を押さえて転げ回っている三人が最早戦えない事を
横目で確認しつつ、まろんは即座に大和とツグミの傍に戻って剣を構え直します。
最初に声を掛けた男の顔が引き締まり、声も低くなりました。

「この女、出来るぞ。本気だせ、野郎共!」

倒された四人の穴を埋めるように後ろと左手方向の盗賊達が拡がり
まろんの周りを囲みます。そして距離を少しづつ詰めて来るのでした。
首領格と思われる正面の男だけが剣を抜いていませんでしたが、
まろんには彼から目を離さない方が良い様に思えてならなかったので、
他の連中の気配を背中に感じつつも身動きしません。やがて。

「おおぅっ!」

半円状に囲んでいた盗賊達が一斉にまろんに向かってきました。
まろんは大和とツグミから敵を引き離す為にわざと彼等の中へと飛び込みます。
最初に左右から襲ってきた二本の剣の突きの一本は剣で払い、もう一本は
身体をひねってかわします。続いて振り下ろされた剣を、鞘で受け止めて
相手の腹に剣をひと突き。その身体を蹴り倒す事で剣を抜き去ると、自分の
身体をそのままの位置で回転させて剣を水平に振るいます。
最初の突きを入れてきた男の内の一人と間近に迫っていた別な男の首が宙に
舞い上がり、鮮血がその後を追って噴き出しました。

「そこまでだ」

盗賊達とまろんの双方の動きが止まります。
見ると首領格の男の足の下には大和が踏み付けられていて身動き一つせず、
隣りに倒れているツグミの首筋には男の剣の先が触れていました。

「っ!」
「今度こそ大人しくして欲しいものだ」
「……判ったから、その剣をどけて」
「そっちが捨てるのが先だよ」

まろんが離した剣が地面に浅く刺さってから、ゆっくりと倒れます。
生き残った盗賊達がはやしたてます。

「お姉ちゃ〜ん、楽に死ねると思わないよなぁ」

下品な嗤いが沸き起こり、まろんは眩暈を必死に堪えて姿勢を保ちました。
二人の男が剣を鞘に収めてから、まろんの両脇に経ち両手を押さえます。

「それでは一緒に…」

首領格の男の声がふいに途切れるとともに、身体が前のめりに倒れました。
倒れた男の後頭部から一本の長い鋼の棒が生えていました。羽根の付いた矢が。
そして風を切る音がまろんの耳に届くと、左右に居た男達が相次いでのけ反り
同じように額から矢を生やした姿て倒れます。
それを見た盗賊の残りは怪我だけで済んだ仲間を引きずりながら、
慌てて林の奥へと逃げ去っていったのでした。
まろんはすぐさま自分の剣を拾い上げて、鋼の矢が飛んで来たと思える方向に
身構えて注意を集中しましたが、今度は矢の代わりに声が飛んで来ました。

「まろん、やっぱりあんたは一人じゃ駄目ね」

声の主が林の奥の少しだけ大きめの木の陰から現れると、まろんは剣を下ろして
走り寄りました。

「都〜」

そして抱き付こうとしたのですが、都が身をかわしたので転んで草むらの中に。

「汚い格好で擦り寄って来るな」
「酷いなぁ、もう」

まろんはそう言いながらも、自分の姿を見て都の言う通りだと思いました。
それで抱き付くのは諦め、傍に行くだけにします。

「相変わらず雑でへぼい剣術だわ」
「放っといてよ」
「下手だから血塗れになるのよ」
「仕方ないじゃん」
「それに、血糊で剣の切れ味が落ちる事も考えな」
「…」

都はそう言いながらも、手早く水筒の水で濡らした布を用意してまろんに
渡します。まろんはそれで顔や手を拭いながら言いました。

「有難う。助かったよ」
「最初はね、あんたが裸にされるまで見ていようかと思ったんだけど」
「鬼っ!」
「お供が一人少ないわね」
「それがね…」

まろんは都に街での出来事を話して聞かせました。

「それであんたが身請け金を払うって訳?」
「それだけじゃ無いよ」
「じゃ何さ?」
「だってね、珍しく誰も手を付けてないお宝だよ。
 借金返しても残りの人生遊んで暮らせそうじゃない?」

まろんの目が輝いているのを見て、都は本気で言っているのだと理解します。
そして呆れたという仕草をしてから、持っていた機械弓の安全掛け金を戻して
腰に提げました。
まろんはそれをぼんやり見ていましたが、急に大事なことを思い出して踵を
返します。先ず真っ先にツグミを抱き起こして、そっと揺すりました。

「ツグミさん、ねぇ、起きて」

それを見ていた都が傍にやって来て言います。

「暫く放っておきなよ。自然に目を覚まさせないと身体に悪いから」
「うん。判った」

ツグミを柔らかそうな草の上に寝かせてから、倒れたままの大和の背中を
剣で突っついて声を掛けます。

「お〜い、死んでる?」
「…すいません、まだ生きてます」
「あっそ」「何だ」

大和は自分で起き上がると縋るような目で二人を見ました。

「酷いです」
「何で?」
「少しぐらい心配してくれても…」
「だって元気そうじゃん」
「しかし」
「それにツグミさんを守ってくれないしぃ」
「…」

黙ってしまった大和に都が助け船を出しました。

「仕方無いでしょ、戦士じゃ無いんだし」

余り慰めにはなってないなぁと思いつつ、大和は何も言いませんでした。
そして突然、都の方を振り返ると大声を上げるまろん。

「都っ!、この前の賞金の分け前頂戴!」

都はニヤリと笑って言います。

「今、救けてやった分でちゃらよ、ちゃら」
「ちぇっ…」

大和が都に聞きました。

「でも、どうして此へ?」
「ああ、私の獲物はこいつ…」

都はそう言いながら、盗賊の首領格の男の亡骸を蹴飛ばしました。しかし。

「糞っ!やられたわ」
「どうしたの?」

まろんと大和が都の足下を見ると、男の亡骸が茶色になって見る見る崩れ、
やがて土に環って行きました。

「気持ち悪ぅ〜い。何これ」
「魔道人形でしょ、あの野郎も魔術士だったの忘れてたわ」
「そいつ賞金首?」
「まぁね。半年遊んで暮らせるくらいの首よ」
「何だか僕らの魔術士さんに用があったみたいでしたが」
「そういえば…」
「そうだったの?」
「道案内とか言ってたっけ?」
「同じ魔術士なら自分で判るんじゃない?」

いつのまにか起き上がっていたツグミが応えました。

「判っても入れないんですよ」

三人が一斉に振り向き、まろんはすかさず傍に行ってツグミの身体を支えました。

「大丈夫?」
「ええ、すぐに戻りますから」
「でも…」

都が言います。

「魔術士ってのは職業柄慣れてるはずだよね?ああいう薬の類」
「ええ、まぁ」

まろんが顔を覗き込むと、ツグミが言いました。

「だから普通の方々よりは早く醒めますよ」
「そうなんだ。取りあえず良かった」
「有難う」

急かすように都が聞きました。

「それでさっきの話だけど」
「そうでしたね。太陽神殿に限らず、結界という物は魔術士ならば
 見えるのですが、それを仕掛ける時に使った術を知らないと開かないんです」
「つまりは開ける事が出来るのは法皇庁の者だけって事ね」
「はい」
「で?どうするのさ」

急に話を振られて、まろんは答に窮してしまいました。

「え、何?」
「日没だって言ってんのよ。出発するの?止めるの?」
「勿論行く、けど…」

再び顔を覗き込んできたまろんにツグミは頷いて言いました。

「大丈夫ですよ。私は」

まろんはツグミの事をしばらく伺いましたが、特に普段と変わった様子も
ありませんでしたので彼女の言葉を信じる事にしました。そして。

「よし、出発!」

まろん達はこうして沈む夕陽を追う様に砂漠へと足を踏み入れたのでした。

(続く)

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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