神風・愛の劇場スレッド 第70話『白と黒』(後編)(8/31付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 31 Aug 2000 18:18:02 +0900
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佐々木@横浜市在住です。

これは神風怪盗ジャンヌの妄想スレッドですので
この手の代物に拒否反応の無い方のみ以下をどうぞ。
またこれは第70話・後編です。
先に前編<8ol7ph$1cs@infonex.infonex.co.jp>からお読みください。



★神風・愛の劇場 第70話 『白と黒』(後編)

●桃栗公園近くの路上

紙袋を抱えたまろんが道を急いでいました。昨日の事を考えながら。
熱意にほだされて承諾したとはいえ、死んだお嬢さんの
代役というのは何となく気がすすまない事ではありました。
何よりもそれは三枝自身にとって良くない事の様な気がするのです。
誰かに相談しようかと思いました。稚空なら。

「嫌ならやめておけ」

相談しなくても答は判ります。都なら。

「ボランティアだと思ってやってあげなよ」

きっとこんな感じの事を言うでしょう。
そこでもう一人に聞いてみる事にしたのですが、
折角出向くなら何か買っていこうと考えたのが大失敗。
今度は何を買っていこうか散々悩んでしまい、今はもう夕方。
既に太陽は低く傾き、気の早い街灯が薄く灯り始めています。
駆け足で先を急いでいるのですが、着く前に暗くなってしまう事は
覚悟しなければならないでしょう。でも、せめて公園だけは
明るいうちに通り過ぎてしまいたかったのです。

「ん?」

プティクレアが鳴ったような気がして、ふと足を止めます。
しかし、確認する余裕はありませんでした。

ふっ

薄暗い茂みを割って白いリボンが眼前を横切ったかと思う間もなく
それは折り返して、まろんの首にするすると巻き付きました。
そして間髪入れずに信じられないほどの力で引っ張られます。

「ぐっ…」

バランスを崩すのと息が止まるのは殆ど同時でした。
食い込んだリボンに指を挿し挟んで解こうともがきますが
そんな事とは、お構いなしに身体はどんどん引きずられました。
朦朧とする意識の中で、何かが身体の上に乗ってきた事までは
判りましたが、それに向かって伸ばした自分の手が、
その時最後に視界に入った物でした。


●桃栗公園

仰向けで気を失っているまろんの身体から足を降ろして
弥白はその上に馬乗りになるとリボンの上から両手を
あてがいました。親指で喉の上をまさぐってから
ここ、という所を定めると力を込めます。

「…逝ってしまいなさい」

まろんの鼻から一筋の血が滴り、それを見た弥白は
更に力を強くしました。そして。

ドガっ

何の前触れもなく、突然脇腹を蹴られて弥白は2メートルほど
離れた落ち葉の上に転がりました。
ですが弥白はすぐに立ち上がると叫びます。

「誰!」

まろんのすぐ脇に黒い影が立っています。
その姿は暗闇に目が慣れているはずの弥白に、さらなる闇を見せていました。
影はゆらりと動くと小さくなりました。
しゃがんだのだと判ったのは影から白い手が伸びて
まろんの首筋に触れ、リボンを解いたからです。

「邪魔をしないで!」

弥白は右手を肩越しに振りかぶると何かを影に向けて投げました。
影は一瞬で消えましたが、弥白はそれが上に跳んだのだと判っていました。
頭上の木々がざわめきます。そのざわめきを追って弥白は走りました。
走っていくと、木々が途絶え、広々とした芝生に出ました。
辛うじて残った空の赤さの下で、影がやっと人の姿に見えます。

「貴女でしたの」

弥白から十数メートルの距離を隔てた所に立っているツグミ。
聞こえてはいるはずですが、返事はありませんでした。
そして互いに見詰め合う時間が過ぎます。

「私の夢にまで出てきて」

まったく動かないツグミ。

「でも全て今日でおしまい。貴女もいっしょに…」

先手を打ったのは弥白でした。
左手を大きく水平に振ると小さな光が瞬きます。
3つの光が尾を引くように飛んで真っ直にツグミに向かいました。
ツグミは立ったままの姿勢から、何の反動も付けず、まるで重力すら
存在しないかの様な高い跳躍を見せてこれを避けました。
ツグミの立っていた場所に3本のナイフが突き立ったのは、その直後です。
空中で姿勢を小さくして回転しているツグミが、
着地直前に背中を向けているタイミングを、弥白は見逃しはしません。
その先、着地すると思われる場所に向けて投擲の第2射を既に放っています。
ツグミは空中で姿勢を伸ばすのを突然止め、
そのままの姿勢で地面に接近すると片手を伸ばして先に接地させます。
落下の勢いを殺さずに、手首のスナップだけで身体全体を斜めにずらし
最初の位置よりも数メートル先に足を着けました。
弥白の2射目はツグミが地面に突いた手の両側をすり抜けて
ずっと後方の茂みに飛び込んでいます。

「お見事ですわ」

とは言いながらも弥白の手は停まってはいません。第3射。両手を使い
ツグミの新たな着地点へ3本づつ水平に並べ、上下2段のナイフの群が。
更にそれぞれの段は左右にずらしてあり、両段の最も外側の1本づつは
ナイフの種類を替えて回転させ攻撃範囲を広げてあります。
そして、その上に曲弾を1組…。
この時点で既にツグミは完全に着地直前であり再度の跳躍の隙は
無いように思われました。実際、この時ツグミは反撃に向けて身体を
弥白側に向き直させる事に重点を置いており、敵の攻撃への対処は後回しでした。
ツグミが次ぎなる攻撃を視野に入れた時には、それらは眼前に迫っていました。
しかし、上下のうちの下段の軌道が地面に対して低すぎる事を
ツグミは一瞬で看破し、軽く両足を開いた姿勢でこれに正対します。
予想外にツグミの回避行動が小さかった為、上下段の単調な動きの
各1本しかツグミの身体を捉えるラインに乗っていませんでした。
ツグミは上段の1本のみを軽く薙ぎ払ってしまいます。
その手には先ほど片手で跳ねた際に空中で
つかみ取ったナイフが1本握られているのでした。
下段の1本はツグミの読み通り彼女のスカートを突き破りはしましたが
股をくぐる形でそのまま後方へと飛んでいってしまいました。
反撃に向けてツグミが軽く姿勢を整えた、丁度その時です。

すとすとっ

妙に軽い音をさせながら、2本のナイフがツグミの左肩鎖骨の隙間と
右胸に上から突き刺さりました。弥白が水平に放った第3射全てが囮であり
大きく放物線を描いて上空から飛来した2本が本命だったのです。
それは見事にツグミの身体に食い込んでいました。
眉一つも動かさないツグミ。視線だけをさっと左右に走らせ
自分の身体から生えているナイフの柄を見詰めました。

「如何?素晴らしい動体視力ですけれど、視野の外までは…」

弥白には二の句を継ぐ余裕は在りませんでした。
目の前にはツグミの右手が迫っていたからです。ナイフを握った手が。
咄嗟に屈んでかわしますが、姿勢を低くした弥白にツグミの
左の膝が炸裂します。柔軟な弥白の身体であっても屈んでしまっては
避けることは出来ませんでした。背中から転げて行く弥白。
ですが2回程後ろ向きに回転した後、両手を突いてから身体を伸ばし
蜻蛉返りの要領で体勢を立て直すと一気に横手の疎らな林に向かって
走り出します。ひと呼吸も置かずに追走行するツグミ。

疾駆する弥白の両肩辺りには小さな光球が1つずつ浮かんでいます。
それぞれの光球に弥白が手を差し伸べると、
まるで初めからその空間に用意してあるかの様に
ナイフをいくらでも掴み取ることができました。
実のところ、そこから取り出されるモノを最終的に決めているのは
光球自身であり弥白ではありません。
弥白が思い描く様々な事物、この場合は「投げ付けたい」という
思いにもっとも適した武器が生まれ出るのです。

結果として追われる形となっている弥白でしたが、
ただ逃げ回っている訳では勿論ありません。
ツグミ側からの攻撃が接近戦のみと判断して
後ろへ向けて数回の投擲を試みています。
しかしそれら正面からの攻撃は、弥白の予想通り
如何なる形であってもツグミに届くことはありませんでした。
更にこの情況では曲弾を仕掛ける隙も生まれません。


●桃栗タワー

先刻と同じ場所に戻っているフィン。
両肘を太股の上に置き、組んだ手の上にあごを乗せて見下ろしています。

「初めて見た。あれが合成魔術か…」

フィンの関心はツグミの動きから弥白が使っている、
つまりは何者かが与えた魔術の性質に移っていました。


●桃栗公園

このまま走り回っていても体力を消耗するだけだと判断した弥白。
明るく見える方角へ徐々に針路を変えて行き、やがて再び
開けた場所へと出ました。
右手を光球に差し入れて、数本のナイフを掴み取ると、頭上に向けて
高く放り上げます。前後して、左手にはリボンを用意しています。
振り向きざまにツグミに向けてリボンを鞭の様にふるいました。
ツグミはそれを避けたのですが、弥白の巧みな操作によって
リボンは生き物の様にくねり、ツグミの動きを追って腕を捉えます。
この段階に及んで動きを止めた弥白に対し、ツグミはリボンを手繰る様に
一気に距離を詰めていました。絡み付くリボンに構わずに。
そして最後の数メートルを跳躍して弥白に踊り掛かるツグミ。
勢いよく地面に倒された弥白でしたが、それこそ狙い通りの状況です。
絡んだリボンで動きの自由度が下がったツグミの身体、
その両肩を下から捕まえる弥白。
一呼吸置いて、空より降って来たのは予め放り上げて置いたナイフ達。
正確に標的を落下点に誘うために自らを餌に使ったのでした。

「今度こそ」

吐き棄てる様な呟きに重なって、鈍い手応えが弥白の両手に伝わります。
これで全て決したはず。弥白は確信していました。
覆い被さっているツグミの腹を蹴り上げて弾き跳ばすと
さっと起き上がる弥白。
ツグミの身体が背中から落ちていき、地面がナイフの柄を押しました。
仰向けに倒れているツグミの身体から、ぬるりと銀色が突き上がります。

これ以上、確かめるまでもない。早くあの女の続きを。
立ち去りかけた弥白は、目の前での出来事を呆然と見詰めました。
片手をついて上体を起こしたツグミは、そのまま立ち上がると
再び弥白に向かって歩き出していました。
ここに来て、弥白は自分が相手にしている者に恐怖を抱きました。

「化け物…」

右手で光球をまさぐると、もう一度リボンを取り出します。
今度のリボンは白ではなく青みがかった銀色。
後方に数度跳び退いて距離を取ると、
リボンを薙ぎ払う様に水平に振るいます。
伸びていたリボンは弛みもせず、そのままの状態で動き
細長い板の様になって空を走ります。
リボンに触れた木々が数本、真横から切断されて倒れました。
一旦消えたツグミの姿が、だいぶ先に着地する頃には
弥白はリボンをもう一本掴んでいて、二本のリボンを操り
複雑な軌跡を辺りに巡らせていました。
そのままの状態を維持しつつ、今度は弥白が
ツグミに向けて前進します。速度を上げて。

「たとえ何者でも、切り刻んでしまえばいいのですわ」

ほんの数メートルの距離にツグミを捕らえた時、
リボンはツグミの周囲の空間を完全に囲んでいて
跳躍の透き間は無くなっていました。
そして、その空間は確実に狭められていきます。
遂に一本のリボンが確実にツグミの首筋を捉えるコースに入り
もう一本もすぐ傍に来ていました。そして。

「そんな…」

弥白の見ている前で、ツグミは迫っていた二本のリボンを
素手で掴み止めました。
ですが明らかにリボンの縁が手に食い込んでいます。
握った両手のそれぞれの妙な位置、親指の付け根よりも
手首に寄った場所からリボンが生えています。
それでも弥白はリボンを操ろうとしましたが、
もはやリボンが宙を舞う事はありませんでした。
弥白の手からリボンが落ちても、ツグミはリボンを離さず
そのまま真っ直に近寄ってきました。
両手をついて座り込んでしまった弥白。
やがて俯いた弥白の視界にツグミの爪先が入ります。
ひんやりとした物が頬に触れ、ビクッと身体を震わせる弥白。
ツグミの右手が弥白の頭に乗せられて、食い込んだままの
鋼のリボンが垂れ下がっているのです。
そしてツグミは手にぐっと力を込めて弥白の髪を掴むと
強引に引っ張り上げました。堪らず立ち上がる弥白。
目の前に、やはり何の表情も浮かんでいないツグミの顔があります。
そのオレンジ色の瞳が射る様に真っ直見詰めているだけ。
やがて左手が弥白の背中に回されました。
その手からゆっくりと、しかし確実に力が伝わり
ツグミが自分を抱き寄せようとしているのが弥白にも判りました。
弥白に迫るツグミの身体からは数本のナイフが突き出したまま。
顔を背けた弥白、瞼をきつく閉じました。これでおしまい…。

どのくらい経ったでしょうか。何の変化も訪れない事に気付いた弥白。
そっと目を開くと、ほんの数十センチ程の先にツグミの顔がありました。
髪を掴んでいた右手が解かれ、代わりに左手が弥白の髪をまさぐっています。
手のひら一杯の髪の束をそっと掴んだ左手に顔を近付けるツグミ。
初めて、そしてたった一度だけツグミが瞬きをしました。
そして何かを告げる様に口が動きましたが、
何故か弥白には聴き取れませんでした。
今度は弥白が瞬きをしましたが、次に目を開けた時には
ツグミの姿はありませんでした。
かちゃりと物音がして、足下を見た弥白はそこに数本のナイフが
折り重なって落ちているのを目に留めました。
その中から一つを手に取って見ましたが、
一度も使ったことが無いかの様に曇り一つ無い切っ先に
自分の歪んだ顔が半分映っています。
そして弥白はそのまま気絶してしまうのでした。


●オルレアン

パツッ。小さな音を発ててキャンディが粉々になり
その欠けらが目の上に降り注いでも、ミストは瞬き一つしませんでした。

「時間切れで醒めたか」

むっくりと身体を起こすと天井を見上げ、それから窓の外を見ました。

「犬娘、自らの意志で来たか、それとも…」

ミストが再び身体を横たえると、腋に座っていたアキコが
そっと手を伸ばしてミストの髪に触れました。


●桃栗公園

まろんは喉の違和感と息苦しさに飛び起きると、
暫くは激しく咳き込んでまともに息が出来ませんでした。
やっと呼吸が落ち着いてみると、すっかり身体が冷えていて
辺りは完全に真っ暗になっていました。
よろよろと立ち上がり、灯りが見える方に歩いていきます。
植え込みから出て、公園内の道の真ん中に落ちている
紙袋を拾ったときに、やっと何が起こったかを思い出しました。
慌てて辺りを見回し、プティクレアを出してみますが
風が踊らせる木の葉の乾いた音しか聞こえません。
もう一度辺りを伺って、何の気配も無い事を確かめると
今日は帰るべきと判断して、重い足取りで家路につくのでした。


●桃栗公園北側出口

流石に日が落ちてしまっては、言いつけられているとはいえ、
黙って待っている訳にはいきません。
運転手がエンジンを切り、ドアを開けて公園に踏み込もうとした
丁度その時、園内から出てきた弥白と出くわしました。

「お嬢様、どうされたのですか」

何時になく動揺した声を耳にして、弥白は精一杯の笑顔で答えました。

「御免なさい。ちょっと知り合いに会って立ち話をしていましたの」
「お気を付けください。風邪を召されては大変ですよ」
「そうね。帰りましょう」

倒れ込む様に後部シートに座った弥白は
倦怠感と寒気に全身を襲われていました。

「(本当に風邪みたい)」

そのまま弥白は眠り込んでしまうのでした。


●桃栗町郊外

すっかり日も暮れて真っ暗闇になっている寝室。
ツグミがごそごそと身体を動かしていました。

「あらら、寝ちゃったのかしら、私…」

自分の身体に触ってみます。エプロンを着けたままでした。
そうしていつの間に眠ってしまったのか考えます。
手触りから、今はベッドの上なのだとすぐに判ったのですが
寝室に来た憶えがありませんでした。

「あっ」

慌ててキッチンへと駆け込むと、かけっぱなしだった鍋の
様子をうかがいました。が、幸いにも電磁調理器のスイッチは
切れていて鍋は焦げ付いてはいませんでした。

「消して寝た…かしらね」

もう一度、スイッチを入れ直してからも暫く考えてみましたが、
料理を中断した辺りからの事がどうしても思い出せませんでした。
そのくせ、居眠りの最中の夢の事は憶えているのです。

「また、あのひと…」

鍋を掻き混ぜながら、ツグミは妙に鮮明な夢を思い出していました。

(第70話・完)

# う〜ん、遂にやってしまったか。(笑)

では、また。

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