発掘! 読書記録 1991年 その3




おのえりこ『本当は大声で泣きたい』他

★『本当は大声で泣きたい −彼女はなぜ過食症になったか−』 おのえりこ
          21世紀コミックス/主婦と生活社 1991年6月発行

★『鏡の中の少女』 スティーブン・レベンクロン 杵渕幸子 森川那智子共訳
          集英社文庫

★『鏡の中の孤独』 スティーブン・レベンクロン 杵渕幸子 森川那智子共訳
          集英社文庫 1991年11月発行

★『コミュニケーション不全症候群』 中島梓
          筑摩書房  1991年8月発行

 さて、上記の4冊に共通するテーマは何でしょうか?
あ、サブタイトルに出てしまっているか。(^_^;) そう、これらの本は、
拒食症・過食症つまり摂食障害といわれる「心の病」をテーマにしています。


 『本当は大声で泣きたい』は、ごくごくフツーの女性が過食症に悩み、
そこから脱出していく過程を描いた漫画です。一人暮らしをしても結婚しても
「彼女」は、「ソレ」から逃げられなかったのです。自分の感情を見つめ直し、
自分の感情を言葉で(「食べ物を食べて吐く」ことを通してではなく)表現できる
ようになるまでは。

 『鏡の中の少女』と『鏡の中の孤独』は、フランチェスカという少女が、過度の
ダイエットから拒食症に陥り、衰弱死寸前まで痩せ衰え入院し、心理療法士と出会い、
彼との対話の中で自分の心の真実を見つけだし、過食症の友人の死を乗り越えて
立ち直っていく姿が描かれています。

  この作品の中で、一番気になったのは、「家族」の問題でした。
拒食症になる女の子の家族の様子って、どうしてこんなに似通っているんでしょう?
私の知っている拒食症の女の子なんですが、彼女の境遇が『鏡の中の少女』の
主人公にそっくりなんです。頭いいけど気難しいお兄さんに母親がかかりっきりで、
それまで彼女は、おとなしくて「良い子」で、だけど拒食症になって、
それでやっと(!)家族に関心を向けてもらえるようになったっていう...。

 『コミュニケーション不全症候群』は、現代社会には「個人の居場所」がなく、
人々の自らの居場所を確保するための「競争」に対する「過適応」が、「オタク」
「JUNE少女」「ダイエット症候群」である。ということを述べた本。
(だだ、内容がとっ散らかっていて、いいたいことはモウロウとしかわからない ^^;)


 私は、(とりあえず今のところ)摂食障害ではありません。ダイエットの必要性を
感じたこともありません。にもかかわらず、(だからこそと、いうべきか)この病気が
最近ひどく気になります。

 摂食障害というのは、病の表現形態こそ「食」にこだわっているけれど、
実のところ「食べること」や「体重」の問題ではなくて、「競争の勝利者になること」
(このことについては、『コミュニケーション不全...』を参照)や「達成感」(注1)
の問題らしいんですね。

 その根底にあるのは中島梓が指摘するように、「居場所がない」(このフレーズは
『鏡の中の孤独』にもゴシック文字で2回も出てきます。)なのかもしれません。
「勝者」になれば「居場所」が与えられる。だから拒食症の彼女たちは、文字通り
命を賭けてけなげに(!)「競争」してるのかもしれません。
(だから「痩せ過ぎは美しくない」なんて御説教は無意味です。むしろそうやって、
 「敗者」を責める姿勢こそが、彼女たちを摂食障害に追いこんでいるでは?)

  実のところ、私はずっと「自分の居場所がない」ことを感じ続け、今も感じている
人間です。『鏡の中の少女』とあまり変わらない...。
母親がお気楽な性格だったのと、必死に努力する代わりにバリヤーを張ることができた
おかげで、「摂食障害」という表現はとっていないけれど、私自身も「病んでいる」
のは同じだと感じてしまうのです。(同病相哀れむということサ)

  ともあれ、上記の本、一遍読んでみて下さい。拒食症や過食症の女の子を一概に
「バカ」呼ばわりできなくなります...。


注1:「リカちゃんのサイコのお部屋」 香山リカ 扶桑社 1991年11月発行
   の中の香山リカさんと岡崎京子さんの対談中で、岡崎さんがいった言葉。
   この対談は、『コニューニケーション不全...』と併読すべし(^_^)。

(91-12-01 15:18:22)




マクラウドのシャンディ教授シリーズ

 前のがちょっとシビアな書き込みでありましたので、今度は、なるべく明るい話題を
というわけで、シャーロット・マクラウドのシャンディ教授シリーズのご紹介。

 さて、このシャンディ教授シリーズ、ユーモア・ミステリであります。
米国では、「お茶とケーキ」派ミステリあるいは、コージィ・ミステリなどと呼ばれて
いるようです。
シャンディ教授は、バラクラヴァという(架空の)街の農業大学の教授です。
「バラクラヴァには、当然のことながら大学関係者がうようよしていて、しかも
その誰もがひとくせもふたくせもあるという、そういう世界のお話です。」(注1)
なぜかこの街では、やたらと殺人がおこりやすく、その度シャンディ教授が
駆りだされるハメになるのです。

 本格ミステリとしてはいささか弱いのですが、ミステリをトリックではなく、
キャラクターのために読む人、たとえばエラリー・クィーンとその父親の掛け合いが
大好きな人や、ミス・マープルシリーズやトミーとタッペンスのシリーズのファンには
お薦めです。そうそう、あと赤毛のアンシリーズで、エヴォンリーの村人の生活を読む
のが好き、という人にもお薦めいたします。
なんせ、印象的過ぎる登場人物(たいていは中年)が、後から後から登場し、
片っ端から恋に落ちていくんですから。(^_^)

 レギュラーの登場人物の中で私の一番のお気に入りは、農業大学の学長の
トールシェルド・スヴェンソンです。大男で怒りっぽいこの学長は、最初に登場した
ときは、頭ガチガチの威張り屋に見えましたが(なんせ、その前に読んでいたのが
筒井康隆の「文学部唯野教授」だった)、実は頭柔軟、公明正大な偉大な人物で
そのうえ美人の奥方に頭が上がらず、動物と女子供には決して手荒なことをしないと
いう、実に魅力的な人物なのでありました。
もちろん、主人公のシャンディ教授をはじめとする他の人物も魅力的(時には犯人で
さえも?)です。

 どうぞ、楽しんでくださいませ。

★<シャーロット・マクラウド シャンディ教授シリーズ>
 「にぎやかな眠り」
 「蹄鉄ころんだ」
 「ヴァイキング、ヴァイキング」
 「猫が死体を連れてきた」
 「オオブタクサの呪い」 (以上 高田文子訳 創元文庫)
 「ウーザック沼の死体」
 「風見大追跡」     (以上 片岡しのぶ訳 扶桑社文庫)

注1:シャーロット・マクラウド「下宿人が死んでゆく」(創元推理文庫)の
   小野不由美さんの解説より。ちなみにこの本は、マクラウドの別のシリーズ
   セーラ・ケリング物の2冊目です。


PS  創元文庫版の表紙は、天野喜孝氏のひょうきんなイラストです。

(91-12-01 15:18:54)




『このミステリーがすごい '91年版』

JICCブックレットで、毎年恒例のミステリーベスト10
『このミステリーがすごい ’91年版』が出ました。

去年の海外物ベスト10は、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』(東京創元社)が
文句なしのぶっちぎりでトップでしたが、今年はなかなか渋く、
P.D.ジェイムズの『策謀と欲望』(ハヤカワ・ミステリ)です。

(P.D.ジェイムズは、『女には向かない職業』で有名な英国の女流ミステリ作家
 ですが、重くて暗くて長いので、結構読むのがしんどかったりするのでした。
 うーん、でも『策謀と欲望』読んでみるかな...。)

詳しくは、書店で直接見ていただくとして、このBBSで名前の上がった作家や作品を
ベスト20から拾ってみますと、

逢坂剛        『斜影はるかな国』(朝日新聞社)、  国内編の7位です。
ディーン・R・クーンツ『ストレンジャーズ 上下』(文春文庫)海外編の11位。
クライヴ・バーカー  『不滅の愛 上下』(新潮文庫)    海外編16位。
キャサリン・ネヴィル 『8(エイト) 上下』(文芸春秋)  海外編16位タイ。
(↑これは、SFボードでちょっと名前がでましたね。チェスのボードだか駒だかを
 をめぐる冒険ファンタジーだそうですが。)

『カッコーはコンピュータ卵を産む』(草思社)は、何人もの選者が、
「ミステリより面白い」と、評しています。
カーク船長(笑)の『電脳麻薬ハンター』は、怪作珍作コーナーに出てます。

自分が読んだ本がどの辺にランクされているかを調べるのが、楽しいです。
私が面白いと思った本を、選んでいる人がいてほっとしたり。(^_^)
選者の評を読んでいると、評価がまっぷたつに分かれるものがあったりして、
それもなかなか、面白かったりします。

私が今年読んでおもしろかったミステリをこの本の巻末リストでチェックしてみますと

★トニイ・ヒラーマン  「時を盗む者」     (早川ミステリアス・プレス文庫)
★ピーター・ロビンソン「夏の記憶」      (創元推理文庫)
★ウォルター・ディロン「ハッカー連続殺人事件」(早川ミステリアス・プレス文庫)
☆エリス・ピーターズ  「死体が多すぎる」   (現代教養文庫)
☆サラ・パレッキー    「バーニング・シーズン」(早川ミステリ文庫)
☆アンナ・A・コリンズ「雨と死とマンハッタン」(講談社文庫)
☆C.マクラウド   「富豪の災難」     (扶桑ミステリー)
☆C.アームストロング「始まりはギフトショップ」(創元推理文庫)
(なお、「ストレンジャーズ」を私はSFに分類しております。)

というところになります。(★は男流、☆は女流)

どれも、ベスト20には入っていないけど、一応名前はあがっている作品です。
(つまり好きな人は好きなわけ。同じ本が好きな人がいて嬉しい。)
ちなみに、渋いおじさん探偵と女探偵の話とコージーミステリばかりです。
(好みのキャラクターの出てくる本しか読まないからな〜)

(91-12-23 15:24:24)

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有里 (alisato@geocities.co.jp)
http://www.geocities.co.jp/bookend-ohgai/3941/

更新日:2001/04/08