NAL, JAMSTEC, ETS-VIII見学記
 宇宙作家クラブ等の関係で、あちこち取材に行くことが多くなったワシではあるが、今回はまとめて3ヶ所の 研究施設のレポートを報告する。
H-II 008の墜落エンジンを探索したのがJAMSTECの深海無人探査機「かいこう」、そのサルベージされたエンジンはNALの材料研究室に 送られ、SEM(走査電子顕微鏡)での調査が行なわれた。
また、H-IIAで打上げ予定の技術試験衛星ETS-VIIIのアンテナ展開試験が行なわれた。
着々と進む日本宇宙開発を追ってみよう。
NAL/航空宇宙技術研究所 2000/04/23

 H-IIの打上げ見学以来、宇宙作家クラブにはいろいろと関係が出来てきたワシなのじゃが、 この定例会として1年に1回一般公開される航空宇宙技術研究所の見学に参加してみた。

この研究所は吉祥寺からバスで15分ほどの深大寺にある。 研究所の目的は、航空宇宙関係の技術研究・開発を行なっており、NASDAとも 色々な面で協力関係にある研究所である。施設としては、研究所、大型風洞試験装置、超音速風洞装置、材料試験室、電算室などがあり、 NASDA関連の地球往還機(HOPEなど)の研究が行なわれている。
風洞試験室は3階建築物をほぼ丸ごと使う大きなものから、マッハ10の超音速での試験が可能な超音速風洞など3種類ほどあり、見学では 大型風洞と遷音速風洞の中に入る事ができた。
 さらに、この時は3000m級深海からサルベージされたH-II 008のエンジン部分解析が進行中の時期で、その関係の展示物もちらほら存在していた。

H-II 008の破損したLH2インデューサー。
異常振動が破損の原因らしいが・・・



H-II 008の解析中サンプル?
レプリカとか書いてあるが・・・



公開中のフライトシミュレータ。
6本の伸縮トラス状脚部で操縦室を傾ける。


 フライトシミュレータは大型航空機のコクピットを模擬したものが搭載されていて、参加者とくに子供に 大人気だった。中はプロジェクタによる視界と液晶パネル計器があり、立体的である点をのぞけばPCゲームの フライトシミュレータと同じ(あたりまえか)。
ただ、さすがに操縦席を油圧では動かしていないようで、動いていたのは脇に置いてあったフライトシミュレータの 模型であった。

マッハ10の超音速風洞試験装置。
試験室はφ1.25mのサイズ。



うーむ、このパイプ。
施設の中で最高にハッタリの効いた装置である。


JAMSTEC/海洋科学技術センター 2000/05/13

 その後、一月とあけずに今度は横須賀の海洋科学技術センターの見学であった。
今まで海洋関係の物には縁がなかったが、今回のセンター見学の目玉は無人深海探査機「かいこう」の公開であろう。
このかいこうは、先日のH-II 008エンジンの引上げに一役かった探査機なのだ。まぁ、ほかにも何かおもしろい物があるじゃろうと いうことで、そそくさと京浜急行に搭乗して追浜の駅に下り立った・・・・



これが件の「かいこう」。
上側の明るいオレンジ部分が海中プラットフォーム
下側の濃いオレンジ部分が探査機。
青いのは支持構造体。


 さて、この「かいこう」、聞けば実際に破片を発見したのは、「かいこう」の母船に積まれていたサイドルッキングソナー という音響探査装置で、ソナーと同じように音響で海中の様子をさぐるのだが、原理は先日毛利さんが搭乗したスペースシャトルで 行なったレーダー全地表地形測定の海洋版である。 母船の「かいれい」からエアーガン(BB弾を打つヤツじゃないよ)で音響パルスを 発生させ、海中/海底内部の構造を探査する。このソナーに反応があり、そこへ「かいこう」が派遣されたのである。
 こうしてエンジンが発見された訳じゃが、実際に引上げたのはアメリカのサルベージ専門会社とそこの探査機だそうである。
聞けば、なんとJAMSTECには法規上の規制があり、海洋生物の引上げは許可されているのじゃが、人工物の引上げの認可はないとのこと。
では、アメリカのサルベージ会社の装置は「かいこう」より高性能かというと、ビデオでみた限りでは随分小型で機能も少ない もののようであった。

しんかい6500。
このときはオーバーホールのため揚陸されていた。



しんかい6500開発の破壊試験に使われたチタン耐圧殻。
深海の超深部では、チタン殻もこのとおりこなごなに。



海中動作用耐圧殻スーツ「ジム」
現在は開発中止だそうで。



深海6500m相当の水圧で潰れたカップヌードルのカップ。
前は職員が食したカップを縮めていたとか。




ETS-VIIIアンテナ展開公開試験/東芝府中工場 2000/06/06

 最後は急遽持上がった技術試験衛星 ETS-VIIIに搭載するパラボラアンテナの展開試験の見学である。
このETS-VIIIは、移動体衛星デジタル通信、衛星測位実験を実施するもので、平成15年度に静止軌道に打上げ予定である。



ETS-VIIIスケッチ。
2枚の大型アンテナが特徴


 このETS-VIIIは、静止軌道からのSバンド(2G〜4GHz)の携帯モバイル通信実験のためのもので、特徴は
  • 3t級静止バス技術
  • フェーズドアレー式給電部
  • 400KW級中継器、衛星交換機
  • 原子時計搭載
など。今回展開試験するパラボラは片翼が19×17mあり、5m程の6角ユニットのモジュール構成になっている。
アンテナの重量は195kg/片翼。
構造はCPRF(炭素繊維FRP)、モリブデンメッシュ金網による電波反射面。
面精度は誤差2.4mmとのこと。


 で、最初は会議室で計画概要・実験概要と技術的特徴の説明があり、その後専用建屋にあるアンテナ実験設備に移動。 アンテナ展開は、予想では30分ぐらいかと思っていたら、なんと「1時間」。ビデオも撮影したが、あまりにはりのない映像に なってしまった。



これがモリブデン金網。600dpiの画像サイズ。
編み方に工夫を重ねた逸品である。


 これが、今回の核心であるモリブデン金網である。モリブデン線の太さは30um。技術的バックボーンは電球のフィラメント技術だそうである。
電球のフィラメントはタングステンだが、モリブデンはこれに匹敵する強度を持ち、かつ軽いので衛星用に利用できるとのこと。
線は鍛造押し出し+金メッキで、強度アップのためSnとCoをドープしてある。
 この画像は頂いたサンプルであり、ちょっとその重さを調べてみると、
広げた網の大きさ 190mm×230mmで約0.9g

であり、現在のコストは1平方mあたり10万円の桁だそうだ。100万に近いかどうかは不明。
 今回はこの製造業者の方が製造上の苦労話を存分に披露していた。編み方は伝線しない伸縮可能な編み方で、 まさに
「宇宙を行くモリブデン製パンティストッキング生地」
と形容できよう。



これがそのパンスト・・・ではなく
ETS-VIIIアンテナ。
これは折り畳まれた姿。
画像をクリックすると、完全展開したアンテナのIPIXによる全方向パノラマ画像が見えます。
↓プラグインはここから。


 ETS-VIIIのアンテナは、各モジュールが折り畳み傘のように畳まれて収納されることになる。
展開実験では、無重力状態をシミュレーションするため、釣りと分銅によるおもりでバランスを取っている。
下側に見えるのは、一部取材陣と東芝・業者・NASDA等のプロジェクト関係者である。

なお、この写真ではアンテナが閉じているのでまだ見える状態なのだが、展開すると金網が粗い上に逆光となるので CFRP骨組以外はほとんど視認不可能となる。かろうじて金網からみ防止用の白い樹脂製網が見えるだけだ。
しかも、それらさえも天井にある無重量シミュレータの骨組や実験棟の天井とまぎれてほとんどわからなくなる

そのため、IPIX画像ではあえて各モジュールの外形とアンテナ鏡面部分に色を付けてみた。こうすれば、アンテナの構造が なんとなく判別出来る。 オリジナル写真だと、現場にいなかった者にとっては何がなんだか判らないと思うので。

加工していないものが必要であれば、NASDAのサイトで探してみて下さい。


と、いうことで

では、とりあえずこんな所で。

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