NAL, JAMSTEC, ETS-VIII見学記
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宇宙作家クラブ等の関係で、あちこち取材に行くことが多くなったワシではあるが、今回はまとめて3ヶ所の
研究施設のレポートを報告する。
H-II 008の墜落エンジンを探索したのがJAMSTECの深海無人探査機「かいこう」、そのサルベージされたエンジンはNALの材料研究室に
送られ、SEM(走査電子顕微鏡)での調査が行なわれた。
また、H-IIAで打上げ予定の技術試験衛星ETS-VIIIのアンテナ展開試験が行なわれた。
着々と進む日本宇宙開発を追ってみよう。
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H-IIの打上げ見学以来、宇宙作家クラブにはいろいろと関係が出来てきたワシなのじゃが、
この定例会として1年に1回一般公開される航空宇宙技術研究所の見学に参加してみた。
この研究所は吉祥寺からバスで15分ほどの深大寺にある。 研究所の目的は、航空宇宙関係の技術研究・開発を行なっており、NASDAとも
色々な面で協力関係にある研究所である。施設としては、研究所、大型風洞試験装置、超音速風洞装置、材料試験室、電算室などがあり、
NASDA関連の地球往還機(HOPEなど)の研究が行なわれている。
風洞試験室は3階建築物をほぼ丸ごと使う大きなものから、マッハ10の超音速での試験が可能な超音速風洞など3種類ほどあり、見学では
大型風洞と遷音速風洞の中に入る事ができた。
さらに、この時は3000m級深海からサルベージされたH-II 008のエンジン部分解析が進行中の時期で、その関係の展示物もちらほら存在していた。
H-II 008の破損したLH2インデューサー。 異常振動が破損の原因らしいが・・・
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H-II 008の解析中サンプル? レプリカとか書いてあるが・・・
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公開中のフライトシミュレータ。 6本の伸縮トラス状脚部で操縦室を傾ける。
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フライトシミュレータは大型航空機のコクピットを模擬したものが搭載されていて、参加者とくに子供に
大人気だった。中はプロジェクタによる視界と液晶パネル計器があり、立体的である点をのぞけばPCゲームの
フライトシミュレータと同じ(あたりまえか)。
ただ、さすがに操縦席を油圧では動かしていないようで、動いていたのは脇に置いてあったフライトシミュレータの
模型であった。
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マッハ10の超音速風洞試験装置。 試験室はφ1.25mのサイズ。
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うーむ、このパイプ。 施設の中で最高にハッタリの効いた装置である。
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| JAMSTEC/海洋科学技術センター 2000/05/13 |
その後、一月とあけずに今度は横須賀の海洋科学技術センターの見学であった。
今まで海洋関係の物には縁がなかったが、今回のセンター見学の目玉は無人深海探査機「かいこう」の公開であろう。
このかいこうは、先日のH-II 008エンジンの引上げに一役かった探査機なのだ。まぁ、ほかにも何かおもしろい物があるじゃろうと
いうことで、そそくさと京浜急行に搭乗して追浜の駅に下り立った・・・・
これが件の「かいこう」。 上側の明るいオレンジ部分が海中プラットフォーム 下側の濃いオレンジ部分が探査機。 青いのは支持構造体。
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さて、この「かいこう」、聞けば実際に破片を発見したのは、「かいこう」の母船に積まれていたサイドルッキングソナー
という音響探査装置で、ソナーと同じように音響で海中の様子をさぐるのだが、原理は先日毛利さんが搭乗したスペースシャトルで
行なったレーダー全地表地形測定の海洋版である。 母船の「かいれい」からエアーガン(BB弾を打つヤツじゃないよ)で音響パルスを
発生させ、海中/海底内部の構造を探査する。このソナーに反応があり、そこへ「かいこう」が派遣されたのである。
こうしてエンジンが発見された訳じゃが、実際に引上げたのはアメリカのサルベージ専門会社とそこの探査機だそうである。
聞けば、なんとJAMSTECには法規上の規制があり、海洋生物の引上げは許可されているのじゃが、人工物の引上げの認可はないとのこと。
では、アメリカのサルベージ会社の装置は「かいこう」より高性能かというと、ビデオでみた限りでは随分小型で機能も少ない
もののようであった。
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しんかい6500。 このときはオーバーホールのため揚陸されていた。
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しんかい6500開発の破壊試験に使われたチタン耐圧殻。 深海の超深部では、チタン殻もこのとおりこなごなに。
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海中動作用耐圧殻スーツ「ジム」 現在は開発中止だそうで。
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深海6500m相当の水圧で潰れたカップヌードルのカップ。 前は職員が食したカップを縮めていたとか。
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| ETS-VIIIアンテナ展開公開試験/東芝府中工場 2000/06/06 |
最後は急遽持上がった技術試験衛星 ETS-VIIIに搭載するパラボラアンテナの展開試験の見学である。
このETS-VIIIは、移動体衛星デジタル通信、衛星測位実験を実施するもので、平成15年度に静止軌道に打上げ予定である。
ETS-VIIIスケッチ。 2枚の大型アンテナが特徴
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このETS-VIIIは、静止軌道からのSバンド(2G〜4GHz)の携帯モバイル通信実験のためのもので、特徴は
- 3t級静止バス技術
- フェーズドアレー式給電部
- 400KW級中継器、衛星交換機
- 原子時計搭載
など。今回展開試験するパラボラは片翼が19×17mあり、5m程の6角ユニットのモジュール構成になっている。
アンテナの重量は195kg/片翼。
構造はCPRF(炭素繊維FRP)、モリブデンメッシュ金網による電波反射面。 面精度は誤差2.4mmとのこと。
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で、最初は会議室で計画概要・実験概要と技術的特徴の説明があり、その後専用建屋にあるアンテナ実験設備に移動。
アンテナ展開は、予想では30分ぐらいかと思っていたら、なんと「1時間」。ビデオも撮影したが、あまりにはりのない映像に
なってしまった。
これがモリブデン金網。600dpiの画像サイズ。 編み方に工夫を重ねた逸品である。
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これが、今回の核心であるモリブデン金網である。モリブデン線の太さは30um。技術的バックボーンは電球のフィラメント技術だそうである。
電球のフィラメントはタングステンだが、モリブデンはこれに匹敵する強度を持ち、かつ軽いので衛星用に利用できるとのこと。
線は鍛造押し出し+金メッキで、強度アップのためSnとCoをドープしてある。
この画像は頂いたサンプルであり、ちょっとその重さを調べてみると、 広げた網の大きさ 190mm×230mmで約0.9g
であり、現在のコストは1平方mあたり10万円の桁だそうだ。100万に近いかどうかは不明。
今回はこの製造業者の方が製造上の苦労話を存分に披露していた。編み方は伝線しない伸縮可能な編み方で、
まさに
「宇宙を行くモリブデン製パンティストッキング生地」
と形容できよう。
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これがそのパンスト・・・ではなく ETS-VIIIアンテナ。 これは折り畳まれた姿。 画像をクリックすると、完全展開したアンテナのIPIXによる全方向パノラマ画像が見えます。
↓プラグインはここから。
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ETS-VIIIのアンテナは、各モジュールが折り畳み傘のように畳まれて収納されることになる。
展開実験では、無重力状態をシミュレーションするため、釣りと分銅によるおもりでバランスを取っている。
下側に見えるのは、一部取材陣と東芝・業者・NASDA等のプロジェクト関係者である。
なお、この写真ではアンテナが閉じているのでまだ見える状態なのだが、展開すると金網が粗い上に逆光となるので
CFRP骨組以外はほとんど視認不可能となる。かろうじて金網からみ防止用の白い樹脂製網が見えるだけだ。
しかも、それらさえも天井にある無重量シミュレータの骨組や実験棟の天井とまぎれてほとんどわからなくなる
そのため、IPIX画像ではあえて各モジュールの外形とアンテナ鏡面部分に色を付けてみた。こうすれば、アンテナの構造が
なんとなく判別出来る。 オリジナル写真だと、現場にいなかった者にとっては何がなんだか判らないと思うので。
加工していないものが必要であれば、NASDAのサイトで探してみて下さい。
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では、とりあえずこんな所で。
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