山梨リニア実験線取材

超電導リニア・MLX01-2 東京方のエアロウェッジ型先頭車両
  旧国鉄時代から、21世紀の交通手段として開発が着手されたリニアモーターカー。
航空機にくらべ大量輸送が可能で経済的であるとされ、次世代新幹線として注目されつつも、技術的・開発費用的な問題は山積しており、 営業運転を視野に入れた大規模な実験施設ができたのは、20世紀も終わりの1997年のことであった。
 だが! そんな政治的・経済的・技術的な問題点は置いておいて、このリニアが最近PRのために実験試乗会を開催しているのをご存知だろうか?
 鉄道総研ホームページでは、たびたびこの試乗会への参加者を募集している。
で、いそいそとこの試乗会で応募したDr.キッチュ! しかも2回目で大当たり! やったァ!リニアに乗れるんだァ!
では、その「夢のリニアモーターカー」の実体について諸君とともに検証していこう!
山梨リニア実験線

 リニアモーターカー。夢の交通手段。
いわゆる我々が超電導リニア、リニアモーターカーと呼んでいる乗り物の研究が始まったのは1962年。東京・国立にある鉄道技術研究所でその最初の実験が開始された。
この鉄道総研では、リニアモーターカーのことを”マグレブ(MAGLEV)”、正式名称”超電導磁気浮上式鉄道”と呼称している。このように、すでに総研では開発初期から磁気浮上のために 超電導現象をもちいた強力な磁石をそのキーデバイスと位置付けており、1970年にはニオブ系の超電導磁石を用いた基礎実験が開始されている。
 1977年には有名な宮崎実験線が開所し、時速500km/hへの本格的技術開発が始まったのである。そして早くも1979年には世界初の時速 517km/hという速度を達成することができたのであった。
 このころから、リニアの研究は基礎技術開発から営業実験へのシフトがはじまっている。
 1980年には乗車可能な実験車両・MLU001/002が投入され、乗り心地や騒音・磁場などの居住性・環境への影響を研究するとともに、さらに本格的な実験施設の検討が始まった。

 この時期、日本はかつてない円高時代を迎えており、国内の景気は上昇・貿易黒字は拡大するなど、いわゆるバブル経済のさきがけとなった時期であった。 そのため、この実験線の誘致には政治家やゼネコンなどのさまざまな思惑が交錯したはずである。  そして1989年、「自民党のドン」とも言われた大物政治家・金丸信の地元が、たまたま山梨であったため、その影響のためなのかどうかはわからないが、 宮崎や北海道という候補地を退けて意外にも山梨に決定したのであった。
 まぁ一旦決定してみると、山梨での実験ではトンネルや勾配の影響という項目も実験が可能であり、それなりに興味深い技術的テーマもある。 さらに、実験線を延長すれば東京←→大阪間を長野経由で結ぶという構想にもつなげることができ、こういったことが山梨への実験線誘致への後押しとなったことも十分考えられるのだが・・・ ・・・とまぁ、そのような駆け引きの末、1997年に山梨実験線は開所式を迎えることができた。

 ところが! その時すでに”自民党の影の総裁”こと金丸氏は鬼籍の人となり、日本経済もバブルがはじけた後の不良債権問題で青息吐息の状態になっていたのである。
いきなり未来への夢がショボイものになってしまった感もある20世紀末、そしていまだ経済的苦境に立たされている21世紀と、リニアを囲む社会的情勢は 必ずしも明るいものではない。


 だが! 良く考えて欲しい。 大人は夢破れたかもしれないが、そのような陰鬱な経緯を今の子供が知る訳もない。というか、子供に希望を 持たせられない教育を大人が行って、社会が明るくなるわけも無い。

 こういった子供への深謀遠慮のためなのか、山梨実験線では積極的な「実験線試乗会」というイベントを開催しておる。
今回のリニア実験線試乗会というものも、基本的には「親子への試乗サービス」という性格のものである。 しかし、そんなことは

リニアって、めっちゃ速いんだよね? 乗ったらどんな感じなんだァ?
という誘惑の前にはもうどーでも良くなっちゃうんですよ、モウ! ロケット乗れなきゃリニアに乗るんだァ、俺は!・・・・って世界ですかァ?(非常にガキモード)


試乗会のようす

 山梨県都留市禾生(かせい)にあるリニア実験場は、実際に職員が業務をする実験センターと、 見学コースとなる県立リニア見学センター、リニア駆動用変電所の3つの施設に大別できる。
 試乗会では、この見学センターでの仮設受付所でチケットにスタンプを押し、その後セミナールームで試乗の概要を説明した後、実際にリニアに乗り込むのだ。
 なんか、レースクイーンのようなコスチュームに身をつつんだお姉さんが受付をしているのはJRのサービスなのだろう。

山梨県立リニア見学センター
いわゆる禾生(かせい)基地

試乗会受け付けのようす

プラットホームなどのハードウェア

 一通り説明が終わると、セミナールームの後ろにあるドアからリニアへ乗車する。 「あ、なるほど」と思ったのは、リニアはあくまで列車なので、 乗降はプラットホームから行うのだ。(当たり前か)
 しかし、通常のプラットホームと大きく異なるのは、ゆりかもめのような完全密閉式のホームと、そこから車体に伸びる伸縮式の乗降口がある所だろう。
 特に伸縮式の乗降口は一見ジャンボ旅客機などの乗降通路みたいな設計思想に思えるが、じつはこれは車体側面にある超電導磁石の強力な磁場をシールドする役目も 果たしているのだ。従って、乗降口にこのような大げさな仕掛けが必要になるのである。
 乗降ドアも独特の設計で、ドアが真上にスライドしてあがる形式になっている。「ギロチン式ドア」といえなくもない。これも、リニアモーター特有の側面磁極によってドアの開閉が できなくなる事態を防ぐためなのだそうだ。しかし、狭い作りである。お相撲さんは乗れるのか?

プラットホーム

プラットホームからの乗降口


昇降口とドアのようす

リニア車内。窓といい広さと言い、小型旅客機のようだ。

 超電導リニアの心臓部は、超電導磁石で作られた浮上・推進用電磁石と線路に設けられた駆動用電磁石である。
原理は★ここ★にあるので詳しく書かないが、 ようするに線路側の電磁石の磁界を切り替えることで、車体を浮かせたまま前へ駆動させることができるのだ。回転するモーターが巻物とすれば、 リニアモーターはその巻物を広げ、出発点から目的地まで伸ばしたようなものなのである。
 このため、車体と線路に駆動用・浮上用の磁石が必要になり、特に車体に搭載する磁石には強力なものが不可欠なのである。
 そこで、リニアではニオブ‐チタン合金の超電導特性を利用した電磁石を採用している。この合金を液体ヘリウム温度にすることで、その電気抵抗がゼロとなり、 流した電流が永久に流れつづけることができる・・・電源を持たなくても、強力な電磁石が得られるという訳だ。
 もちろん、このコイルの温度が上昇すれば、たちまち超電導状態が外れ、車体は浮力を失ってしまう。このために、車体にはガイド用タイヤも 装備されている。車体速度が160km/hを超えると、自動的にタイヤが線路から外れて車体が完全に浮上するのだ。

超電導磁石のユニット(模型)

線路に設置された駆動用コイルのプレート

いよいよ走行

 では、今回の目玉である走行実験に移ろう。
 実験線の総延長は18.4km、うちトンネルが16.0kmとほとんどトンネルの中を走行するのだ。この辺もすこしがっかりするところだが、まぁ東京側起点がワシの生まれ故郷から一山超えたところに 位置していると考えると、なんとなくご近所の実験なんだなぁとミョーな親近感も沸いてくる。
トンネルの中は40milという1000mで40mのアップダウンがあるコースで、R8000のカーブも取り入れている、新幹線にとってはちょっとしたジェットコースターのような線路である。
 リニアの持つレコードとしては、速度552km/hという世界最高速度をこの山梨実験線でマークしているのであるが、我々が体験するのは時速450kmである旨の説明を受ける。

「うぅ、500に達せずに450・・・なんかセレロンを思い出してしまう・・・・」
と思うのは自分だけだが、やはり450じゃちょっとね、というような雰囲気は参加者の間にもあった。
 そうは言っても、やはり地上で時速450km/hというのはそうそう体験できるものではない。今回、いろいろ実験道具を持ちこんだので、ビデオやカメラをいじっていると、急にあたりが 暗くなる。

「あれ?ひょっとしてもう動いている?」

 リニアの駆動は非常に滑らかで、電車によくある始動時のガックンという衝撃も無く、ほんとうにいつのまにやら動いているという感じなのだ。
実験は、まず西の甲府側トンネルに入り、線路を走行用に切り替えて、最大時速300km/hで東京側起点へ向かう。
ここで方向を反転し、甲府側へ向かって加速するのだ。 最大速度450km/hは禾生の実験センターのある橋梁の上で維持される。加速は毎秒約5km/hで、450km/hに達するまで85秒だという。
 ところが、最初の東京方への走行のスピード実感がどうにも湧いてこない。確かに速いのだが、加速が文字通りリニアであるため、車やバイクのような体に感じる加速感というものがないのである。
「これで本当に300km/h出ているのか?」
と思えるほどのあっけない試乗感である。

 ついで、いよいよ450km/h走行実験。 これも、加速の大部分はトンネルの中なので、そのスピードを実感できるのはセンター前を通過する時のみであろう。
と、デジカメを窓にあてて撮影をしつつ、表示される速度を見る。 時速160km/hを超すとタイヤが格納され、車体から響く音が変わる。
そしてスピードは250km/h, 300km/h, 350km/h, 400km/h....と増加していくと、なんかデジカムを押さえる手に懐かしい振動が・・・!?
「そうだ、この振動は・・・まさに新幹線の振動そのもの!」
 なんと! リニアは磁気で車体を浮上させているとはいえ、車両構造は新幹線のような構成であるため、線路やコイル間の間隔の変化による車体の振動が、まるでレールの上を走る電車のソレみたい なんですよ! 「血は争えないなぁ」、と思いました。

 そして、リニアはトンネルをぬけて禾生の橋梁の上へ! 車窓の景色がめまぐるしく変わる変わる!近くに高い大きな建物がないので、速度による威圧感はないんですが、1.6kmの橋を12秒ほどで駆け抜けてしまいます!
時速をざっと計算して480km/hだから、まぁ測定誤差いれて妥当な値です。いや、本当に450km/h出てるんだ!

リニアの車窓から(mpeg動画)
白く見えるリニア駆動用変電所からは、走行時に
「チ〜ン」というインバーター特有のあの音が
聞こえてくる。

今度は観望所から見てみる(mpeg動画)

その時まわりでは・・・

 このリニア見学センターは、小中学校の遠足コースや地方団体の旅行コースとなっていて、先の見学センターの玄関も、入ってすぐに あるのは「みやげもの売店」なのである。
 ワシが乗車したのは一番最初の実験走行であり、そのあと6本の実験走行があるのだが、その実験を見学するビジターが大型バスでひっきりなしに やってくる。ナンバーを見ると大阪、名古屋あたりからも見学にきており、中にはどうも韓国人旅行団体もリニアの見学に来ているようであった。
 このようにセンターの観光事業はそれなりに活況なのであるが、その地元への効果はというと、リニア誘致の際の地元地権者とのなにかがあるのか、 特に観光客を目的にした何かがあるという訳ではない。センターのすぐ下には田んぼとビニールハウスが広がっているし、国道136号沿いにも何か 新規施設はビジネスホテルぐらいしかないようである・・・もっとも、禾生を離れて都留市側や大月市側に向かうと、パチンコ屋とかいろいろ出来てはおりますが、多分関係者向け。
 あと、リニア試乗には申しこみと抽選が必要だが、リニア実験の見学は無料でいつでもOKらしいので、ご近所の方は出かけてみられてはどうか。
 ワシは今回、大月駅まで折りたたみ自転車を輸行し、そこから自転車でセンターに赴いたが、そんなに時間はかからずに到着するし。

観望所からのカワイイ見学者

センターを遠景から臨む
では、また。

← 研究室へ戻る

つきなみCOMICS Linear
Dr.Kitsch presents. All Rights Reserved.
画像・情報の著作権は放棄しません。 営利目的の画像配布は禁じます。
ご意見・感想はこちらまで -> e-mail : dr_kitsch@muf.biglobe.ne.jp