神風・愛の劇場スレッド 第171話『眠った翼』(その3)(06/30付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 30 Jun 2003 05:05:03 +0900
Organization: Public NNTP Service, http://news.yamada.gr.jp/public.html
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<bci8j2$una$5@zzr.yamada.gr.jp>

佐々木@横浜市在住です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。



★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その3)

●桃栗町の外れ

フィンを見送り陣に戻った後、ユキはミカサの部屋を訪ねました。彼女の立場と
しては当然の行動であるはずなのに、何処かそわそわした様子で。扉を叩いて返事を
待ってから中へと入るユキ。簡素な机に向かっていたミカサが顔をユキに向けました。

「どうした?」
「あの」
「ん?」
「外出の許可を頂きたく」
「何故かな?」

ミカサの口調は詰問では無く、生徒に質問する教師の様なものでした。

「この町の事をもっと、更に良く知っておいた方が良いかと思いまして」
「うん、そうだね。それは良い考えだ」
「それで…」
「何だい?」
「よろしければミカサ様もご一緒に…」
「準待機とはいえ私は立場上、留守にする訳にもいかないかな。偵察は君に任せるよ」
「判りました。では失礼します」
「ああ」

出ていきかけたユキをミカサが呼び止めました。

「ユキ」
「はい?」

ぴょんと振り返り、何処か期待を込めた瞳で見詰めるユキ。

「ついでと言ってはなんだが、あの娘…名を何と言ったか、ノイン様の所にいる」
「アンですか?」
「そうそう。彼女も連れて行ってやったらいい」
「そうします。では」

そそくさと出ていったユキを見て、ミカサはふと不思議に思います。何故かユキが
怒って出ていった様に見えた気がしたからなのでした。

●桃栗学園

放課後。明日に地区大会を控えていた為、午後の練習は無く当日のスケジュールの
確認だけが行われて新体操部は解散となっていました。それでも出場予定の選手は
自主的に軽い練習をこなしていましたが、元々応援に行くだけの部員はこれ幸いと
早々に下校しています。そしてもちろん、まろんと都も例外ではありません。

「どこか寄ってく?」
「止めとく。帰って早寝したい」
「そうね。まろんは今日一日中眠そうだったし」
「そうなの」

そして。

「明日はいつもと時間違うんだからね、寝坊すんじゃないわよ」
「は〜い」

そんな会話を交わして二人はマンションの廊下で別れたのでした。

●オルレアン

自分の部屋に戻り着替えを済ませたまろん。暫くベッドに寝ころがり、枕に
顔を埋めてじっとしていましたが、やおら起き上がると部屋を出て電話に手を
伸ばします。受話器の向こうで呼出し音が二回半ほど鳴った後で声が届きます。

「はい。せが…」
「もしもしツグミさん、これから行ってもいい?」

微かに笑った様な息遣いが聞こえてから返事がありました。

「私が来ないでなんて言った事、ある?」
「無い。三十分で行くから」
「あ、でもね」
「ん?」
「実はお客様が来ているの。日下部さんも知っている人だけど、構わないかしら」
「誰?」
「ほら、この前通訳してあげた女の子とその娘のお友達」

ちょっと考え込むまろん。

「あ、アンとユキさん?」
「そうなの」

まろんは先ほどより少し長めに考えてから答えました。

「やっぱり行く」
「それじゃ、待ってるわ」

受話器を置いて、まろんはまた考え込み結局そのまま何も持たずに家を出ます。

●桃栗町郊外

走ったり歩いたりしてかっきり二十五分後。何時もの様に声を掛けるより先に
扉が開きツグミがまろんを迎え入れます。電話口で聞いた通りにリビングには
ユキとアンが来ており、まろんを認めるとユキは胸の前で小さく手を振り、
アンはちょこんと頭を下げてまろんを迎えました。そして、それを待っていた
様にユキが言います。

「それじゃ、私達はこれで」
「あら」

まろんが慌ててユキに声を掛けます。

「帰っちゃうの?私の事だったら気にしないで、一緒に」
「ありがとうございます。でも、暗くなる前に帰らないと」

昼間が短い時季ではありましたが、それでもまだ日没には間があるはずでした。
まろんはその事を指摘したのですが。

「帰りに買物をして行きますので」

二人が厄介になっている家、つまりは全の家の夕飯の仕度を手伝うのだと言うユキ。
そう言われると引き止める訳にもいきませんでした。もっとも、まろんとしては
どうしても引き止めたいと思っている訳でも無かったのですが。

「お邪魔しました。お茶、ご馳走様」
「おじゃまシマシた」
「また来てくださいね」
「ありがとう。では」

まろんとツグミに見送られて、ユキとアンは帰って行きました。最後に振り返って
手を振りながら、ユキは思います。悩み事の相談の邪魔はしませんわ、と。



二人っきりになって、もう一度最初からツグミに歓迎の挨拶のやり直しを受ける
まろん。椅子に腰を下ろしてから、どう話を切り出したものかと考えていました。
その間、ツグミは黙って待っています。声を掛けると、まろんが本題から離れた
話題に転んでしまいそうな気がしていました。そんな気配を察して、まろんは
回り道をせずに本題…一日中浮かんでは消えていた事をツグミに話しました。
勿論、それが寝物語で伝えられたという事実は除いて。

「成程ねぇ…」
「成程?」
「つまり手に入れようとしている“お宝”が相手の手に渡るのは気に入らない。
だから消してしまえって理屈が今まで日下部さんが襲われていた理由なのね」
「私は“お宝”なのか…」
「で、今になってやっと本音に近い話が出てきたって事でしょ?あなたが欲しいって」
「…まぁ、そうなんだろうけど…」

ツグミの身も蓋もない要約に苦笑するしか無いまろん。間違ってはいないとも
思えますが、さりとて何処か納得出来ない部分もある様な気がします。もっとも
何処がどうと具体的に言えなかったので、まろんは反論はしませんでしたが。

「で?」
「で?」
「日下部さんはどうしたいの?」
「どうしたら良いと思う?」
「したい様にすればいいのよ」
「そんなぁ…」

期待した答と違って、突き放された様に感じてしまうまろん。もっとも、どんな
答を期待していたのかは自分でも判っていた訳では無いのです。

「どうしたら良いかって、他の誰かにも聞いた?」
「ううん。稚空達には、ありのまま話したけど。それにこんな話を出来る相手って
あんまり居ないし」
「確かにね。でも、聞く相手が沢山居ても同じだと思うの」
「どういう事?」

ツグミは冷めたお茶で口を湿らせてから続けます。

「日下部さん、割と流されちゃう方でしょ」
「ぅぅぅ…」
「沢山の話を聞くと迷っちゃうわよね、きっと」
「…」
「そうするとね…」

わざと言葉を切って、それからツグミは良いました。

「秤にかけたくなってくる」
「はかり?」
「そう。どっちが悲しむ人が少ないかとか…ね」
「だって、それは」
「これはそういう決め方をしては駄目な事の様な気がするの」
「それじゃどうやって」
「だから、日下部さんが“どうしたいのか”をまず考えて。私はそれに賛成するから」

まろんはじっとツグミの顔を見詰め、それが彼女の答えなのだと理解します。

「…わかった。もう少し考えてみる」
「それがいいわ」

それからツグミは微笑みながら付け足します。

「それで、私の家で考えていく?」
「えっと…ゴメン。今日は帰る。食いしん坊さんに何か作ってあげないと」
「ああ、セルシア。彼女食いしん坊なの?」
「うん」
「それじゃ、今度は連れてきて。私が何かご馳走するから」
「ありがとう。喜ぶと思う。それでね、明日なんだけど」
「新体操の大会でしょ?でも、日下部さん出ないのよね」
「そうなんだけど」
「じゃ、行かない」
「了解。全国大会は応援に来てね」
「ええ、もちろん」

玄関先で時間を掛けて別れを惜しんでから、まろんは帰っていきました。
すっかり気配が見えなくなるまで待って、ツグミは呟く代わりに小さな溜息を
ひとつ。私はどうして肝心な時には引き止めようとしないのかしらね、と。

(第171話・つづく)

# ちなみに記事のぶら下げ方を変えてみたのは、この方が
#(大抵の)ニュースリーダでスレッド一覧を表示した際に右に
# びよ〜んと長くならなくて済むかな?と思ったりした為です。

では、また。

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