From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 23 Jun 2003 00:30:23 +0900
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佐々木@横浜市在住です。
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。
# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。
★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その2)
●桃栗学園
朝練を終えて教室に現れたまろんと都。二人が夫々の席に着いた事を確認してから
稚空がそっとまろんに歩み寄ります。
「ちょっといいか」
予想通りの展開でしたから、まろんは無言で頷くと先に稚空を行かせ少しの時間を
置いてから後を追いました。やがて辿り着いたのは校舎の屋上。
そしてこれも予想通り、稚空の他にアクセスとトキも待ち構えていました。
「来たよ」
「おうっ」
「お早うございます」
柵に背中を預けて並んでたたずむ稚空とまろん。それっきり互いに何も言い出さず
黙っていました。沈黙を打破したのは少し離れた柵の上に座っていたトキ。
「昨夜の事を話してください」
まろんは少し苦笑気味に応じます。
「単刀直入だなぁ」
「今後の我々の作戦行動に影響がある部分だけで結構ですので」
「俺は…」
「何、稚空?」
「いや、何でも」
「そう…」
それからちょっと考えをまとめる様に間を空けて、まろんは語りました。
「フィンに魔界に来ないかって誘われたの」
「何!」
「成程」
稚空とトキはそれぞれ正反対の反応を見せ、ひと呼吸遅れてアクセスが呟きます。
「俺も誘われた」
「何!」
「何ですって?」
今度は稚空とトキの反応が同じでした。
「朝からぼんやり考え込んでいたのはその所為か」
「まぁな」
「それで返事は?」
トキの質問はどちらへとも無く向けた物でしたが、先に返事をしたのはまろんです。
「返事はしてないの」
「賢明です」
「何でだ。考えるまでも無いだろ?断われよ、そんなの」
「だって」
「やっぱり…その、あれなのか…」
何を言いたいのか手に取る様に判りましたが、敢えて食い下がってみるまろん。
「あれって何?」
「だからっ!」
稚空が思いのほか気にしている様子なので、まろんは惚けるのは止めました。
「そんなんじゃ無いって」
「じゃぁ何だ」
「どうしよっかなぁって」
「どうって、どういう事だよ!」
「結論はどうあれ、返答しなかったのは賢明です」
「賢明って何だ!」
「まぁまぁ…」
「落ち着けよ、稚空」
確かにやや興奮し過ぎだと自分でも思ったのか、稚空はすぐに大人しくなります。
その様子を確認してから続きを話すまろん。
「私自身、良く判らないんだ。フィンがどういうつもりで私を魔界へ誘ったのか。
もちろん、フィンを信じてない訳じゃないけど。それで何がどう変わるのかとか、
考えてると頭が」
まろんが頭を抱えて呻いて見せたのは半分は冗談でしたが、半分は正直な気持ち。
それを理解したかしないかは判りませんが、トキはまろんの行動を重ねて肯定します。
「それで良かったのです。返答しなければ当面時間が稼げますし」
「あ、それは違うみたい」
「何故でしょう?」
「フィンの誘いは魔界の総意って訳でも無いらしくて、こっちに残ってる悪魔達は
フィンの留守中も襲ってくるだろうって言ってた。ミストが居ないから多分正攻法に
なるんじゃないかな?っても言ってたかな」
黙って聞いていた稚空が再び突っ込みを入れました。
「何だよそれは」
「まぁ違う道もあるんだけど当面今まで通りって事?」
「ふむ…」
トキはしばらく考え、それから改めてアクセスに問います。
「で、アクセスは何と返事を?」
「俺はフィンちゃんに戻ってくれって言った」
「断わられましたね?」
「……ああ」
「当然です。今の天界にフィンさんの居場所はありません。残念ながら」
「だけど!」
トキは片手を上げてアクセスを制します。
「今は、です。時間はある。じっくりと考えてみましょう。それより目先の問題に
ついて考えるのか先です」
「…判ってる」
「そろそろ」
言いかけたまろんの言葉をホームルームの時間を告げる電子音が遮りました。
「という理由なんで、また。稚空、戻ろう」
「おう」
手を振ってから校舎内に姿を消した二人を見送りつつ、トキは考えていました。
まろんが魔界を選んだ場合に天使である自分達はどうする事になるのかを。
●魔界・王宮
魔王への現状報告を兼ねた協議の為に二度目となる一時帰還を果たしたフィン。
先ずは帰還の挨拶を、という事で謁見の間へと急ぐ彼女の歩いている廊下の遥か
先に人影が見えていました。王宮においての諸々を二つに分ける表現として
“表”と“奥”という言い方がしばしば用いられていました。“表”とは魔王の
公の仕事であり、その仕事場である王宮の開かれた部分であり、そしてその場を
色々な意味で清潔に保つ役目を担う者達の事。対する“奥”は魔王の私的生活で
あり、彼自身の生活の場であり、そして誰も多くは語らない部分。しかし王宮の
仕事において、表と奥のどちらにも携わる役目がひとつ存在しました。
何時の時代からか侍女と呼ばれている彼女達は、表奥を問わず魔王の身の回りの
雑事総てを支えています。それ故、彼女達は身許を厳しく調べられた上で王宮に
召された由緒正しい家柄の者ばかり。そんな中にあって唯一人公式に出身種族不明
となっている者がおりました。今、フィンが進む先で頭を下げてじっとフィンが
通り過ぎるのを待っているのがその唯一人の侍女。足早に近づいたフィンは躊躇無く
彼女の前に立ち止まって肩をぽんと叩きました。それを合図として、恭しく口を
開く侍女。
「クィーンにおかれましては」
「それはいいから」
「…いいですか?」
「ええ」
「では」
今まで下げていた頭をぴょんと弾ける様に上げる侍女。紺色のすっぽり身体を覆う
ドレスの上に白い生地で作った身体の前半分しか被わず飾りひだの多い妙な服を
重ねた衣装。それは人間界から伝わった服装とされていて、魔界では王宮を含む
高貴な者の住まう場所でしか見られない物です。フィンをじっと見詰める侍女の目は
少し吊り目気味で、悪戯っぽい光を帯びた瞳とともに、笑うだけで何か悪巧みをして
いる様な或いは相手を馬鹿にしている様な印象を与えます。その所為で最初は彼女の
事があまり好きでは無かったフィン。勿論今は、それが単なる誤解でしか無いと
フィンは知っています。
「エリス、こっちに戻っていたのね」
「フィン様がいらっしゃらない間、離宮に仕事はありませんし」
彼女は魔界へやって来たフィンに住居として与えられた離宮付きの侍女で、
魔界の細々とした知識をフィンに教えた間柄でもありました。
「もう聞いているとは思うけど、竜族の生き残りと合流したわ」
「はい。こちらの竜族の集落にも噂として伝わった様です」
じっとエリスを見詰めるフィン。言葉を促す様に少し首を傾げて見せます。
真似する様にやはり首を傾げるエリス。赤い瞳がきらきら動いています。
待ち切れなくなって、フィンはエリスの額を指でピンっと弾きました。
「白状なさい」
「え?何の事です?」
「惚けないの。竜族の生き残りが人間界に居るかもしれないって話を私に聞かせたの、
偶然じゃ無かったわね?」
「マズ〜ぃ。気付かれました?」
「ずっと引っかかっていたの。合流した竜族に一人だけ居た女の子の顔立ちが。でも
何処か怯えた感じの彼女と、何時も溌剌としている貴女が中々結びつかなくって」
エリスの顔に先ほどまでとは比べ物にならない期待に満ちた笑顔が浮かびます。
「それじゃ!」
「でも貴女に逢って全部合点がいったわ。エリス、あのアンって言う娘の…」
エリスは咄嗟に指を突き出してフィンの唇をちょんと押さえます。
「たとえクィーン・フィンでもその先は言っちゃいけませんよ」
「あら、何故?」
「魔王様と竜族との間の契約ですから」
何の事やら微妙に判りかねましたが、彼女がそう言うならと大人しく引き下がる
フィンでした。それでもこれだけは伝えなければ、とフィンはある事を思い出して
少し暗い気持ちになるのです。
「でもね、彼女の…事なんだけど」
「心を病んでいるのですね」
「そこまで伝わって…いいえ、判るのね?」
「判ります。アンは私の半分ですから」
今度はぎこちない笑顔がフィンの前にありました。
「でも、そこまで判るなら何故はっきりと大切な誰かが居るって言わなかったの?
私に遠慮なんかするはず無いと思うんだけど?」
「絶対の自信は無かったんです」
「生きているかどうか?」
「死んではいないとは思いました。アンが死んでいたら、私も生きてません」
“生きていない”という彼女の言葉。それが感傷的な意味での事なのか、もっと
霊的な意味での話なのかフィンには区別出来ませんでした。或いは両方の意味かも、
そう理解するに止め、フィンは敢えて質問を発しはしませんでした。
「でもはっきり生きているとも。生きていれば声が、離れていても声が聞こえるはず
なんです。アンの声がしないのが距離の所為なのか、別の理由があるのか…
それが判らない以上、人間界以外の場所に捕らわれている可能性も考えられました。
だから、人間界の生き残りに関して、ある程度客観的な事実のみをフィン様に」
「そう…意外と慎重ね」
「何だか心外な事を言われている気がします」
彼女の笑顔が少し普段の顔に戻った様に思え、安堵するフィンなのでした。
*
謁見の間に入ると、普通なら後から姿を現すはずの魔王が既に玉座に腰を下ろして
待っていました。慌ててひざまずこうとするフィンを魔王が制します。
「堅苦しい事はよい。それより」
「は?」
魔王はフィンから視線を逸らして彼女の後方の柱をじっと見詰めました。
そして良く通る声で呼びかけます。
「エリス。出ておいで」
「は〜い」
返事と共に、紺と白の飾り気の多いドレスを着たエリスが柱の影からフィンの背後に
ぽんと飛びだしました。両手を後ろで組んで上半身を傾げているものの、彼女の
行動は他の者が見せるような服従の態度とは明らかに異なっていました。
どちらかと言うと娘か妹が父か兄の言葉に耳を傾ける様な、というのがフィンの
印象です。そして侍女達が皆そうである訳では無く、エリスだけがこうなのです。
最初にこの様子を見た時には驚きましたが、今では単にそういう事と認識している
のでした。そして何故彼女が魔王に対してこの様な態度で許されるのかの理由を
フィンは未だに知りません。
「あの、ですね」
「条件は二つだ」
「はいっ!」
「現地ではノインの邪魔をするな。情況に応じて彼の指示に従う様に」
「魔王様」
「なんだい?」
「今ので条件が二つですね?」
「黙って最後まで聞け。今のが一つ目」
「ズルいです。今のは二つの話が混ざってますよ?」
「では、他の者を送る事にする」
エリスは口をヘの字に曲げて魔王をじっと見詰めていましたが、やがて口惜しそうな
声を搾り出して言いました。
「もう一つは何ですか…」
「あまり暴れない様に」
「了解っ!」
そのままくるりと背中を向けて走り出したエリスの背中を魔王の声が叩きます。
「待て」
ぴたっと停まって顔だけを魔王の方に向けてエリスが問います。
「まだ何かあるんですか〜?」
「これを持って行け」
魔王は手元の紙片に何か書き付けると彼女に向かってそれを投げてよこします。
それはまるで生きているかの様に自らを幾度か折り畳み、フィンの頭上を越えて
エリスの手元に届いた時には一通の封書となっていました。
「何ですか、これ?」
「向こうでノインに渡せ。後は彼が上手くやる」
「他には?」
「行ってよし」
「ではっ!」
送り出す言葉をかけようとフィンが振り向いた時には、そこにはもう誰の姿も
ありませんでした。
(第171話・つづく)
# 掻き乱せ(違)とのお達しがあったので好き勝手書いてます。^^;
では、また。
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