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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 28 Dec 2001 12:19:09 +0900
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佐々木@横浜市在住です。
例の妄想の続きです。(第157話/5本目)
# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。
★神風・愛の劇場 第157話 『還る』(その5)
●桃栗町 県立桃栗体育館跡地
勿論フィンには判っていた事です。ミストにとっての今の肉体に何の意味も
無い事は。ミストの胸に穿たれた穴は穴の周囲から滲み出す靄に即座に埋め
つくされ、見る間に元通りの外見を取り戻していました。
「張り合いが無いわ」
「がっかりさせて悪いな」
「いいのよ、がっかりには慣れてるから」
再びフィンの手許から放たれた一条の光。ミストは球体を産み出す代わりに
光を遮ろうとするかの様に手のひらをかざします。フィンの放った光は
ミストの手からやや離れた位置で跳ね返ると、力を弱めながら目標を見失って
何処か空の彼方へと飛び去って行きました。ミストへと向かう攻撃の角度を
少し変えて数発の光を放ってから、フィンは小さな溜息をふぅと吐きます。
「そうよね、やっぱり」
正面からの単調な攻撃が効くはずも無いとフィンは今更ながらに納得して
いました。精神を集中させて心にあるイメージを結合させるフィン。
やがてフィンとミストを隔てる空間に先程フィンが出して見せた光球が数個、
ふわりと浮かびました。やがてそれは数を増して行き、ミストの背後にも
現れ始めます。それらは不規則に漂いながらも互いに近づき過ぎない様に
配置されている様に見えました。ミストは両手を頭の後ろに組み、のけ反る様に
して背後を見やります。足が地を離れていた為に仰向けになって宙に
浮かんでしまいましたが、ミストはそのままの姿勢を保っていました。
やがて周囲を囲んだ光球から数条の光が飛び出してミストを襲います。
それらはミストの正面だけでは無く、背後や頭上、足下からもやって来ました。
ですがミストの身体はのらりくらりと宙を動き続け、光はことごとくその身体を
かすめ飛ぶだけで触れる事はありませんでした。行き交う光条が増え、まるで
一帯が茨の茂みの様に埋め尽くされても傍目には何処に有るのかすら判らない隙間を
漂い続けるミスト。やがてふっつりと光条は途絶え、同時に球体も掻き消えました。
フィンは呟きを洩らしますが、それほど残念がっては居ない様でもあります。
「数を撃てば何とかって訳にもいかないか」
ミストは上体を起こしてフィンを見上げると応えます。
「光は単調だからな。真っ直にしか飛ばない」
「そうね」
消えていた球体が唐突に浮かびミストを取り囲むと全ての球から光条が発します。
一点に向かって収束する光条の中心に居るのはミスト。しかしミストの身体も
また一瞬で黒い球体に包まれて、光条は全て弾かれてしまいます。
「強化しての一点突破は簡単に避けられる。囲い込みは弱々しくて避ける必要も
無し。つまらんね」
それを聞いたフィンの顔に笑みが浮かびます。
「それでは、お望み通りに」
ミストの周囲の光球が一斉に小さく萎みました。そして間髪入れずに発する
光条は先程までの黄色い光では無く青白い光としてミストに向かい奔ります。
黒い球体を突き抜けた光は球体の反対側から飛び出し、その様は寧ろ黒い球体
から光条が発している様にさえ見えました。そして黒い球体が消失すると中から
まばゆい光が溢れ、そしてその光も瞬時に消えました。そこに残ったのは無数の
穴の空いた人の形を辛うじて保った塊でした。手足を広げて水面に浮かんでいる
人形の様にも見えますが、所どころのパーツは完全に胴体とのつながりが切れて
しまっています。それでも元々在ったであろう場所に留まってふわりと浮かんでいる
様は奇怪でした。言うなれば切り刻まれた死体なのですが、血も出なければ
内臓が飛び散る訳でも無い為に肌色の紙切れが漂っていると見えなくもありません。
それもほんの纔かな時間だけの事でパーツ同士の間はすぐに埋まって行き、あっと
言う間に人の姿をした物が再生されました。ひと呼吸遅れて再生した服装だけは
先程までとは違っていましたが、それがどういうつもりなのかはフィンには
判りませんでした。仰向けの姿勢をそのまま真っ直に起こしてミストが言います。
「酷い女だな」
「何がよ」
フィンの問いかけに答える様に、ミストは握っていた手のひらを開いて見せます。
黒焦げで、灰になる寸前の何かがそこにはありました。
「絹の下着が台無しだ」
そしてミストはクスクスと笑い始めるのでした。フィンも続けて笑顔を見せながら
応えます。
「服も紛い物なんだと思ってたわ」
「素肌に触れる物だけは別なんだ」
「どうして?」
「感触を楽しむ為さ」
破顔一笑してフィンは言いました。
「面白くないわよ、全然」
「残念だな。温めておいた冗談だったんだがね」
「もっと熱く温め直しな」
再度無数の光条がミストを貫き、その身体は千切れた破片となり果てます。
そしてまた同じように元の形へと再生します。
「ねぇミスト」
「何だ?」
「下着が勿体無いから裸で居たらどうかしら」
「悪くない提案だな」
「でしょう?」
四散する度に再生するミストの身体。フィンは飽きずに何度も繰り返します。
その間暫く無言で居た二人でしたが、先に沈黙を破ったのはミストの方でした。
「飽きたなぁ、いい加減」
「私は楽しいけど。あんたが飛び散るとスカっとする」
「そろそろ着替えもネタ切れだ」
「だから段々デザインがおざなりになる訳?」
「ああ」
フィンは口の端を緩めてミストを見詰めました。そして一言。
「違うでしょ?」
「あん?」
「服装が簡単になってきているのは、余裕が無いからよね」
「ほう…」
「その服の下だって再生し切れて無いんじゃないかしら」
「試してみるがいいさ」
「そうする」
熱と静寂。次にミストの身体が再生したとき、その服装はその日フィンが見た中では
一番豪勢なドレス姿でした。そして肌の露出が最も少ない服装でもあります。
「ほら。隠そうとしてる」
「今は女の武器を使う時では無いだろう」
「あるんなら使ってみれば?」
「好き者だな、お前」
フィンの予想に反して、駆け引きを繰り返すでも無くミストはあっさりとドレスを
脱ぎ捨ててしまいました。纔かな部分だけを小さな布切れが隠したミストの
身体は、しかし何処にも足りない部分はありません。訝しむフィンの視界の中で
ミストの姿がぼやけ始めていました。
「ミスト、やせ我慢の限界かしら」
「その言葉、そっくり返しておこう」
「何…」
言い返してやろうと思ったそのとき、フィンは妙な事に気付きました。ミストの
背後に見える風景までもがぼやけています。そして何時の間にかミストは眼下では
無く、フィンを見下ろす位置に立っていました。フィンは手に触れた何かを
掴んで自分の目の前に持ち上げて見ました。良く目を凝らして見ないと判らない程
に霞んだそれ。それが小さな石ころだと判ると同時に、フィンは尻餅を着く様な
格好で地面に降りていました。もっと正確に言うならば、緩やかに墜落して
居たのですが。フィンは理解します。ミストが浮かび上がったのでは無く、自分が
落ちたのだと。そして自分はミストにあしらわれて調子に乗ってしまっていた事も。
●オルレアン
そんな事をしても何にもならない。それでもまろんは足下に拡がる光景を
黙って見ている気にはなれませんでした。それは居合わせた皆とて同じ
でした。稚空には特別な考えがあった訳ではありません。ただ、その思いだけ
は伝えておきたい。そう考えたのかもしれません。まろんの肩に手を掛けて
彼女の見込の無い試みを制しました。肩越しにまろんは稚空を見上げます。
「…」
「よせ。叩いても無駄だろ」
「案外そうでも無いかも知れませんよ」
まろんと稚空、それにセルシアは同時に声のした方を振り向きました。
リビングから玄関へと通じる戸口に、何時の間に移動していたのかトキの姿が
ありました。どうやら自分達が置かれた情況を確認して来たらしく、今まさに
リビングへと戻ってきた所の様です。トキが行動を起こした時点から様子を
見守っていたのでしょう、アクセスだけは最初から彼の方を見ていました。
まろんは知り合って間も無い友人未満の客に対して遠慮がちに、それでも期待を
込めた質問を発します。
「何、何かいい考えでもあるの」
「窓、ですね」
「え?」
トキが足下の影像を指差して小さく頷いて見せ、それから話を続けました。
「周囲の、正確にはお二人の部屋を囲んでいる結界は空間を歪めて出口に当る部分
を相互に繋いだ物の様です。閉じた輪になっていると言い換えても良いでしょう。
それは」
トキを除く四人は"それ"、床に拡がる光景に一瞬目をやり再び顔を上げました。
「同じ理屈で遠くの景色を見せているのだろうと推測します」
「つまり?」
先を促すまろんの言葉が然程慌てている様には聞こえなかった事が稚空には
意外でした。トキに対する遠慮が控えめな態度になっているのだろうか、それとも
トキの言おうとしている事を察して成功を確信したのか。
「ですからそれは窓なんですよ。そこから向こう側に出られる可能性が」
「どうやるのっ?」
話の途中で結論を求めてしまうまろん。それでこそまろんだと稚空は関係無い事に
感心していました。トキ自身はそんな事は構わずにアクセスとセルシアに目配せを
します。そしてまろんの目を見て言いました。
「少々、危険があるかも知れませんがよろしいですか?」
「うん」
異論などあるはずも無い、そう言いたげに力強く頷くまろんでした。
トキは軽く頷き返すと床に拡がる光景の真ん中にまろんを立たせました。
そしてまろんの周囲を囲む様に立つ三人の天使。トキがアクセスとセルシアに
簡潔な指示を与えている間、まろんは足下の光景を見詰めていました。
フィンとミストが戦っている事は判りますが、何故なのかは想像してみるしか
ありませんでした。そんな矢先、ずっと優位に戦っている様に見えたフィンが
突然倒れたのです。まろんは息を飲みましたが、今は待つしかありません。
天使達を見回すと、三人はそれぞれに手を床に着けて結界に対して働きかけて
いるらしいと判りました。具体的に何をしているかまでは、まろんには判りません
でした。好奇心から三人の会話に耳を傾けるまろんに届いたのは。
「人間界に着いたと思ったらいきなりの力仕事で悪魔族の結界破り。今度は
人間界由来の術破りですか。もう少し楽な出張だと思っていたのですが」
「遊びに来た訳じゃないですです」
「来る前は"お弁当どうしましょう"とか言ってニコニコしてませんでしたか?」
「…そんな事、無いですです…」
「お前ら、集中しろよぉ」
「私には集中なんかしなくても補って余り有る実力がありますから」
「頑張ってるですですぅ」
「嘘つけ」
ミシッ。何かが軋んだ音、まろんがそう思った時には身体がふわりと浮かんだ
感覚が身体を包んでいました。実際は足場が突然無くなって、落ちているだけ
だったのですが。反射的に上に向かって伸ばした手に向けて、稚空が手を差し
伸べて居た様にも見えましたがすぐに見えなくなりました。遠くなったという
よりは忽然と消えてしまった感じです。ちょうど同じ頃、稚空はひびが入りめくれ
上がった床板を茫然と見下ろしていました。同じく足下を見詰める三人の天使達。
まろんの姿と同時に拡がっていた光景はすっかり消えていました。
「どうやら成功しましたね」
トキがそう呟くと稚空とアクセスも安堵した様子を見せました。ですがセルシアは
足下から目を離さないトキの様子が気になっていました。そっと傍に寄って
耳元で囁きます。
「トキ?」
「…何か?」
「…えっと…」
「ああ、失礼。何でもありませんよ。今度は我々の番です、皆で出て行ける
大穴を開けますよ」
「はいですです!」
トキはそう言いながらも内心では次の穴は開かないかもしれないな、と考えて
いました。
(第157話・つづく)
# その6(最終)はすぐ後に流します。
では、また。
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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
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