神風・愛の劇場スレッド 第156話『誤算』(その1)(10/21付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 21 Oct 2001 17:21:56 +0900
Organization: So-net
Lines: 556
Message-ID: <9qu0j7$cda$1@news01cc.so-net.ne.jp>
References: <9po8cv$ho1$1@news01dj.so-net.ne.jp>
<9poaug$211$1@news01ci.so-net.ne.jp>
<9q62k5$ss0@infonex.infonex.co.jp>
<9qb785$d74$1@news01bi.so-net.ne.jp>
<9qope5$1nh@infonex.infonex.co.jp>


石崎です。

hidero@po.iijnet.or.jpさんの<9qope5$1nh@infonex.infonex.co.jp>から
>佐々木@横浜市在住です。

こんにちわ。

 このスレッドは、神風怪盗ジャンヌのアニメ版の設定を元にした妄想スレッド
です。そう言うのが好きな人だけに。

>はいです。では今後はそういう手順という事で。

 …という具合に本記事で談合がまとまりましたので、事前に私パートである事
に話し合いがまとまっている「地区大会編」について今回から2〜3回程私こと
石崎パートを続けさせて頂きます。佐々木さんのファンの方には申し訳ありませ
んが、暫くお付き合いの程を。
 今週は第156話(その1)をお送りします。



>>> > >> ★神風・愛の劇場 第152話『大芝居』
>
>>> #原作では学生の時に出来ちゃった婚みたいだし(謎)。
>
># 迂闊だったのはどっちだろう。(笑)

 委員長があれを買うのが恥ずかしくて買えなかったからが原因に一票(笑)。

>>> > ★神風・愛の劇場 第153話 『ぬるま湯』
>
>それはそれでラブコメとしては面白いネタになりそうです。^^;;
># まろんちゃん自身に心の余裕があれば即実行しそう。

 …で、それを本気でやると連載がもう1年伸びてしまいそうです(爆)。

#やりませんよ(笑)。

>>> ★神風・愛の劇場 第154話『傍観者』
>
>元々、まろんちゃんの行動というのは純粋な愛情とは違っていて、寂しさの
>裏返しから誰かの傍に居たいという感じが強かったかと思っているのですが、
>それをズバリ指摘されてしかも自分自身で納得出来てしまった様ですね。

 同時に多人数とお付き合いしても罪悪感を感じていないのは、多分普通の愛情
とは違うのだろうと前から思っていて、それを書いてみました。

>でもフィンは面白くなかった様子。まろんちゃんが徹底的に抵抗すれば
>溜飲が下がるかもしれない、とそんな事をフィンは期待していたのかも。

 徹底的に抵抗していたらそれはそれで萎えていたかも。
 一番フィン的に満足出来るのは、最初はもの凄く嫌がっているけどじきに言い
なりのパターンかと思っていました。
 つまりは普段のフィンちゃんと同じ(笑)。

># だが、中途半端は良くないぞフィン。
>## で、どこまで脱がしたのかなぁっと…(核爆)

 例によってわざとその部分については記述していないのですが、脱がしかけの
状態と言うのが絵的には一番萌えるのでは無いかと思うのですが(笑)。

#わりと脱がしがいのありそうな服装ですし(違)。

>最後の詰めを行うのは自分でなくても構わないというノインの考えを
>ミストは判ってなかったんですね。割と当初からそういう風に見えているかと
>思ったのですが。

 一度ノインが誰が止めを刺そうと構わない風な発言をミスト自身に対して言っ
ていましたね、そう言えば。

#で、ミストは聞き流していたのでしょう(笑)。

>★神風・愛の劇場 第155話『うたた寝』

 とうとう悪のアジト(違)まで辿り着いたツグミさん2号。
 ツグミさん達が迷い込んだ異空間で、ノイン自身が気が付いていなかった点と
言うのは、ひょっとしてこの事なのでしょうか。

 シルクの事を「息子」というミストですが、これは単にノインとシルクの普段
の生活を差して皮肉っているのか、それともシルクの出生自体に何か秘密がある
のか…。

#原作でも具体的にどう創ったのか描かれている訳でもないので。

 アキコの寝室に招き入れられたツグミさん2号。
 寝室という事で邪な妄想の方が先に立ってしまったのですが、多分話をしてい
るだけなのでしょう。
 でもその内容ってツグミさんには伝わっているのかな?

#「夢」として見ていそうな気がします。
#そしてツグミさん2号がイカロスと出会っていたとするならば…。

 では、本編へと続きます。


★神風・愛の劇場 第156話『誤算』(その1)

●桃栗町・県立桃栗体育館

 国や地方の官公庁が集まる桃栗町の市街地西部地区の一角。
 そこにある公園の片隅に、近頃完成した県立桃栗体育館はありました。
 無駄な装飾、使う者のことを考えていない機能性の素晴らしさは、この建物の
設計時期を訪れる者に教えてくれています。
 にも関わらず、この体育館の規模は大きく、施設も整っていたために、新体操
の地区大会の会場として選ばれていたのでした。

「総員配置につきました!」
「うむ」

 いつものコート姿では無く、ラフな格好をしている氷室に、夏田刑事が報告し
ました。
 以前、別の会場で新体操の夏季大会が行われた時、やはり怪盗ジャンヌが現れ
て大会優勝トロフィーを密室から盗み取っていました。
 そして今回の大会で再び届いたジャンヌからの予告状。
 事情聴取と警備の打ち合わせに訪れた氷室に、大会関係者が「今度は大丈夫な
んでしょうね」と嫌味を言ったのは、当然と言えば当然。

 そんなこともあり、今度こそはジャンヌを捕まえるべく、氷室は静かな闘志を
内に秘めて普段よりも熱心に、それこそ家にも帰らずに警備計画を立てていたの
です。
 もっとも、氷室が今回の作戦に非常に熱心なのは、この大会に愛娘とその親友
が出るからという事情もあったのですが。

「それでは配置を見て回るとするか」
「はい」

 体育館の外周と内部を秋田刑事を連れて氷室は巡回しました。

「やはり通路が狭いな」
「はい。余り多くの入場者を想定していない作りのようです。最大収容人員を考
えると奇妙な事なのですが」
「防犯設備も不十分だ」
「予算が足りなかったそうです。それと、取られて困るものがそもそも少ないと
か」

 今回の警備計画上一番の問題となったのは、怪盗ジャンヌの予告状にあった
「新体操の美しさ」が一体何であるのだという点についてでした。

「前回同様、優勝トロフィーでは無いでしょうか」
「いや、大会そのものをぶち壊すつもりなんですよ」
「それじゃテロリストだ」
「……レオタード……」
「馬鹿!」

 といったやりとりの末、結局はどこが狙われても良いように、均等に警官を配
置せざるを得ませんでした。
 他にも問題はありました。
 大会主催者側から、参加者や観客に不安を与えるので、警官を余り目立たない
ようにして欲しいとの要請がそれでした。
 実のところ氷室としては、愛娘が大会に専念できるように予告状の事を話して
いないという事情もあり、この申し出は渡りに船、という側面もあったのですが、
とはいえ警官の配置を疎にすれば、ジャンヌがそこに付け入るのは目に見えてい
ます。
 しかしその問題は、問題を持ち込んだ当の大会主催者側からの新たな提案によ
って解決を見てはいたのですが。

「うむ。問題は無いようだな」
「はい。後は我々が現場を指揮しますので警部は…」
「済まない。何かあったらすぐに呼んでくれ」


●枇杷町・山茶花邸

 地区大会の朝。弥白の目覚めは良いものでした。
 本番に備えて早めに寝たからでもありますが、理由はそれだけではありません。
 目覚めるまで見ていた夢が甘美なものであったのがもう一つの理由なのでした。

 大会が終われば、夢が現実になるのだわ。
 そう思うと、自然に顔が綻びます。
 その様子を弥白付きのメイドが不思議そうに見ていることにも気付かずに。
 この時の弥白は、自分がこの大会で優勝することを微塵も疑っていなかったの
でした。


●桃栗町

 その朝は珍しくも、まろんの方から都の家を訪れました。
 まだパジャマ姿のままで歯を磨いていた都は呟きました。

「こりゃ、今日は嵐だわ」

 そのような訳でしたから、今日は二人はのんびりと会場に向かって歩いて行き
ました。

「珍しいこともあるものね。まろんが寝坊しないなんて」
「昨日眠れなくって」

 と言うと、まろんは口を大きく開けて欠伸をしました。

「やっぱり緊張してる?」
「うん…」
「あら意外。まろんはこういうプレッシャーには強いって思ってたけど」
「私はこれでも繊細なの。都とは違って」
「あらそう? まろんに比べればあたしの方がずっと繊細だと思ってたけど」
「どういう意味よ」
「まろんが鈍感ってこと」
「何を根拠に」
「そうね、例えば…」

 都は何かを小さく呟きましたが、まろんの耳には届きませんでした。
 それでまろんは都に何を言ったのか聞いたのですが、結局都が口を割ることは
ありませんでした。


●オルレアン・ミストの隠れ家

「それじゃあ行って来るわよ」

 リビングからアキコの部屋である寝室──まろんの寝室の真下──に向け、ミ
ストは声をかけました。
 もっとも、それがアキコに届いているのかは判りませんでしたが。
 寝室の中を覗くような無粋な真似はしませんでしたが、どうやら昨晩訪れた珍
客は、未だアキコの部屋に居続けているようなのでした。
 そこで二人が何をしているのか。
 知ろうと思えば知るのは実に簡単な事ですが、確かめようとはしませんでした。
 如何に空間を超越して物事を見通すことの出来るミストと言えども、ありとあ
らゆる出来事を同時に監視する事は不可能でした。
 今のミストにとって、アキコが何をしているのかは、今進めようとしている作
戦に比べれば大事の前の小事に過ぎなかったのでした。


●桃栗町・県立桃栗体育館入り口

「随分凄い人出ね」

 体育館の前まで辿り着いたまろん達が目にしたものは、会場に入ろうと並んで
いる観客達の長い行列でした。

「何か他にイベントでもやっているんじゃないの?」
「父さんの話だと、今日はこの大会だけの筈よ」
「あれ? 都のお父さん、今日はここで仕事なの?」
「ううん。父さんは今日は休んであたしの応援に来てくれるみたい」
「良かったじゃない。…と言うことは、この行列はひょっとすると」
「みんなあたし達の演技を見に来たってことね」
「どうしよう。ドキドキして来ちゃった」
「あら? 観客が多い程燃えるタイプだと思っていたけど」
「さっきも言ったじゃない。私はこれでも…」
「はいはい」

 まろん達大会に出場する選手や関係者の出入り口は別にありましたので、そち
らにまろん達は向かいました。

「随分警備が厳重ね」
「そうだね」

 体育館の外周に沿って、それこそ人間の鎖を作ることが出来るような間隔で、
警備会社のガードマンが並んでいるのでした。
 前回の大会の時にも警備会社のガードマンは立っていましたが、これ程の数は
居なかった筈なので、かなりこれは奇妙なことでした。

 そして、「選手・大会関係者入り口」と書かれた立て看板の前に辿り着いたま
ろん達は、こちらでも短い行列が出来ていることに驚きました。
 何かあったのだろうか。
 行列の先頭──入り口の辺りの様子を見たまろんは、そこに居る人物を見て、
事情を理解しました。
 事前に写真家の三枝から聞いていた話。それが理由なのでしょう。
 わざわざ警察まで呼ぶとは意外でしたが。
 しかし、都は別の理由を思いついたようでした。

「秋田さん? まさか、あたしに内緒で…」
「内緒って?」
「秋田さんが居るってことは、予告状が出たんじゃ無いかしら」
「予告状? 怪盗ジャンヌの?」
「予告状って言ったらそれ以外何があるのよ」

 怪盗シンドバットだって予告状を出すじゃない。
 まろんはそう言いかけて止めました。

「でも、今日は違うんじゃないかな」
「なんでまろんにそんな事が判るのよ」
「それは…」
「秋田さんに話を聞いてみる!」
「あ、都! 割り込んじゃ駄目だよ」

 秋田に向かって真っ直ぐ歩いて行こうとした都を慌ててまろんは止め、素直に
行列の最後尾について様子を確かめました。

 入り口に立っているのは秋田刑事の他にはスーツ姿の女性が何人か。
 そして奥には空港で見かけるようなゲート。
 恐らくは金属探知器なのでしょう。
 秋田刑事が並んでいる出場者や関係者に一人ずつ丁寧に声をかけ、スーツ姿の
女性が手荷物を一つ一つ開けて確認している様子が分かりました。
 そして、金属探知器に引っかかった人には別の女性がボディチェックを入念に
行っている様子でした。
 まろんが小さい頃両親と飛行機に乗った経験から考えても、国際線でもここま
で入念に持ち物検査を行ってはいなかったように感じられます。
 そう思い見ていると、ボディチェックを行っている女性の動きもどことなくぎ
こちなく見えました。
 恐らくは、彼女達も婦警──今は女性警察官だっけ──なのね。
 そうまろんは思います。

 それにしても、たかがいかがわしい写真を撮影されることを防止するために、
そこまでするなんてとまろんは驚きました。
 それともまさか別の理由が?

 数分待たされて、漸くまろん達の番が回ってきました。

「ちょっと、こんな所で何してんのよ、秋田さん」
「実はこれには訳がありまして」

 小声で都が秋田刑事に話しかけると、やはり小声で秋田刑事が事情を説明しま
した。
 その内容は、ほぼまろんが予想したとおり。
 写真投稿誌に前回の大会の参加者をいかがわしい視点から撮影した写真が掲載
されたため、それを未然に防止するためにカメラチェックを大会主催者側からの
要請で行っているというものでした。
 それも警察が表に出ない形で。

「そんな理由で警察がねぇ」
「県を通しての正式の要請でしたので」

 今一都は納得していない表情を見せましたが、素直にチェックに応じました。
 続いて、まろんの番。

「特にカメラとかは持ってませんよね」
「はい」
「一応、バッグを開けさせて貰って宜しいですか?」
「はい」

 秋田刑事はまろんのスポーツバッグを受け取ると、それを側にいた女性に渡し
ました。
 女性の鞄を男性である自分が覗き見る訳にはいかない、そういう事なのでしょ
う。
 この入り口に秋田刑事が配置された理由が判った気がしました。

「それではこちらに。何か金属製のものがありましたら、こちらのトレーに出し
て頂けますか?」

 まろんは、腕時計と財布をトレーに置き、ゲートをくぐろうとしました。
 足を踏み入れようとしたその時、問題があることに気付きましたが、ここで立
ち止まる訳にはいきませんでした。
 まろんの懸念は、チャイム音で現実のものとなりました。

「失礼します」

 そう言うと、ゲートの向こう側で待機していた女性がまろんのボディチェック
を行いました。

「このポケットの中に入っているものを出して頂けますか?」
「これはカメラじゃ無いんですけど」
「一応規則ですので」

 渋々、まろんはポケットの中に入れていた十字架状のものを出しました。
 ロザリオ・ラ・ピュセル。
 それが、「天使の羽根」が変化して出来た、まろんに怪盗ジャンヌへと変身さ
せる力を与える十字架の名称でした。
 出来た当初は名前を知らなかったのですが、地上界に戻って来た堕天使フィン
が、まろんの持っていた十字架を見てそう呟いたので、名前が判ったのです。
 今はまろんは細い鎖を輪にしたものにその十字架を繋いで持ち歩いていました。

 ──十字架だけならロザリオとは言わないのでは。

 以前ツグミにこの十字架の名前を教えた時に指摘されたからです。
 もっとも、普段から首に下げておくには少し大きかったので、あくまで飾りな
のでしたが。

「あら、これってロザリオですか?」
「え、ええ」
「あらまろん。こんなの持ってたんだ」
「あっ…」

 後ろから、都が顔を覗き、ロザリオをしげしげと見つめました。
 都にロザリオを見られたら私の正体がばれてしまうかも。
 それがまろんの懸念だったのですが、都は気付かずにすぐに関心を失った様子
なので、まろんはほっとするのでした。


●桃栗体育館館内

「随分と混んでますね」
「ああ」

 まろん達を応援に来て、会場前に出来ている行列を見て呆然としていた大和は、
稚空に声をかけられ、一緒に会場の中に入りました。
 その際に、ズーム機能付きデジタルカメラを見つけられたばかりか、カメラ機
能付きノートパソコンまで取り上げられてしまい、大和は少し落ち込みました。

 稚空と一緒に観客席に入ると、既に観客席は6割方埋まっている様子でした。
 窓から外を見ると、まだまだ観客がやって来る様子でしたから、開会までには
満席になってしまうのではと大和には思われました。

「ここら辺で良いでしょうか」
「そうだな」

 桃栗学園の生徒達が集まり、応援の垂れ幕の準備をしているのが見えたので、
その辺りに大和と稚空は腰を落ち着けることにするのでした。

「委員長、荷物見ててくれないか?」
「良いですよ」

 大和に荷物を任せると、稚空は姿を消しました。
 最初はトイレにでも行ったのかと思っていた大和でしたが、すぐに控え室に行
ったのだろうと気付きました。

「(僕も行くんでした〜)」

 そう思い大和は周りを見回しましたが、周囲に気軽に荷物の番を頼めそうな人
は居ないのでした。



「ここから先は関係者以外立入禁止です」

 まろんを応援に行こう。
 そう思い、選手控え室に行こうとした稚空は、途中で警備員に止められました。
 稚空は、桃栗学園の新体操部に友達が居るのだと説明しましたが、警備員は頑
として道を開けようとはしませんでした。
 前回の大会の時も警備員はいましたが、観客の整理を行っていた程度で、それ
程人の出入りに五月蠅くは無かったのですが。

 やはり、写真撮影禁止になったのと関連があるのだろう。
 そう稚空は納得したのですが、それにしても警備が厳重過ぎるような気がしま
した。
 まるで、何者かの侵入を警戒しているような…。

 しかし、少なくとも自分は何もしていません。
 弥白に張り付けているアクセスとは、「天使の羽根」を通じて連絡を取ってい
るのですが、魔界の者共の動きも弥白の周りでは無いようでした。

 普通の人間の中で稀に出現する人外の者を見通すことが出来る存在である稚空。
 しかし、彼の目から見ても魔界の者が特段の動きをこの会場でしている様子は
今のところ感じられませんでした。
 選手控え室に通じる廊下の前のロビーのソファに座り、稚空がそんなことを考
えていると、小声でアクセスに呼びかけられました。

「アクセスか」

 小声で稚空も応えると、光球の中にいたアクセスは、稚空の目の前に姿を現し
ました。

「彼女の様子は?」
「うん。ここ数日は安定してる」
「そうか。良かった」

 そのことは連絡を受けていたのですが、改めてそう言われ稚空は安心しました。

「稚空さん?」

 振り向くと、枇杷高校の制服姿の弥白が立っていました。
 一瞬、何と言葉をかけようかと迷っていると、弥白の方から話しかけて来まし
た。

「来て下さって嬉しいわ」
「ああ。弥白が出るんだしな」
「日下部さんも出場される事ですしね」
「おい」

 稚空が何か言う前に、弥白はクスクスと笑いました。

「弥白?」
「ごめんなさい。稚空さんを困らせるつもりは無かったのだけど」
「別に俺は…」

 稚空が何かを言おうとする前に、弥白は素早く自らの唇で稚空を黙らせました。

「稚空さんが私だけを見ているのでは無いのは存じていますけど、私は稚空さん
だけを見ていますから」

 弥白はそう言い残すと、稚空の反論を許さないかのように選手控え室の方に向
かって駆けて行きました。

「弥白…」

 呆然としている稚空は、ふと背中に殺気を感じました。
 慌てて振り返り身構えた稚空は、立っているのがジャージ姿のまろんであるこ
とに気付くと警戒を解きました。
 まだ開会まで時間があるので、まろんは演技用の化粧はしていませんでした。

「まろんか」
「来てたんだ」
「ああ、まろんを応援しにな」
「嘘」
「嘘じゃないさ」
「そうね。稚空は嘘はつかないもんね」
「嫌味に聞こえるが」
「でも、私だけを応援しに来たんじゃないでしょ」
「俺は…」
「白々しい嘘なら聞きたく無いし、稚空の本音も聞きたくは無いわ」

 まろんは腕組みをして、そっぽを向いて言いました。
 まずい。今のを見られたか。
 何かフォローをすべきでした。
 それとも、フォローしても事態を悪化させるだけかも。

「まろん」
「そう言えば、山茶花さんも元気になったみたいで、良かったね」

 今度は、まろんは微笑を稚空に向けました。
 それで稚空は今の場面を見られたのを確信しました。

「あれは…」
「私もあんな風にした方が良いのかな?」
「え?」
「でもちょっと、私には難しいかも」

 微笑の次は寂しげな表情。
 稚空は混乱しました。
 一体まろんは何を自分に言いたいのか。
 試されているのかも。
 そう感じた稚空は、まろんを自分の元へと思わず引き寄せていました。



 飲み物を買いに控え室を出て、自販機のあるロビーへと出たまろんは、そこで
稚空と弥白の姿を見かけました。
 流石に気まずく陰で様子を見守っていると、弥白と視線が合った気がしまし
た。
 弥白が積極的な行動に出たのはその直後でした。

 自分でも意外な程に驚きはしませんでした。
 一度、写真では見せられていたのですから、それが現実であることを再確認し
ただけだからです。
 事情は察していましたから、稚空が拒まなかったことにも怒りは感じませんで
した。
 それでも少しは不愉快だったので、稚空には少し嫌味を言いました。
 稚空に抱きしめられたのはその直後。
 少し前も稚空がそうしてくれようとしたことがありました。
 その時は拒んでいました。
 でも今は、拒む気力がありませんでした。
 むしろ、今はただ甘えていたいと思っていたのです。
 もしも今が大会の直前で無くて、ここが会場の体育館で無くどこか二人きりの
場所ならば、どこまでも彼に甘えていた事でしょう。
 しかし、それは出来ないと思う程度にはまろんは醒めていました。
 だから直後、稚空がまろんから急に離れた時にもさほど落胆はしませんでした。

「稚空?」
「じゃあ、大会頑張れよ。応援してるから」

 何となく、稚空の表情が慌てている様子でした。
 成る程、誰か人が来たのだろうとまろんは思いました。
 写真では往来のど真ん中だったのですが、先程の様子を考えれば弥白の方から
したのでしょう。
 まろんの知る稚空は、大胆なようでいて実はシャイな存在なのでした。

「うん!」

 まろんは、稚空が気にしないように笑顔を見せつつ控え室の方へと戻ろうとし
た時、目の前の廊下の角を枇杷高校の制服を着た少女が消えていくのが見えまし
た。

「(山茶花さん、見てたんだ…)」

 気にしまいと決めたものの、やはり弥白と稚空の事を意識しないのは無理だ。
 そう思いつつ、まろんは本来の目的を忘れたまま控え室へと戻って行くのでし
た。

(第156話(その1)完)


#事前の予想通り長くなりました(汗)。まだ大会が始まってないし。

 第156話(その2)以降は、来週に投稿の予定です。
 では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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