神風・愛の劇場スレッド 第123話『契約(後編)』(6/7付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Thu, 07 Jun 2001 02:07:55 +0900
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石崎です。

 このスレッドは、神風怪盗ジャンヌのアニメ版に触発されて延々と続いている
妄想小説のスレッドですので、お好きな方のみ以下をどうぞ。

 長くなったので、フォロー記事&第123話前半と後半の記事に分割しました。
 こちらは、第123話後半です。

 前半部分は、
Keita Ishizakiさんの<9flmlu$8u4$1@news01df.so-net.ne.jp>からどうぞ



★神風・愛の劇場 第123話『契約(後編)』

●枇杷高校

 放課後、弥白は新体操部の練習に行く前に生徒会室に立ち寄りました。
 生徒会執行部執行委員。
 それが、この学園での弥白の持つ数々の顔の一つでした。
 もっとも他の活動も忙しく、なかなか顔を出すことが出来無いのですが、顔を
出した時に溜まった仕事を片付けるのを常としていました。

 そんな弥白が担当しているのは、この高校が熱心に推進している活動の一つで
ある、福祉活動でした。
 弥白自身、書籍の点訳活動で熱心に働いていた事もあり、自ら希望したのです。
 暫く来ていない内に、やらなければならない仕事が予想以上に積み上がり、弥
白はため息をつきました。

(これは、持ち帰ってやる必要がありそうですわね…)

 部活をサボる訳にもいかない以上、そうするしか無さそうでした。
 それに今日からは、弥白と共に夜を過ごしてくれたあの人は居ません。
 寂しさを紛らわすのに、却って好都合。
 そうも思いました。

「失礼します」

 その時、引き戸を開けて一人の女生徒が入って来ました。

「あら、佳奈子さん」

 弥白の「親衛隊」の一人である大門佳奈子が、杖をついて入って来ました。
 そう言えば彼女は福祉委員会のクラス委員だった事を思い出します。

「弥白様、いらっしゃったんですね」
「暫くさぼっていたので、仕事が山積みですわ」
「それは大変ですね。手伝いましょうか?」
「結構ですわ。これは、私がやらないと」
「そうですか」
「佳奈子さんも何か仕事があるの?」
「あ…はい。仕事が山積みの所申し訳ないのですが、これの決裁を」

 手にしていた書類の束を弥白の前の机に置きました。

「はぁ…そう言う訳ですのね」
「すいません」
「貴方が謝る事ではありませんわ」

 そう言いつつ、佳奈子が持って来た書類を眺めます。

「あら? これは?」

 弥白の名前が記された、一通の封筒を手にして尋ねました。
 
「学校に届いた、弥白様宛の郵便物です。持って行くようにと先生から」

 裏返すと、差出人は桃栗学園の手話サークルからのものとなっていました。
 桃栗学園の文字を見て、一瞬眉を潜める弥白でしたが、すぐに元の表情に戻り
ます。

「桃栗学園の手話サークルから何かしら」
「はい。手話サークルの全国大会が今度この県で行われるので、その為の出し物
を一緒にやろうとうちの手話サークルとの間で話し合っているそうです」
「出し物?」
「手話コーラスだとか」
「佳奈子さん、手話サークルに参加されていたの?」
「いいえ。ただ、福祉委員として、関係する行事をフォローしているだけです」

 弥白は、この大人しく目立たない少女の事を見直しました。
 この子、ひょっとしたらかなり出来るのでは。

「それは何時やるんですの?」
「7月だそうです」
「判りましたわ。有り難う。はい、これはこの案で進めていただいて結構です
わ」

 佳奈子の持って来た書類にサインして返しました。

「有り難うございます。では、私はこれで。失礼します」

 佳奈子が部屋から出て行くと、今の封筒をペーパーナイフで開けました。
 中に入っていた便箋を取り出すと、中にまだ何か入っているのに気付きました。

(写真?)

 それを取り出して、眺めた弥白の身体が硬直しました。

「な…何ですの、これは…」

 慌てて、便箋の方を開きました。

*  *  *

山茶花弥白様

 私達の名古屋稚空さんに犯罪者の貴方は相応しくありません。
 同封した写真がその証拠です。
 稚空さんに迷惑が掛からない内に今すぐ別れて下さい。


             桃栗学園 名古屋稚空様親衛隊一同

追伸

 これと同じ写真を稚空さんにも送りました。
 貴方はもう終わりよ。

*  *  *

 便箋を手にしたまま、弥白はガタガタと震え始め、それは暫く止まる事があり
ませんでした。


●オルレアン ミストの隠れ家

「あらあら。あの子は『お嬢様』の事を愛しているんじゃ無かったかしら?」

 隠れ家を訪れていたノインに、ミストはキャンディーから目を離さずに聞きま
した。

「もちろん、愛しています」
「だったら、どうして『お嬢様』を傷つける?」
「判りませんか?」
「長年多くの人間を見て来たけれど、未だに判らない部分があるわ」

 と言うと、用済みとなったキャンディーを口に含みます。

「愛する者の愛情が、自分以外の誰かに向く事に我慢出来ない者はいます」
「すると『お嬢様』を自分だけのものにするために?」
「恐らくは」
「成る程。人間とは不自由なものね」
「どういう事です」
「ジャンヌ、東大寺都、そしてお嬢様。人が誰を愛そうと、自分が愛されていれ
ばそれで良いじゃない」

 ミストは何故か意地悪そうな目をノインに向けます。
 その視線にノインも気付きます。

「魔王と『契約』した私ですが、今でも心は人間のつもりですよ。ミスト」


●枇杷町 山茶花本邸

*  *  *

 名古屋稚空様

 貴方がこれを読まれる時、私はこの世にはいないと思います。

 貴方も既に知っているように、私は貴方を手に入れるために、数々の過ちを犯
しました。
 これ以上山茶花家と稚空さんの名誉を汚さないために、私は逝きます。
 先日の約束を破ることになってごめんなさい。

 最後の数日間、貴方と共に過ごすことが出来て、本当に良かった。
 今まで、こんな私の為に良くして下さって、本当に有り難う。

                            弥白

*  *  *

 震える手で、漸くそれだけを書きました。
 書き終えると、それを封筒に入れて宛先を書いて机の上に置きました。
 そして、引き出しの中から守り刀の入った袋を出しました。
 口を縛った紐を解きながら、これの結び目が真相を知る手がかりの一つとなっ
た事を思い出しました。

 今度は…助けに来ては下さらないわよね。
 私は、貴方の信頼を完全に裏切った。
 嫌われて当然ですわ。

 弥白は、着ているものを脱ぐと白装束に着替え、前回と同じく浴室へと向かい
ました。
 ここなら、後で掃除が楽だろうと思うからです。

 浴室に入り洗い場に立つと、鏡に今の自分の姿が映し出されました。
 その顔が青ざめているように見えるのは、恐らく気のせいでは無いのでしょう。

「今日は…現れないのですね。もう一人の私にも見捨てられたのかしら」

 ため息をつくと、弥白は守り刀を鞘から抜きました。
 震える手で、今度こそ確実に死ねるように、両手で刀を持ち喉を突こうとした
その時です。

「馬鹿な真似は止めろ! 弥白!」
「稚空…さん?」
「約束しただろう! もう馬鹿な事はしないと!」
「全ては手遅れなのですわ。もう、こうするしか無いのです」

 構わず、弥白は刀を喉に振り下ろしたその手をいつの間にか側に来ていた稚空
の手が止めました。
 続いて、短刀が浴室に転がりました。

「離して下さい! 死なせて!」
「そんな事、俺が絶対許さない」
「あの手紙を読んだのでしょう? 私はもう…」
「ああ読んださ。だからって死ぬこと無いだろう!」
「嫌! お願いだから…」

 更に叫ぼうとした弥白でしたが、突然その場に崩れ落ちました。

「やれやれ。どうやって落ち着かせたものか」

 弥白を気絶させた稚空はそう呟くと、彼女を抱きかかえて浴室から運び出すの
でした。


●…

 その視線に気がついたのは、小学校の5年生になった頃。
 彼の事を少しエッチだとは思ったけれど、それで嫌いにはならなかった。
 彼は優しかったし、クラスの男子のように変な事はしなかったから。

 中学時代の夏休みの出来事。
 彼と二人切りで山荘に出かけた時だった。
 私は、彼に喜んで貰おうと、恥ずかしさを堪えてちょっとだけ大胆な水着を着
て、彼と泳いだ。

 別荘の管理人が買い物の為に麓の街まで買い出しに出かけ、私達は二人切りに
なった。
 そして二人の会話がふと途切れた時。
 見つめ合い、やがて重ね合う二人の唇。そして。

 冷房を入れていなかった部屋で、汗ばむ二人の身体に時々吹き抜ける涼風が心
地良い。
 そんな避暑地にしては暑い夏の昼下がり。

 自分を安売りするなと祖母には何度も言われた。
 でも、彼なら良い。そう、何度も言い訳してた。

 でも、出来なかった。拒んでしまった。
 それは色々な理由があったのだけど。

 終わった後、彼は何度も私に謝り、私も許した。
 私達はまだ幼かったのだ。
 だから、その時の事はそれで済んだつもりだったのだけど。


●枇杷町 山茶花本邸 弥白の部屋

「ん…」

 弥白が目を開けると、心配そうに覗き込んでいる稚空の顔が目に入りました。

「稚空さん?」

 弥白は、ばっと起き上がりました。
 どうやらそこは、弥白の寝室のようでした。

「私…」
「手荒な真似をして、済まない」

 そう言われ、気を失う前の状況を思い出しました。

「あの写真、稚空さんもご覧になったのですね」
「…ああ」
「あの写真は、全くの事実ですわ」
「そうか」
「私は、稚空さんが思っているより、ずっと悪い女です。私なんかにもう構わな
い方が良いですわ」
「そうもいかないさ」
「こんな女と付き合うなんて、稚空さんの為にならないですわ」
「知ってたよ」
「え?」
「弥白の趣味の事は、ずっと前から知ってた」
「それは表向きの…」
「俺の事は知らないことは無いと言ったよな」
「ええ」
「俺も弥白の事は何でも知っている積もりだ。表も裏も」
「でも…」
「弥白の方こそ、俺と付き合うとロクな事にならないかも知れないぜ」
「私は稚空さんの事を信じていますから」
「俺も弥白の事を信じている。少なくとも弥白は、集めた情報を悪用はしない」
「でもあんな写真を撮られた以上、稚空さんに迷惑が」
「弥白の事は俺が守る!」

 稚空は、弥白を抱きしめて言いました。

「こんな私でも守って下さるんですの?」
「男に二言は無い」
「嬉しい…」

 弥白も、稚空の背中に手を回しました。

「ねぇ、稚空さん」
「何だ」
「もしも、さっきの言葉に嘘偽りがないのなら」
「ああ」
「私の心を癒して下さいませんか?」
「癒す?」
「今晩だけでも良い。嫌な事、稚空さんの手で忘れさせて」
「夢から覚めて現実に戻った時、余計辛いことになるかも知れないぞ」
「それでも良いんです。それに私の夢はあの夏のあの日に止まったまま」
「弥白、お前まだ…」
「お願い。私に最後まで夢を見させて下さい」

 弥白は、潤んだ目で稚空を見上げました。
 子犬の目と都が評したあの目。
 昔からその目で見られると稚空はそれに最後まで抗する事は出来ないのでした。


●枇杷町上空

「夢とは、良い所で終わるからこそ夢なのだけどね」

 自分の手駒が目的を遂げた事を確認したミストは、悪魔達を喰らうことで補充
した悪魔キャンディーを口の中に放り込みました。
 折しも、外では雨が降り始め、ミストの身体を濡らしていました。

「最後まで見る事の出来る夢は、それは現実に等しい。お嬢様は判っているのか
しら? でもまぁ良い。私は『食事』が出来ればそれで良いのだから。『契約』
を果たしたのだもの、それ位の『報酬』を得てもバチは当たらないわよね」

 そう呟くと、自らの目的──自らの肉体を維持するのに必要な精気──の『食
事』のために、姿を消すのでした。


●桃栗町 オルレアン 都の部屋

 お風呂に入った後でパジャマに着替え、自室に入った都。
 ノートパソコンを開くと、PHSでネットワークに接続します。
 ネットワークに接続すると、自動的にメールを受信する設定になっているので
すが、それは後で読むことにして、まずは検索ページより適当に検索キーを入力
してネットサーフィンを始めました。

「そう言えば、イカロスのホームページってどうなったんだっけ…?」

 ふと思い出し、部屋にあったポスターに書いてあるアドレスを入力してみまし
た。

「あれれ…? Not Found?」

 しかし、何やら英文のエラーメッセージが出た後に、無料のホームページスペー
スサイトのトップページらしき場所が表示されました。

「そっか。死んじゃったんだもん。流石にもう消してるよね」

 ため息をついてブラウザソフトを終了させると、今度はメールソフトを開きま
した。

 届いていたメールは4通。内3通は知っている人からのものでした。

 1通は、秋田刑事からの昨晩桃栗町郊外で発生した陥没事故の報告。
 1通は、委員長からのお勧めのフリーソフトウェアに関する情報。
 もう1通は、兄昴からの用という程の事は無いメール。
 しかし、最後の1通が謎でした。
 差出人は、知っている人でした。
 しかし、その人物はメールなど出す筈がありませんでした。

「でもツグミさんなら…」

 視覚障害者でもパソコンを使うという話は、都もテレビで見た事がありました。
 ツグミさんもパソコンを始めたのかな?
 そう思い、メールを何の疑いも無く開きました。
 後で気が付いたのですが、ツグミにもまろんにも自分のメールアドレスは教え
ていなかったので、このメールが本人から届く可能性は限りなく0に近かったの
ですが、その時は全く気にもしなかったのです。

「何だろう?」

* * * *

差出人:瀬川ツグミ<tugumi-s@coolmail.XXXX>
宛 先:東大寺都<tmiyako@freemail.…>

東大寺都様

 面白いホームページを見つけました。
 以下のアドレスですので、是非見る事をお勧めします。

                     瀬川ツグミ

* * * *

 そして、メール本文の下にはアドレスらしき文字列がありました。

「ウイルスとかじゃ…ないわよね」

 そうは思いましたが、興味の方が上回りました。

「ま、大したデータが入ってる訳じゃなし、行っちゃえ」

 そう呟くと、マウスカーソルを合わせてクリックしました。
 リンク先のページはすぐに接続されましたが、画像ファイルであるらしく、表
示にはかなり時間がかかりました。

「遅いわね、これ…」

 それでも、じわじわと画像は表示されて行きました。

「何よ、これ…」

 画像の正体が明らかになる内に、都の顔色が変わりました。
 そこに映し出されているのは、まろんとツグミ、そして自分のカラー写真。
 そしてスポーツ新聞のようなレイアウトに煽り文句、そして本文。
 それは、自分やまろんに関しての誹謗中傷の文章でした。
 事実無根であるならば、まだ平静でいられたでしょう。
 しかし、そこに書かれている事は、誇張を含んでいるとは言え紛れもなく真実
の一片を内包しているのでした。
 もちろん、ツグミとまろんの事については、都が真実だと思っている事と比較
しての話でしたが。
 そして何より、大した事は無いと言ってしまえば大した事はなく、人によって
は淫らにも見えるその写真は、コラージュでも何でも無い、真実であると自分に
は判ります。

 そして、その新聞の名称は、それの制作者が誰であるかを指し示していました。

「山茶花…弥白…」

 いつか脅すネタにした写真を本当に新聞にするなんて。
 絶対に許さない。
 でも、この事をまろんに知らせる事は出来ない。
 まろんを傷つける訳にはいかないから。
 もちろん、ツグミさんも。
 これは、あたし一人でケリをつけないといけない問題。
 それも、まろん達に気付かれることなく。

「絶対に許さないんだから…」


●桃栗町上空

「そうか。力が欲しいのか」

 雨がしとしとと降る中、空中に浮かび桃栗町のある一点をフィンは見ていまし
た。

「望むなら、力をあげる。お前が本当にそれを望むのならば。都」

 そう呟くと、今夜の雨宿り場所を探しに、何処かに飛び去って行くのでした。


(第123話 後編 完)


 我ながら酷い展開だ(滝汗)。 


●次々回予告編(その場の思いつきで変更の可能性有り)

「天界編」

 そろそろ、彼を出しませんと(笑)。
 ついでに「彼女」も出演するかも。

 では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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