From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 10 Sep 2000 22:02:38 +0900
Organization: So-net
Lines: 371
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石崎です。
この記事は、神風・愛の劇場第73話後編です。
フォロー&第73話前編記事の
Keita Ishizakiさんの<8pfsuj$46s$1@news01ce.so-net.ne.jp>
からお読み下さい。
★神風・愛の劇場 第73話『女の闘い』(後編)
■瀬川ツグミ編
●桃栗町中心部
月曜日の午後。元気が出て来たイカロスの為に買い物に出たツグミは、イカロ
スと自分、そして今週も来てくれるかも知れない大事なお客様のための買い物を
済ませます。
家で待っているイカロスの為に、そのまま真っ直ぐ家に帰ろうとして、ふと思
いついてある場所へと向かいます。
●オルレアン7F まろんの家の前
ツグミはまろんの住むマンション、オルレアンにやって来ました。
電話でも良かったのですが、どうしても直接伝えたかったからです。
イカロスが元気になった事を。
悪魔に取り憑かれて襲ってきたイカロスから身を守るためとは言え、傷つけて
しまったまろん。
ツグミは事情を知っているので気にはしていませんが、優しいまろんの事、き
っと心の底でずっと気にしている筈。だから、元気になった事を知らせて安心さ
せて上げたかったのでした。
それともう一点。
土曜日の夕方に見た不思議な夢。
あの夢の中で、確かにあの女の子に襲われていたのはまろんだった。
夢は夢の事と思いつつも、やはり相談してみようと思ったのでした。
ピンポーン
まろんの家の呼び鈴を押してみましたが、反応はありませんでした。
念のため、何回か押してみましたが、やはり反応はありません。
まだ学校から帰っていないのかしら。
そう思って帰ろうとした時に、エレベーターが到着する音が聞こえました。
「あら? ツグミさんじゃない?」
都の声が聞こえました。
「東大寺さん、こんにちわ」
「まろんに何か用なの?」
「ええ、ちょっと……。日下部さんはまだ学校ですか?」
「それがね、今日は風邪を引いたとかでお休みなのよ」
「え!? そうなんですか?」
「……そうよ」
一瞬間をおいて、都は答えました。
「チャイムを鳴らしても返事が無いんです」
「寝てるんじゃない? 聞いてみたら?」
そう言われてツグミは、耳をそばだててみました。
すると、ドアに阻まれて聞き取り難いながらもまろんの物らしい寝息が聞こえ
ます。
何だか、苦しそうな寝息です。
「寝てるみたいです。何だか苦しそう」
「驚いた。本当に聞こえるんだ。判ったわ。二人でお見舞いに行きましょう」
「でも、鍵が……」
当然の事ながら、ドアには鍵がかかっていました。
「大丈夫、任せて」
そう言うと、都は何かを取り出している様子でした。
「ジャーン!」
「何ですか?」
「合い鍵よ」
「そんな物を持っているんですか」
「愛し合う二人ですもの、これ位当然よ」
都はさらりと言いました。
「そうですか……」
「冗談よ。まろんはほら、一人暮らしでしょ。何かあった時のために、まろんの
お母さんに頼まれているのよ。うちの母さん、まろんのお母さんの幼なじみなん
だ」
「そうなんですか」
「ほっとした?」
「え、そ、そんなんじゃ…」
どうやら、自分は都にからかわれているらしいとツグミは悟りました。
二人の事も気付かれているのかも。
だとしたら、私の事は東大寺さんにどのように見えているのだろう……。
●まろんの家
「まろん!? いるんでしょ。入るわよ」
「お邪魔します」
合い鍵で日下部家の中に入りますが、やはり返事はありませんでした。
二人は真っ直ぐにまろんの部屋へと向かいます。
「まろん! 寝てるの? 入るわよ」
一応ノックをして、二人はまろんの部屋に入りました。
それまでも聞こえていたのですが、ドアを開けるとはっきりとまろんが少し苦
しそうな寝息を立てて寝ているのが判りました。
「都……?」
流石に起きたらしく、まろんが寝ぼけ声で言いました。
「日下部さん」
「え…ツグミさん!?」
「あ、まろん、無理に起きなくて良いよ」
「大丈夫よ、熱は下がったみたいだから」
「ちょっとまろん! その首の包帯はどうしたのよ」
「ああこれ? ちょっと土曜日に自主練してたら痛めちゃって」
「自主練って抜け駆けな訳!? それより、大丈夫なのそれ? 大会も近いのに」
「大丈夫。一週間もすれば治るって!」
どうやら、まろんは風邪を引いただけでは無く、首を痛めているようなのでし
た。
「(まさか……あの夢の出来事は……)」
しかし、この事は都がいるこの場では言えませんでした。
「全く、風邪と言い首のことと言い、最近のまろんは弛んでる」
「反省してます」
「無駄な体力も色々使ってるようだし」
「何よそれ」
「判らないなら良いわよ」
都の言うことは、自分の事を指しているのではとツグミは感じました。
ひょっとしたら、暗に責めているのかも。
「ところでさ、ご飯はちゃんと食べてるの?」
「一応……」
と言いつつ、お腹が鳴りました。
「何ともタイミング良く鳴るお腹ねぇ。判った。あたしがおじやでも作って上げ
るから、待ってなさい」
「あ、あの私も何か……」
「ツグミさんはここでまろんの事見ててあげて」
「そうそう」
「あ、でも二人切りになっても、変な事しちゃ駄目よ、まろん」
「しないわよ」
どうだかね、と笑いつつ都はキッチンへと向かいました。
*
「全く都ったら、最近やけに突っかかるのよね」
ベットの横に、椅子を置いて座っているツグミの横で、まろんがむくれた感じ
で言いました。
「東大寺さんの気持ち、少しだけ判ります」
「どういう事?」
「私も東大寺さんの立場なら、同じ態度を取ると思いますよ」
「だから、どういう事なのよぉ」
「それは、私の口からは言えません。自分で考えて下さいね」
「ツグミさんの意地悪」
さらにむくれるまろんに、ツグミはフフフと笑い、そして一呼吸。
「あのね日下部さん。嬉しい知らせが一つあるの」
「何?」
「イカロスが元気になったの」
「本当!?」
それから昨日からの出来事を話しました。
もっとも、夢の中の出来事は約束なので話してはいませんが。
「何か変な話よね」
最後まで話を聞いてからまろんは言いました。
「何がですか?」
「だって、入院している間はそんなに元気が無かったのに、退院して一晩したら
元気になっていたなんて。桃栗動物病院ってそんなに藪医者だったのかしら」
「それは無いと思いますけど…。やっぱり、環境の変化から来るストレスか何か
だったのではないかしら」
「そうなのかな」
まろんの言うことはツグミも少し気にはなっていました。
それと、夢の中の出来事も気になります。
ひょっとしたら、フィンがイカロスの為に力を貸してくれたのかもしれない。
そうツグミは結論づけましたが、もちろんまろんには言えませんでした。
「日下部さん、本当に熱は大丈夫なんですか? あら、汗ぐっしょりですよ」
まろんの額に手をやって見ると、汗で濡れていました。
「熱は薬飲んだら下がったみたい。それで汗が出たのよ。ちょっと気持ち悪いな」
ツグミはまろんの額から、首筋、そして背中に手を滑らせました。
「あら、本当。寝間着を替えた方が良いですよ」
「ついでだから、身体も拭こうかな」
「判りました」
「…ってツグミさん?」
「私が日下部さんの身体を拭いてあげます。あ、日下部さんはそのまま寝てて下
さい。タオルの場所なら判りますから」
「でも…」
「嫌ですか?」
「そんな事無い無い!」
「なら、たまには甘えて下さいな」
「うん…」
*
「都さんがそろそろこちらに来るみたいですよ」
まろんの身体を拭いているタオルの手を止めてツグミは言いました。
「あ、それじゃあ早くパジャマ着なくちゃ」
「駄目ですよ。まだ全部拭き終わってませんから」
「まだって、身体拭くだけだって言ったじゃない」
「だから、拭いているだけですよ」
「ツグミさんの拭くって、他の人のとは違うんだもん」
「まぁ、そうだったんですか」
わざとらしくツグミは言いました。
「とにかく、そこのパジャマ取って。都に誤解されちゃう」
「誤解? ふ〜ん、誤解ですか」
パジャマを取りながら、ツグミは意地悪に聞こえるように言いました。
都はキッチンから廊下に出て、こちらに歩いて来るのが聞こえます。
お盆を持っているらしくその足取りは慎重で、お盆の上で食器がぶつかり合う
音までツグミには聞こえました。
そして、わざとゆっくりとまろんにパジャマを渡します。
「もうそこまで来てますよ」
「ひぃ〜」
慌ててまろんはパジャマに袖を通しました。
「まろん、お待たせ〜」
都が入って来るのと、まろんがパジャマのボタンを留め終わるのはほぼ同時で
した。
「ちょっとまろん、どうしたのその格好?」
お盆を持ったまま、都は呆れた様子で言いました。
「え? 何?」
「ほらボタンが互い違いだよ」
「あ、ちょっと慌てたから…」
「慌てた? どうして慌てるのよ」
「えっと、その……」
見えなくても、まろんが慌てているのが良く判りました。
「ごめんなさい日下部さん。私がボタンを掛け違えたんですね」
「え!?」
「実は、汗をかいたので日下部さんの寝間着を取り替えたんです」
「それで?」
「私が着替えさせたので…。ちゃんと留めた積もりだったんですけど」
「何よまろん。ツグミさんに着替えさせて貰ったワケ?」
「エヘヘ……」
まろんも慌てて口裏を合わせる事にしたようでした。
「今、何時ですか?」
唐突にツグミは言いました。
「6時ちょっと前位かな」
「あらまぁ大変。早く帰らなくちゃ。イカロスが待ってる」
「え? あの犬、退院したんだ」
「ええ、昨日」
「良かったわね」
「有り難う。それじゃあ私は失礼します」
椅子から立ち上がり、まろんに一礼してツグミは廊下へと向かいます。
「今日は有り難う。また今度!」
背中から、まろんの声がします。
入り口近くに立っていた都が、道を開ける気配がします。
「それじゃあ、二人切りでごゆっくり」
都に少し頭を下げながら、小声で囁きました。
「え!?」
驚いたような都の声を無視して、ツグミはまろんの家を辞しました。
「(今日の所は、東大寺さんに譲ります)」
エレベーターの中で夢の中の事を話すのを忘れていた事に気付きましたが、そ
れは又の機会で良いと思い、ツグミはオルレアンを後にしました。
●桃栗町郊外 ツグミの家
遅くなったので、駅前のタクシー溜まりからタクシーを使って家に帰りました。
県道からツグミの家に入る道の入り口でタクシーを下り、ツグミは家へと向か
います。
特に意識せずとも、普段より軽やかな足取りで。
それも当然、今日は久しぶりに自分を待っている存在がいるのです。
少しでも早く会いたいとの気持ちが焦りを呼び、鍵を開けるのに手間取りなが
らも扉を開けると、ツグミは中にいるであろうその存在に呼びかけました。
「イカロス、ただ今!」
■悪魔ミスト編
●オルレアン6F ミストの部屋
「まさか、犬娘が来るとはね。まぁ、流石の犬娘もここの存在には気付かないで
しょうけどね」
ソファに座ったミストは、キャンディーでまろん達の様子を見ながら言いまし
た。
「おやおや、犬娘の次は幼なじみか。気の多い事ね」
呆れた様子でミストは言いながらも、その表情にはどこか羨ましげな様子もあ
ります。
「まぁ良いか。今は良い夢でも見るが良いわ」
そう言うと、ミストはキャンディーを口に含みました。
「あら、アキコ。起きていたの?」
リビングの入り口にいつの間にかアキコが立っていました。
アキコは、リビングの片隅の方を見ていました。
「ああ、それ? アキコにプレゼントよ」
アキコはリビングの片隅にある物に近づいて、そっと触れる仕草を示します。
「死んでないわよ。そうね…生きているとも言えないかも。人間の言葉で言うな
ら『仮死』状態とでも言うのが適当かしらね。闇の眷属の末裔とも言われる黒犬
だけど、弱っていたから従わせるのも簡単だったわ」
ミストが指を動かすと、それは立ち上がりアキコに尻尾を振りました。
「知ってるわよ。種類も色も違うけど、これと同じ生き物を飼っていたんでしょ
う? だから、これはあなたへのプレゼント。ちゃんと生きていないけど、それ
は貴方も同じだもの、ぴったりよね」
その生き物と呼ばれた存在は、アキコに頬を擦り寄せる仕草をしました。
それを見て、アキコもその生き物の頭を撫でてやる仕草を示します。
「あら驚いた。あんたがそれだけの反応を示すなんて。それだけでも連れて来た
かいがあったと言うものよ。ねぇ、イカロス?」
ミストの呼びかけに対して、黒い犬の形をしたその生き物は、新しい飼い主と
同様に、無表情なまま、反応を示さないのでした。
(第73話 後編:完)
ああ、ついにやってしまった(滝汗)。
では、また。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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