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相対的絶望感

秋葉原で凄惨な事件が起きた。極刑級の犯罪だ。マスメディアは容疑者の凶行ばかりを強調するが、私は存外に異常性を感じない。要は他人を巻き込む反社会的で迷惑千万な自殺ではないのか。硫化水素自殺と同じだ。自殺をするかしないかは、負荷の重さと耐性のバランスで決まる。負荷の重さとは社会的重圧(プレッシャー)のこと、耐性とは忍耐力(我慢強さ)のこと。自己実現能力が高く人間として優れた人でも、それを上回る過大な社会的な重圧がかかれば自殺を選ぶことも珍しくない。一方、極端に耐性の弱い人の場合はそれまでに経験したことのない社会的重圧を受けただけで安直に命を絶ってしまうこともある。子供の自殺原因の多くはこの耐性の無さにある。今回の容疑者の場合はどうなのだろう。社会的重圧と耐性の無さ、そのいづれもが当てはまるような気がする。報道によれば、両親が借金をして離婚しているようだし、本人も地方の進学校で挫折し、製造業派遣会社で登録労働をしている。子供の頃からちょっとしたことでキレるとの評判もあり、家庭内暴力もあったようだ。そして、凶行の直接の引き金は、派遣先会社からの契約解除に不安を感じたためらしい。警察でも「世の中が嫌になった。生活に疲れた。」と供述している。親の借金は、保証人にさえなっていなければ、相続しなければ回避は可能だ、それに進学校に合格するだけの基本的な学力があれば適応できる仕事も当然ある。奥さんもいなければ子供もいないのだ。あまり勧められる生き方ではないが、本質を追求せず気楽に逃げまくって生きていくことも不可能ではない。仮に派遣労働に希望が無くとも、自殺をするにはまだ早いではないか。この容疑者には広い意味での耐性が、無さ過ぎたと云わざるを得ない。さらに、被害に遭われた方々の立場になってもっと厳しい言い方をさせてもらうと、この容疑者は高校時代に自殺しておくべき人物だったということだ。それを25歳まで引きずってしまったことが凶行を生んでいる。普通は25歳くらいになれば別の生き方を模索し、その糸口くらいは見つけているものだ。それが難しい。年配の人々に叱られるのを覚悟で云えば、これも「無知の涙」だ。もちろん、故永山元死刑囚と比べたら遥かに低次元で幼稚。しかし、生き方での無知が生んだ犯罪であることは間違い無い。容疑者ばかり責めてきたが、為政者の責任も追及したい。日本は今や自殺大国なのだ。自殺者数は8年連続3万人を超え、自殺率は世界9位で先進国中トップ。これを赤穂浪士よろしく日本の文化だとしたらやりきれない。前出の社会的重圧に対して比較的真面目に考える国民性なのではないか。今回の容疑者も、マスメディアは秋葉原という土地と結びつけ異常な若者のように報じられたりもしているが、よく見れば自身の進学や就職、親の離婚や借金などなど、いわゆる世間体を異常に気にする旧来の日本人像が垣間見える。そんな日本人に対してバブル崩壊以降に政府や財界がしてきたこと。それは経済原理の徹底。「格差はあって当然」と平然と言い放つ総理大臣を選んだまではカッコ良かったが、国民のほとんどが「負け組」だったという笑えない現実。ちょっと前まで、年寄りは金持っていて年金も満額貰えて悠々自適、年寄り自身も「高度経済成長に貢献したのだから当然、今の若い者は貧しさを知らんから」と安心してたら、後期高齢者医療制度で身包み剥がされボロボロだ。今頃気付いたって遅い。いや今回の容疑者の世代の方がもっと不幸だ。かつて日本の経済力が世界2位(瞬間1位)だった時代は、平均所得が低い地方でもほとんどの人々が生活に困らなかった。多少は困っていたかも知れないが、家族にとって最も大切な子供に対してはお金をかける余裕が少なくともあった。それは学校教育も週5日化に向かい少しずつ「ゆとり化」されていく時代でもある。そんな経済的危機感の少ない時代に育ったのが今の20代。さあ、寒村で生まれロクなものも食えずに育ち、集団就職で上京してささやかな収入を手にして生きるのと、貧しさを知らずに育ち成人になってから唐突に経済原理を説かれるのと、人間どちらが幸せなのだろう。冒頭に書いたことをここでもう一度繰り返す。自殺をするかしないかは、負荷の重さと耐性のバランスで決まる。どちらが幸せかどころではない。耐性の無い人間に経済原理を押し付けるのは、ある日突然「もやし」を露地栽培に切り替えるようなものなのだ。やり方によっては死滅する。多くの人は現実と対峙し乗り越えていくのだろうが、絶望感しか持てない人が一定数現れてきても不思議ではない。ニュースを聞いてりゃ派遣の次は移民だと??? このまま行けば早晩、日本人が壊れてしまう。20代の凶行にイヤな将来が見え隠れする。資本主義を堅持し国際競争力を維持しようとするあまり人を壊してしまっては意味がない。セフティネットだとか再チャンレンジとかではなく、本当に求められているのは収入が少なくても幸せに暮らせる社会を構築していくこと。そう思えてならない。

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